汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
ならば、突っ走るだけ!
「…あっ、……くうっ!」
カチュアは山賊達の予期せぬ攻撃に苦戦を強いられていた
「ちっ、しぶといな」
「馬鹿野郎!顔を狙うんじゃねえよ!」
「だが軽鎧を着てるんだ、他に当てても大した傷にならんだろうが!」
彼等は斧や弓を使わない
石だ
彼等はそこら中にある石をカチュアに投擲していた
「うっ!」
彼女は1人であるが故に、その投石攻撃を全て防ぐ事すら叶わない
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石と言えども、速度が乗ったそれはかなりの攻撃力を有する
加えて、彼等の目的は
これが男ならば石で注意を逸らせた上で、弓で射殺せば良い
しかし、山賊達から見てカチュアは間違いなく美しかった
もう1人がいないという事は逃げるのも難しいくらいの大怪我を負っているのではないか?
そうなると、目の前の女まで余りに痛めつけたとなれば全くもって面白くない
そして、彼等は騎士である少女が自分達の様な山賊相手に何ひとつとて抵抗できないままに無様に倒れ、屈服した所が見たいのである
騎士とは平民上がりの兵士を指揮する立場
平民にとって、騎士とは羨望の的であるのと同時に
怨嗟の的でもあるのだ
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この大陸において明確な規定のある徴税制度を定めている国は1つもない
必要な時や収穫の終わった時などに領主などが適時判断して徴収するのだ
その為平民の生活はその領主の人柄により左右される
領主もまた自分の立場を維持する為に、或いはもっと上へとのし上がる為に税の一部を貴族を通して国家に納める
そして仲介者となった貴族は当然の権利と言わんばかりに税の一部を横領する
この歪極まるシステムこそが、大陸全土における
警察機構などというものが存在しない為、外的脅威に対する刃である騎士が国内の治安維持も兼ねる
前者に比べるとどうしても後者の方が技量などにおいて未熟な者が多くなるのは仕方のない事
問題は、技量が低いだけではなく騎士としての自覚などに欠ける者も後者に投入される事が多い
という事だった
自身の影響力を増やそうとする貴族達にとって、自国の軍内部に自派閥を持つと言うのは大きな課題
その為、一族郎党の中から騎士として受勲させ活躍させようとするのは彼等の常識で言えば不思議でも問題でもなかった
しかし、騎士としての実力や精神性に問題のある者達を押しつけられる軍からすると
役立たずを貴族の都合で押し付けられた
となる訳で
そんな者達の出来る事など治安維持くらいしか無いと判断するのだ
…さて、そんな騎士擬きによる治安維持活動がマトモに行われるのか?と言うと
大半の者達は自分の行為一つ一つに家の未来がかかっていると真剣に取り組む
しかし、中には戦場で華々しく活躍する事を夢想している者もおり、その様な者からすれば治安維持など下らない物にしか見えない
故に手を抜いたり、自分に利益をもたらす者に対しては甘い処置をする
故に騎士とは憧れの存在であると同時に権力者達の狗として忌み嫌われている部分もあるのだ
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そして彼等は望む望まぬに関係なく山賊に身を落とした者達
自分達の生活を狂わせた者への怒りはある
死にたくないからと、彼等は奪う事を決めたのだ
そのやり場のない憎悪の捌け口となったのがカチュアなのである
「うっ、…くう」
カチュアは絶え間なく浴びせられる石の攻撃により、傷を増やしていた
元々彼女とて、軽傷とは言えない傷を負っているのだ
それにこの様な攻撃を受けたとなると厳しい
だが、倒れない
…倒れては、ならないのだ
自分に注意を集め、彼等が姉の事を思わず忘れてしまうくらい時間を、注意を集めねばならないのだ
その結果、自分がどんな最期を迎えたとしても
皮肉にも、カチュアのその強い決意の光を湛えた目がある限り、彼等はカチュアを嬲る(既に彼等の中では愉しみとなっている)事を止める事はなかった
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「お姉ちゃん、大丈夫?」
「…ええ、ありがとう
少し楽になったわ」
カチュアが必死に抵抗している頃、洞窟の中でチキはパオラの怪我の手当てをしていた
勿論、チキは回復の杖を使えない
しかし、彼女は父や母の役に立つ為に村の者から怪我の手当ての仕方を教わっている
まだまだ未熟ではあるが、それでも満身創痍だったパオラの痛みを少し和らげる事には成功していた
「…今更なのだけど、何故私を助けてくれたのかしら?」
「お父さんが助けようって言ったから、かなぁ?」
パオラの問いかけにチキはそう答える
彼女にとって、父と慕うゲレタと母と慕うリンダ
そして、自分を外に連れ出してくれたバヌトゥ
それと村の人達
彼女にとって、いて欲しいと思える者はそれだけなのだ
パオラを助けたのだって、チキとしては『怪我をして弱った者』としか思っていないから、死んだとしてもそれは仕方のない事
非情に聞こえるかもしれないが、それはチキの考え云々ではなくマムクートとしての当たり前の考え方
弱い者は淘汰され、強い者が生き残る
古き世から続く、弱肉強食の
だが、そんな彼女も少しずつ変わりつつある
他者との交わりは変化を齎すのだから
「お父さん?
