汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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行動には責任が伴うもの。


王意とは王命に等しく、それを拒絶する事は難しい。
特に王が代替わりした直後、基盤を固めている時となれば


幕間 陽光と陰

「街道の整備はどうなっている?」

 

「ルーメル将軍からは順調、と。」

 

 

マケドニア城の一室。

そこでは多くの者が書簡を読み、書き記し

また言葉が絶え間なく飛び交っていた。

 

 

彼等はマケドニアの文官達であり、大臣であるゲレタの部下にあたる者達でもあった。

 

 

 

----

 

 

 

年齢で言えば、ゲレタよりも年上ばかりであり、またマケドニアの窮状を彼等もまた痛いほどに理解し、それを改めんと奮闘していた。

 

 

 

ミシェイル達の父である先王。

彼は武の人物であるが、粗暴であっても野蛮な人物ではなかった。

 

 

先王の代に起きた食糧危機。

それに対して、打開策を持ち得なかった文官達。だが、先王はアカネイアに食糧支援を願う事で事態の解決を図った。

 

それ自体、否定するのは難しい。

事実として、マケドニアは窮地を脱する事は出来たのだから。

 

 

 

だが、先王はマケドニアによる自給自足という茨の道よりもアカネイアに食糧を依存する道を選ぶ。

これに対して文官達は先王に幾度となく進言する。

 

 

 

アカネイアに食糧を頼り切るでは、マケドニアはアカネイアの意に従わなければならなくなる。と

 

 

しかし、先王はいつマケドニアの食糧生産がマケドニアの民の飢えを解決出来るのか?と一蹴。

結果、マケドニアはアカネイアに対して血の供出(傭兵派遣)をする事となり、俄にマケドニア国内において『親アカネイア』の動きが見られる様になった。

 

 

 

一時は『マケドニア総督』

などという話すらアカネイアから出てきた程。

 

 

----

 

 

 

 

「⋯しかし、ゲレタ殿も難儀な事になったものだな。」

 

「確かに。

ドルーアとの関係を築き、それを深めたのは間違いなく良い事だろう。

⋯⋯しかしなぁ。」

 

 

アカネイアとの関係深化はマケドニア騎士の血を捧げねばならなかった。

それを阻止した現国王ミシェイルとその腹心ゲレタ。

 

彼等は二人に従う事に躊躇いはなく、変化し続けるマケドニアの大地や民の表情を見てその判断の正しさを深めるのみ。

その一方で

 

 

 

「ミネルバ様ではなく、妹のマリア様か。」

 

落胆とも悲嘆とも取れるため息が漏れる。

 

 

----

 

 

 

武技において、マケドニア国内でミネルバの腕前に比する者は皮肉にも国王ミシェイルくらい。

 

 

そして彼女は国王ミシェイルの妹。

となれば、『それ相応の格』が相手に求められる。加えて、些か短慮な部分が目立っていた彼女だ。

 

当然伴侶たる人物は彼女を焚き付ける事なく、寧ろ状況によっては抑え役とならねばならない。

 

 

 

⋯さて、王族である彼女に物怖じせず

その上、彼女を諌められる人物がどれだけ居るだろうか?

 

 

 

 

少なくとも、現在王国中枢で働く者達でそれに当て嵌まる者はごく僅か。

 

その点、国王ミシェイルの腹心であり、マケドニアに良き変化を齎した大臣であるゲレタなれば、誰も異を唱える事など出来なかった。

 

 

 

勿論、彼等文官としては自分達の仕事に理解のあるマリアの方が好ましくあるのは言うまでもないが。

 

 

 

----

 

 

 

「しかし、これは仕方のない話ではある。」

 

「そうだな。」

 

実際大臣であっても王家からの話(・・・・・・)を断れよう筈もなく、ましてやマケドニアの民ですらないとなれば尚更。

⋯その結果行き遅れる者がいたとしても、それは

 

 

 

 

⋯⋯⋯まぁ仕方のない事であろう。

 

 

それこそ恨むのであれば、亡き先王こそ恨むべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、その話は本当なのか?」

 

「そうらしい。

少なくとも、その者がマリア様の侍女(・・・・・・・)と会っていたのは間違いあるまい。」

 

「流石に侍女の待機している部屋に入っておいて、会っておらぬは筋が通るものか。」

 

彼等は険しい表情を浮かべた。

 

 

 

----

 

 

 

王族であるマリア。

彼女には元々身の回りの世話をする侍女は不足なく用意されていた。

 

 

そして王族の側仕えをする侍女ともなれば、高い基準を満たした者だけで構成されるのが常。

何せ『知り得ぬ情報』に触れる事もあるだろう。

 

 

だが、それを己の中に秘め仕える主の生活を支える。

それが侍女の求められるところなのだ。

 

 

 

そこに突如として起用されたのがレナ。

 

言うまでもなく異例の事であり、本来大臣であろうとも侍女の手配までするべきところではなかった。

 

 

しかも、レナの侍女としての振る舞いは決して王族に仕える水準に届いているとは言い難く、貴族や有力者の中には

 

 

 

「大臣殿の贔屓が過ぎるのではないか?」

 

との声が出る原因ともなっている。

 

 

とは言え、ドルーアとの同盟。それに伴う竜人族の協力により実施されている『マケドニア国土改造計画』

 

この比類なき大功を前にして、大臣たるゲレタを批判するのは不可能となっていたが。

 

 

 

が、裏を返せばそれだけの大功なくば、ゲレタに対する不満が一部から噴出したであろう事もまた事実。

 

 

 

それだけの配慮を受けたレナ。そして彼女の家に対する視線は決して穏やかなものではなく、故にかの家は現在のマケドニアの政策に対して全面協力をする事でその恩に報いようとしている。

 

 

 

「⋯騎士マチス。

どうやら、件の家の嫡男であり、

⋯⋯⋯⋯マリア様の侍女として引き立てられた者の兄らしい。」

 

 

だからこそ、彼等はこの問題について重く見ていた。

 

 

 

 

 

----

 

 

 

「信じられぬ。大臣であるゲレタ殿であろうと、王家の意思を尊重せねばならぬと考えておるのに。」

 

「よもや、有力者の娘でしかない者が陛下の話を断った。

挙句、温情を示したゲレタ殿や陛下に反意を持つと?」

 

室内の温度が急激に冷え込んだ様な錯覚さえ覚える。

 

 

 

 

「かの家の家長を呼び出し、如何なる考えあっての事か。

質すべきでは?」

 

「流石にこれが露見すれば、ゲレタ殿の立場も悪くなろう。」

 

「詰めねばなるまい。

見過ごせる話で済ませる訳にはいかぬ。」

 

 

何せ王家の一員となった以上、今までより遥かに面倒事(・・・)が増えるのは明らか。

 

 

流石に大臣の地位を願う身の程知らず(・・・・・・)が出て来るとは思いたくないが、身寄りのない大臣の庇護者と名乗りを上げる者は出て来る筈。

 

 

 

それらの動きを封じる為にも、これからのマケドニアの更なる発展の為にも

 

 

 

命すらかけた事のない未熟な騎士に振り回される事を許容する程

彼等は甘くも優しくもない。

 

 

 

 

既に情けはかけ過ぎと言えるだけかけている。

それでもなお、変わらぬのであれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリスルート完結記念の外伝

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