汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
大賢者として大陸にその名を知られていたガトー
しかし、彼は人を正しく理解していないばかりか、同族であった竜族や竜人族からどう思われていたか?について余りにも無頓着に過ぎた
ヒトの真価は窮地にある時見えてくるもの
ガトーには味方と呼べる者は居らず、精々が同じ神竜族のチェイニーくらいだ
大賢者
カダインの創設者
ナーガと共に戦った古き竜族
それら全ての肩書きを取り払った彼に価値を見出だす者はいない
他者を見下し、自身の都合ばかりを優先する者
そんな者が社会において居場所を持てる筈もなかったのだから
「いや、アンタこそ人も竜も何もかも理解してないだろうが」
とある元山賊ならば、そうガトーを評する事だろう
そして、偉大なる大賢者は地に堕ちた
他ならぬ同胞によって
「···傷が深い
モーゼスめ。やってくれる」
ガトーは忌々しそうに呟く
回復だけでなく、転移用の杖さえも戦闘中に失ってしまった彼は傷の治療すら儘ならない状態
そして落下した事により、身体の各所は痛みを発している
痛み
ガトーにとっては本当に久しぶりの事だった
だが、此処に留まっていれば間違いなくモーゼスやその配下が自分を見つけるだろう
そして今の自分ではそれに抗う事も出来ないと
故にガトーは森の中を歩いて抜ける事を選ぶ
傷から流れ落ちる血
その危険性を理解する事なく
「···」
彼は知らなかった
森は太古からの
ガトーは生物としての格が高い
仮にも元竜族ならば当然だ
しかし、如何な強者であろうとも
弱ったものが生き延びられる程に甘くも優しくもない
それをガトーは痛感する事となる
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「良く来て下さいました、バヌトゥ殿」
「すまぬとは思うたのじゃが、チキの事が気になってのう」
ガトーが奮闘している頃、バヌトゥはゲレタ達の住む農村へと訪れていた
丁重に扱うのは当然である
(本当に良い顔をするようになった
······やはり連れ出して良かった)
バヌトゥはゲレタとリンダに甘えるチキを見て、やはりアレのやり方は間違っていたのだと改めて確信する
なお、チェイニーの事は意図的に無視している
バヌトゥからすれば、チェイニーはまだまだ若い
若いからこそ、他者
取り分け人との接し方がうまくない
と言うよりも拙い、という方が正しいだろうとバヌトゥは思っている
それも無理のない話
結局のところ、人と交わる事なく生きてきたチェイニーは根底に人に対する不信感や優越感を持っているのだ
バヌトゥとて、チキを連れ出した頃は思い出すのも恥ずかしくなる様な事を仕出かしたもの
人は
聞き飽きた感すらある様な考えだ
だが、バヌトゥは思う
確かに人の一生は短い。しかし、だからこそ
その一生の中で彼等は変化を受け入れる事が出来るのだろう、と
(ナーガ様も複雑であろうな
我等は何も変わっておらず、人もまた変わっておらぬ
···いや、チキは人と交わり生きておる
其れだけはナーガ様とてお喜びだろうな)
バヌトゥは
「ところでバヌトゥ殿
宜しければ、此処に留まってはどうでしょう?
チキも喜びますし、私や妻に弟子達もまだまだ竜人族への理解は足らぬと思います
何かはしていただく事になりますが」
「それは願ってもない話
是非お願いしたいのう」
ゲレタの申し出にバヌトゥは一も二もなく飛びついた
(この歳になってから、新たな風を感じるか
皮肉なものよなぁ)
そう内心苦笑しながら
因みにチェイニーよりも遥かに農作業などに協力的だったバヌトゥはすぐ村人達から受け入れられる事となり
「竜のおじいちゃーん」
「おお、どうしたかの?」
と主に村の子供達から人気を集める事となる
そんなに頻繁に変身しても大丈夫?かって?
