汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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空を越えて

「さても、両国にとって慶事が続くものよな。」

 

「確かにそうだな。

⋯ゲレタの奴に木簡でかなり叩かれもしたが、甘んじて受け入れねばならなかった。」

 

「喉を突かれなかっただけマシであろう?」

 

 

チキとマリア。二人とゲレタの関係が決定的に変わった事を受けて、メディウスとミシェイルは楽しそうに話をしていた。

 

ドルーアのトップであるメディウスだが、別にドルーア城に閉じ籠もっている訳ではなく、必要と見ればマケドニアに赴く程度には現状に満足している。

 

 

 

アカネイアにより悪い意味でしか変わる事のなかった世界。

それがやっと同胞達にとって、好ましい方向に向かっているのだ。嬉しくない筈がなかった。

 

 

その上、ナーガの忘れ形見であり次代の担い手であるチキ。彼女が守りたいもの(ゲレタ)の為に自ら歩み出そうとしているときた。

少し前までは、そのゲレタに手を引かれて歩んでいた彼女が、である。

 

 

 

メディウスやモーゼス達は生きる為とは言え、その手を血に汚している。

恐怖や忌避感を持たれても仕方ない事だろう。

 

必要であったとしても、思うのだ。

 

 

アカネイアが建国するまで、自分達は力に酔っていたのてはないか?とも。

 

 

 

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大陸の文明の礎は竜人族により生み出されたと言っても過言ではない。

 

 

それだけの知性を持ちながら、竜人族(じぶんたち)の頭の片隅には常に『力による解決』という選択肢があったのではないか?と。

 

 

確かに竜石に己の力を封じたとは言え、その知性まで失った訳では無い。

であるにも関わらず、竜石(力の源泉)を取り上げられれば殆ど抵抗する事も出来なかった。

 

 

アドラによりアカネイアが建国され、竜人族がマムクートと迫害され始めた頃、少なくない同胞がそれに対して声を上げたと聞く。

 

彼等は「何故我等を追いやろうと言うのか!」と最期まで力を用いる事なく抗ったとも。

そして無抵抗のままに殺された。

 

 

それを聞いたからこそ、メディウスは話し合いに意味など無い。とし、ドルーアを建国し力でアカネイアを否定した。

 

 

だが、それもガトーの手助けがあったとは言え破れている。

 

 

にも関わらず、そのアカネイアが既に形骸化している上に自壊しようとしているとなると、さしものメディウスとてこれまでの己を振り返らざるを得ない。

 

 

 

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手を出す理由は既になく、連中の言うところの神器とてこの様なザマではマトモに機能する筈もなし。

ファルシオンとて、竜族や竜人族に対しては比類なき威力を誇るものの、対人戦においては然程脅威とならない。

 

 

寧ろ、同族(ひと)を斬る度、その内部に負の念が溜まりかねない位ではある。

 

 

神器にせよ、ファルシオンにせよ『抑止力(抜かずの武器)』としての意味が強く、故にこそ神殿に納められていた。

 

 

 

強大な力には魔なる魅力があり、魅入られば破滅を齎す。

 

それに抗える程、ヒトも自分達もまだ強くはないのだろう。近頃はそう良く考える様になった。

 

 

 

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「道を外れた者が立ち直れば賞賛されます。が、道を外さぬ者こそが真に強い者ではないか?と。

残念ながら、私もミシェイル陛下もメディウス殿もやむを得ずとは言え他者を殺しております。

他者の命を奪う。それは未来への可能性を摘み取るものであり、決して賛辞されるべきではないかと。」

 

他者を殺さねばならぬのは、何かが足りぬから。

理性を持たぬ獣なればそれも許されよう。

 

 

だが、ヒトも竜人族も理性を持つ生き物。大陸を導いた竜人族。その竜人族から託されたと宣うヒト。

 

 

なればこそ、その命脈を悪戯に細めかねない事に対して忌避感を持つべきではないか?と。

 

 

ゲレタは嘗て、そうミシェイルとメディウス、モーゼスに問うた。

 

 

 

「必要と思えばこそ、私もミシェイル陛下も殺しました。

ですが、結果として先王の親族たるミネルバ様やマリア様の中には決して消えぬ(しこり)となったのも事実。

私のように族滅させる位に徹底するのであれば、遺恨も残りますまいが。」

 

だからこそ、血に塗れていないチキやマリアは大切にせねばならない。

 

 

他者を傷付ける。殺す事が不要とは思わない。

が、それが今のように当たり前となっているのは決して好ましくないのだ。

 

 

 

 

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「それにしても、手足を切り落として延命しても長生き出来ぬであろうに、良くやるものよ。」

 

「民を守らぬ騎士に何の価値があるのやら。⋯やはりアカネイアの価値観と我等は相容れぬ。」

 

メディウスとミシェイルもガーネフから現在のアカネイアの状況。⋯いや、惨状を聞いていたが、本心で言えば理解したくなかった。

 

 

敵を倒したいのであれば、国内の賊を倒せば良い。そうすればその者達は民から感謝もされように。

 

 

「アカネイアは飢えを知らぬのだろう。」

 

「飢え、か。」

 

 

どの国や組織もそうだが、ある一定以上の立場になると意識や認識にズレが出て来る。

 

マケドニアとて、食糧事情が悪化した時であってもミネルバやマリアがそれを意識していたとは思えない。

 

ミシェイルとて、ある程度は知っていたが、ゲレタが現実を遠慮なく叩きつける事で正確なマケドニアの置かれている状況を理解出来ているくらいだ。

 

 

 

アカネイアに組織として及んでいないマケドニアですらコレなのだ。

果たして、アカネイアを動かす者達が飢えを本当の意味で理解しているだろうか?

 

 

「崩れた土台の上に何を築いたとしても、長続きしないらしい。」

 

「らしい言い方よな。

その土台が傾いている国家があるから、説得力も増すだろうて。」

 

ミシェイルもメディウスもゲレタの関係をこれ以上急がせるつもりはない。

それこそ、しっかり時間をかけて絆を深めるべきとすら思っている程。

 

 

「⋯しかし、ゲレタとマリアが良い仲になれば奴は義弟となる訳か。」

 

「羨ましいものだな。

が、マケドニア王に推すのは止めて貰いたいものだ。」

 

メディウスの言葉にミシェイルは苦笑を浮かべる。

 

 

 

彼等は新たな形を作るべきではないか?と考えていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯ナーガの子と人間が?」

 

その者は伝え聞いた話を聞いて愕然とする。

男は知っている。ヒトと自分達が近くなり過ぎれば悲劇しか生まない事を。

 

 

だからこそ、それを止めねばならぬと動き出した。

 

 

あの惨劇をこの地で繰り返してはならない。

そう強く思いながら。

 

エリスルート完結記念の外伝

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