汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
しかしそこは竜族達の聖地であり、ヒトを拒む竜人族が守っていた
マルス達は歴史に隠された真実を知る事となる
『そも汝等の言うところのアカネイア
アレの成立について理解しておるとは思えぬが』
「…アカネイア聖王国初代国王アドラ一世は神竜族の長であるナーガより託宣を受けたと聞いているが」
ハーディンは首を捻る
その言い方ではまるで
『ナーガ様や我等をあの愚か者と同じと思うてか
我等はヒトの世に干渉する事を是としておらぬ。…我等はもうヒトに何も期待しておらぬのだからな』
マルス達を見据える竜の瞳には冷たい色しか見えなかった
『汝等の言う建国王アドラ一世は薄汚い盗賊よ
ヒトと竜の共存を願っていた若き頃のメディウスを騙し、このラーマン神殿に納められていたパルティア、メリクル、グラディウス
そして、汝の持つファイアーエムブレムを持ち去ったのだ』
その言葉にマルス達は息を呑んだ
無理もないだろう
マルス達にとってアドラ一世は英雄であり、アカネイア聖王国を作り上げ、ナーガにそれを認められた人物
ところが、そうでないばかりか
「…騙した、とは」
マルスは震える声で訊ねる
今までマルス達はメディウスをヒトの世を滅ぼそうとする極悪非道の竜としか思っていなかった
…なのに
『言葉の通りよ
汝等が知らぬも無理はないが、遥か古にあってあの者はナーガや神竜族と共にヒトを守らんと地竜族と戦ったのだぞ?
そしてナーガ亡き後、あの者はナーガの遺志に従いこのラーマン神殿を守っておった』
『あれはの』
皆が息を呑む
『ナーガの遺志に従っておったメディウスとその部下達を殺し尽くしたのじゃ』
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痛い程の静寂がマルス達を包む
『そしてあろう事か封印の盾に嵌め込まれていた宝玉をあの盗賊は売り払い、パルティア、メリクル、グラディウスをもってアカネイア聖王国を建国したのだ
メディウスは怒り狂った。無理もなかろう
己の
ナーガの
そして数多くの同胞の願いを踏み躙ったのだ
…故にメディウスは封印の緩んだ地竜達と共にドルーア帝国を建国。聖王国を滅ぼした』
ただ竜の淡々とした言葉だけが響き渡る
…しかし、その事務的な語り口が逆にかの竜の怒りの深さを示している様で
「…その様な事があったとは」
『我等は強者に対して敬意を払う
強者の糧となれるならば、我等の命にも意味があった
そう思えよう。だが、真実から目を背け他者を騙し踏み付けるなどと言う事を許すつもりはない
汝等は我等をマムクートと呼ぶであろう?我等は誇り高き、古よりこの大地にある竜よ
我等を竜人族と呼ぶ者なぞ最早おるまい』
驚きの声を上げるハーディンに竜は言葉をつむぐだけ
それは会話をしている様でしていない
『聖王国には生き残りがいた
アルテミスだったか?
そしてそれは当時まだ開拓国でしかなかったアリティアへ逃れた
当時からアリティアはアカネイアに対して従順であり、アルテミスを引き渡す様に迫ったドルーアの要求を跳ね除け抵抗を続けた
しかしそれはメディウス等の更なる怒りを招くだけとなった訳だ。アリティアにドルーアが集中している間にアカネイアにおいてカルタス率いる抵抗勢力が決起、ドルーア帝国は2カ所で戦線を形成する事となった
そしてあの愚か者はアリティアのアンリという若者に試練を課し、それを乗り越えた証としてファルシオンを与えた
…そう、我らが王たるナーガの牙より創られしファルシオンを』
そこには静かな怒りが含まれていると誰もが思った
『奴は何もしなかった!
我等が聖地を盗賊如きに踏み荒らされても!
その報復にメディウス達が動いた時も!
我等が同胞が不当にマムクートなどと差別され、迫害された時すらも!』
その怒りは大地をも揺るがす
『奴がやった事と言えば、試練とやらの後にナーガ様の力を我がもの顔で何も知らぬ小僧に渡しただけではないか!
何が『白き賢者』か!何が『大賢者』か!
あれほどまでにナーガ様のご遺志を無視し、ヒトの世を乱したものは居らぬわ!』
「…神竜ナーガの牙」
それはマルスにとって、衝撃的な事実であった
自分達が持っていた物が大罪の証であるなど、誰が予想出来ようか?
