汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
時系列はやや前後します
マルス達がそれぞれ戦う意味を考えていた頃
小さな農村で赤毛の青年が地味に生命の危機に晒されていた頃、アカネイアでは大きな
とても大きすぎる出来事が起こっていた
「足を引っ張る事しか出来ぬ輩を養える程にこの国は強くも大きくもない」
「····それには同意しよう
だが良いのか?アドリア伯」
「そうだ、アドリア伯
私もディール侯も何としてでも現状を変える
貴殿がその様な事をすべきではないではないか?」
「ミニディ侯とディール侯の言葉痛み入る
···が、最早猶予はない」
アカネイアパレスの一室、アドリア伯ラングの執務室に血相を変えて飛び込んできたミニディ、ディール両侯爵
彼等は貴族や下級官史の中である噂を聞きつけラングの元を訪れたのだ
アドリア伯ラング、内通の疑い有
というもの
現状アカネイア軍の指揮が満足に行なえる者はいないに等しい
トムス、ミシェランは先のパレス防衛戦にて戦死
ジョルジュの補佐をしていたトーマスもまた混乱の最中命を落とした
と言えば聞こえは良いのだが、完全にニーナのシンパを潰さんとする策謀の網に絡めとられたのだ
唯一機能していた(マトモな戦力とは言っていない)騎士隊もグルニア遠征で壊滅
最早アカネイアに戦力と呼べるものは残されていない
そう言っても誇張表現ではない
其れくらいの危機的状況なのだ
あの老人はパレスから叩き出し、ミディアとアストリアには声望も実績も地位もなく(マケドニア遠征におけるアリティア軍の敗戦の責を追及された為)、アストリアに至ってはアカネイアからの追放刑となった
ミディアも聖騎士の地位を剥奪。現在はニーナ付きの女官として登用されるのではないか?との事
ジョルジュもまたパルティアを召し上げられ、アリティアへの追放刑となるだろう
となれば、アカネイア軍の再建はアドリア伯ラングの双肩に委ねられたと言って過言ではない
そのラングがドルーアと通じている筈もない
が、此処はアカネイア
その程度の事すら考えられない愚か者の巣窟
想像の斜め下を滑空するのだ
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アドリア伯、ディール侯にミニディ侯の話し合いの翌日
アドリア伯ラングはニーナへと直訴を行い、彼女の回りにいる者達を声高に糾弾
更にラングは自身に従う兵士達を動員
アカネイアの大掃除に着手する事となる
しかしこれは余りにも苛烈であった為に、アカネイア貴族達の憎悪の的とラングはなってしまう
この凶行に対してディール、ミニディ両侯爵は公然とラングを批判
アカネイアはかつてない混乱に見舞われる事となった
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その僅か数日後、グルニアにて政変が発生
黒騎士カミュに対して公然と批判する文官と現在の祖国グルニアの窮状はカミュの行ないにあるもの
とする黒騎士団の者達はカミュの排除に乗り出す
最終的には反乱軍として彼等は処断される事となったが
「···最早何も申し上げませぬ
ただグルニアの明日を願うばかり」
との遺言を遺し、刑場の露と消えた
しかしこれは黒騎士カミュとロレンスの元で纏まっていたグルニア騎士団の崩壊の序曲となる
処断された者達の願う未来とは寧ろ真逆の方向へと事態は急速に動き始めたのだ
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アカネイアとグルニアにおいて国内を揺らがす事態が相次いで起きた
だが、一方でそれらと無縁な国家もあった
マケドニア、グラ、アリティア
そしてタリスである
マケドニア王国では現国王ミシェイルの妹、つまり王族であるミネルバとマリアが同時期にマケドニアから離反。更にミネルバの有する騎士団であった白騎士団の筆頭格であるパオラ、カチュア、エストまでもマケドニアに槍を向ける事となる
かつてミシェイルが国内勢力の取り込みを企図して行なった際に事もあろうにミシェイルへの嫁入りを拒否した家があった
マケドニアの有力者でありながら、ミシェイルの新体制に反旗を翻すがごとき所業は無論許されるべき事ではなく、その家はマケドニアにて孤立する事となる
ミシェイルは拘泥していなかったが、精力的にマケドニアの改革や国力増強に舵をきったミシェイルはマケドニアにおいて希望と見られていた
貴族、平民問わず
