汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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久しぶりのアカネイアパート


虎口

「なに?そこまで頑ななのか?

⋯⋯いや、良くやってくれた。下がって良い。」

 

男は報告を受けると表情を歪めたが、報告に来た者に責任はないと報告に来た者を労うと退室を求めた。

 

 

 

 

 

「⋯忌々しい。

船大工風情に頭を下げねばならん事だけでも耐え難いと言うのに。」

 

男、アカネイアの現将軍は何かにぶつけようとする激情を内に収めようとした。

 

 

 

----

 

 

 

愚かな前任者はマケドニア征伐を画策しておきながら、船を造る専門家たる船大工の協力を得る事をしなかった。

 

それどころか、アカネイア各地から職人を手配。それにより軍船の建造を推し進める暴挙に及ぶ。

 

結果、完成した軍船はマケドニアに向かうのではなく水底に向かう事となり、騎士職人に人夫に至るまで決して無視出来ない犠牲が発生。

 

これを受けて、マケドニア征伐を画策した当時の将軍は罷免。パレスから縁者の所領に戻る、と告げたのを最後に消息を絶っている。

これはどうでも良い話だろう。

 

 

 

 

その後任、自分にとっては直近の前任者となる人物は何を血迷ったのかマケドニア征伐を取り止める事を決定。

国内の治安維持などに注力すべきとしたのである。

 

おおかた、文官共の話を鵜呑みにしたのであろうが、情けない話だ。

 

 

アカネイアに対し、礼を欠いた。

それは決して許されざる事だ。

 

 

----

 

 

領地を有する貴族達はマケドニア征伐に慎重であり、領地を持たぬ貴族や騎士はマケドニア征伐に積極的。

 

 

マケドニア征伐にて大功を挙げれば、騎士やその騎士を推挙した貴族は所領を得られる可能性が高いのだから。

 

 

それこそ、カルタス公の時代においてオレルアンを興したマーロン公やグルニアを建国したオードウィン将軍の様に一国を与えられる可能性もある。

 

⋯まぁそれが辺境極まるマケドニアと言うのが気にかかるところではあろうが。

 

 

文官共はアカネイアの内情は厳しい。そう良く口にするが、そうやって自分達の存在や働きを陛下や周囲に喧伝しているだけ。

 

厳しいと言いながら、アカネイアは混乱する事なく今も存在しているではないか?

 

 

 

物資が無くなった訳でもなく、人が居ないでもない。

 

 

つまり、文官共は自分達の功績を周囲に認めさせ、我等騎士団に対しても影響力を持ちたいだけなのだ。

 

 

ふざけた話にも程がある。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

マケドニア征伐の為に船大工と話し合いの場を設けた将軍より派遣された騎士。

 

船大工は難色を示しながらも、軍船の建造への協力は受け入れた。⋯⋯船の設計について時間をかけねばならない事を条件として、だったが。

 

 

安堵した騎士であったが、船大工の棟梁は

 

 

「船の建造については請け負う。

が、港の領主に許可を貰わねえと仕事にならない。⋯そこについては勿論任せて良いんだな?」

 

と口にする。

 

 

 

 

棟梁が言うには、船の建造や修繕に使用する木材。

その切り出しについて、領主の許可が必要であり、前回の軍船建造によりかなりの木材を使用したのは明らか。

 

その上で、更に木の伐採を認められるのか怪しいのではないか?というものだった。

 

 

使者は棟梁に軍船の設計を任せると、その足で領主の所へ赴く。大した問題にはならぬと思いながら。

 

 

 

 

 

「その話、受け入れられぬ。」

 

騎士は事情を説明しても、領主の男は頑として譲らなかった。

 

 

領主側からすれば、以前の軍船建造の際決して見過ごせない問題を騎士団側がまるで制止しなかった。

それを問題としていたのだ。

 

 

未だ湾内に沈んでいる試作艦の撤去は進んでおらず、その試作艦の建造によって伐採された森林。そこから獲れたであろう採集品や獣肉。

それらが無くなった事により、少なからず領内統治に影響が出ていた為である。

 

特に港町に近い森林を伐採した事で狩人は慣れぬ地域での狩りや採集を強いられる事となった。

その上距離が離れてしまった事から、狩猟にかける時間も減る事となり、結果として港町に入る獣肉や果実などの量が減少。

 

 

領民の生活にも影を落としつつあった。

領主としてそれらの問題に対処せねばならず、その労力は無計画の極みとしか言えないマケドニア征伐に起因する。 

 

 

更に言えば、騎士団がこの様に領主の権限を侵す様なやり方。これは領地を持つ貴族達の反感を買っていた。

 

