汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
ある意味状況整理回
後の歴史家はこの時期をこう評する
鮮血の宴
戦争とは誇りをかけるもの
そう思われていた価値観が少しずつ狂い始める
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まず腐れど、朽ちども大陸の中心地たるアカネイア
アカネイアはニーナ王女がアリティア軍の功績によりパレスを奪還したこと事により、その勢威を取り戻した
···かに見えた
アカネイアの民はニーナの帰還とアカネイア王国再建に狂喜乱舞した
等と言うことは全くない
何せドルーアはアカネイアの王宮たるパレスを占拠
多くのアカネイア貴族達はアカネイア全土に散らばり、そしてニーナ王女がパレスに戻るや否や馳せ参じた
しかし、どの貴族もマトモな戦力1つ用意する事はなく、辛うじてアドリア伯ラングやミニディ侯爵が戦力を率いてパレスへと帰参したくらい
アドリア伯とミニディ侯爵に並び評される事の多いディール侯爵だが、彼は所領にある要害ディール要塞をドルーア軍に占拠されていた為に喉元に刃が常に突きつけられていた
その為徴兵など出来る状況になく、その分の財政支出を以てアカネイア王国に貢献する他選択肢はなかったのである
勿論、アドリア伯とミニディ侯の兵力だけで戦力が足りる筈もなくパレス近辺から徴兵する事で辛うじて体裁は整える事とした
なお、マルス王子率いるアリティア軍がパレスのドルーア軍を撃滅したこと事により、一部の貴族や有力者はドルーア軍をアカネイアから駆逐すべく挙兵した
が、それらの軍勢は敢えなくドルーア軍により壊滅させられる事となり、ドルーア軍は一時的にアカネイア王国より撤退を選ぶ
そして紆余曲折の末にマルス王子率いるアリティア軍に対してグラへ出兵を要請
アカネイアとしてはドルーア軍を駆逐した今こそが、反撃に転ずる好機
そう判断したのだろう
ところが、アカネイアの予想に反してドルーア軍によるパレス侵攻が行なわれた
オレルアン公弟ハーディンとその配下の狼騎士団
そして、アカネイア軍の必死の抵抗によりパレスは辛うじて失陥を免れる
しかし、その代償は大きく再建途上にあった弓兵隊、歩兵隊、重騎士隊は壊滅的被害を被る事となった
幸いドルーア軍によるグラ王国攻略は失敗に終わり、アカネイアはマルス達アリティア軍をアリティア解放に向かわせる
そしてドルーアの主力を撃破したと判断したアカネイアは未だにドルーアへ協力するグルニアへの遠征を画策
グルニアさえ屈服させれば、後はマケドニアのみ
アカネイアの復権は順調と言えた
ところが、アカネイア軍によるグルニア遠征は遠征軍の壊滅という最悪の結果をもたらす
これを受けてアカネイアはアリティアを解放したアリティア軍をマケドニアへと派遣する事とした
アリティア軍にはマケドニア王女ミネルバとマリアが参加しており、マケドニア王ミシェイルの権力基盤を打ち崩すには問題ないと判断
アドリア伯によるジョルジュの援兵は認められず、代わりに元騎士隊長ミディアを派遣
これにより、
この頃アカネイアはアリティア王子マルスを危険視しており、ニーナの王配では無くなった以上早急に始末すべきとの考えが廷臣
つまりニーナの側に仕える者達の中に広まっていた
アリティアにはエリスがおり、アカネイアから人を宛がう事でアリティアをアカネイアに併合すべき
との考えがあったのだ
そして、彼等の思惑は見事に当たった
···まぁ、その為に態々マケドニア側へと侵攻計画を漏らしたのだ
そうでなければ困るのだが
しかしながら、忌々しい事にアリティアの犠牲は僅か3名
しかもマケドニアの騎士と薄汚い傭兵に辺境の戦士
まるでアリティアの戦力を削れたとは言い難く、故にアカネイアは更なる作戦を立案
それによりアリティア軍を徹底的に使い潰すつもりだった
だが、それはアカネイア軍再建の中心人物となったアドリア伯により頓挫する事となる
そしてアリティア軍はアカネイアを離れ独自行動を行う様になったのだ
廷臣達は何とかしてアリティア軍を戻す方策を講じていたのだが
アドリア伯ラングはニーナに謁見したその場で廷臣達の行動を非難
事態についていけなかった廷臣達はラングが用意した手勢により捕縛
その上でアリティアに対する補償などをすべきとラングは主張したのだ
財源がない!
そう喚く財務担当者にラングは
「あるではないか
威勢ばかり良く何もせぬ置物どもの」
と公式の場で一部貴族の取り潰しとその財産の押収を提案したのだ
更にラングはグルニアに対する見解をニーナに訊ねる
新たにニーナ付の女官となったミディアはラングの無礼を咎めるが
「形式に拘った結果が今の状況と理解しておらぬのか?」
とラングは些末事として取り合おうとしない
ニーナは即答を避け、後日改めて答えるとし
ラングはそれを不服と思いながらもニーナの前から退いた
「お呼びでしょうか?」
「うむ
実はニーナ様のお相手が決まった」
「!?
