汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
それは少し変化があれば容易く変わり得る天秤
何が正しく
何が間違っているのか
分からぬ儘に人は歩き続ける
価値観
それはその人物の経験や環境によって形作られるもの
死してなお、彼等は此処アスク王国へと召喚された
様々な立場や大陸
時代などが混在するヴァイス·ブレイヴ
となれば
「何時までも喧しく囀ずるものね
あなた達にとって正しかろうと、それが万人に受け入れられるものでない
····その程度の事すら分からないのかしらね?」
「それはどう言うことだ?」
揉め事が起こる事も勿論あるのだ
異伝 光と闇
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ギムレーは内心苛立っていた
それは
自身がこの身を預けても良い
そう思える者に対する無思慮に過ぎる会話だった
世界を滅ぼした己が言う事ではないのだろう
仮にも
仮にも、己の命のみならず国すら傾けた連中が恥を知らずに他者を謗る
なんと滑稽で
何とも醜悪で
見るに堪えないおぞましく、そして下らないもの
自分の近くにいるものを見てみれば良い
自国の人間が何処にいる?
浅ましく裏切った同じ穴の狢しか居らぬではないか?
メディウスやロプトウス
ハーディンやゼフィール、アシュナードやヴァルハルトは何も言わない
あの男と特に親しいキュアンも何を語ることはない
無駄なのだ
そう思っているから、何も言わない
歴史はその時代を生きたものが作り上げる
そしてそれを評価するのは当時生きたものと後世になってから
彼等彼女達は知るまい
自分達の名前を遺すか否か
それがどれだけの問題を引き起こしたのかを
特に問題とされたのが、ミネルバ配下の末妹エストとカミュ
後者については今更だろうから割愛するとして、エストの評価はこれまた酷いもの
何せ彼女は結果としてアリティアの騎士と結ばれている。祖国マケドニアは結果として消滅
しかも彼女は暗黒戦争からアリティア側として動いていた
マケドニアの王女配下の騎士でありながら
彼女が恋人のいるアリティアで暮らすのも当然だろう
マケドニア
或いは旧 マケドニアに彼女の居場所はなかったのだ
カミュはバレンシアに
エストはアリティアに
ミネルバやパオラ、カチュアと祖国に居れる筈もなく
その者達が何を以て否定すると言うのか?
少なくとも、ゲレタは死ぬまで村を護ったというのに
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「仮にもあなた達は国を動かす立場にあったのではないのか?
戦争で勝てば国が維持出来る
なんて本気で考えているの?」
そのギムレーの言葉は少なくないヴァイス·ブレイヴにいる英雄達の心に突き刺さる
「その辺りにしておけ、ギムレー」
が、それをメディウスは咎める
別にギムレーのした事が間違っているとは思わない
だが
そこまでしてやる義理もない
だけなのだ
「己らの食べているもの
それが安定して得られる意味を理解せぬなら、所詮戦には強かろうが、其だけよ」
メディウスはそう言い残し、ギムレーと共にその場を後にした
なお、この話により一部の者達は漸く自分達の歪さを理解する事となる
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「食糧生産が追い付いていない!?」
アルフォンスは驚愕の声をあげる
ギムレーの件を知ったアルフォンスはその翌日に行なわれた話し合いの席で漸くその事を知る事となる
アルフォンスの言葉に顔をしかめる軍関係者
それに対して
「今更何を驚かれているのです?