故にそのミシェイルに反発したその家はマケドニア内で白眼視される事となり、結果跡継ぎである嫡男をオレルアン遠征軍へと従軍させ、更にミシェイルの打ち出した政策を即座に領内へと布告
その様な姿勢を見せる事でマケドニア王家に対する忠誠を示す事となった
嫁入りをミシェイルに対して断りを入れた娘についても国内において縁組みを望む者などあろうはずもなく、国外へ送らねばならなくなったが、それは仕方のない事と内心の葛藤を圧し殺して実行
ところが
それら全ては家を存続させる為、ひいてはいずれ娘も状況を見て戻そうとした
全ては水泡に帰す事となる
嫡男はオレルアンでの戦闘において事もあろうにアリティア軍に参加。祖国に槍を向けたのだ
最悪な事に嫡男を説得したのは娘であると言う
この事実を持って家の存続はほぼ不可能となった
それでも何とかマケドニアを、ミシェイルを支える事で状況の打開を図ったのだが
何を血迷ったのか、嫡男と娘はマケドニアへの侵攻軍に参加しているとの報を受けた彼等は
自裁する他に道は残されていなかった
ミシェイルはそれらについて言葉を発する事はなかった。軍も何をしたわけではない
だが、名誉と信用を失った彼等にとってはその気遣いすら苦痛でしかなかったのだ
しかし
それでも彼等は嫡男や娘が敵に走ろうとも、マケドニアの未来にはミシェイルが必要であると確信していた
その結果、マルス達アリティア軍が領内に立ち入った際領民達はマルス達を拒絶し、マチスやレナを憎悪した
それだけの事
マケドニアの体制は磐石である
ドルーアに対しても、再度の侵攻は可能なれど兵站や同盟国に問題あり
との書状を送り、水際防御へと戦略を転換した
ドルーア皇帝メディウスもまたそれを是としたのである
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グラの女王シーマや再建途上にあるグラ王国軍はアリティアに対してこそ好意的であるが、アカネイアに対しては疑念を強めていた
何せグラの兵士達やシーマはゲレタの功績を目の当たりにしている
グラとてアカネイアの動きを知る為にも人をアカネイアパレス付近の街に送っているのだ
そこでパレス防衛戦にゲレタ達が参戦した事を知った。無論かの人物は功績を誇る人物ではなく、寧ろその功績により問題が起きるのを嫌う人物である
そう理解している。···だが、それにしてもアカネイア貴族や軍から何一つ報奨や称賛がないのは控え目に言って
「腐っているな」
そう報告を受けたシーマは不快そうに口にしている
従軍した兵士達の話などからアカネイアがゲレタ達の功績を全て奪った事は間違いなく、それに対して動きを見せないアリティアにも不信感があったのだが
後の報告で、オレルアン公弟ハーディンが言葉のみとは言えどその功績を認めたとして、辛うじて収める事とした
が、マルス達アリティア軍のその後の動きが理解できずアリティアに対する支援については考えるべきではないか?と苦悩する事となる
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アリティアは旧騎士団の者達を中心として建て直しに奔走していた
本来アカネイアは大きすぎる借りのあるアリティアに対して積極的に支援すべきなのだが、勿論そんな殊勝な考えがあろうはずもない
グラやオレルアンと異なり、アカネイアはマルス達が戻るまで統治機構が機能しておらず人の繋がりもまた破壊されたと言っても良かった
人の本質は窮地にある時にこそ、出てくるもの
生活が建て直せたとしても、人物に対する見方と言うものが一変する
などと言うのは良くある話
エリス達は尽力しているものの、かつてのアリティアを取り戻す日は遠かった
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「ぐ、ぬ」
モーゼスにより深手を負わされたガトーは視界がぼやける中、山中を彷徨っていた
そう
山中を、だ
そして傷付いたもの
即ち弱者にとって山中とは
地獄となる
彼は忘れていたのだ
余りにも長い間、自身は
弱肉強食
それは全ての生きとし生けるもの共通の原初の定め
「····」
彼は気付かない
息を潜めて獲物が弱るのを待つ者がいることに
道は1つに非ず
されど道とは未知であり、故に惑い苦しむ事もある
強者が弱者に
弱者が強者になることもある
さぁ、始めよう
生き残りをかけた
小説は
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