汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
文官達の進言を受け、ミシェイルは一つの決断を下した。
「マリアの侍女のレナ、ですか?
無論知っております。」
妹であり、マケドニアの軍事面の責任者となったミネルバ。ミシェイルは彼女を呼び出し、事の子細を告げる。
そして対応を任せた。
「それは
⋯⋯いえ、分かりました。騎士マチスについて必ずや。」
兄の婚約話が無くなった事は知っていたが、まさか断った相手がレナであったとミネルバは思っていなかった。
が、思い返せば白騎士団設立の際、書類仕事をレナも手伝っていた事を思えば、成程と納得してしまうところも確かにある。
何せマリアの侍女であれば、その様な事をさせる理由がない。
部屋の主が居ない間、部屋の清掃や衣服の洗濯などやる事は侍女長から指示される筈であり、それ以外の事をさせるのはおかしな話だ。⋯つまり、最初から『侍女扱い』であっても、侍女としての働きは期待されていなかったのだろう。
「アレはレナの実家が遠方に送る事を聞いても、気にする事はなかった。
が、こっちの都合で無理を通し、泥を被って貰った。」
あの時のミシェイルは騎士達や文官達はともかく、貴族や有力者の支持を得ていたとは言い難く、だからこそ配慮するべきと考えた。
ゲレタは「王権を揺るがすと言うのであれば、それ相応の覚悟を示さねばなりますまい。」と言っていたと言うに。
甘いだけではつけ上がられる。
厳しいだけでも反発される。
その匙加減が難しいのをミシェイルは今となって痛感していた。
なお、この件についてゲレタに話を持って行ったが
「どうでもよろしいのでは?
マリアの侍女団は解散しました。にも関わらず、彼女が今もマリアの側仕えという形式上の役目を担っている理由。
それに思い至らぬのであれば、放置して良いでしょう。」
言外に、下手を打つならばその時は容赦しない。
そうゲレタは断じる。
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「国王からの話を受けぬ。
であれば、理由を申すべきところでしょう。陛下を納得させると同時に周囲からの目を気にするならば。」
本来国王の妻となるのはこれ以上ない名誉であり、周囲の者からすればやっかみの対象とすらなり得る事。
ゲレタという人物は傍目には調和を重んじる人物と見えるのだろう。
が、本人はそんな事を欠片程に気にしていない。
あくまでも『集団の秩序を保つ為』には、人間関係を疎かに出来ない事を理解しているからに過ぎない。
ゲレタは幼少の頃より歴史に興味を持った。
故に歴史書を求めるのは必然と言える。
そして歴史に名を残す偉人であっても、身内の裏切りによりその道を絶たれた者が多い事を知った。
親類、重用していた部下、或いは肌を重ねた間柄でさえも。
だからこそ、
それと同じくらい『他者がどう受け取るのか?』についても気にかける。
故にゲレタは理を語るよりも、実利で以て己の居場所を求めんとしている。
⋯⋯偶にゲレタの性格から来る甘さが顔を出す事はあるのが悩みどころではあるが。
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マケドニアにおいて、近く大きな方針転換をする事が既に決まっている。
男子皆兵とされていた体制を一新。
時間をかけて、志願制へと最終的に移行する予定だ。
マケドニアで兵としての教育を受けていないのは、異邦人たるゲレタのみ。
しかし、ゲレタは文官の長である大臣にありながら、兵や騎士団に対する理解がある。
鍛錬自体も独特ながらミシェイルの従者の時からしており、軽んじる者は殆どいないと言えよう。
騎士としての覚悟も自覚もなく、目的意識もなく騎士となった者など如何様にも使えないのだ。
勿論、『騎士としての自覚に欠く行動』をしている者については、辞めて貰う予定だ。
該当する者はほぼ居ないと言えるのは幸運なのか、はたまた不幸なのか?
外征の為の組織からの脱却
それがこれからのマケドニアの大きな課題と言えるだろう。
幸いにして、各軍の長は老年の者ではない。
意識の共有はなされており、問題が発生したとしても対応も早い。
となれば、マケドニアの変化は進んでいくのだろう。
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レナの父は娘からの連絡を受け、息子マチスを謹慎させるべきではないか?
