汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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 意味

世間には様々な二つ名を持つ者がいる

 

 

二つ名を持つ者は畏敬の念を持たれる事が多い

 

 

 

その中にアストリアという人物がいる

 

彼はアカネイア軍の歩兵部隊の長であったが、ドルーア軍がパレスを制圧した際恋人であるミディアを人質に取られてドルーア軍に与する事となってしまう

 

 

個人としては理解できる行為であろう

…だが、間違っても一国の軍組織のしかも要職にある人物がして良い行動ではない

 

 

故に彼の帰参はアカネイア軍関係者やアカネイア貴族から白い目で見られる事となる

 

 

 

 

 

 

 

 

「…戻ったのか、アストリア」

 

「ああ。すまないと思っている

…パレス解放の話を聞いたので駆けつけたのだが」

アストリアは親友であるジョルジュの元を訪れていた

 

「先の戦闘の話を聞いた

大活躍だったと」

 

「冗談はよせ

所詮俺のした事は他人の戦功を掠め取っただけに過ぎない」

アストリアの言葉にジョルジュはその端正な顔を顰めて、ため息と共に漏らした

 

 

 

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「ジョルジュ殿!お見事にございましたな

卿の働きによりドルーア軍は混乱。更にマムクート等も討ち取れました。流石は『大陸一の弓使い』」

 

ジョルジュは貴族としての立場を上げる事になったが、それにより彼の嫌う連中との関わりも増える事となってしまう

 

 

加えて

 

「おお!『竜殺し』殿ではありませんか!

いや、先の戦闘では獅子奮迅の働きを見せたとか」

などと明らかに此方の機嫌を取ろうとする者が増えている

 

 

 

 

 

「…確かにニーナ様の為を

アカネイアのこれからを思えば必要なのかも知れないが………どうにもな」

ニーナを支持するジョルジュの功績が増せばアカネイア内における発言力や影響力が増えるのは間違いない

何せ、ニーナをジョルジュと同じく支えようとしているミディア。彼女は日頃の態度や行ないなどから協力者が得られる状況にないのだ

 

ラングとは出来る限り会わない方が良い。彼は公的な立場で言えばジョルジュ達と貴族達双方に意見が出来、仲裁出来る数少ない人物となっているからだ

 

 

ボア司祭と話をする機会もあったのだが

 

 

「良くなかったのか?」

 

「…必要ならば致し方ない、だそうだ」

アストリアの言葉にジョルジュは拳を握りしめた

 

 

 

 

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そもそも、ジョルジュとミディア

そしてボア司祭では重視している所が違うのだ

 

 

ジョルジュとミディアはニーナを中心とした新体制を

ボアはアカネイア王国の再建を

 

それぞれ考えて動いている

 

 

ボアはニーナを中心とする体制では国内が定まらないと見ており、アカネイアを安定させる為の手段として、現在ハーディンの取り込みを行うべくハーディンの兄であるオレルアン公や国内貴族の意見をまとめようとしていた

 

改革はせねばならぬとしても、王家が断絶しては意味がない

また、王家の影響力が弱まるのも好ましいものとは言えない

 

 

 

ボアは司祭であり、司祭とは大陸全土にある教会の勢力拡大やその維持をも行なう役職

彼の場合は、アカネイアにおける儀礼などを取り仕切る立場でもあり、カダインの出身ながら魔道士としてよりもアカネイア国政に深く関わる事の出来る立場でもあった

 

 

故にこそ、彼はアカネイア王国の再建(維持)にこそ心を砕く。その一方でニーナに対する情よりも、ハーディンに対する配慮よりも体制維持の為の努力を行わねばならない

 

 

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ボアの所属する教会勢力としても、自分達教会を蔑ろにするニーナやそもそも文化的な相違から期待出来るとも思えないハーディン

正直どちらも庇護者としては不適格と見ていた

 

