汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
英雄と呼ばれた者
が、その名声を失えば、その先には悲劇のみが残る
「⋅⋅⋅⋅なんでこうなっちまったんだ」
力なく項垂れる男
彼はとある村で暮らしていた
戦争になり、村からも人を出さねばならなくなった
それに男は選ばれた
少なからず領主の庇護を受けている村としては断る事は出来ず、村の中で一番戦力となる男が戦場に出る事になる
戦争とは
あらゆるものを闇へと落とすもの
逃げる事を許されるのは常に地位の高い者達
王族、指揮官などであり、最後まで踏みとどまらねばならぬのが兵士や騎士
同じ命でありながら、明確な差がそこにあった
男は指揮官やそれに従う者達が敗れ去ったのを見て、逃げた
⋅⋅⋅⋅いや、本能が叫んだのだ
逃げろ
と
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軍が兵を徴用する事は、本来恥ずべき事である
何故ならば、
その為に軍隊というものはあるのだから
徴兵する、というのはそれを果たせないが故に行なわれるもの
そして、騎士とは治安維持も行なうがそれ以上にその為にこそ修練を重ねている
単純に人員が足らない
等と言うのは言い訳にもならないのだ
⋅⋅⋅少なくとも、庶民からすれば
騎士や貴族というものはマトモに機能して尚、それでも庶民から好まれない
彼等は常に特権を享受しているから
ならば、せめて役に立つべき時くらいは働いて貰わねば何の為の存在か?
そう思われたとしても決して文句は言えない
実力や人望があったとしても、戦いで勝利したとしても
それで生活が良くならなければ、それは唾棄すべき存在にしかならない
幾ら動けたとしても
頭の回転が早かったとしても
実害を出してしまったものに世間とはとかく冷淡なものなのだから
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男のいる国は精強な騎士団やそれを率いるは大陸一の騎士である事を誇りとしていた
であれば、何故ドルーアに従わねばならなかったのか?
まず民衆はそこに疑問を抱く
自国を守る為
そう言われても実感はわかない
が、そうせねば自分達の生活が守れないならば、と
民衆はそれを受け入れる
ドルーアの勝利は決定的であり、既にアカネイアやアリティアは滅んでいた
民衆は平和な日々を送れるものと感じ、だからこそ国王や国を支持する
⋅⋅⋅⋅ところが、だ
滅んだ筈のアリティアの王子が、何の冗談かこれまた滅んだ、いや滅ぼした筈のアカネイアの王族を旗印として、反ドルーアの兵を挙げた
急ぎ、鎮圧せんとワーレンに大軍を送り込んだ
にも関わらず、敗北
この時点で多くの騎士達が帰らぬ者となり、国内には近しい者を失った嘆きが拡がり始める
救えない事に、この事実を国は民衆に教えることはなく、彼等がそれを知ったのはアカネイアが再興した
との話が商人から流れる事になってからである
自国の最高戦力は未だ国内に傷一つ負う事なく、それが近しいものを失った者達にすれば許しがたい裏切りに見えたとて、誰が否定できるだろうか?
その頃からだ
何故、滅ぼした筈のアカネイアの王族が生きていたのか?
あの時、アカネイアに居た軍隊は何処のものであったのか?
そんな疑念が生じたのは
そしてこうも思うだろう
既に脅威と言える相手はオレルアンくらいなのに、何故
主力を動かさないのか?と
⋅⋅⋅⋅⋅次第に民衆は軍やその判断を良しとした国王に対しても不信感を強めていく
そして、あろう事か根絶やしにせねばならなかった筈のアカネイアの王族を自国の騎士
しかも大陸一とまで謳われている騎士が命を助けた、というではないか?
ならば何の為に死んだのか?
何の為にドルーアに従ったのか?
何の為に、自分達は苦しい思いをしなければならないのか?