と悩んでいた。
が、一方でアレなところがあったとしても次期当主となるのだ。
となれば、その様な沙汰を下したとなれば跡継ぎとして支障が出てしまう、とも考えてしまった。
彼も危機感を感じていない訳では無い。
だが、度重なる厚遇に意識しない所で緩みが出てしまっていたと言える。
⋯別にゲレタはレナやその実家に配慮した訳では無いと言うのに。
この点で言えば、誰よりも危機感を感じているのは他ならないレナだろう。
マリア付きの侍女と言う名目でゲレタの元に送られた訳だが、ゲレタは基本的にレナと積極的に関わろうとしない。
ミシェイルの立場を盤石なものとし、マケドニアの未来を築かんとするゲレタにとって、レナは身内足り得ないのだから。
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ゲレタからすれば、レナの扱いについては後悔しかない。
確かにミシェイルから温情をかける様に言われ、それに従って動いた訳だが
結果として、マリアの侍女長との話し合いやレナに対する書類仕事の教育。果ては今回の様に『形式上の役目』まで作らねばならなくなる始末。
彼女1人を助けた結果、仕事は増え、不満を抑える為に様々な調整をしなければならなかったのだから。
それに加えて、それすらも不満に思われるともなれば、内心の苛立ちは募るばかり。
更にマケドニア貴族や有力者から
自身の娘を差し出したい
と言う話を聞かねばならなくなった。
何せ、チキとマリアを妻とした以上
もう少し増やしても良いのではないか?
と思う者が現れるのは必然。
その上、『ゲレタが庇った侍女』であるレナ。彼女がゲレタの元に居るとなれば尚更。
一部の者の中には、『箔付けの為にマリア様の侍女にしたのでは?』と言った考えもある。
幸いにも、ミシェイルがその話を止めているらしいが、それはそれで
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そもそも結婚に対する価値観において、ゲレタは権力者足り得ない。
チキとマリア。
2人と結ばれる事はドルーアとマケドニア両国の関係を深める上では最上とも言える方法かも知れない。
だが、ゲレタは妻を持ったとしても『2人を平等に愛せる』とは思っていない。
ゲレタは所謂『恋愛弱者』であり、異性との付き合いではヘタれる事がしばしば見られる。
ゲレタの気性と合うのは『姉さん女房』
つまり、ゲレタを引っ張れる人物であり、貞淑な女性や無垢な女性相手では割りと困る所があるのだ。
そういう意味においてならば、ミネルバやパオラが相応しかったと言える。
ゲレタの気質は『支えるもの』
主柱となる存在があり、その者を支え
足りないものを増やし、余計なものを減らす。
マケドニアには足らぬものが多過ぎた。
だから、
やり甲斐も用意し、その成果を示した。
明確な未来を示し、絵空事ではない事を見せつける。
なお、恋愛や結婚に関してゲレタは己から動くつもりはない。
⋯非常に煩雑な事になるのが分かりきっているのだから。
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とは言え、ゲレタの心情など関係なしにレナとの関係は変わらざるを得ない。
勿論、ゲレタにとっては心底不本意極まる話なので自分から話を動かすつもりなど毛頭ないが。
既にレナは自由など許されぬ身となっている。
仮にゲレタが
度重なる温情にも応えられなかった娘
として周囲から見られる事だろう。
婚約話どころか、マケドニア社会の中で孤立する。
勿論、それは彼女のみに留まらず、彼女の実家もマケドニア社会の中で常に厳しい立場へ追いやられよう。
国外に移住したいと言うのであれば、止めはしない。
言うまでもなく、二度とマケドニアの地を踏めると思ってもらっては困るが。
それで、何処へ行き
そこでの生活が過ごせる自信があるのならば
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原作において、レナは国外に出されはしたが『教会』という後ろ盾があり、故にガルダの港町でもシスターとして受け入れられた。
マケドニアの出身である事など言わなくても済んだのだ。
まぁ原作と違い現在のマケドニアはアカネイアを始めとした大陸各国に攻め寄せている訳では無い。
もしかしたら、受け入れてくれる奇矯なところがあるかも知れない。
なお、仮にレナの一家がマケドニアから出ていく事を選んだとしても、ゲレタは竜人族やドルーアに協力を求めるつもりは欠片もない。
精々が竜騎士団や白騎士団が動くのを黙認する程度。
勿論、必要最低限のもの以外は運ばせる理由も義理もない。
まぁ長続きはすると思えないけども
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レナはシスターとしての教育を受けている。
アカネイアの影響力の低いマケドニアにおいて、だ。
となれば、それなりに裕福な家の出であり、到底畑を耕して生きていけるとは思えない。
兄マチスに至っては、最早「それの何処が騎士やねん」と突っ込みたくなる様な理由で一度ならず二度も国を裏切っている。
そうでなくとも、一介の騎士に過ぎない人物が『王族の侍女』と会って話が許される。と思い、行動する時点で大凡マトモとは思えないが。
組織への帰属意識を持ち合わせておらず、己の立場も顧みない。
部下に居たのならば、真っ先に対応せねばならない問題児だろう。
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チキは不思議に思っていた。
ゲレタはいつも口にしている。
「自分の身の回りの事くらい出来た方が良い。」
と
実際ゲレタならば自分の身の回りの世話をしてくれるのは嬉しいが、そうでない者がしたとなれば少なからず嫌な気分になるのは間違いない。
マリアもそのやり方に慣れる様にしている。
⋯じゃあ、レナは何で此処に居るのか?