…だが、2人の間に子が出来るとなれば、大陸の医療体制の殆どを占有している教会やボアに対して声が掛からないと言うのは考えにくい

そこで、2人の子供

つまり、御子の出産に対して貢献出来る

 

その事実を以て、教会勢力の更なる向上を狙っている訳だ

 

 

 

そもそも、各国の姫や有力者の息女に対して教会は彼女達への指導という形で影響力を持つ事が寧ろ基本なのだ

 

 

マケドニアならば、第二王女であるマリア姫

マケドニアの有力者の娘であるレナ

 

グルニアにおいては、まだ年若いユミナ王女

と言う具合に

 

 

勿論、ドルーア侵攻前にはアカネイアの姫や有力者の各所にもその様な働きかけをしていた。…しかし、現在のアカネイアを取り巻く情勢ではどうしても癒し手よりも戦う力を欲してしまうのではないか?

との懸念がある

 

事実、アカネイア貴族の息女であるミディアは騎士としての道を選び

現在唯一のアカネイア王族であるニーナも教会との繋がりは希薄

 

 

更にアリティアでもエリス王女は魔道士としての道を選び、グラに至っては何を血迷ったのか重騎士としての道を選ぶ始末

 

タリスは蛮族の国であるからして、仕方ないと割り切っているが

 

 

これでは大陸における教会勢力が減退してしまう

そんな危機感が教会上層部にあり、それ故のボアに対する働きかけなのだ

 

 

 

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事実上の蟄居をせざるを得なくなったジョルジュとの話を終えたアストリアは恋人であるミディアの元を訪ねる事にした

 

彼としても、ミディアの元へといの一番に駆けつけたかったのだが、アカネイアという国の事情がそれを許さない

 

 

アカネイアにおいて、若くしてしかも女性でありながら『聖騎士』の叙勲を受けたのはミディアが初とされている

それは長い歴史を持つアカネイアの前例主義と相反する事であり、それ故に彼女に対する反発は決して小さなものではない

 

それ故に恋人の足を引っ張らぬ様にアストリアも努めていたのだが、それもドルーア侵攻によって無茶苦茶になってしまった

 

 

せめてもの抵抗として、アカネイアに対する直接の敵対は避けられたもののアストリアに対するアカネイア軍の者や貴族などからの視線は冷たいものとなってしまう

 

この状況でミディアに会うべきなのか、アストリアには判断がつかなかった

その為、アストリアは親友であるジョルジュの元を先に訪れた訳なのだが、それにより知った事は彼の心を掻き乱すには充分なものだった

 

 

 

 

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「ミディア!」

 

「アストリア?

…ああ、アストリア!生きていたのね」

 

ミディアの私室でアストリアは恋人との再会を無事果たす

 

 

 

 

暫しの抱擁の後、ミディアとアストリアはそれぞれ話をする事となった

 

 

「…そうか。マルス王子達が」

 

「ええ。これからはニーナ様の元でアカネイアを再建しなければならないと私達は思っているわ

……でも」

ミディアの表情が曇る

 

「そうか

俺も何か出来ると思う

ミディア、一緒にやれば何とかなるはずだ」

 

「…そうね

ありがとう、アストリア」

恋人の励ましにミディアはぎこちない笑みを浮かべた

 

 

 

 

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「…アストリア殿が?

………ならば、兵達も勇者と名高いアストリア殿の下で戦う方が良いだろうな」

アストリアの帰参を受けて、ラングは歩兵隊の指揮官の地位を返上。後任にアストリアを指名する事となる

 

 

 

アストリアも

ラングも理解していなかった

 

 

兵士達にとって、ドルーアのあの猛攻にあって負傷しながらも戦線を維持し続けたラングへの信頼が高まっていた事を

そして

パレスが解放されて今の今まで戻って来なかったアストリアに対する不満と不信感が兵士達の中にあった事を

 

 

 

