汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
アカネイア・パレスは周囲を山脈で囲まれており、唯一東側が進軍ルートとなり得る
その為、アカネイア軍は東を注視するのは至極当然と言えるだろう
…彼等が空を飛べなければ、だが
ラングはマルス達アリティア軍がドルーアとの戦闘で破壊したシューターを修理して防衛の一助としたかったのだが、それは時間的な問題だけでなく、技術的な問題からも難しかった
シューターの原理は簡単。であるが、その機構自体は綿密な計算をされており、現在のアカネイア軍関係者にそれを再現できる者はいない
パレスが奪還されたと言っても、アカネイア軍の者全員が戻って来た訳ではなかったのだから
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空を大きな影が飛んでいた
ペガサス?ドラゴン?
いや、違う
あれは竜だ
「なんだと!?」
パレス防衛の指揮を取る事になったジョルジュはその予想外な光景に目を疑った
マルス達と共に行なったパレス解放戦
その際にドルーア側の指揮官であった男
彼は名を知らなかったが、ショーゼンと同じ様な存在が多数居たのだから
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ワーレンにおいて、激戦を繰り広げ辛うじて勝利を収めたマルス達
しかし、その対価は決して安くなかった
バヌトゥの持つ火竜石
それは神竜ナーガの従者である彼の力の一端を発揮する為に必要なもの。グルニアの大軍と戦う為に、マルスはバヌトゥに戦線を支えてもらう様に頼み込み、バヌトゥもそれを受け入れた
その為、バヌトゥは貴重である火竜石を極限まで酷使する事となり、それ以降竜石の消耗を避ける為にマルスはバヌトゥを前線に出す事はなかった
その為、ワーレン以降に合流した者の中にはバヌトゥの存在に疑問を持っている者もいたりする
それはバヌトゥにも分かっていたが、彼はさして気にする事はない
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マムクート
それはこの大陸において、差別され迫害された者達
しかし、その理由について考える者は殆どいない
…特にアカネイアに近しい者達は
「…しっ!」
ジョルジュは自身のパルティアにてマムクートに攻撃を開始する
ショーゼンとの戦いにおいて、ジョルジュは自身の持つパルティアがマムクート相手にも通じる事を知っていたから
マムクートの一頭にジョルジュの攻撃は命中し、それは地に堕ちた
…だが、それは彼等の逆鱗に触れる事となる
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繰り返すが、パルティア、メリクル、グラディウスやファイアーエムブレムにファルシオン
これらは竜族にとって偉大なものであるナーガに関係するものである
故に、それらをさも自分達のものであるかの様に振る舞うヒトに対して不快感を持っている竜人族や竜族は思想問わず多い
ヒトとの共存を良しとしているバヌトゥですら、マルスの持つファイアーエムブレムやジョルジュの使っているパルティアを見る時顔を歪めているくらい
後世において、マルスに対する呼び方として、英雄王というものがある。だが一方でこうも呼ばれている
盗賊王
と
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これは当時
この場合の下賎な民とは山賊や盗賊、海賊などを表すものであり、如何にニーナの許しがあろうと、宝物を漁り持ち去るマルス達のあり様は一部の者達から白眼視されていた
しかし、そんなマルスを盗賊王と忌み嫌う者達を嘲笑している者もいる
…そう、竜族や竜人族だ
彼等からすれば、寧ろ
と言えたのだから
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そして、マムクートだけではない
