汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
クライネはアスク王国というところに召喚されて戸惑いよりも失望の方が強かった
『歴史とは
それで良いのさ』
父と慕い、その最期を看取る事が出来なかった最愛の師
エレミヤの呪縛から逃れられた自分達2人は厳しくも優しく
強くも弱い人達に支えられて生きてきた
色々な事情があり、地竜族や闇の蛮族との戦いに駆り出される事となって妹カタリナやチキに母と慕うリンダさんと師であり父と密かに慕うゲレタさんと共に戦った
…ところが、自分や妹
チキやリンダさんの武功は後世にまで語り継がれたのに、師ゲレタのそれは伝えられる事はなかった
マルス王はアカネイア連合王国の王となる前、アリティア王としての最後の役目として師の功を讃えたというのに
その上、私達は速やかな復興の為に各地で逃げ出した地竜族や蛮族達を討伐していた
大陸各地で私達の奮闘ぶりは密かに語り継がれたのに
仕官の話や養子縁組の話
はては縁談まで私や妹にはマルス王にあったとクリス達から聞いた
…でも、興味なんてなかった
幾らマルス王が清廉潔白であろうとしても、その下が腐っていてはどうにもならない
それはアカネイアのハーディン皇帝とラング伯の事からもよく分かるのだから
どうにも私達の辿った歴史と此処にいるマルス王達の辿った歴史は少し違うらしい
私を見るパオラさんの視線からそれは良く分かった
それにしても
「自国の窮地だからと言って全く縁もゆかりもない人達を戦わせようとするのはどうなの?」
「そんなものでしょう、クライネ」
私の言葉にチキはさもどうでも良さそうに答えた
「父様はいつも言っていたわ
「生活が安定するから人は他者を思いやれる」って」
「「余裕が無くなれば人は容易く獣に堕ちる」とも言っていたわね」
戦乱の勝敗に関わらず、市民生活は確実に悪影響を受ける
誇りや名誉の戦い
だとか、未来の為に
なんて言われても、未来は今があるからこそ語れるものであって、余裕のない者達にとって、明日の事よりも今日の食事の方が大切なのだ
その辺の感覚が希薄なもののなんと多い事か
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マルス王子
…いえ、マルス王が後世において比類なき名君と言われている理由は確かにあの人徳などもあるのは誰もが認めるところでしょう
暗黒戦争ではニーナ王女を奉じてアカネイアを解放
更に祖国アリティアをも取り戻し、グルニアを打倒。マケドニアとの決戦においても当時のマケドニア王ミシェイルを倒しました
英雄戦争においても闇に堕ちたアカネイアの皇帝ハーディンを倒し、闇のオーブにより再び世に戻ったガーネフと復活したメディウスをも倒した
…しかし、マルス王の治世が安定したものとなったのは暗黒皇帝と呼ばれたハーディン公やグルニアにおいて苛政を行なったとされるアドリア伯による徹底した反体制派の弾圧があったから
その事を他ならぬマルス王やシーダ様達は知っていました
旧マケドニアにおいては、ミネルバ王女による体制が暗黒戦争の後に成立しましたが酷いものだったと聞きます
民が求めるのは戦争の勝利ではない
自分達の生活が守られる事
その点で言えば、このアスク王国はかなり難しい舵取りをしていると言わざるを得ないと感じる
何せ、本来ならば部外者である筈のチキにまで農業への従事を頼むくらいだ
こうやって召喚される英雄達に対する反発なのか?
それとも単純に食糧生産が間に合っていないのか?
「…ゲレタさんと早く再会出来ると良いわね」
「………そうね
でも貴女が来てくれたのだから、少しは縁が強くなったと思えるわ」
「でも、それで召喚されたらされたで複雑な気分にならないの?」
私はそう口にするが、まず間違いなく聞くまでもない事だろうと思っている
何せ、リンダさん以外がゲレタさんの側にいると露骨に不機嫌になっていたチキなのだから
「…………………………
父様が来てくれるなら、我慢するわ」
あ、これ絶対あの時よりも拗らせているわ
チキの姿を見て私はそう確信した
けど、それを言ったら確実に拗ねる
そうなると機嫌を直すにはゲレタさんを呼ぶしかない訳で
この状況でそうなってしまう事はチキの機嫌が最悪で固定されるという事
なお、家族に恵まれているカムイとカンナを見た為、チキが一時的に落ち込む事となり
アスク王国の官僚達が挙ってアルフォンスに対して
チキが動けなくなった時期、クライネが手伝う事となりメディウスはロプトゥスとギムレーを連れて
ゼフィールがマードックとブルーニャにイドゥンとナーシェンにゲイルを
ニニアンとニルスがエリウッドとリンとヘクトルを
父親達の姿を見たロイとリリーナはリキア同盟関係者を連れて農業を学ぶ事になるのだが、それは別の話
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ゲレタは結局妻リンダとの間に子を授かる事は叶わなかった
恐らく、竜から枝分かれしたアカネイア大陸のヒトであるリンダとそもそも別世界の人間である自分では問題があったのだろう
と予想している
だが、それは仕方のない事
子とは授かりものであるし、何より自分達には
綺麗な妻と可愛い娘
これ以上を望むのは贅沢にすぎる
そう思えた
妻や娘、弟子達を遺して死ぬ事に悔いがなかったとは言わない
…だが、親として師として
娘に
弟子達に
先立たれるよりは遥かにマシだ
娘は
チキは
俺やリンダ
クライネにカタリナ、クリス達やレイが死んでも長い時を生きる事になる
死は終わりであるが、時に救いになる時もあると言う
…ならば、あの子はどうなる?
そう思ってしまう
詮無き事ではあるだろうが
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…気がついたら、よく分からない所にいた
しかも、体が明らかに全盛期のもの
意味が分からない
そして、白フードの人物が驚いた様な表情で此方を見ている
はて?何処かで見た様な気もしなくないが?
そう俺が狼狽していると
「…えっと、あの
私はエクラと言います
名前を聞いても良いでしょうか?」
と聞かれたので
「ゲレタだ
しがない元山賊さ」
そう答える事にした
何故かエクラと名乗る人物は俺の名前を聞いて目を見開いた
…此処がアスク王国である事を聞いた俺は頭を抱える事になるのだが
その数分後、涙を流しながら満面の笑みを浮かべる
喜びを感じる事となる
異伝編の番外編はそのうち書くと思われ
番外編の番外編とか
もう意味が分からんな
小説は
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