カチュアを助けに行ってくれた人の事、よね?
私が頼んだのだけど、1人で大丈夫かしら?」
パオラのその言葉にチキは
「大丈夫だよ!
お父さんは負けないから!」
そう満面の笑みで答えた
なおその人物の事を聞いたパオラが
「お父さんの事?
元山賊って言ってた!
そうは見えないんだけどね?」
「さ、山賊!?」
と困惑するまであと数分
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「ちっ!どいつもこいつも遊びやがって」
山賊達の頭領の男はそう不愉快そうに吐き捨てる
カチュアの苦悶の表情と痛みを堪える姿を最早山賊達は楽しんでいた
…しかし、男はそれを止める事はない
売値は下がるだろうが、予想以上の上玉だ
そこまで買い叩かれる事はないだろう
…だが、手を出す様ならば容赦しない。価値が極端に下がるからだ
殺しはしないだろう
遊び半分で殺した時、男は殺したやつを問答無用で愛用の斧で叩き割っているのだから
だが、不満はある
「…ちっ。どいつもこいつも」
「分かる分かる。嫌だよなぁ、さっさと手足を折って猿轡させてからにすりゃあ良いのによぉ」
「馬鹿野郎。んな事したら売れなくなるじゃねぇか?」
ふと違和感を感じた
アイツらはみな女の方にいる筈
…では、誰が
「はい、お疲れさん」
そう考えた男だったが、次の瞬間にはその意識は闇に落ちた
そして、愉しみの時間は終わり
恐怖の時間へと塗り替わる
たった10人にも満たない数
しかも無抵抗の女を嬲る事に集中している
となれば、どれだけの手間になるというのか?
「反吐が出るんだよ、そういうのは」
ゲレタはいつになく嫌悪感を全面に出して、腕を振るう
「汚ねえ悲鳴なんぞ聞きたくもねえ」
ゲレタはあっさりと山賊達を始末した
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痛みが、ない?
執拗な投石攻撃、いや最早攻撃ですらなかったが、それが突如として終わった
余りにも悔しくて、情けなくて
…でもあんな奴等に涙を見せたくなくて、目を閉じていたカチュアは異常に気がついた
「あーあ、んとに怪我だらけじゃねぇか」
そんな声と共に顔に当たる冷たい感触
布か何かで自分の顔を拭いているのだろうか?
「とりあえず終わったから、目を開けて貰えんか?
アンタのお姉さんの事もある。すぐに戻って村に連れて行く方が良いと思うが」
その声にカチュアは目を開くと
「姉さんに何をしたの!」
と目の前の人物に掴みかかる
後から思えばなんと不実で失礼な事をしたのかと、今でも赤面するくらいだ
少し考えれば分かった筈
山賊達の攻撃が無くなり、先程まであった不快な息遣いは一切聞こえない
見回せば分かったのに
それでも姉の事を口にした人物に私は
「姉さんに何をしたの!」
と問い詰めてしまった
「いや「妹を助けて」って言われたからなんだが
まさか助けた相手から詰められるとはたまげたなぁ」
「え?」
神様がいるならお願いします
あの時の私をどうにかして下さい
そう今でも私は思っている
…あの、パオラ姉さん?
その、ね?
ゲレタさんも笑って許してくれたから
…怒らないで欲しいんだけど
あ、エスト!