今回のアカネイア侵攻はドルーア皇帝としてメディウスが発した勅命
故にドルーア軍の動員できる最大戦力で攻め寄せる
その中にはガーネフに従わねば生きていけなくなったカダインの魔道士も含まれており、アカネイアの劣勢は明らか
しかし、迎撃を行なう弓兵隊以外の指揮を任されたラングは、おおよそ貴族らしかぬ粘り強い抵抗を行なう
更に一部の余りにも目に余る貴族には剣を突きつけて、最前線へと送った
無論、その人物に阿る者達も加えた上で
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パラディンであるミディアだが、彼女達の最大の利点は騎馬による高い機動力と展開力だ
しかし、防衛線となるとこの2つは意味を持たなくなる
更に彼女が率いる部隊はまだ練成途中であり、その上意識が高い彼女のやり方に不満を持つ者も多い
ジョルジュ率いる弓兵隊やトムス、ミシェランの率いる重騎士隊やラング率いる歩兵隊にすら戦意という意味においては劣っていた
更に言えば、パレス内における戦闘は極力避けねばならない事がミディアにとっての負担を増やす一因ともなっている
馬上の騎士の間接攻撃手段は手槍の投擲であるが、そもそも手槍というものはコストに対して効果が見込みずらい武器
何せ騎士の戦闘となると、足を止める事はない
つまり、相手の動きを先読みし、更に相手の着ている鎧の上からでのダメージを与えねばならない
当然だが、馬上というのは決して安定している場所ではない。熟達した騎士ならば、相手に致命傷を与えるだけの威力を出せるが
そうでなければ、ただ無為に手槍という物資を失うだけどなってしまう
ミディアとしてはただでさえ物資の潤沢とは言えない中での防衛戦。武器の一つとて無駄に出来ないと思い、敵軍との接敵までは攻撃を控える様に指示していた
…しかし、多くの者は新兵と言っても過言ではない上に
何せ騎士となる為にはそれなりの教養も必要となる。だが、アカネイア大陸において教育とは貴族子弟や王族。そして一部の有力者の子弟くらいしか受ける事が出来ないものだ
故にアカネイア軍の騎士の中のかなりの割合が、アカネイア貴族子弟やその親族などである
そう、王家を見捨てて逃げ出す程度の覚悟しか持たぬ貴族の、だ
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パレスを奪還した事により、多くのアカネイア貴族達はパレスへと戻る事を選んだ
それは、彼等がドルーアとの戦いを決意した訳では決してない
多くの王家に忠誠を誓っていた貴族達はドルーアとの戦闘により命を落とした
…つまりそれは
多くの
という事である
ニーナ以外の王族は命を落とした事で、彼女のそば近くに仕える者すら空席なのだ
あわよくば、その空いた席に座れるのではないか?
そう多くの貴族は判断したのだ
事実、ニーナの近くにいる廷臣達は代々がその地位にいる訳ではなく、ニーナの意思を伝える(ニーナ視点)事が出来、彼女の意思を尊重する者達でしかない
…さて、統治者が己が思うがままに
独裁という事もあるものだ
ニーナは救えない事に、自分の国や家族。そして多くのアカネイアに忠誠を誓い、死んでいった者達を想うよりも自身を窮地から助けてくれた
オレルアンに逃れた時や、マルス達に助けられるまで彼女はアカネイア再興の為に必死になっていた
だが、そんな時でさえも彼女の心の中にはカミュの姿がいたのである
そして、パレスを解放した事や各地で勝利を重ねた事で彼女の中にはドルーアに与していた国家に対する考えが定まりつつあった
マケドニアについては、投降し協力してくれているミネルバとマリアによる新体制ならば受け入れる
グルニアについては、剣を置くのであればある程度の譲歩をしても良いのではないか?
と
最前線で戦っている者達からすれば
ふざけるな!
と怒鳴りたくなる様な考えであった
しかし、悲しい事に彼女を受け入れたオレルアン公やハーディン。そしてマルス達もニーナの意向に従ってこれまで動いている
となれば、彼女の中には
(私の事を彼等は聞いてくれるのではないか?)