アストリアがドルーア侵攻の際に率いていた兵士達

その悉くは戦死しており、アストリアは自身の技量故に生き残る事が出来た

 

 

実力者であるジョルジュやミディア達からすれば生き残ったアストリアの実力を称賛する事はあれど、それを否定する事はない

 

 

 

 

…しかし、兵士達にとって求める指揮官とは優秀であって(戦果を挙げられたとして)も、犠牲を多く出す者ではない

堅実に戦い、自分達を生かしてくれる指揮官こそが彼等の求める理想の指揮官なのだ

 

故に被害こそ出たが、兵士達を悪戯に消耗させなかったラングと

部下達を失って、今になって戻ってきたアストリア

 

 

どちらを支持するかなど言うまでもなかったのだ

 

 

更にミディアの事を好ましく思わない貴族達は手を打った

アストリアがミディアの恋人である

 

その事をさり気なく兵士達の中に噂として流したのだ

 

 

これは紛れもない事実であるが為に否定する事は叶わない

そして人は想像する生き物だ

 

何故あの激戦の中、パレスを守り切るという確かな功績を示したラングが退き、その後任にアストリアがなったのか?

ミディアは現在のアカネイア軍における唯一の聖騎士、パラディンであり、元とは言え騎士隊を束ねていた者。そして貴族の1人

 

断片的な情報と

彼等の中にあるラングへの信頼(アストリアへの不信感)

 

それ等が彼等の中で1つの結論を導き出す

 

 

騎士隊の指揮官を追われたミディアが、自身の恋人を自分達の指揮官の地位に置いた

というものを

 

 

そして、帰参したアストリアはミディアと共にニーナを支えるべく奮闘する

これは彼等の想像を補強する材料となってしまったのだ

 

 

結果、多くの兵がアカネイア軍から去る事を選び

彼等は自分達の故郷に戻った

 

 

 

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グルニアではアカネイア軍に対してどの様にあたるべきか

その議論が行われていた

 

幸い人的被害は最小限に留められたとするカミュやロレンス

それに対して、アカネイア軍による略奪が侵攻ルートの街などで起きている事を文官達は問題視

 

 

騎士や兵士は死ぬ事もまたあり得るもの

だが、日々を必死に生きる領民はそうではない。彼等はある意味で、そこに縛られて生きているのだ

 

 

アカネイア軍は主要街道を王都に向けて進軍している

突然の事であった為に各地の砦などに駐留している部隊で勝てる訳ではない事くらい文官達とて理解しているが

 

 

「早々にアカネイア軍を倒さねば、領民の心はグルニアから離れてしまう」

 

「…確かにそうかも知れぬ」

 

「………では、騎士団を率いてアカネイア軍を撃破する

その様に」

文官達の言葉にロレンスとカミュは渋い顔をしながらも、グルニア軍を動かす事としたのである

 

 

 

 

ロレンスやカミュとしては、今回の侵攻を奇貨として王都付近まで攻め込ませてその事実を以てアカネイアとの戦争を終わらせる。そんな国王の意思を優先すべきと考えていた

 

その為、兵力は温存し(きた)るべきドルーアとの戦争に備えるべきと考えていたのだが

 

 

「…まさか、街を襲うとは」

 

「……うむ」

カミュやロレンスからすれば、アカネイア遠征軍の乱行は理解出来ぬものであった

 

 

 

しかし、アカネイア側としてはグルニアを討伐するとしても、その国力を出来る限り削ぎ落とし、軍事力と共に経済力なども下げる必要があった。…そうして初めてアカネイアはグルニアを支配できる

 

 

…などと考えた訳ではない

 

単純に血の気の多い連中や、戦功目的で参加した者達の暴走を遠征軍指揮官は良しとしたのだ

彼等は元々アカネイア貴族やその一門などである

 

 

今回のドルーア侵攻によるパレス陥落以降、彼等は困窮した生活(彼等視点)を送らねばならなかった

その元凶の1つであるグルニアに対して憎悪を抱いていたという訳だ

 

