汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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アカネイアのターン




 断章 アカネイア

ドルーア軍によるパレス攻撃はアカネイア軍とハーディン達の奮戦により、ドルーアとアカネイア両軍に多大な犠牲を出しながらもパレスを防衛しきったアカネイア側に軍配が上がる事となった

 

 

 

「…真の功労者には何ひとつ与えずに、か」

ラングはアカネイアの余りの情けなさにため息しか出なかった

 

 

ラングは見た

 

パレスへと押し寄せていたドルーア軍が突如として、統制を失い

まるで目に見えぬナニカに怯えるかの様に狼狽していたのを

 

 

 

そして、一生忘れまい

 

 

ジョルジュが仕留めきれなかったマムクート達が東へと向かい

そして、その全てが空から落ちた事を

 

その真下にいたドルーア軍が潰されて悲惨な事になっていたが、それよりも何をしたか全くわからぬままにマムクート達は駆逐された

 

 

本来ならば、その者の功績を讃え何らかの報酬を与えねばならない

…にも関わらず、あの光景の意味すら理解しようともしない貴族どもや廷臣共

 

加えて、どうやらミディアはニーナ様をお連れして逃げる事も出来なかったらしい

 

 

 

あの激戦の中、正門を守っていたトムスとミシェランは命を落とし、彼等の指揮下にあった重騎士隊も壊滅状態

にも関わらず、騎士隊の被害は僅か

 

 

自分の率いていた部隊やジョルジュの率いていた弓兵隊も七割を喪失。今後のアカネイア軍の主力となるのは騎士隊になるのだろうが

 

 

「…役に立つまいな」

そもそも、反転攻勢をかけたのはハーディンに率いられた狼騎士団と自分が率いた部隊くらいのもの

騎士隊が動いたのは、本当に残敵掃討戦へと移行した時になってから

 

やれ、頸を幾つ挙げたなどと余りにも低俗な事に喜ぶ連中だ

 

 

ハーディン公は元より、狼騎士団の誰もが白い目で見ていた事にすら気付いていなかっただろう

 

 

 

さらに救えないのが、多くの貴族達は戦闘に間に合わなかったマルス王子達アリティア軍の不手際を声高に責めている事だ

 

ジョルジュとミディアが抑えに回ると言うが、はっきり言ってあの2人で出来る事はないだろうと思う

 

 

ジョルジュはまだ良い

彼は事実、強大なマムクート相手に奮戦したのだから

 

…だが、問題はミディアの方

彼女は結局指揮権を預けられていた騎士隊をまとめる事が出来ず、結果としてトムス、ミシェラン両名と重騎士隊の犠牲を出してしまった

加えて、廷臣達と押し問答をしていたらしく、ラングは自身の近しい貴族から聞いた時には頭を抱えてしまう

 

 

元々余り良く思われていなかった上に今回の事まであったとなると、幾ら自分が彼女を庇ったとしてもかなり難しいだろう

 

騎士隊の指揮権は取り上げられるだろうし、最悪の場合ニーナ王女(現状戴冠の話はない為に未だ現状維持)支持派にとっても良くない影響も出るだろう

 

 

「…せめて、今回の戦いにおける功労者に対する褒賞の話をするのならばまだ良かったのだがな」

廷臣とミディアの確執は既に貴族達の中で噂となっており、ニーナを支持する者達に対して

 

『王女を意のままに操ってアカネイアを手中にしようとしているのではないか?』

との疑いが持たれつつある

 

僅か数日と侮るなかれ

 

 

彼等貴族と言うのは、動く時は全力で政敵を潰すものだ

廷臣の存在を許すのは、慣例だからという事もあるが

 

 

ジョルジュやミディアの考え方を良しとしないが故の事なのだ

 

 

 

----

 

 

 

ラングとて、本心を言えばジョルジュやミディアの事を好ましいとは全く思っていない

 

 

彼等は確かに誇りあるアカネイア貴族として考えれば正しいのだろう

主君であるニーナを護り、その意志を尊重する

 

なるほど、素晴らしいとは思う

 

 

 

 

だが、それと同時に愚かでもあるとラングは思っている

 

正論が常に世を動かすのではない

人は感情によって動く生き物なのだ

 

 

故にこそ、相手に受け入れやすい様に

理解してもらおうとせねばならない

 

 

ジョルジュにせよ、ミディアにせよラングからすればまだ若いのだ

そして、アカネイア貴族の中で2人はまだまだ若い部類になる

 

 

ただ歳を取っているから尊重しろ

などとバカな話をラングとてするつもりはない

 

が、今ニーナ王女に必要なのは彼女を支持する者達なのだ

 

 

まず体制を固めてから、少しずつ膿を出していけば良い

…にも関わらず

 

「老いぼれめ、余計な事を」

ラングは友人から聞いた話を纏めた紙を思わず破り捨てそうになった

 

 

マルス王子、或いはハーディン公とのニーナ王女の婚約

それが俄かにアカネイア貴族の中で支持を集めているらしいのだ

 

 

マルス王子との婚約は不可能だ

それを通したとなれば、間違いなく今進めているタリス王国との関係構築は終わるだろう

加えて、はっきり言えばマルス王子側に何ひとつとして、メリットがない

 

 

長子であるエリス王女にアリティアを継がせるとなれば、グラのジオルめに奪い去られたファルシオン

これの血統が消滅する可能性がある

それに加えて、あの実直で誠実な人物をこんな全く益のない宮廷抗争に巻き込む?

 

恥を知らぬとは正にこの事だろう

 

 

無論、ラングとてマルス王子かハーディン公を受け入れれば劇的にアカネイアの状況が良くなる事くらいは理解している

この話を進めようとしているボアもそうだろうし、賛同している貴族もその筈だ

 

 

…では、ニーナ王女はそれで良いのか?