との一種の甘えが芽生えるのも無理のない話なのかも知れない
更にジョルジュやミディアは自分の意に従うと宣誓している
…ならば、と
そして廷臣達も
「ニーナ様のご意向を実現するのが我等の務め(自分達がやるとは言ってない。我
と
仮にドルーア侵攻前の体制ならば
「…恐れながら、ニーナ様
それは余りにもドルーアとの戦闘で命を失った者達に対して不誠実かと」
などと苦言を呈するだろう
しかし、今ニーナの周囲にいる者は自身の栄達しか考えていない
その為、その結果どの様な犠牲が出ようとも、悲劇が起きたとしても気にする事などないのだ
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さて、そんな者が推挙する騎士見習いが本当にマトモであろうか?
勿論、彼等自身はマトモにやっていると豪語するだろう
しかし、悪戯に禄を食むだけの騎士。その様な者の居場所など他国ならば存在しない
グラには余裕がない
マケドニアならば必要ない
グルニアでは登用される事はない
アリティアならば、ジェイガンが許すまい
アカネイアだから、その様な事が許されるのだ
そして、彼等は自分達の予想と裏腹に今まさに
そして、上官はまだ敵を引きつけろ
と言うのだ
冗談ではない
敵はもうすぐそこまで迫っているのに
…故に1人は自分の持ってある槍を投擲した
やらねばやられる
そう思ったから
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「何をしている!」
ミディアがその騎士の軽挙を咎めたが、遅かった
次々と持っている槍を敵に向けて投擲し始めたのだ
手槍と鉄の槍などでは少しばかり、その構造が違う
彼等の装備している鉄の槍を投げたとて、何の効果もありはしない
…だが、彼等には耐えられなかったのだ
一方的に圧力をかけられる
という事が
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「…アカネイア軍は馬鹿の集まりか?」
ドルーア軍の指揮官は突如、パレスを防衛している敵軍の動き
鉄の槍の一斉投擲
を見て、アカネイア軍の指揮官の正気を疑った
マトモな兵士ですら、自分の武器を手放すなどという愚行をする事はない。戦場で武器を失った兵など的でしかないのだから
「…全部隊に伝えろ
敵の動きに惑わされるな
作戦通りに行動せよ」
が、そこで迂闊に動いて要らぬ損害を受けるのも馬鹿な話だ
故に彼は今一度部隊の引き締めを行う事とした
ドルーア帝国軍、などと言っても実際には現在のアカネイアの体制に不満を持っている者達が寄り集まっただけの集団である
明確な指揮系統こそ存在するが、その出身地はバラバラだ
グルニアにおいて、ロレンスやカミュに反発して軍を抜けた者
グラにおいて、ジオルのやり方についていこうと思えずに国を捨てた者
マケドニアにおいて、父殺しをしたミシェイルについて行く気がなかった者
アカネイアにおいて、その余りにも腐敗しきった状況を変えようともしない者達と何も出来ない己に絶望した者
様々な者がアカネイアを滅ぼそうとするドルーアに集った
そして、ドルーアの優勢が明らかとなると勝ち馬に乗るべく兵士達も集まりだし、そこにミロアを殺された事で混乱し、ガーネフに従う事を良しとしたカダインの魔道士達が合流
その結果、今の様な軍組織が作られるに至ったと言える
しかし、ドルーア皇帝メディウスはヒト全てを憎悪している
その為、軍組織などの
メディウスにとって、ドルーア軍などというものは必要ない
彼の元に集まってくる竜人族や未だ封印から目覚めぬ地竜族。そして、未だに力を抑えられている己
それだけで
故にメディウスは使えないと判断したら、それを始末する事に躊躇いはない
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よその大陸に逃げ出した
だが、結果としてその組織内
しかも皇族から裏切り者を出してしまい、結果破れたというではないか
強きものに従う
その摂理も
ヒトを守ろうとしたナーガをも裏切った
そんなものに何の意味があるというのか?
そんな思いがメディウスの奥底にあったのだから
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それ故にドルーア軍は示さねばならない
自分達の価値を
アカネイアを滅ぼす鋒になるだけの力と覚悟がある事を