我等は常に申し上げていたと思いますが?」
文官達の反応は冷ややかである
アスク王国はエンブラを皮切りに様々な国家と戦いを繰り広げてきた
その是非は置いておくとして、問題は他国に攻め入り敵首魁を討ち取る事で敵を打倒してきたと言うところ
成る程敵の侵略を止めるには最も手早く
そして話にならない程に稚拙なものだと彼等は断ずる
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アスク王国は召喚士エクラを呼び出した事を切っ掛けとして、多数の英雄を擁する事となり、窮地を脱した
その後もムスペル、ヘルにニザヴェリルと他国との戦争を行なわねばならなくなった
それ自体は已む無い部分もあるとして、彼等文官達も諦めている
問題は、ムスペルに滅ぼされたニフルも含めた広大な地域が統治機構を失い、無政府状態に近い状況になった事だろう
アスク王国自体もまだ復興出来たと言えない状況
決して農業に適したとはお世辞にも言えないニフル、ムスペル。反アスク感情の強いエンブラとニザヴェリル
国王がアレだったヘル
ニフルにはフィヨルム王女がいるとはいえ、彼女を中心に再建は進みつつあっても、その再建はまだ遠い
加えて実直な性格のフィヨルム王女はヴァイス·ブレイヴへの参加もしており、それもまたニフル側にとっては不愉快とされた
「いやそこは断れよ」
と文官達は思ったが、何せ仮にも一国のトップ
早々意見を言うわけにもいかず、精々がアンナに対してフィヨルム王女の従軍についての懸念を示すくらい
下手に他国が絡む問題でアルフォンスに意見するとなると、アスク王国の体制そのものに疑念を抱かせかねないとの判断からだった
さて、何れの国や地域は再建の真っ只中
更に各地はヴァイス·ブレイヴとの戦闘により少なからず混乱している
不幸中の幸いなのが、都市部での戦闘はそこまで行なわれていない事くらい
その状況下において、民を満足に食べさせられるだけの生産体制が残っていただろうか?
残っている筈もない
では苦境に喘ぐそれらの民を放置すればどうなるか?
言うまでもない
侵略者たるアスク王国に対する敵意と反感は憎悪となって大地を焼き尽くすだろう
故にアスク王国はそれらの地域への食糧を始めとした支援を行なわねばならない
例えアスク王国内の食糧が危険な水準にまで落ち込もうと
しかし、圧倒的に人手が足りない
となれば、文官達は全く役に立っていないアスク王国軍の人員削減や経費削減に動いておかしいだろうか?
だが、それも叶わなかった
何せ事あるごとに苦言を呈する文官達と
アルフォンス達の苦労を労う武官達
どうしても年若く、経験の少ないアルフォンスの気持ちは後者へと傾いてしまう
そんな中、チキが召喚されたのだ
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彼女にとっては父を偲ぶ意味で始めた木工細工や手習いの域を出ないと彼女は考えていた料理や農家の真似事
彼等はそれまで英雄とは戦うだけしかのうのない者達とばかり考えていた
ところが、そうではなかった
幸いにもチキは戦争に駆り出される事を好ましく思っていない事を知った文官達は彼女に何らかの立場を用意しようと提案する
だが、チキの頭の中には
もしかしたら、父ゲレタと会えるかも知れない
と言うものが占めており、寧ろ父が来たならば父にそれを用意してほしい
そう願った
話を聞けば信じられない事に、彼女は今やっている事の殆どを父親から学んだと言うではないか
しかも足らぬところを積極的に補おうとする人物と聞き
ならばと彼等はその話を保留とした
その為、ゲレタが召喚されるや否やアルフォンス達が事態を把握する前に取り込んだ
果たせるかな
彼等の思惑通り
····いや、それ以上にゲレタは活躍し
ヴァイス·ブレイヴの中でも気難しい人物達を巻き込んで農政改革に取り組んだ
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「しかし、召喚された英雄の方が我が国の危機的な状況を理解しているとは皮肉だな」
その様な発言が出るくらいにゲレタは精力的に働いた
お陰で少しずつだが、状況は改善しつつある
そんな中でのアルフォンスの発言
彼等からすれば
「何を今更」
といったところだ
軍に対しては塩などというレベルではない
役に立たないと立証したら、今の軍の高官ポストを半分以下にしてやる
とすら考えていたりする程度には冷静だったが
アルフォンスは文官達の自分に対する不満が相当高まっている事を自覚した
(理解していたつもりだったけど、辛いなぁ)
これがアスク王国の今後を左右する事になる
アルフォンスはそう気を引き締めた
という訳で異伝もクライマックスとなります
色々あると思いますが、宜しければ今少しお付きして頂けると嬉しく思います
今後の予定
本編と異伝を完結させ次第、アンケート結果に基づいて書いていこうと思っております
現在のところ、エリスとパオラを書くつもりで構想を進めておりますが、恐らくはゴールデンウィーク辺りにはそちらに掛かれるかと思ってます
多数の評価やお気に入りを頂き、本当に有り難く思います
3ヶ月程空けておりましたので、かなり不安ではありましたが、こうして続けていられるのは本当に読んで下さっている皆様のお陰です
最低でも週二回更新はすると思うので、また機会があれば読んでいただけると幸甚にございます
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