マルスは聞かねばならない
アリティアの者として
アカネイアに味方する者として
「ファルシオンやファイアーエムブレム
これ等を直ぐにお返しする事は申し訳ないとは思うのですが、できません」
マルスの言葉に
『元より期待もしておらぬよ、マルス
我等はこの地を守り、ただ時が過ぎるのを待つだけ
アカネイアとて、もう長くはあるまいて』
それは変わりゆく時代を見てきた彼等だからこそ、至る事の出来る見地
『最早パルティアやメリクル、グラディウスを使うに値する者はおるまい。あれ等にも意思がある
使い手に相応しくない者には災いを
相応しき者には力と栄誉を齎す
我等には聞こえる。パルティアとグラディウスの嘆きが』
そう竜は遠くを見つめる
『…去るが良い
我等はもう二度とこの地をヒトに荒らされる事を望まぬ
それはあのメディウスとて同じ事
あの愚かにして老いぼれにマフーの対策はさせれば良い』
穏やかな瞳でマルスを見つめる
『己が失敗の後始末すら他者に押し付ける
その様な者を主等は恥知らずと言おう?
我等は知らぬとは言え、恥知らずの走狗にかける情けも温情もない』
それは完全な拒絶
穏やかな雰囲気と口調のそれは余りにも、重い
因みに神殿内において魔法の行使が出来ない結界を張り巡らせており、例え転移魔法で入れたとしても出る事は叶わない
…厳密には出る事は出来るだろう
魔法抜きで、古のヒトを守らんとしたナーガとメディウスが共闘したあの時代を生きた古強者に勝てると言うならば
そして、彼等はラーマン神殿に無断で立ち入る者に対して慈悲も容赦もない
此処に入るのが許されるのはただ1人
ナーガの忘れ形見のみなのだから
マルス達は一度引き下がる以外になかった
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マルス達がラーマン神殿にて秘された真実を知ってしまった頃、ガトーもまた窮地に陥っていた
「…ぐっ」
ガトーは自身の腹部から出る出血を抑えながら逃走していた
『愚かな
貴様如きの考えが読めぬ我等と思うてか』
バジリスクは嗤う
『しかし、我等が思う以上に貴様は腐っておったらしい
…無理もあるまいな
力を封じ穏やかに暮らす竜人族。我等の様に本能を抑えながら過ごす者達。本能のままに暴れ回り、我等によって狩られた者達
…だが、貴様はそうではない
貴様は高みからヒトを見下しながら、ヒトの世の乱れを放置する
ナーガの姫を手中にしながらも育てようともせず、ただ愚かにも封印するだけ』
逃げ回るガトーを追い詰めながら言葉の刃で切り刻む
『…死ね
貴様の存在は我等の恥であり、ヒトの世を乱すだけのものなのだ』
そしてモーゼスはそう冷酷に告げる
更に
『しかし、貴様もとんだ下衆よな、ガトー
…まさか代わりまで用意しておったとは』
「っ!」
モーゼスの言葉に動揺したのか、ガトーの回避が僅かに遅れてしまう
ザシュ
「…が、はっ」
竜の爪がガトーの身体を容赦なく切り裂く
転移魔法を使おうにも絶え間ない攻撃とモーゼスの言葉はガトーから集中力を奪い去る
竜族の中で最も知に長けた者達であり、それ故にガトーの施した術を解除出来る可能性の高い魔竜を統べる者
あり得ないとはガトーも断じる事が出来ない
ガトーはその身を山の中に隠す
血の匂いをさせたまま
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「っと、本当にこんなところに村があるのか」
赤い髪の奇妙な髪飾りをした人物は村を遠目に捉えた
…だが、彼の本能が警告を発する
あそこには近づくな
と
「…別に姫様が元気にやっているならそれで良いんだけどなぁ」
「そうなの?」
「いや、俺としてはあのおっさんにいつまでも使われるのも何だが嫌なんだけど」
「…そう」
…あれ?俺誰と話を
そうその人物が思った時にはもう遅かった
「…動かないで」
「動けば」
「その命の灯火を消さにゃならんかもな?」
(マジか)
チェイニーは動揺する内心を必死で押し殺していた
何せ
普通の村娘の様な格好をしたチキ
金髪と薄紫色の髪をした少女
何よりも
黒髪の男を認識した瞬間、チェイニーは冷や汗が止まらなくなっていたのだから
「…ウチの娘に何か用があるらしいな」
嫌な雰囲気を纏う斧を持ったまま、男はチェイニーに問う
「私に用はないけどね」
(…まずったなぁ)
チキの自分に対する目を見たチェイニーは内心頭を抱える事となる
詳しい事はもう少し後の回で
小説は
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