汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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幕間 人ありき

「マリア様のお子がマケドニアの王家を継ぐのやも知れぬな。」

 

「⋯正直複雑ではある。

あるが、その相手が大臣殿なれば民も受け入れよう。」

 

「だが、願わくば『マケドニア王家の証』を絶やさないで貰いたいところだな。」

 

 

マケドニア王族のマリアが城を離れ、大臣であるゲレタの元へ嫁いだ。

それは到底隠し切れるものでもなく、また隠す理由もない。

 

 

故にマケドニア貴族や有力者もそれを知る事となった。

 

 

 

他国人である事は周知の事実となりつつあったが、一連の対アカネイアの政策を見るに少なくともマケドニアの国益を優先する人物である事は明らか。

故に複雑な思いを抱きつつも、彼等もまた慶事と捉えている。

 

 

 

⋯だが、素直に喜べない理由も存在した。

 

 

『マリア様唯一の侍女』の存在である。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

王家とは民や騎士。貴族も仰ぎ見る存在であり、その存在を秘される事は余程の事であろう。

少なくとも、マケドニアにおいての王族とは民を導くもの。

 

 

故に衆目に晒される機会は多く、整った容貌もまた支持される理由になり得る。

 

マケドニアの大臣であるゲレタ。

彼は国王ミシェイル、王妹ミネルバ、マリアに比べると顔立ちは整っているとは言い難いところはある。

 

 

だが、ゲレタはマケドニアの大臣として比類なき働きを見せ、困窮に喘いでいたマケドニアの大地を文字通り『造り変えた』

結果として、マケドニアの民の生活を自宅の近くに何らかの植物を植え、その成長を楽しみの一つとする水準まで引き上げている。

 

 

家族と離れ離れになる傭兵業も改める事でマケドニアの民の確かな変化。それも好ましい方向へのそれを実感する事となり、その導き手であるゲレタへの信頼を深めていった。

 

 

 

だからこそ、今回の王妹マリアの話も喜んで受け入れたと言えるだろう。

 

 

 

だが、未だ国王と上の王妹は相手がおらず

次代のマケドニアの導き手がマリアとゲレタの子になる事を不安視するところも確かにあった。

 

 

マケドニア王家は『髪色が紅』であるが、大臣ゲレタの髪色は黒。

 

 

そこに一抹の不安を抱いていた。

 

 

 

----

 

 

 

たかが髪色と侮るなかれ。

 

 

現代の地球のように『血縁の証明』とは簡単なものではない。

 

 

 

アリティアは蒼。

グルニアは金。

 

 

王家の象徴とする髪色の保持には気を払わねばならない重要な要素であり、これが失われた場合の影響は計り知れないところがある。

 

 

 

だからこそ、国王ミシェイルは『髪色が同じ』有力者の娘であるレナを選んだのだ。

 

 

 

 

その話が出ても異論は無く、国王の伴侶として名乗り出る家はなかった。

ミシェイル王はそれが最善である。そう判断したのだろうから。

 

 

次期も先王を廃して間もない頃。

となれば、ミシェイル王の結婚を新たなマケドニアの象徴とする事も出来た筈。

 

 

国内の立場ある者の多くは、王の

マケドニアの新たな門出を祝うに足るものを用意するべきと悩んだものだ。

 

 

 

 

ところが、そうはならなかった。

 

 

 

----

 

 

 

 

娘がどう思おうと、家長がそれを認め、進めれば良かった。

 

しかしそうはならず、結果として未だミシェイル王の相手は定まらぬまま。

 

 

 

急速に動くマケドニア。

その舵取りをしているミシェイル王。その伴侶がそれを妨げる事などあってはならない。

 

 

更に王妃ともなれば、どうしても欲が出る者もいる。

権力や立場は容易く人を変えるだけの魔の力を有するのだから。

 

 

 

ミシェイル王の内意なのか、話を蹴った娘を大臣ゲレタはマリアの侍女に置く選択をする。

 

 

 

これにはかなり面倒な問題も絡んだ結果、一時的とは言えゲレタはその解決に奔走する事となった。

⋯たかが身の程を弁えぬ小娘ひとりの為に。

 

 

 

そこまでして押し込んだ以上、マリアの侍女としての立場を返上させるのは難しい。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「大臣殿はマリア様の侍女団の者からの受けは良くない。」

 

勿論、ある程度の事情を理解している侍女長は違うのだが

そして彼女達はマリアの侍女団が解散すると、別の有力者の侍女として雇入れられている。

 

 

結果、有力者の侍女周りにも

 

 

「お気に入りを贔屓する男。」

 

と見られていた。

 

 

 

侍女とは要人の身の回りの世話をするもの

言わば、最も影響を与えやすい役目とも言える。

 

 

勿論、そんな世迷言に迎合する様な者ならば、徹底的に話し合わねばならぬだろうが。

 

 

 

 

「それにしても、婦女子の想像力とは大したものよ。」

 

「大臣殿にはあの娘を手元から離して頂くのが一番なのだが。」

 

「それをするにしても、その娘の兄の軽挙が問題となろう。」

 

 

 

----

 

 

 

 

レナの兄マチス。

彼はマケドニアの中心たるマケドニア城の一室でゲレタ(おんじん)への不満を口にしようとしている。

 

本来であれば、直ちに人を呼びマチスの真意を問い質さねばならない。

だが、彼女は兄の言葉を切った後退室を命じている。

 

 

 

見方を変えれば

 

 

大臣への叛意のある者を見ないふりをした

 

とも取られかねない。

 

 

 

更に大臣のお気に入りと目されているレナ。

彼女の髪色もまた紅、つまりマケドニア王家と同じ色であり、マリアとの子と称しレナとの子を王位に据える事すら出来る。

 

 

 

 

寝言に過ぎない。

そう一蹴するのは容易いが、これに関して当人達が否定したとしても疑惑が晴れないのが厄介極まる話だ。

 

 

そもそも侍女達の言う『レナがゲレタのお気に入り』という事自体怪しいものだ。

 

 

 

 

王族の侍女とはこれ以上ない名誉であり、それに相応しいだけの力量を持った者達。

その者達から選ばれるのだ。

 

 

侍女としての働きもせず、いつもマリア(仕えるべき主)に侍るのであれば、それは侍女ではなく従者。

だが、レナを従者にするには信用が明らかに足りない。

 

 

レナを侍女としてのは苦肉の策でしかなかったのだ。

 

 

 

 

----

 

 

 

「本来ならば、親が引き受ける事をせねばならぬと言うに。」

 

 

この事態を打開出来るのはレナの父親の判断のみ。

泥を被って、自身の娘を引き受けるしかない。

 

 

だが、それをすれば父親は元よりレナのマケドニアでの生きる場所は無くなるに等しい。

故に決断出来ず、未だに息子にも働きかけが満足に出来ていなかった。

 

 

 

そう、レナの父親は『レナの厚遇』に甘えつつあると言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、男は行動を起こした。

 

妹を救う為に

 

 

 

 

 

 

 

エリスルート完結記念の外伝

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