そして、グルニア軍との戦闘が行なわれなかった事で略奪という形で発揮される事となった

それだけの事

 

 

 

 

しかし、彼等アカネイア軍は弱者を甚振る事は出来たとしても、強者と戦える程に強くも賢くもない

その事を彼等はグルニア軍との戦闘で理解する事となった

 

 

 

 

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カミュ率いるグルニア軍はアカネイアグルニア遠征軍と戦闘を行なう事となった

 

練度、士気

そして指揮官の技量

その全てにおいて、グルニアはアカネイアを圧倒しており、グルニア指揮官カミュをして余りにも脆いアカネイア軍に不穏なものを感じる程

 

 

元よりアカネイア側の指揮官は本来、騎士として正式な手順で受勲した訳ではなく、貴族達の都合により押し通された人物

つまり、騎士としての技量や精神性に達していないと見られていた者

 

そして、彼に従う騎士隊はパレス防衛戦において、ミディア(上官)の指示を無視して行動し、挟撃にも参加する事なく掃討戦に移行してから参戦する程度の者達

更に追加派兵された者達に至っては、貴族達が自身の影響力強化を目論んで遠征軍にねじ込んだ者

 

 

マトモな戦闘どころか、軍としての行動すら覚束ない者達

 

 

 

 

カミュはその名声や実績などから黒騎士と呼ばれている

大陸全体を見渡したとしても、彼レベルの指揮官は中々居ない

そう断言出来る

 

だが、これから彼が戦う相手が異質である事を知らなかった

 

 

 

 

 

 

それは不幸であったのだろう

 

 

 

 

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「敵陣を一気に突破

敵の指揮能力を奪い、その後に各個撃破

行くぞ!」

カミュの号令と共に大陸にその名を轟かせるグルニア騎士団は動き始めた

 

カミュの信頼するベルフ、ライデン、ロベルトに各部隊の統率を任せ、カミュは全軍の指揮と敵陣を食い破る(きっさき)となり、アカネイア軍を突き崩さんとする

 

 

その威力は凄まじく、アカネイア遠征軍は瞬く間に本陣を攻撃され、総指揮官である騎士隊長は討ち取られた

 

これにより、アカネイア軍は組織だった抵抗が出来なくなりグルニア軍全軍による掃討戦へと移行する

それがカミュの立てた戦略であり、グルニア軍の戦術の基本とも言える

 

 

…ところが、アカネイア軍はカミュ達の思いもよらぬ方法で抵抗してくる事となる

 

 

 

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「馬鹿な!」

グルニア騎士ベルフは敵のやり方に驚愕した

 

 

アカネイア軍は重傷を負っている味方を盾にして抵抗して来たのだ

 

「お前達に誇りはないのか!」

ベルフはそう言って敵を突き殺した

 

 

「…なんだ、これは」

騎士同士の戦闘の筈なのに、言い表せない不快さだけが彼の中に残り続ける事となる

 

 

 

同じ様な光景は戦場の各所で見られ、グルニア軍の将兵達はあまりのやり方に閉口した

 

 

 

捕虜となったのは僅か数名

 

それ以外は全て殺すしかなかった

 

 

 

「…全軍、王都に帰還するぞ」

そう告げるカミュの言葉にも普段の様な力強さは見られない

 

 

 

 

何かがおかしい

 

 

そう彼の中で何かが叫んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正義と悪

 

そう良く物語では描かれるものだ

 

 

しかし、皆それぞれが信念や思惑、願いなどを持って道を歩む

後の世において、色分けはなされるだろう

 

 

 

しかし、その時代を生きる者達は正しいと信じて進むしかないのだ

 

 

それがどれだけ愚かだとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




それぞれの正義

故に人は殺し合い
時に手を取り合う

ifルート(18禁バージョン)いる?それだけ独立して投稿するものとする

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