汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
詳細はあとがきにて
「⋅⋅⋅何と言うか」
マルスは目の前の光景に頭を抱えたくなった
「⋅⋅⋅同意する
とは言え、此処で固まっていても変わるまい
⋅⋅⋅⋅⋅アカネイア軍の指揮を預かるハーディンだ」
ハーディンもまた苦虫を噛み潰したような顔のまま口を開く
マルス達はアカネイアによるマケドニア遠征軍の一翼を担う事となった
勿論マルスとしては勘弁願いたいところであったが、現在の状況下においてアカネイアの影響下から逃れるのは不可能
少額ではあるが、メニディ、ディール両侯爵よりマルスに対して資金援助が行なわれた
その為断りきれなかった
ハーディンがアカネイア軍の指揮官に抜擢された事も衝撃だった
しかしマルスが頭を痛めているのはそこではない
「⋅⋅⋅⋅グルニア軍」
そう今回のマケドニア遠征軍には敵である
⋅⋅⋅⋅いや、正確には敵であったグルニア軍も参加している
それだけでもマルスからすれば受け入れがたいもの
にも関わらず
「何と言いますか
統率すら取れておらぬ様にも見えますが」
ジェイガンの言葉通り、大陸に名高きグルニア騎士団
少し前、神殿から戻る際に戦った時もそうであったが精鋭無比とも称された姿は何処にもなかった
「これで戦えるのか?」
それはマルス達のみではなく、ハーディン達も共通する思いだった
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「どうして、こうなったんだろう」
元マケドニア白騎士団のエストは項垂れていた
彼女は諸々の事情から一時期グルニアに居た
そこで拘禁されかけたところ、とある人物により身柄を解放されグラディウスを託されたのである
彼女は自身の姉や上司であるミネルバと共に戦うべくアカネイアへと向かった
何せマルス達の情報について、敵国であるグルニアでは正確なものが手に入る筈もなかったから
しかし、その頃にはマルス達は既にアカネイアを離れており、彼女は愛馬を休ませる為にアカネイアのとある宿にて宿泊する事とした
彼女は知らなかったのだ
マケドニアというアカネイアの栄光に泥を塗った(アカネイア主観)国に対してアカネイアの民がどれだけ不満を持っていたのかを
かつてゲレタとリンダは難を逃れた
だが、それはゲレタが警戒していたからこそであり、しかも愛馬を預けねばならなかった彼女はそこまでの幸運に恵まれなかった
彼女は愛馬を盾にされ、アカネイアの人攫いに捕らわれる
仮にもマケドニアの騎士、しかも王女ミネルバの直属であった彼女の事を不幸にも知っている者がいた
その為、アカネイアのとある有力者によって身請けされる事となり、その人物は彼女を此度の遠征軍に派遣したのだ
アカネイアの指揮官であるハーディンだが、それはあくまでもアカネイア軍本隊の指揮権を有するに過ぎず、一部有力者が供出した戦力に対する命令権は有し得ない
つまり、仮にハーディンがエストを見つけたとしても
マルスやミネルバ等がみつけたとて、エストを解放する事は叶わない
⋅⋅⋅いや、ハーディンなれば強権を発動すれば解決は出来よう
その対価として、これからアカネイアの中で生きる事になるハーディンの立場がかなり悪くなるのだが
アカネイアにとって、グルニアもマルス率いるアリティア軍もこの機会に出来る限り戦力を削ぎ落とさねばならぬ相手
ましてや現在進行形で敵対しているマケドニアの人間の犠牲などアカネイアの大部分の者からすれば、どうでも良い事でしかないのだ
エストはグラディウスを奪われ、持っていた銀の槍すら召し上げられた
彼女が持つのは鉄の槍のみ
その彼女に下された任務は『制空権の確保』
つまり、死んでこいと言われたのだ
本来見目麗しいエストともなれば、使い道は幾らでもある
しかし、そうはならなかった
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現在のアカネイアはアドリア伯ラングによる大規模な綱紀修正の真っ最中
ラングは先のパレス防衛戦における功績を盾に、畏れ多くもニーナを幽閉
そしてアカネイアの軍事、政治両面において大権を振るい始めたのだ
当初アドリア伯が掲げた国内改革
それはあくまでも平民達の不満をかわす為の方便と見ていた
その為アドリア伯のやり方にも一定の支持が集まっていたのだが
何を狂ったのか、アドリア伯はその改革に真っ向から反対した有力者の一部を処断
その財を自らの懐に入れたのだ
この無法に対してミニディ、ディール両侯爵が反発しているが、相手は手中に
更にアドリア伯は再建途上のアカネイア軍に対し、マケドニア討伐を命じた
その中にはニーナの侍女の任を解かれたミディアや元歩兵隊隊長のアストリア
元弓兵隊隊長ジョルジュの姿もあった
「口では何とでも言える
その大言に見合った功績を立てよ」
と
勿論、これは三人だけに向けたものでないのは明らかだった
