汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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 突きつけられる刃

死が降ってきた

 

 

そう後に評される事となるマケドニア軍による無差別攻撃

全てが対象に当たる訳ではないし、高高度から落下すれば風などの影響で逸れるものもあろう

 

 

 

 

だが、その死の雨は退避中のマルス達に死を齎した

 

 

 

 

 

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「…兄、さん?」

 

「ぶ、じか

レナ」

マケドニアの騎士マチスは近くにいた妹レナを庇った

 

自分の居場所はマケドニアになく、両親も死んでいるだろう

…なら、せめて妹だけでも

 

そう思った

 

 

 

…いや、そんな小難しい事なんて考えなかった

ただ妹には生きて欲しかったのだ

 

 

「マチス兄さん!

すぐに回復を」

 

錯乱する妹に

 

「無理、だ

体を貫通して、いるから、な

…いいか、レナ。お前は、マケドニアから離れて暮らせ

もう、お前の生きる、場所は、ないから」

マチスは最期の力を振り絞り、告げる

 

「あの、盗賊に

お前を任せるのは、あまり気が進まない

…レナ、生きろ」

そう言ってマチスは事きれた

 

 

マチスが

 

 

 

「…悪い、しくじった」

シーダを守る為にその身を盾にしたサジが

 

 

 

 

「シーザ!」

 

「…ラディ

気をつけろ。奴等は本気だ

本気で、殺しにきている」

 

シーザが

 

 

 

命を落とした

 

 

 

 

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「…なに、が」

マルスは目の前の現実を受け入れられなかった

 

誇りも何もない

殺し合い

 

ゴードンやカシムが必死で矢を射っているが、まるで届かない

 

「マルス殿!すぐに後退せねば第二波がある!

呆けている場合ではない!」

ハーディンの言葉に

 

「…あ、ああ

そうだね。急ぎ撤退しよう」

そう何とか心を落ち着かせてマルス達は戦場を後にした

 

 

 

 

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「ぐぅっ!」

ミネルバは孤軍奮闘していたが、マケドニアのルーメルは厳命していた

 

少しでも手傷を負ったものは下がれ

 

故に彼女は常に万全の竜騎士を相手にせねばならない

 

 

「お前達は、それで良いのか!」

眼下に見える凄惨な光景にミネルバは語気を荒げる

 

ミネルバの元に現れたルーメルは彼女の激昂を鼻で笑い

「何を言われるかと思えば

マケドニアを此処まで追い詰めたのは他ならぬ貴女でしょうに」

と冷たく告げると

 

「撤退せよ

これ以上の戦闘に意味はない」

そう部隊を引き上げさせたのだ

 

 

「」

満身創痍のミネルバに彼等を追うだけの余力は残されていなかった

 

「っ!」

ミネルバは唇を噛み締めるとカチュアと共にマルス達の元へと向かう

 

 

その心に大き過ぎる無力感を抱えたまま

 

 

 

 

 

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死者3名

 

マルス達が撤退を始めていた事と

そもそもルーメルが本気で殺しに来ていなかったが故の損害であった

 

 

しかし、今まで彼等の中に死者を出していなかった事

更に民衆から憎悪を向けられ、おおよそ騎士らしからぬ戦い方をされたショックはかなりのものであった

 

 

…特に祖父に騎士としての在り方を教わり、それを愚直なまでに目指していたクリスにとっては

 

 

 

 

「撤退すべきだろうな

戦争にならぬ」

 

「…そう、ですな」

流石のハーディンとジェイガンもあの様な手段を取られては何も出来ない

 

「私達だけでは手が足りない

…すまない」

ミネルバは頭を下げる

 

「頭を上げて欲しい

2人の言う通り、一度態勢を立て直さないと無理だろう

…ミディア。それで構わないだろうか?」

 

「…そうですね」

マルスの言葉にミディアは言葉少なく応えた

何せミディアの実戦経験は無いに等しい

 

せいぜいが領内の山賊退治とマルス達のパレス解放戦くらいだろう

 

 

そして、先のアレはあまりにも異様に過ぎた

 

 

「…流石に無理か」

 

「貴殿は確か元傭兵だったと聞く

ならばこそ、退き際は間違えてはならない事くらい理解していると思うのだが」

アストリアの呟きにオグマは釘を刺す

 

 

そもそも今回のマケドニア侵攻はマルスにとって本意では無い上に、マトモな準備期間すら与えられないまま行なわれた作戦なのだ

 

姉エリスと新たに加わったアランらを残してきたが、ドルーアによる再度の侵攻が無いとは言い切れない

更に言えば、本来陸続きである筈のグルニアから攻略すべきであるにもかかわらず、マケドニア攻めを強行し

結果仲間の命を失ったのだ

 

 

ニーナの要請であったとしても、流石にこれは我慢出来かねる

 

と言うのが、アリティア軍の者達の心情だろう

 

 

 

こうして、マルス達は残酷で悲しい現実だけを突きつけられたまま撤退する事となる

 

不思議な事に追撃の類は一切なかった

これがジェイガンやハーディンの心を掻き乱す事となる

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「…陛下、アリティア軍は撤退した様です」

 

「ふん

アカネイアの走狗に成り下がったか

哀れな事だ。…ドルーアが再度アリティアへの侵攻を企図しないとでも思っているのか?」

そうミシェイルは薄く笑う

ドルーアの目的はかつて愚かな女に利用された男の血筋を絶やす事

アリティアから撤退したのは、その血を残すマルスとエリスの母親を殺したからだ

 

