汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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旧き国アカネイア。

継ぐものが多い故に、闇も深い。


負債

時は少し遡る。

 

 

 

前任者の失態を受けて、騎士団の醜態から騎士団が自分の思うよりも遥かに役に立たない事を男は知った。

 

自国の民の生活さえも守れないのに、他国へ攻め寄せて勝てる筈がない。

 

 

そう思ったからこそ、マケドニア征伐とカダイン誅伐を自身の職権で無期限延期としたのである。

それしか騎士団の存続する道はない。そう思ったからこその選択。

 

 

だが、その判断が騎士に受け入れられる者ではない事もまた理解していた。

 

 

----

 

 

 

 

そもそも、騎士団も一枚岩ではなく、将軍の意に従う訳でもなかった。

 

 

前任者の世迷言に希望を見る者達。

そんな者達を嫌悪する者達。

アカネイアを守る為、その様な雑音に構うことなく鍛錬に勤しむ者達。

 

情勢を見守る者達。

 

 

おおよそ同じ方向を向いているとは思えない状態。

 

 

(理解は出来る。⋯⋯だが、しかし)

 

 

----

 

 

 

 

彼も理解しているが、アカネイアは行き詰まりつつあった。

 

 

それは与えるべき褒美が無くなりつつあるという事。

 

 

 

アカネイア貴族と言っても大別すると二種類存在する。

 

領地を持つアドリア伯の様な者達。

俸給を貰い、領地を持たぬ者達。

 

 

言うまでもなく、前者の方が好ましいものであり、願うならばそうありたいと望まれる立場だ。

 

前任者は領地を持つ貴族の一族であったが、彼は領地を持たず、それがマケドニア征伐やカダイン誅伐に繋がったのだろう。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

中興の祖カルタスによりアカネイアは再興された。

 

だが、カルタスは自身の弟や重用していたオードウィンと彼の率いる騎士を手放す事となり、結果カルタスはアカネイアで孤立してしまう。

 

 

そこでカルタスは已む無く有力者に領地を与え、貴族として扱う事とした。

貴族達は領地を与えられ、その上余程の事が無い限り自分の子供にそれを継がせられる事を受けて、カルタスに忠誠を誓った。

 

それによりアカネイアはカルタスとその子孫に対して従順となり、アカネイアは安定する事となる。

 

 

カルタスの跡を継いだ人物もカルタスに倣い、そのやり方を良しとした。

それにより、アカネイア王家の直轄領は減り、収入もそれに伴い減少。

 

文官達はこれ以上の直轄領の減少は避けるべきと主張、結果領地を新たに与えられるのはほぼ無くなっていた。

 

 

 

問題のある領地を持つ貴族はその領地を召し上げられ、それを別の貴族に褒美として与える。

そうやって、先代のアカネイア王はやり繰りしていた。

 

ところが、現国王はその様な事を望まず、さりとて褒美を与える事を控える事はない。 

 

 

結果、アカネイアの財政は悪化し、領地を与えられない貴族は不満を持ち続けていた。

 

 

マケドニアとの交渉を担当していた者もまた領地を持たぬ者であり、故にこそ私腹を肥やす事に躊躇いなどあろう筈もない。

 

 

 

 

その負の遺産を将軍はどうにかしようとしていたのだ。

彼が意識していないにも関わらず

 

 

故に、彼は殺された。

容易く触れてはならぬ禁忌(もの)に触れたのだから

 

 

 

----

 

 

 

アカネイアにおいて、建国王アドラ一世。そして中興の祖たるカルタス。この二人は批判してはならぬ絶対的存在であり、故にこそアカネイアは苦しまねばならなかった。

 

 

 

少なくとも、アカネイアの窮状を生み出した理由の幾つかは中興の祖たるカルタスや建国王アドラ一世にある。

 

 

アドラ一世はアカネイアを積極的に拡大しようとしなかった。

自分の犯した罪や半生を知られる訳にはいかなかったから。

 

アドラ一世は教会の前身となる者達に権限を与えすぎた。

竜人族の信用を貶める為に必要としていたから。

 

 

カルタスはアカネイアの拡張をしなかった。

足元を固める事に注力しすぎてオレルアンが障害となったから。

 

カルタスは所領を与え過ぎた。

有限である事を忘れ、己の正当性を確保する事を優先したから。

 

カルタスは縁故主義を推し進め過ぎた。

それこそ国を固める方法と信じていたから。

 

 

 

其れ等の負の遺産にアカネイアは抗う事を許されず、その重みの前に崩れ落ちようとしていた。

 

 

 

----

 

 

 

 

領地を持つ貴族は領内において、徴税や労役について一定の権限を有する。

 

また独自の兵力を持つ事も許されており、それにより領内の治安維持や領内開発などを進められる。

この場合の治安維持は各拠点、即ち村や町などが該当。

 

 

 

が、その一方で主要街道については多くの貴族領を通過する事からアカネイア騎士団に治安維持を任されていた。

 

 

何せ、賊などが出た場合それを取り逃がせば逃走。その結果他の貴族領に足を踏み入れ、討伐出来ない。などと言うのはあってはならない事。

 

賊退治については騎士団の管轄となる事が多く、根城への攻撃もそうなっている。

 

 

とは言え、アカネイア騎士団が戦力としての価値を失いつつある現状となっては領地を持つ貴族は放置出来る筈もなく、隣接する貴族と協力して自衛に努める様になっていたが。

 

 

 

新規に領地を与えられる貴族が居なくなったのは、与える土地がない事もあるが、領地を与えられたとして自前の戦力を整備し、領地を守る事が出来る。そう思える者がいない事も理由だった。

 

 

 

領地を持つ貴族には領主としての責任が伴う。

それは領内の村や町を保持し、発展を促す事。断じて徴税や労役を課す事ではないのだ。

 

領地を持つ事を望むのであれば、それ相応の蓄えがなければならず、それなりの人脈を持たねばならぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

エリスルート完結記念の外伝

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