マルス王子とハーディン公はそれでも良いと言うのだろうか?

 

 

ラングには良い未来が全く見えない

何せ、ラングは一度だけニーナ王女と会った事があるのだが

 

その時ニーナ王女に抱いた感想は

 

 

『いつまでも過去に囚われたままの小娘』だったのだから

 

 

 

ボアの考える方策には前提条件が必要となる

 

それが

ニーナ王女が結婚相手を見るか

というものとなるだろうとラングは予想している

 

 

と、言うよりも貴族間の政略結婚において、大抵この条件は語るまでもない事ではあるのだが

それができる様にラングには思えないのだ

 

(哀れなものだ

いっそ市井の娘として生まれておれば、自由に生きれただろうに)

 

 

その場合、恐らくニーナはこの歳まで生きていないとは思うが

 

そして

(中途半端な騎士道を貫くか、黒騎士よ

…だが、それがグルニアを滅ぼす事になったとしても、貴様は満足するのか?)

とカミュの行動を憐れむ

 

 

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少なくとも、アリティア軍の一員として従軍しドルーアと戦っているミネルバやマリア

王族である2人がいる以上、現国王であるミシェイルを除いた後姉であるミネルバを国王に据える事になるだろう

 

それでアカネイア貴族も納得する

…いや、納得させてみせよう

 

 

だが、グルニアはそうではない

ニーナ王女を助けておきながら、グルニアはドルーア軍の一員としてアリティア軍やオレルアン軍に攻撃を仕掛けている

 

黒騎士と言えども、一個人に過ぎない

確かに主力騎士団はグルニア本国を動いていない様だが、そんな事は何の慰めにもなりはしないのだ

 

 

今の黒騎士はグルニアにも、アカネイアにも利と害を与えている

その様な人物を助命する事はあり得ない

 

 

(理想だけで生きていける程に世界は甘くも優しくもないのだ)

騎士としては高潔な人物なのだろうが、組織の一員としてはこれ以上なく扱いづらいだろう

更に兵達からの支持も高いと聞けば

 

 

 

生かす理由はないのだ

 

 

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ボアは懸命に貴族達を説得していた

 

 

アカネイアを存続させる為にはこれが最良であると信じて

彼の考えは大多数とはいかないものの、賛同者を徐々に増やしつつある

 

 

と言うのも、先のドルーアによるパレスへの再侵攻。これにおいて、ハーディンの活躍が無ければパレスは危うかった

そう言った意見が増えてきた為である

 

 

マルス王子との婚姻を望んでいた者達も、僅かな手勢で駆けつけて戦況をひっくり返したハーディンの功績は認めざるを得ず、アカネイア軍の再建を主導しているジョルジュや口喧しいミディアよりも余程に信用出来ると判断した

 

なお、信用であり信頼でないのがアカネイア貴族らしさを示していると言えるだろう

 

 

ボアとしては、何よりも優先してアカネイアの再建をすべきであると考えており、オレルアンやアリティアの事はあくまでも二の次であった

 

 

 

「…腐った木に水をやり続けるよりも、見切りをつけて新芽から育てた方が良くね?」

と何処ぞの元山賊ならば言いそうではあったが、残念な事にボアは所謂『古い人間』

つまり、急激な変化を好まない保守的な人物である

 

 

 

 

 

 

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後の歴史家達はこう主張する

 

「アカネイアが滅んだのは王族としての役目を放棄したニーナ王女に責任がある

…しかし、王女の婚姻を進めておきながらも双方の心情を一切無視し、隠匿したボアこそが真の大罪人ではないか?」

 

 

アカネイアが滅んだ事により、カダインや教会勢力もまた致命的な被害を受け、双方共にアカネイアの後を追う様に崩壊する事となる

 

 

 

そして、長い時の中で魔法技術や杖による治療法は民間にも広まる事となり、職業を選択する自由が認められる事となった

それに伴い、各職業を管理する組織などから発行される事になる昇級の証(クラスチェンジアイテム)とは別にマスタープルフと呼ばれるものが誕生。更に様々な技能を習得出来るものとして、チェンジプルフが発行される事となった

 

 

 

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貴族の権力闘争とは醜いものである

 

 

だが、これもまた上に立つ者の資質を問う為の試練なのだ

現在でこそ、盛大な足の引っ張り合いとなっているが、本来派閥を纏めてあげる事で組織や個人間の調整能力を身につけさせ、反目し合う事により、常に高い意識を持たせる為のもの

 

だが、ジョルジュやミディアはこれらから目を背け、嫌悪した

 

 

故に貴族達もまたジョルジュやミディアを認める事はない

自分の事を愚かなどと思う人間に誰が協力したいと思うだろうか?

 

ラングはその辺りを心得ているからこそ、ジョルジュには頼りにされるし、貴族達もラングを決して軽く見ない

 

 

人は時に自らを映す鏡となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、安寧は毒となり

それを否定する者達も否応なく飲み込まれていくのだ

 

 

朱に交われば赤くなる

 

 

 

 

国家という歯車は個人の想いなど容易く噛み砕いて回るのだ

 

 

 

 

くる()、くるくると

 

 

 

 

 

 




という訳でごちゃごちゃしてるアカネイア

平常運転ですが



なお、アカネイア貴族を嫌っているジョルジュやミディアも実のところアカネイア貴族の価値観にどっぷり浸かっているので、変化させるのは難しかったりする

汚泥の中で、比較的綺麗な泥と言われても区別がつかないんですよ
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