汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
アカネイアの割とヤバい問題発覚
「なんとかせねば」
男は頭を抱えていた
彼はアカネイア・パレス近くの街に店を構えている商人
彼の扱う商品なのだが、在庫が既に無くなりかけていたのだ
…勿論、彼は商人である以上物を売って利益を出さねばならない。であるならば在庫切れなど本来あり得てはならない事
しかし、今回ばかりはそれなりに長く商売をやっている彼でもどうしようもない
ドルーア帝国によるアカネイア侵攻に端を発した今回の戦乱
それにより、アカネイア大陸全土が巻き込まれた
各地で起きる戦闘
戦闘によって生じる損害
その損害を補填すべく、徴兵される男ども
それらが何を引き起こすのか?
それは
深刻なまでの食糧不足であった
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アカネイアは大陸最大の国家であり、その他の国家の祖となる国だ
故にアカネイア各国から富を吸い上げる制度を作り上げて、アカネイアの繁栄の礎として活用
結果、アカネイアは他国が同盟を結ぼうとも問題にならぬ国力を手にしたと言える
だが、それ故にアカネイア王国内における農民の数は他国に比べて少ないとは言えないが、その割合は明らかに低い水準だった
それでも、問題はなかった
何せ
食糧を大量消費する行為は行われなかったのだから
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戦争とはあらゆる物を失う行為である
命、誇り、国
そして食糧さえもその例外ではない
ドルーア帝国においては皇帝メディウスが君臨しているが、彼の判断基準は竜故にヒトとは異なる事がしばしばある
そのメディウスを皇帝としながらも、その下にドルーア軍という軍組織を維持、運営できるのは偏にガーネフの献身と奮闘あっての事
彼はメディウスがヒトに対して昏い憎悪の炎を燃やしている事から、自身の手駒となるドルーア軍に対してもさしたる気を払っていない、そして払うつもりもない事を理解
そこでガーネフは何とかして、食糧などを確保できる体制を早期に確立するという、彼の目的からは程遠い事をしなければならなくなった
彼がメディウスに対して、命がけで進言した
マケドニアとグルニアの引き入れは戦力増強の意味もあったが、何よりも『食糧の大量消費』を嫌ったが故に、両者の力を欲したのだ
…まぁ、マケドニアはそこまで食糧自給率が高くなかったのでガーネフとしては想定外と言えた。しかし、それでもドルーア単独での軍事行動に伴う食糧消費量に比べたならば、まだ許容出来なくも無かった
グラについては、戦力よりもその食糧備蓄に期待したのだが
後ろからアリティアを討ったにも関わらず目を覆わんばかりの被害を受け、その上ドルーアによるアリティア攻略の際兵を出させたのだが、此処でも大打撃を受けている
加えて輜重隊を見事に殲滅されており、グラにガーネフが求めていた役割は果たせなくなってしまう
それどころか、食糧不足に陥ってしまい逆にドルーアに対して食糧支援を求めてくる始末だった
ガーネフは内心呆れ果て
こやつら、味方にしなくても良かったのでは?と思ってしまう
一応はファルシオンを奪うという役目を果たしたと言えなくもないが、その為にアリティアを攻略したりグラへの食糧支援をしたとなると
…役に立たぬ
と思われても仕方のない事ではないだろうか?
更に何を血迷ったのか、兵士が枯渇しつつあったにも関わらず、兵士の徴兵まで行ない、ドルーアの為に戦うと国王ジオルは言ってきたのだ
その前に、まず食糧問題をどうにかせんか
とガーネフは思わず天を仰いだ程だ
何せ戦争をやるにも食糧不足のグラである
その食糧を誰が用意するというのか?
その上、本来ならば農業に従事する筈の国民すら兵士として動員しているのだ
当たり前だが、食糧生産量は例年を下回るだろう
そして働き盛りの成人男性を徴用した事で、グラ王国の人口バランスが崩壊する可能性も高くなった
その為、ガーネフはメディウスからの『グラ侵攻』については異議を挟まなかったのである
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さて、その辺りも踏まえた上でアカネイアの状況を考えるとしよう
ドルーア侵攻により、アカネイアはパレスを奪われ、軍事拠点も軒並み喪失した
ガーネフは真っ先に食糧を抑えさせて、アカネイア軍の備蓄は必要な量以外全てドルーア本国へと輸送させている
次にオレルアンにおいて、ニーナと合流したマルス達アリティア軍
タリスを出る際にタリス王からある程度の食糧支援は受けていたが、その後デビルマウンテン、オレルアンにおける連戦によりかなりの食糧を消費した
ワーレンにおいて、マルス達はアカネイアの解放に動く事が決まっていた事を受けて食糧を大量に購入
その食糧でレフカンディ、ディール。そしてパレス周辺とパレス内の敵との戦闘を乗り切った
アカネイアに留まらざるを得なくなっても、当然の話だが食糧は消費されてゆく
そして、パレス解放を知った貴族達も次々と王都付近に戻ってきた
…さて、この時貴族達はアカネイア王家の為に食糧を集めて持ってきたのだろうか?
そんな筈はなかった
ラングなど一部の貴族は持ってきたものの、消費量と比べその量は余りにも少ない
その為パレス付近の商人
つまり彼に対して食糧の大量購入が打診される訳だ
さて、ドルーア侵攻とドルーアの支配により荒廃したアカネイアにおいて
どれだけ余剰な食糧を生産できただろうか?
戦争により、アカネイア国内でも山賊などが跋扈する様になってしまった状況
そんな中で普段通りの食糧生産が出来るはずもないのだった
当然だが、売る側にも生活がある
自分達の食べる物は確保せねばならない
故に商人に売る量が減る
その為、彼が扱える量の減る訳で
アカネイア軍の再建や、貴族達の生活(節制などという概念はない模様)
とどめにマルス達アリティア軍のグラへの救援
当たり前だが、マルス達も食糧を用意せねばならない
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結果、彼の扱うべき商品である食糧が品切れとなってしまったのだ
アカネイア軍の指揮を任せられる事となったラングとジョルジュ
2人は野戦においてドルーア軍と戦うのは自殺行為だとし、籠城戦を企図していた
食糧の備蓄が充分でないことを知らないから
ラングはあくまでもアカネイア貴族の1人であり、ジョルジュは指揮官として優秀ではあるが、それは部隊指揮レベルの話
軍団や軍隊の指揮などという物は2人とも無縁であるのだ
付け加えれば、アカネイアは大国である
故に物が不足したとしても、すぐ補充出来て当たり前
それ故に
物が足りない
という事に対して彼等は日々生活する中で理解する機会はなかったのだ
ジョルジュやミディアが国内の巡察に向かうとしても、武器や食糧が不足する事はない
山賊達とて、馬鹿ではないのだ
アカネイア正規軍と戦おうなどと思う筈もないのだから
砂上の楼閣
正にこの表現に相応しかったのがこの時期のアカネイアだったのである
パレスよりの急使より伝えられたドルーア軍の侵攻
「っ!
ハーディン!」
「我等が先行する
マルス殿達も出来るだけ急がれよ!
ザガロ、ウルフ、ビラク、ロシェ!
…行くぞ!」
狼は走る
守るべきものを守る為に
次回
死闘
なお、マルス達が食糧を買った時にはまだ多少は在庫があったし、そもそも男はドルーアがこんなに早く攻めてくるとは思っていなかった
在庫がなくなって困ってはいたものの、国内が落ち着いたら近くの農村を回って買い付けをしようと考えていたのです