「私、しーらない」って言わずに私を助けて……くれないわよね
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「あの、本当にごめんなさい」
「…解せぬ」
冷静さを取り戻したカチュアは自分の非礼と姉と自分を助けてくれたゲレタにお礼を言った
「そういうのは後で良いから、早く洞窟に戻るぞ」
とゲレタは彼女を急かした
何せ危険なのだ
襲ってきた山賊側が
流石にチキも洞窟内で竜石を使う事はないだろう
…無いよね?
その辺についてゲレタはしっかりと教えたつもりだが、かと言ってそのせいでチキが傷つくのは論外
念の為に簡易的なものではあるが、足止めのトラップは仕掛けるには仕掛けた
というか、山賊相手に火竜石を使う時点で反則だと思わなくもない
が、それもチキの安全の前には些細な事
基本的に
それを可能な限りカバーしようとした結果生まれたのが微弱な風による擬似ソナーであるが、範囲は狭い上に山中などでの使用には適さないのも事実
「…あの、歩けますので」
「んな全身傷だらけの人間を連れて歩いたんじゃ、いつまでかかるかわからんだろうが
悪いがアンタよりもアンタのお姉さんの方が余程重傷人だ
優先順位を間違えて死なせたんじゃ、寝覚めが悪い」
ゲレタに背負われているカチュアの言葉にもゲレタは耳を貸さない
戦場に慣れていたとしても、起伏の激しい山中を歩くに彼女達の服装は余りにも適していないからだ
現代においても山歩きは一種の娯楽として親しまれている
しかし、整備された山道を歩くとしても肌の露出する格好は推奨されない。
どうしても、木や枝、草などで怪我をする
それはアカネイアにおいても同じ
…いや、医療技術などから考えるとより深刻な筈なのだ
だからこそ、山で生活する者達は可能な限り肌の露出を抑える格好で生活する
どの様な些細な傷であろうとも、下手をすれば死に直結すると知っているから
その辺はゲレタとリンダも村人から教わっているし、ゲレタは元々露出する格好を好まない
リンダにも山に入る時にはズボンを履いてもらい、その辺りの対策をしている
勿論、チキもそうだ
マムクート、しかも神竜ナーガの娘である彼女にその様な心配は無用なのかもしれないが
仲間はずれは寂しいもの
なのだから
話は逸れてしまったが、山の中には怪我をする要素がふんだんにある
という事は理解してもらいたい
さて、では今ゲレタの背中にいるカチュアの格好を見てみよう
飛行中の落下により、軽鎧も部分的に破損
更に落ちた衝撃で衣服にもダメージが
更に山賊達による執拗な投石攻撃により、露出している肌には傷だらけ
この上所々に軽度の出血まで
自殺志願者か、何かでいらっしゃる?
と思わずゲレタはツッコみたくなる格好だ
それに加えてこの世界の騎士の大半は騎馬なりに騎乗して戦う
故に下半身の動きを阻害しない様になっている為、軽鎧で防御している上半身に比べると圧倒的に防御面に劣るのだ
草の中にも割と殺傷力の高いものがあり、それで肌を切ればそのまま出血
そして、その血の匂いを嗅ぎつけた狼などに襲われる
山で生活している者達からすればいうまでも無い常識だが、その辺の感覚は希薄なのだろう
説明する事も考えたが、今はその少しの時間すらも惜しまねばならかい
故にゲレタはカチュアを背負って急ぐのだ
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「姉さん!」
「カチュア!」
パオラのお姉さんとその妹が涙を流して抱き合って再会を喜んでいる
ただ
あんまり動いて欲しくないなぁ
と思って私はそれを見ていた
それよりも
「頑張ったな、えらいぞチキ」
そう笑って頭を撫でてくれるお父さんの方が私にとっては大事
あの人達のペガサスはお父さんを怖がって威嚇した
…だから、私はその子達に笑いかけた
そうしたら、その子達はお父さんにも懐いたの
お父さんを怖がるのは別に良い
でも、お父さんを傷つけようとするのは許さない
お父さんとお母さんは私にとって、大切な人達だから
割と悩みました
何せ油断したら掲示板を変えなくてはならない様な内容になったので(十二敗)
でも全年齢板で頑張るって決めたから
私ごととなりますが、難病認定の検査を受ける事になりました
多少は費用が安くなるらしいので
世知辛いなぁ