それは」
ニーナの元を辞したラングは自身の執務室にてある若者と話をする事とした
「ハーディン殿だ」
ラングやミディア侯、ディール侯は1つの結論を出した
廷臣達を除いた後、ニーナに問いを向ける
それ如何でアカネイアの今後を定める、と
そしてニーナはラングの問いかけに答えられなかった
つまり、未だもってニーナはグルニアの若造を忘れられぬのだろう
ならば、大いに結構
この時点でラングはニーナの価値を定めた
仕えるに値せず、と
少なくともラングは廷臣を介して幾度となくニーナにアカネイアの未来を考えて貰いたい
そう言い続けてきた
廷臣達に対しては
「仮にこれがニーナ様の元へ届いておらぬと分かった時点で、その者はニーナ様の側に仕える資格なしと見る
努々忘れられぬ様」
と告げており、複数の廷臣からニーナ様に確かに伝えたと聞いている
にも関わらず、このザマ
なれば、ハーディン公を迎えるまでがあの小娘の役目である
そうラングは覚悟した
「お主はまだ若い
ハーディン公の力となり、アカネイアを守れ」
「······それは」
若者はラングの言葉に絶句する
「間違うな
我等はアカネイアを守る責がある
資質なしならばまだ許せよう
覚悟や自覚のないものにこれからの舵取りは不可能だ··········頼む」
「···はい」
ラングの言葉に若者は頷く
「とは言えハーディン公を迎えるまでには少し猶予があろう
その間、お主を鍛える故覚悟しておけ」
「お任せ下さい、必ずやご期待に答えてみせます」
「······頼むぞ、ホルス」
ラングはそう真剣な表情で頷いた
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アカネイアの遠征軍を撃退したグルニアであったが、少なからぬ犠牲を民に出してしまった
大陸最強との呼び声も高い黒騎士団が、だ
そして広まるカミュによるニーナの脱出手引き
······いや、それよりも酷い
何せカミュはしばらくの間自身の元にニーナを匿っていたのだから
『何の為に仲間達は死んだのだ!』
そうグルニアの兵士や騎士の中からも怒りの声が上がった
ガルダで
オレルアンで
ワーレンで
アリティア軍と戦い命を落とした者達
それが自軍の最高の騎士とまで謳われる者の独断によるもの
等と家族や恋人を喪った者達にどの面下げて言えると言うのか?
であるならば、その事態を引き起こした責をカミュやその配下のベルフ達は取るべきだ
そう言った意見が出たとして、何の不思議があろうか?
騎士は地位に見合う給金が出る上に名誉もある
だが、その騎士に率いられる兵士達は常備兵ばかりではない
民に恨まれる国や騎士団など滑稽以外の何物でもない
にも関わらず、その事をカミュとカミュに近しい騎士達は今の今まで口を閉ざしていた
此ほどに酷い裏切りがあるだろうか?
そしてその様な事をしたにも関わらず、国王はカミュを選んだのだ
グルニアにおける反カミュ派の決起
それは鎮圧されたが、最早カミュやベルフ達に信も名誉も有りはしなかった
加えて、その選択をしたグルニア王家に対して民
特に家族や近しい者を喪った者達は反感を強める事となる
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「カミュ達をアカネイア討伐に向かわせよ、か」
グルニア軍のもう一人の主柱たるロレンスは部下や民からの陳情などを集めた結果を見て深いため息をついた
グルニアの文官達からの軍への
取り分けカミュ派に対する視線は最早殺意すら感じられた
無理もない
彼等は何とかしてドルーアの要請を上手く捌こうと常に必死だったのだ
勿論、カミュを擁護したロレンスや国王陛下にすら彼等は怒りを感じており
「軍がどの様な作戦を考えているのかは存じ上げぬ
だが、グルニアの領内での戦闘について我々は賛同しかねる
······何せ国を平気で裏切る者が大権を握っておるのですからな」
国王陛下臨席の話し合いの席である文官はそう言い放った程だ
「いっそ責任をとってアカネイアへと遠征なさってはどうか?」
「それよりも先ず各地で死んでいった者達の遺族と顔を合わせて頂きたい
その上で『騎士の矜持』とやらの為に死んだのだ
そう伝えてもらわねば困りますな」
「黒騎士殿と黒騎士団は大陸最強の騎士団なのだろう?
さっさとアカネイアを下せば良かろうに」
最早針の筵だった
何せグルニアを守ろうと必死になっていたのが、実はパレスを攻略した直後から手酷い裏切りを受けていたのだ。誰も彼もが怒りを隠せない
そして、国王と言えどこの流れを止める事は出来ない
彼等文官はまだこれでも抑えている方なのだと、軍は嫌でも理解しているのだから
決起の後、グルニア軍は大幅な人事の変更を行なわねばならなかった
何せ盲目的にカミュを信じている者ばかりではない
もう大陸最強とまで謳われた黒騎士団の姿は其処になかった
更に国王はカミュに与えていたグラディウスを取り上げる事を選択せねばならなくなり、それはカミュが国王からの信を失った事の何よりの証拠となった
マケドニア白騎士団のエストはグルニアにてメリクルを手に入れる事は出来なかった
が、代わりにグラディウスを手に入れる事に成功し、グルニアを後にしたのだった
彼女は知らない
パルティア、メリクル、グラディウス
これ等の武器は所有者を選ぶ
という事を
パルティアは己が責を果たさぬ使い手を許さず
グラディウスもまた守るべきものを見失った者を見限った
メリクルは未だ所有するに値する者は居らずと眠っている
ファルシオンもまた使い手を選ぶ
白き翼の末妹
彼女もまた試練の時が迫っていた
というわけでかなりゴタゴタしているアカネイアとグルニアでした
パオラとカチュアが割りとヤバい目に遭っているのだから
エストもね?