その為、有力者達は何としてもこの戦いで存在感を示さねばならない
となれば、顔を売るのは決して悪い事ではない
マトモに考えればエストをマルス達に差し出せば良いのだろう
そうすれば、マルス王子は勿論ハーディンとて自分を軽く扱うことはないだろう
だが、それは出来ない
あの薄汚い傭兵の国
仮にもアカネイアから食糧支援を受けておきながら、ドルーアに与しアカネイアを一度滅亡にまで追いやった
アカネイア貴族の多くは命を落とし
落とさなかった者達もまた情けなくも隠れて過ごさねばならなかった
屈辱でしかなかった
民からも白い目で見られ、侮られた
その様に考えるものは決して少なくない
その八つ当たりとすら思える感情が向けられるのは力のない者か、或いは抵抗できない者
それが今回エストになっただけ
それだけの話
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大軍を
しかもグルニアやアリティアまで動くとなると、マケドニアにその動きを察知されるのは当然だった
しかし、マケドニアは
先のグルニアへの攻撃がマケドニアにとって最後の国外における軍事行動とミシェイルは定めていた
元々国内産業は他国に比べ脆弱どころか貧弱とも言えるマケドニア
食糧事情もこれまでのマケドニア国王等が努力したにも関わらず悪い
これは地理的要因もあるとミシェイルは見ている
圧倒的に平地は少なく、あったとしても育てられる物に限度があった
何故か?
それはマケドニアの傭兵産業の根幹を成す飛竜と天馬の存在だった
他国なれば害獣として挙げられるものは狼や猪などであろう
が、マケドニアの付近には野生の飛竜や天馬が棲息しており、時折人里に出ては数少ない農地へ被害をもたらす
それらに対してあまりにも民は無力なのだ
王国軍が動く時には既にその者達はその場に居らず、さりとてマケドニア軍を全ての場所に配するのも難しい
その為食糧事情を解消する為に農業を奨励しようとも、大規模な農地や農業従事者を増やせない
その上、マケドニアは確かに飛竜や天馬を戦力化する事には成功しているが、それらは野生のものを調教してのもの
マケドニア王国自体に飛竜や天馬を育てる術はあれども、生まれたばかりのそれらを育てる術は確立されていない
故に野生の飛竜や天馬を駆逐し過ぎてはマケドニアの軍備にも支障をきたす
という歪な状況に陥っていたのである
マケドニアの未来を考えれば、ドルーアにつくは愚策
何故ならドルーアは国家として破綻しているのだから
されど、アカネイアにもつけなかった
ドルーアの至近にあるマケドニア。仮にドルーアへ敵対し、アカネイアに与したとしてもドルーアのマムクートにより蹂躙されるだけ
グルニアは騎士道を掲げているが、マケドニアにそんな贅沢は許されない
そしてアカネイアはアリティアのマルスの手を借りて再建した
既にドルーアの味方足り得るのはマケドニアのみ
地理的に考えるとドルーアを倒すためにはマケドニアを攻略せねばならないのは明らか
「⋅⋅⋅⋅ふん
所詮俺も王の器ではなかったか」
ミシェイルはそう呟くと最後の仕上げをするべく動き出した
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「ミシェイル様、それは!」
「言うな」
ミシェイルはルーメルの元を訪れ、ある命を下す
ルーメルはその内容に抗議しようとするが
「我等の存在する意味を取り違えるな
真に守るべきは俺ではない
このマケドニアに住まう民とその未来よ」
「で、ですが!」
「⋅⋅⋅⋅誰かが責を取らねばならん
俺を卑怯者にさせてくれるな、ルーメル」
ミシェイルのその言葉に
「っっっ!!
⋅⋅⋅⋅⋅我が命にかけて」
「リュッケにも伝えておく
⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅後は任せるぞ」
マケドニアの若き王はそう告げるとその場を後にした
「何故。何故こうなるのだ」
悲嘆に暮れる男を残して
ミシェイルにも近衛騎士団がおり、彼等はミシェイルと共に在り続ける事を何よりの誇りとしている
ミネルバの白騎士団の様なものだ
「陛下」
「お前達には俺と共に死んでもらう事になる」
ミシェイルはそう声をかける
「我等陛下の手足!
陛下が死ねと命じられるならば、何故それを躊躇いましょうか」
彼等は目の前の王がマケドニアを生かす為に常に戦っていることを知っている
「
そして彼等は飛び立った
二度と見る事の叶わぬ祖国を後に
「お前は独自性でしか勝負出来んのだから、曲げてどうするん?」
と言われ、恐らくこのままではエタる可能性が高いと思いこの様な形となりました
読んでくださる方々の意見を汲み上げられなかったのは申し訳なく思いますが、何卒ご理解下さい
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