…そして、今アリティアにはエリスがいる

 

 

これがドルーア側に知られれば、どうなるかなど分かりきっている

 

 

「申し訳ありません

ミネルバ様を討ち取る事叶いませんでした」

 

「構わん

アレもそれなりには戦えるからな

アレを討ち取ろうとして、兵を失う方が問題よ」

 

 

ミシェイルは考えを改めた

アレらはもう妹ではない

 

 

我等の敵(マケドニアを滅ぼそうとする者)なのだと

 

 

心が軋みを上げようとも

幼き頃の情景が訴えようとも

己の名誉が失なわれ様とも

 

 

自分はマケドニアの為に生きて、そして死ぬ

それしか出来ぬのだ

 

 

 

 

----

 

 

 

ミシェイルの前を辞したルーメルは己の不甲斐なさに怒りでどうにかなりそうだった

 

 

アリティア軍によるマケドニア侵攻

 

その報が齎されて以降、陛下は一度としてミネルバとマリアの名前を口にしなくなった

まだ年若い陛下だ

 

不器用なところがあるとしても、家族を思う心はある

 

 

 

…でなければ、妹であるミネルバ配下の騎士団である白騎士団など作る必要はないだろう

 

残された白騎士団の者達もマケドニアに居場所が無くなりつつある

ルーメルとリュッケは何とかして、彼女達を守ろうとしている。しかしトップであるミネルバに彼女の直属の部下であるパオラ、カチュア、エストの3名までもが敵に走ったのだ

 

マリアを人質にした事への怒りや憤りもある

…しかし、それ以上に全てを裏切ったミネルバ達への憎悪は兵士だけではなく、民の中にも広まっていた

 

 

…ミシェイル様からの話を蹴った上に、その為にオレルアン攻略に嫡子を送り出した家もまた祖国への度重なる裏切りの罪悪感から命を絶っている

 

 

身分を捨て、国を捨て、民から恨まれてまで何をしたいのかルーメルやリュッケには分からない

 

 

アリティアを見れば分かるではないか

アカネイアは他者を都合よく使う事しか考えていない

 

 

そして、パレス奪還の最大の功労者である筈のアリティアですらあの扱いなのだ

一度敵対したマケドニアが好遇されるとでも思っているのか?

 

 

 

「…陛下のお心をこれ以上傷つける訳にはいかぬ」

 

「これで侵攻を諦めれば良し

そうでなければ」

 

ルーメルとリュッケは覚悟を決めた

先の戦闘は最終通告だ

 

 

必ず討たねばならぬ

どれだけ陛下から恨まれたとしても

 

 

マケドニアの明日に陛下は必要なのだから

 

 

 

 

----

 

 

 

 

 

「何をやっておるか!」

 

「…じゃが、ハーディン公を受け入れねば」

 

「受け入れたとしても、大多数の貴族や有力者は内心納得するまいが!貴様とてそうであろうが、あの小娘や小僧すらも認めはすまい

挙句、アストリアにもいらぬ事を吹き込んだ!」

アカネイアではラングがボアを呼び出し、感情を爆発させていた

 

ボアのした事はニーナとハーディンの事まではギリギリ許せる事だろうが、アストリアを示唆したのは明らかな越権行為

 

ラングの元に多くの貴族達が訪れていた

彼等は口を揃えてラングに問う

 

「ニーナ様で本当に大丈夫なのか?」

 

 

「貴様のやっている事はニーナ様への裏切りであり、アカネイアに対する裏切りだ

アドリア伯として教会に伝える

…我が所領にある教会は早急に撤去させてもらう」

 

「なっ!」

 

「私だけではないぞ?

ディール侯爵やミニディ侯爵も同じ沙汰を言い渡すだろう」

ラングの言葉にボアは顔色を蒼白にする

 

 

何せ現在のアカネイア貴族の中でディール、ミニディ両侯爵は大きな影響力を持つ

更に甚だ不本意ではあるが、ラングは軍の有力者として貴族達から注目を集めている

 

その三者が挙って自領から教会を除くとなれば、他の貴族達も同じ様な行動に出るのは分かりきった話

 

 

そしてそれはアカネイア国内における教会勢力の低下を意味する

…そうなれば、ボアとて今の立場に居られる訳がない

 

 

今までボアの行動がある程度の賛同を集めていたのは、彼の主張が正しいのではない

彼がアカネイアにおいて確かな影響(実行)力を持っているから

なのだ

 

 

「…話はそれだけよ」

 

「ま、待たれよ」

 

「私は貴殿ほど暇ではないのでな

司祭殿はお帰りだ」

ラングの言葉に彼の従者はボアを引き摺り出した

 

 

 

 

「…余計な真似をしおって」

恐らく老人の影響力を完全に取り除くのは不可能だろう

どうやら、ハーディン公には貧乏籤を引かさねばならない

 

 

…ならば、自分もアカネイア貴族としての役目を果たさねばならない

 

 

ラングはそう心に決めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日の為に()を殺した男がいた

明日の為に兄を止めようとした女がいた

心を痛める少女がいた

 

 

豊かな祖国を

 

目指す明日は同じなのに

 

 

その道は交わる事はない

 

 

 

 

 

だが、これすらも大陸ではありふれた悲劇

 

 

時代の歯車は軋みを上げながら回り続ける

多くの血を潤滑油として

 

 

 

 

 

 

ifルート(18禁バージョン)いる?それだけ独立して投稿するものとする

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