汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

95 / 222
人生とは選択の繰り返し


間違う事もあろう



後悔なき選択は難しく、理想は遥か彼方の空想の果て


岐路

アカネイア遠征軍総指揮官ハーディンはマケドニアの降伏を認め、兵を引き上げる判断を下した

 

 

何せ、自身の配下やマルス率いるアリティア軍なれば軍律を保つ事も容易だろう。しかし、控え目に言っても有象無象の集まりに過ぎないアカネイア軍や明らかに戦意の見られないグルニア軍

 

これ等が何をしでかすか分かったものではない

 

 

そうハーディンが判断したが故の事だった

 

 

 

 

 

元より、遠征軍でありながら物資は十分とは言えなかった

 

ハーディンとて今のアカネイアの懐事情を理解していない訳ではないし、足らないなりのやり方(オレルアン式節約術)を理解し実践している

 

 

(⋅⋅⋅⋅潤沢な物資など望むべくもないが)

 

少なくともハーディンやその配下の騎士達にマルス達は今の大陸において物資が滞りつつある

それを理解している

 

 

商人であるアンナを迎えているが、彼女の伝で用意出来る物資にも限りがある事も知っていた

あの全く信用ならない大賢者とやらに振り回されたが為、アリティアでは最低限の治安回復すら叶わなかった。当然だがアリティアでの食料調達など論外

オレルアンに食糧支援を求めようとも考えたが、自分達がオレルアンを離れたのはオレルアンを取り戻した直後。マケドニア軍を打倒せんが為に財政的にかなり厳しいなかで軍備を維持してきた

オレルアン城こそ解放したが、今思えばオレルアン軍の中核を担っていた自分達がそのままマルス王子に同行した事でオレルアン軍の戦力はどれだけ低下したのだろうか?

 

本当に今更な話だが、

 

作物とは「用意せよ」と言って即座に用意できるものではない

マルス王子の近衛となったクリスの話を聞くに、食糧事情をかつての水準に戻すならば年単位の時が必要であるようにハーディンには思えた

 

敵を倒すのは勿論必要だろう

 

 

だが、敵を討ち果たしたとしても民や国が荒廃していてはどうにもならないのではないか?

 

そう思えてならなくなっていく

 

 

 

 

 

元々ハーディンは騎士達を纏める立場にあり、文官とは対立しがちな武官である

事実今回の件が無ければ、彼もまた一介の武人或いは武官としての考え方しか出来なかっただろう

 

当時はドルーアに対して降伏を主張した文官達にハーディンは猛反発したものだが、今ならばその理由も理解できる

 

 

アカネイアやグルニアを見れば嫌でも理解する

 

 

一度民からの信を失った国がどれだけ危ういのかを

 

保身もあったのかも知れないが、確かにマケドニアによる侵攻を許した。その時点でオレルアンの民が自分達を見限ったとしてもおかしくはなかったのだろう

 

幸いにも、兄や文官達の統治が良いものとなっていたのだろう。故にオレルアンの民はマケドニアを倒した後、元の体制に戻れたと聞く

 

 

 

「⋅⋅⋅恐ろしいものだ」

 

つまり、民の支持とは容易に覆る

自分達の生活が脅かされれば、如何なる名将だろうともその支持は失われる

 

 

事実、ニーナ様を結果的にお救いした騎士カミュ

彼は騎士道としては賛否が分かれる事をしたとは思う

 

が、民衆からすれば自国を窮地に追いやったと見られていると聞く

たった一度の判断でそれまでの全てを否定されたのだ

 

 

 

名誉挽回

汚名返上

その機会すらかの者には与えられなかった

 

 

その騎士ですら背筋の凍る様な冷酷さを民衆は持っている、などとハーディンには想像すら出来なかった事

 

 

「民を敵に回すおつもりか!」

オレルアンでかつて激論を交わした時、文官はそう口にしていた

その意味が漸くハーディンにも理解出来たのだ

 

 

 

 

 

----

 

 

 

「それで、ミネルバ殿の部下を彼女の元に戻せぬのか?」

 

「⋅⋅⋅⋅出来なくはありませぬ

が、その場合かの御仁に公が借りを作る事になりません。おすすめは出来ませんが」

 

ハーディンはアカネイア軍の中に天馬騎士がいる事を先の戦闘の際に確認している

マルスの元にいるミネルバとカチュアにロシェを出して確認させたところ、ミネルバの部下でカチュアの妹らしい

 