マリアの侍女と言うが、そもそもそんな手間のかかる事をゲレタは好まない。
儀礼用の服はあるらしいが、姿見を見て直す事が出来るし、自分も協力する。頼めば外の人達も喜んで協力してくれるだろう。
あの人達も自分の事は自分でする
それだけなのに。
チキは正直レナの事を良く思っていない。
此処に来て、辛そうな顔を偶に見せるのだ。
何より、ゲレタも歓迎していない様に感じられる。
温かく、優しい場所が踏み荒らされた気がして少し気分が悪かった。
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マチスにとって、妹のレナは大切な存在だ。
レナは何も間違った事をしていない。
国王相手だろうと、自分の意思を告げるのは許されるべき事の筈。
にも関わらず、あの男はレナや父に恩を着せたかの様に妹をマリア様の側に置いた。
侍女としての教育を受けていない、シスターとしての教育しか受けていない妹を。
そして、マリア様の侍女団は解散したのに妹だけは未だにマリア様の侍女となっていた。
その上マリア様はあの男に嫁ぐと言うではないか。
ならば、妹を求めているのはあの男なのだろう。
妹に自由はない。窮屈な環境で心を痛めている。
マケドニア城で妹は声を荒げた。
そんな事をする妹ではなかった筈なのに。
だから妹を取り戻す。
それで国から追われたとしても、構わない。
その時の彼は本気でそう考えていたのだ。
言うまでもないが、竜騎士ではない一介の騎士であり、決して優秀とも真面目とも言えない彼に
マケドニアの外の事など知る術などあろう筈もない。
マケドニアとドルーアは半島の南北にあり、その半島は大陸から海を隔てた場所にある。
竜騎士や天馬騎士ならば知っていて当たり前の事。
それすら彼は知り得なかった。
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妙な男が来た。
マリア姫の侍女とは形ばかりの娘を返せ、そう喚く男が。
その言葉を聞いた時、ゲレタは忌々しそうに表情を歪めると
「⋯どうやら、立場を理解しない者がいるらしいな。
⋯⋯⋯レナ、直ぐに荷物を纏めろ。
マリア、陛下には俺から話を通す。レナの役目は今日までだ。」
そう冷たく言い放つ。
言われた者は
「⋯⋯分かりました。
マリア様、ゲレタ様、チキ様。モーゼス様お世話になりました。」
と頭を下げ、荷物をまとめ始める。
「さて、これでレナの実家はマケドニアに居場所が無くなった訳か。
⋯チキ、悪いが外の者にマケドニア城へ飛んで貰ってくれ。」
「うん、分かった。」
姫はそう頷くと足早に家の裏手へ出ていく。
組織とは面倒なものだ。
モーゼスは溜息をつく。
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「どうあっても、嵐の中を彷徨いたいらしいな、騎士マチス。
誰にこの場所を聞いたか知らんが、此処に何の報告もなく足を踏み入れた時点で
お前はマケドニアの騎士ではない。」
マケドニアの大臣の居であり、ドルーアの竜人族の宝とも言えるチキの居場所。
そこに事前連絡なく飛び込むなど、それこそ少し前のガトーや姿を消したフォルセティならば殺されても文句は言えない。
此処はマケドニアだけでなく、ドルーアと竜人族の事情の絡む場所であり、国王ミシェイルや王族であるミネルバですら余程の事で無い限り来てはならない。
そう取り決めのある所なのだ。
それについて、一般人や騎士が知る事はない。
知らずとも、態々辺鄙な所に居を構えた理由を考えれば、或いは立場ある人物に聞けば分かる事。
立場相応の情報というものは存在する。
信用出来る人物ならば兎も角、そうでないならば尚更。
「望み通り、レナは返そう。
何処へなりと行くが良い。」
二人の父親の貢献は認めよう。
だからこそ、
生きて
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妹を取り戻したマチス。
しかし、同じ馬に乗りながら二人の間に会話はない。
仮にもマケドニアの大臣であり、国王ミシェイルの頼りとする人物から騎士である事を否定されたのだ。
言葉にされて、漸くマチスは自身のやらかしを理解した。
家に戻る他なく、その表情は暗かった。
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ゲレタからの急報を受けたミシェイルは判断が遅きに失した事を理解し、深く溜息を吐く。
「⋯ミネルバを呼べ。」
こうなれば、最早穏便な解決など望めない。
手を差し出し助ける事は美徳である。
だが、時にそれは災いを呼び込む事になるのだろう。
均衡を保っていた
保とうとしていた天秤は傾き、そして新たな混乱が起きる。
エリスルート完結記念の外伝
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いる
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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その他