 

 

----

 

 

 

領地を持つ貴族は領内を統治し、徴税した税を王国に献上。

 

騎士団は領地間の主要街道や必要に応じて(・・・・・・)賊退治などを行なう事でアカネイアを支える。

 

 

あくまで、騎士団正確には騎士団を統率する将軍と各地の領主たる貴族は同格であり、王命だとしても領主に対する一定の配慮(・・・・・)が必要だった。

ところが、今の騎士団は己の責務を果たす事なく、その規模だけを拡大している。

 

言い方は悪くなるが、無駄飯ぐらいが増えているだけなのだ。 

 

 

特に港町は内陸部の町や村と異なり、商人の船が行き来する物資集積地。

そこに無用な混乱を招くのは、王国の統治的にも宜しくない。

 

 

国内から職人や人夫を集められたのは、マケドニア征伐が容易なものであり、人員が損耗するなど予定外だった。

更に

 

 

「我等は軍船の建造において、人を出している、

であれば、これからは騎士団が人を用意するのが筋ではあるまいか?」

 

とマケドニア征伐が開始されるとしても、領主をしている貴族達は人を出さぬ根拠ともなり得る。

勿論、明確な勝機があればその限りではなかったが。

 

 

 

----

 

 

 

つまり、騎士団は意識しなかったとは言え、アカネイアの体制に罅を入れかねない行動をしていたのだ。

 

となれば、既に港町の領主は一度本意ではなかったが騎士団に協力し、被害を受けている。

 

 

引き続き港町を貸す判断などする筈もなかった。

 

 

が、それ(前任者の失態)を己の問題と受け止めない将軍は理解出来ない。

 

前任者はそれを理解したからこそ、国内の治安維持という領地持ちの貴族に配慮した方針を打ち出し、文官とも協力しようとしたのだ。

事の重大性を理解しない者によって葬られたが。

 

 

 

 

故に将軍は国王に上奏し、件の領主を動かそうとする。

が、国王と会う事は許されず、彼の願いは廷臣達によって国王の耳に入れる程のものではない。

そう判断された。

 

 

 

 

----

 

 

 

こうなってくると、将軍が動くのは難しい。

 

 

アカネイアの政務を担うのは文官であり、アカネイアの盾であり剣であるのが騎士団。

アカネイアの財政や体制を支えるのは領地を持つ貴族。

王国直轄領については王国より派遣された代官に任せられていたが。 

 

 

 

 

領地を持たぬ貴族とは、基本的に一代限りのものであり「貴殿の貢献は認めるが、領地を与える程のものてはない。」とされるもの。

まぁアカネイア国内に与える領地がなかったりするのだが、それは王国の権威に関わる事として、秘事とされている。

 

 

現在のアカネイア国王は政務に対しての関心は薄く、我欲に溺れる日々を送っていた。

 

ある意味では、国王が動かずとも国が安定している。とも言えなくはないが。

 

 

故に国王は問題を起こした領地を持つ貴族(・・・・・・・)に厳罰を与える事もなかった。

 

何せ領地を持つ貴族は王国内においてある程度の影響力を有し、一族などを騎士とする事もあるのだから。

 

 

国王は自身の寵姫を差し出した人物に将軍の地位を与えている。が、国王としては領地も与えるべき。

つまり、新たな家を興すべきとすら考えていた。

 

が、それは当時の文官達を纏める人物が己の職を賭して阻止している。

 

 

「これ以上直轄領を減らしては、王国が成り立たぬ。」

 

 

 

 

アカネイアの領地問題はそこまで深刻なのだ。

 

 

----

 

 

 

とは言え、将軍はマケドニア征伐を諦める事は出来ない。

彼が将軍の地位を得たのは、マケドニア征伐とカダイン誅伐という外征を成功させる為なのだから。

 

 

マケドニア征伐が成らぬ

となれば、当然将軍はもうひとつの方法に活路を見出す。

 

 

「⋯やむを得ぬ。

連中の思い通りにするのは甚だ不本意だが、カダイン誅伐に向けて準備するしかあるまい。」

 

とは言え、カダイン誅伐ならばそこまで問題はないだろう。

道中のオレルアンは友好国であり、道案内はカダインの位置を知るであろうアリティアに任せれば良いのだから。

 

 

将軍はそう思い直すと各国に使者を派遣する事にした。

それと同時に、マケドニア征伐についての打開策を探る事も並行して指示を出した。

 

 

 

「負けられぬ。

我等アカネイアは負けてはならぬのだ。」

 

エリスルート完結記念の外伝

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