そこに怖いこわーい
そして村人はバヌトゥが竜になってもさして驚かない
何せ既にチキがいるのだから
「此処も寂れたのう」
「そうね
バヌトゥとチキはある廃村に来ていた
2人にとって、掛け替えのない大切な場所
歴史の闇に葬られた
だが、そこは踏みにじられた
「ギムレー、だったかしら?」
「紛いものらしいのう」
邪竜ギムレー
この温かな場所を滅ぼした敵の名前
「バヌトゥ」
「うむ。到底許せる事ではないでな」
最早2人は人と交わる気はない
だが
「落とし前はつけさせてもらうわ」
思い出を踏みにじられた以上、許すつもりはない
そして邪竜ギムレーは封印される事となったのだ
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当初、グルニアの騎士達は大いに困惑していた
グルニア騎士の誇りたる『黒騎士カミュ』がグルニアを裏切っていたの言うのだから、その困惑はある意味では仕方のない事といえるだろう
批判に対してはカミュは沈黙する他なかった
これもある意味では已む無い話と言える
何せ現在のグルニアはドルーアの同盟国となっているが、それが形ばかりのものとなりつつあるのは明らか
マケドニアは王女ミネルバ、マリアやその配下の騎士が相次いで裏切っている
しかし、マケドニア王ミシェイルは終始一貫してドルーアに対して従う姿勢を見せており、先のアリティア軍による侵攻に際しても激烈とも言える反撃にてアリティア軍を敗退させた
ドルーアとしては、少なくとも信用は出来ずとも利用は出来る国家である
加えて、ニーナの脱出を手引きしたミネルバ達はアリティアに寝返っており理屈としても何ら問題になる事はない
ところが、グルニアの場合だとそうはいかない
何せグルニア最大戦力たる黒騎士団がアカネイアに攻撃したのはパレスを陥落させた戦争初期のみ
それ以降、黒騎士団は本国に留まり続け黒騎士カミュもまた前線に出る事はなかった
しかし、グルニア軍はガルダやワーレンに大軍を動員して敗北を喫していながらそれ以上の事をしようとしていない
これはグルニア国王やグルニア軍のトップがドルーアに対して好意的でない事と無関係とは言えまい
ドルーアはグルニアに対して
アカネイアへの攻撃を幾度か『打診』している
にも関わらず、グルニアは動かなかった
しかし、グルニアはドルーアに反旗を翻しグラ王国の様にドルーアと戦おうともしない
寝返りは恥
であるからだ
しかし、カミュの直属の騎士達の対応が拙すぎた
彼等はカミュの行動に何の非も問題もあろう筈がない
そう声高に主張したのだ
これに対して真っ先にキレたのがドルーアとの交渉を任せられていた文官と
国外で戦死した騎士の遺族達への対応をしていた文官達であった
前者は多数のマムクートを擁し、その上マケドニアをその影響下に置くドルーア相手に自国の主張を何とか受け入れて貰うべく、常に文字通り命すら削って交渉している
後者は遺族に対する見舞金や戦死報告を遺族に渡す役割を任されている
親しい者、愛する者を喪った哀しみに暮れる遺族達の姿をいやと言う程に見てきた
その結果がコレか?
事が発覚して以降、ドルーアは一切の交渉を打ち切った。その中には同盟国としての金銭的な援助も含まれている
更にマケドニアとの関係も悪化してしまい
「······どうやら貴国と我等では護るものが異なる様だ
ならば手を組むべきではない。そう陛下は仰られた」
とマケドニアとの共同戦線構築も頓挫した
当然だが、アカネイアやアリティアとの関係回復など出来る筈もない
····いや、1つだけ方法はあるだろう
グルニアがアカネイアの属国となるならば、生き残る道はある
しかし、それは選べない
選ばない
彼等にも
つまり今のグルニアは国際的に孤立しており、尚且つ国民からも軍、政治双方からも不信感を抱かれていたのだ
かつて手酷い裏切りを働いたグラ王国すら温く考えられる程にグルニアは追い詰められていた
だが、彼等は退けない
グルニアの誇りを捨てたくはないのだから
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ラーマン神殿から離れた地に陣をひいたマルス達
早速これからの事について協議する事とした
「先に言わせて貰いたい
私は神殿に踏みいるべきではないと考える
いや、神殿に関わるべきではない」
ハーディンが口火をきる
「しかし、そうなると」
ジェイガンは反論する
と言ってもそこまで強いものでもない。ジェイガンとてどちらかと言えば不本意なのだから
「そもそも「星と光を集めよ」だったか?
必要なものやその場所が分かっていながら我等に任せる必要が何処にある?」
「···確かに」
続くハーディンの言葉にオグマも同意した
「···アンリの様に課せられた試練なのではないだろうか?」
「ならば尚更あの人物は当てにすべきではない
カダインの創始者と聞くが、ならばかの御仁はカダインを守ったのか?」
「それを言われると」
ウェンデルが口にするとハーディンは更に言葉を重ね、マリクもそう言われては反論出来ない
「マルス王子
失礼を承知で言わせてもらう
王子はアカネイアとアリティアの民
どちらかを選べ、そう言われてどちらを選ぶ?」
「そう、だね
ジェイガン、クリス!
直ぐにアリティアへ帰還しよう。皆には苦労をかけてすまないと思うが」
そしてマルス達はアリティアへの帰路につく
と言う訳でまだまだ彼等も希望を繋ぎます
諦めたが最期、人生終了なので