汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
マルス達はラーマン神殿を離れ、陣を敷いた
誰もが考える時間を必要としていたのだから
何せアカネイアの秘密は彼等を打ちのめすに充分なものだったのだから。…無論、彼等の主張は彼等の立場や視点によるものであり全てが正しいとはマルスも思っていない
彼等の話を妄言と一蹴するのは容易い事だ
何せマルス達にそれが事実であるかどうかなど知る方法もないのだから
だが、知らなかった
で済ませるには余りにも重い
ニーナ王女から託されたファイアーエムブレム
…彼女はどの様な思いでこれを自分に託したのだろうか?
アカネイアを再興する
…しかし、その結果本当に平和へと近づいたのだろうか?
「…マルス様
バヌトゥ殿がマルス様に話があると」
マルスの従官となっているクリスがそう伝える
「バヌトゥが?」
マルスは驚きに目を丸くした
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「やはり悩んでおられましたかの」
「…ええ」
「…少しあの話には足りぬものがありましてな
ファルシオンを持ちてメディウスを倒したアンリ。…そしてアカネイア唯一の生き残りであったアルテミス
2人は互いを強く想いながらも結ばれる事はありませなんだ」
「…ええ、それは知っています」
「アルテミスはアカネイア復興の為に
王家再興の為に次代へとその血を残さねばなりません。其れ故に、アカネイア本土で抵抗運動を続けたカルタスと結ばれる事となりました
アンリは終ぞ伴侶を持つ事なく、アリティア王家はアンリの弟であるマルセレスの子孫が継承してゆく事となった訳じゃ」
バヌトゥは淡々と言葉を紡ぐ
「マルス王子
そなたの持っているファイアーエムブレム
それにまつわる話を知っておるかの?」
「いいえ」
バヌトゥは語る『アルテミスのさだめ』を
「…儂も含めた多くの竜族や竜人族はヒトに希望を持っておらぬ
じゃが、それは儂達の考えに過ぎぬ
マルス王子。其方等のしようとする事もまた正しい
大いに悩まれよ。…それが王子達の力となるじゃろうからのぅ」
その言葉はまるで
「儂は儂の役目を果たさねばならん
王子達のこれからに良きものが在らん事を」
「…わかった
だが、いつでも戻ってきて構わない
貴方には良く助けて貰った」
惜別の言葉の様で
「そうかの」
そして、旧き赤き竜はマルス達の元を去った
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「…なんだそれ」
神竜族の青年チェイニー。思わずそんな言葉が彼の口からこぼれ落ちた
バヌトゥと逸れたチキを助けたヒトを両親として慕っている?
意味が分からない
しかも、その父親は明らかに神竜族の自分でも身構える様な雰囲気を持っている
見た感じならば、母親の方が遥かに魔力量が多いのにも関わらず
とは言え、正直な話ガトーのおっさんの言う事にも疑問があったのも事実
…それに
あんなに楽しそうにしている姫をあそこへ戻して封印するのはチェイニーとて気が咎める
とは言え、だ
姫を守れるだけの実力が無ければ意味はない訳で
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チェイニーは他者の姿に変える事でその実力を知る事が出来る
…のだが、魔道士であるにも関わらず魔力は控え目に言っても高いとは言えない
カダインの魔道士の中でも平均…いや、平均よりも劣ると言えるだろう
確かに技量や身のこなしは良い様だが、これで姫を守れるとは思えない
となれば
「……周囲の人間に頼り切っている訳か」
ある意味ではヒトらしい人物なのだろうが、チェイニーにとっては最も嫌う人物像だ
チキの母親となっているリンダは魔道士として高い実力を持つし、何故ここにいるのか少し理解できないパオラとかいう恐らく騎士も実力者だ。クライネもカタリナもレイも粗削りながらに伸び代を考えれば優秀と言えるだろう
…だからこそ、そんな優秀で善良な者達を騙して利用しているであろうゲレタに対してチェイニーは不快感しか抱けなかった
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チェイニーは村に滞在する事とし、ゲレタという人物が姫にとって相応しいのか見定める事とした
あまり気が進まないが、姫が率先して農作業や村の雑作業に木彫り細工などをしている以上チェイニーがそれをしないと言う選択はない
ゲレタは毎日村の外へクライネ、カタリナ、レイに村の若者などを連れて出ている
村の者達の話だと訓練らしいが、寧ろあの実力で教えられる事があるのかとチェイニーは疑問であった
が、その認識は改めねばならない事を彼はすぐ知る事となる
チェイニーは隠していたつもりかも知れないが、
ましてチェイニーは
そして、チェイニーのゲレタに向ける視線は到底好意的なものとは言えない
更に明らかに農作業などを不本意そうな顔でしているとなれば、村人達がチェイニーに対して良い感情を持つ筈もない
その為、村人達は村長に話をしてゲレタの訓練に同行させる事を求めた。…こう言った手合いは力を誇示せねば理解しないだろうと村人達は判断したのだから
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チェイニーは長い時を生きた神竜族の1人だ
最早神竜族など自分を含めても数える程にしかいない
ガトーの指示を聞いているのも、
重ねて言うが、彼等竜人族にとっての長い時と言うのはヒトのそれとはかけ離れたもの
そのチェイニーをして、目の前の悍ましい光景は理解出来ないものだった
魔力を行使して、
それが一般的な魔法だ
これは長い時を生きたガトーとて変わるものではない
ところが、だ
(…なんだよ、これ)
彼の足元にもある
その風はまるで自然に起きたものであると錯覚させるかの様な余りにも弱いものだ
…問題は
その風が明らかに広範囲に、しかも
だ
少し向こうに
そう、身体能力においても高い能力を持つチェイニーですらはっきりと視認出来ない距離
そこにまで、この魔力で起こした風は届こうとしているのだ
それだけでも驚愕するに値しよう
その上
(…本当にコイツ人間か?)
その風が届いたと思えば、山賊達は皆地に倒れ伏した
チェイニーには分かった
届いてほんの僅か後にゲレタの魔力が山賊達の体内を引き裂いた事が
まるで目に見えぬ死神の鎌がその命を奪わんとする様な異常な光景
意識せねばチェイニーでも追いきれない程の微細な魔力による暗殺術
そう、これは
虐殺だと
チェイニーはその事をゲレタに指摘したが
「それが?
誇りの為に戦うなんて贅沢、許される立場じゃないんでねこちとら
俺も元山賊だ。生きる為に無法を働く以上、守られるものではないんだよ。力で奪うしかない
だから、更なる力で殺されたとしても文句は言えんさ」
その言葉と共に冷たい視線を向けられる
「…そりゃそうかも知れないけど」
ゲレタの言葉に思わず口ごもる
「傲慢な事だな
力があるから選択肢が生まれる
出来ない事を出来るようにするには時間や状況が許しちゃくれんのよ
まぁ、竜人族であるアンタに解るとは思わんよ」
言葉
それは時にして人を刺す事の出来る
永い時を生きているチェイニーであったが、その未知たるモノに対する対処法を学んでいるとは思わなかった
「」
「....ああ、それとな?
『目は口ほどにモノを言う』
言葉にせずとも分かるものはある。努々気を付ける事だな」
チェイニーにそう言葉を投げ掛けるとゲレタはさして興味もなさそうにその場を後にした
価値観の相違
それは時にして残酷な結果をもたらすものだ
小説は
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