個人的な感情はさておき、彼女を支える人間は1人でも多いに越した事はない

ハーディンは直ぐにエストの身柄引き渡しをすべく動いた

 

 

 

⋅⋅⋅仮にも次期マケドニア王となる事がほぼ決まっているミネルバ

彼女との関係が拗れないに越した事はないのだから

 

 

 

が、彼女は奴隷でありその権利はアカネイア本国にいる人物にある

となれば、即日の解放が難しいのは勿論、交渉すら煩雑なものとなるのもまた道理

 

 

(⋅⋅⋅奴隷、か)

 

ハーディンは内心溜め息をつきたくなる

オレルアンにおいてはその様な蛮行が行なわれていない。そう信じたいが、アカネイアという世界の中心的国家で蔓延している制度が本当に他国では規制されているとは思えない

 

実際、アリティアのエリス王女は彼女がアリティアの王族であると知ってなお、奴隷として売られていたと聞く。

彼女を捕らえたのはグラの兵士であり、それを買い付けたのはグラに出入りしていたアカネイアの奴隷商人だったとも

 

 

確かにドルーアを倒せば戦乱は鎮まるだろう

が、それが真に平和足り得るのか?

 

彼の中に重い命題として残り続ける事となる

 

 

 

----

 

 

 

「⋅⋅⋅⋅私がマケドニアを」

 

それはマケドニアの降伏を認める条件

言うまでもなく、ミネルバに拒否権はない。仮に彼女がこの話を拒否したとなれば、マケドニアは賊徒とさして変わらないアカネイア遠征軍とグルニア軍によって荒らされるだろう

 

が、果たして自分がマケドニアを良く出来るだろうか?

彼女にはそれが不安だった

 

兄のした事が正しいとは思えない

だからこそ、マルス王子に与してここまで来た

 

 

 

しかし、彼女や妹マリアも兄の死を願った事は一度とてない

甘いとは思う。だが家族なのだから

 

 

兄がマルス王子の手にかかった後、ミネルバやカチュアは降伏を促した

これ以上の犠牲を出すべきではない、と

 

 

だが

 

 

「何を今更!

我等はミシェイル陛下のみに仕えると決めた者

敵を手に掛けられぬ。そんな半端な覚悟で陛下を裏切ったのか!」

 

誰1人として降伏に応じる者なく、そのまま海へと消えた

 

 

「⋅⋅⋅重い、な」

 

死んだ者達の命や想いすら背負わねばならぬ

妹マリアにこれを背負わせる訳にはいかない

 

 

全ては己の選択の果てにあるものなのだから

 

 

 

 

 

 

----

 

 

 

 

 

 

「なんでマルス王子は賊退治をしてくれないんだ」

 

 

ハーディン達が悪戦苦闘している頃、遠く離れたアリティア

その再建途上にあるアリティアの町の酒場でそう愚痴る者がいた

 

確かにマルス王子達が帰ってきた事でアリティア王国は再興出来たのかも知れない。が、失った命や生活が戻ることはない

 

アリティア城は真っ先に修復され、治安回復の為に王国は動き始めた

アリティア騎士団は壊滅しており新たに召し抱えられた騎士アランやマルスの腹心モロドフ。元アリティア騎士であるマクリルがエリス王女と共にアリティア再建に向けて動いていた

 

 

人手が単純に足りておらず、心ある者の多くはドルーア、グラ連合軍と戦い戦死

居るとしても、マクリルの様にやむにやまれぬ事情から騎士団を離れた者ばかり

 

無論、それでも賊程度ならば問題ない

 

 

 

 

しかし、である

アリティアの近隣にはグラやカダインといった国家が存在している事がアリティアの民にとっての不幸だった

 

 

 

----

 

 

 

カダインは砂漠地帯であり、略奪出来る場所は限られている

 

グラは確かに唾棄すべき裏切りを働いた

しかし、ドルーアに与していたが故に国内の混乱は起きたものの略奪を生業とする賊徒の動きはそこまで大規模にならなかった

 

 

それに対してアリティアはどうだろうか?

アリティアの主力たる王宮騎士団(テンプルナイツ)はグラの裏切りにより壊滅状態

数少ない生き残りはマルス王子を守り辺境のタリスへと落ち延びた

更にドルーア、グラ連合軍によりアリティア城も陥落

 

となれば、アリティアは賊徒にとって格好の獲物と見えたとして不思議ではない

 

 

戦争により荒廃した人心は容易く人の道を踏み外させ、己よりも弱いものから奪う選択を選ばせる

 

一時的とは言え、統治能力を喪失していたアリティアは周辺の賊徒達にとっての楽園と化していたのだ

 

 

マルス達がアリティアを取り戻したとしても、賊徒達の中にはアリティアの辺境などで略奪を繰り返している者もいた

にも関わらず、それらの脅威を未だにアリティア王家は取り除けていない

 

仮にマルス達がアリティアに腰を据えて対応した上での事なれば、まだ大衆も我慢できる

ところが、マルス達アリティア軍の主力はアリティアに留まっていない

 

 

これだけでも不満は高まるのに

 

 

 

「⋅⋅⋅⋅なんでグラの連中の方がマトモな生活を送ってやがる」

 

 

 

 

---

 

 

アリティア再建の為の人手が足りていない事は先に述べた

 

 

物資や資金的な援助も必要だが、人員の不足はいかんともし難い

その為、グラのシーマ女王は自国民からの批判を覚悟した上でアリティアに対して支援を行なう事を打診

 

エリスとしても、複雑な思いではあるが国の再建を最優先とし、グラの提案を受け入れている

 

 

とは言え、グラとてまだ国の再建途上であるが為にアリティアへと派遣する者達に対してはある程度の扱いをしなければならなかった

 

祖国が再建中なのだ

普通に考えれば祖国再建にこそ従事したいと考えてしまうところ

粗末な扱いをした挙げ句、アリティアで問題を起こされたとなれば、それこそ本末転倒

 

 

そう考えたが故の事

 

 

 

 

が、アリティアの大衆にその様な事情なぞ解る筈もない

 

元々アリティアがここまで荒廃したのは他ならぬグラの裏切りがあったから

 

言ってしまえば被害者意識がアリティアの民に根付いていた訳だ

 

 

 

グラは苦しい中でもアリティアへの支援を行なっている

それは先の国王ジオルのした事に対する贖罪

 

しかし、グラの民衆はシーマのやり方に不満を募らせてもいた

 

 

 

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「資金が足らぬ、か」

 

現在アカネイアという大国を一時的に動かす立場にあるラング

彼は報告を受けて、深いため息をつく

 

「足らぬのは理解するが、ならば今までの様な金の使い方を改めねばならんのが解らんのか」

 

彼の元に届けられた意見。その多くは

 

臨時の徴税を速やかに行なうべき

とのもの

 

 

「⋅⋅⋅⋅グルニアとマケドニアを搾るしかあるまいな」

 

降伏の意思を示したグルニアとマケドニア

マケドニア遠征においてグルニア軍はさしたる活躍の場が無かったと聞く

 

 

となれば、それを口実に搾取するしかないだろう

 

それにマケドニアはミネルバ王女による新体制を受け入れているが、グルニアは未だに国王が変わる事も幼い王子王女を人質として出す事もしていない

 

 

グルニアは本当の意味でアカネイアに降伏したとは言い難い

未だに国内の混乱は収まらず、アカネイアに対しての不満を持つものも多いと聞く

ならば、こちらとしても遠慮してはならないだろう

 

不満はあれど、それでもこちらの意向を受け入れたマケドニアがいるのだ

 

 

「⋅⋅⋅⋅本当に厄介な人物だったのだな」

改めて今は亡きマケドニアの若き王の評価をラングは更に高めた

 

 

何せミネルバは王族なれど、マケドニアの産業や未来に対して暗い影響をもたらしている

それにも関わらず、マケドニアを降伏させた

⋅⋅⋅⋅⋅自身の遺命(最期の命令)として

 

民や軍からも恨まれているであろう人物を自身の後継として立て、それに従うことを納得させた

並みの求心力では到底不可能

 

 

 

とは言え、マケドニアもまた潜在的脅威

であれば

 

 

「⋅⋅⋅⋅手段は選んでおられぬ

許しなど要らぬ」

 

ラングは動き出す

全てを始めるために

 




足場を固めずに誰かを支えようとしても、その先にあるのは

別キャラルート ヒロイン

  • パオラ
  • エリス
  • ミネルバ
  • シーマ
  • ニーナ
  • ミディア
  • マリア
  • クライネ
  • カタリナ
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。