その時、民衆の中に憎悪の焔が
暗き焔が生まれたのだ
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アカネイアの遠征軍による略奪
それは確かにアカネイアに対する反感を強めはした
それ以上に自国の軍や国王に対して更に不満を高める事となる
更に民衆の中には
「自分達を見捨てて、アカネイアに降伏しようとしているのではないか?」
との声も上がる様になる
と言うのも、グルニア各地に点在している砦
アカネイア軍が侵攻していたにも関わらず、その多くはマトモな戦いすらせずに逃げたのだ
守るべき民を守ることなく
ならば、どうして軍や国王を信じられようか?
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当時グルニア軍はアカネイアの遠征軍を王都まで引き入れ、その事実をもってアカネイアに降伏する
という方針を取っていた
成る程、褒められたものではないだろうが、それもまた一つの方法だろう
⋅⋅⋅⋅⋅⋅守るべき民衆がいなければ、だが
グルニアは戦力の温存を選択し、降伏した後アカネイアに対して一定の発言力を持たんとした
その結果、民衆に血を流させるとも知らず
自分達を守るからこそ、国や軍を支持している事を忘れて
だから、民衆は
最低限やるべき事すらなし得ない
そんな組織に意味はないのだから
こうして、グルニア各地においてグルニア軍や国王に対する不満は爆発
とどめとばかりにアカネイアへ派兵した騎士団は壊滅。
グルニアに残されたのは、軍や国王に怒りを隠そうともしない
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戦力の無くなったグルニアはアカネイアに降伏する事を選んだ
が、グルニアに対してアカネイアは冷淡とも言える対応に終始
マケドニア攻略の為に戦力を用意せねばならず、国王を守る為にロレンスが何とか鍛えていた最後の戦力。⋅⋅⋅⋅とも呼べるかすら危ういものを動かさねばならず、食糧についてもグルニアが用意するしかなかった
そこまでしてマケドニア攻めに戦力を用意したが、結果としてマケドニア攻略において何の戦果を挙げる事も叶わない
更にドルーア攻略への参陣を求められた
それらの負担はグルニアの民衆にとって、決して許容出来るものではなく、グルニア国内では暴動すら起きる危険性が極めて高かった
国を守る為に選択をした筈
なのに、結果として民を苦しめ国は揺らいだ
更にアカネイアへ降伏した事による、賠償金
無法とも(グルニアには)思える負担。それにグルニアは耐えられるとは思えなかった
が、グルニア側は致命的なミスをしている
グラはアカネイアに服する証として、前王ジオルを
マケドニアはアカネイアが求めたミネルバによる新体制を
それぞれ差し出し、受け入れた
グラはその上様々な意味で支援(アカネイア的には献上)
を
マケドニアは恭順と新体制に移行した後の朝貢を
それに対してグルニアは国内の混乱を理由として、人質を出す訳でもない
何よりも、マケドニア攻略の軍とてグルニアから言い出したのではなく、アカネイアの要請に応じた形
つまり、グルニアは降伏したにも関わらず
アカネイアの為に働く事を是としていない
そう見られたのである
これではグルニアに対して寛大な態度を取れる筈もない
⋅⋅⋅⋅まぁ、元より諸々の事情から生け贄が必要であると考えていたのだが
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「⋅⋅⋅何ともならぬか」
グルニア軍総指揮官ロレンスは城下ですら不穏な雰囲気となっている事に心を痛めていた
国王は心労のあまり病に倒れ、兵士達の士気もモラルも低い
町へ出れば、兵士達に向けられるのは憎悪の籠った視線や冷たい言葉に態度
兵士達からすれば、自分達は徴兵されて日が浅く失態をした訳でもない
なのに、この様な扱いを受けるのは心底不快だった
責を取らせるべきものは還らず、ロレンスが責を取り頸を差し出したとなれば、グルニア軍の再建は不可能となる
国王は自身の死をもって民に詫びるべきと考えているのだが、そうなれば遺された王女ユミナ、王子ユベロのどちらかが国を導かねばならなくなる
国内が安定しているならばいざ知らず、今の状況でどちらかが国を治めるとして、果たして民はそれを受け入れるだろうか?
グルニアは闇の中にあった
アカネイアの方針としては、グルニアとマケドニアを犠牲として、後に繋げる事とした
変革には犠牲が
血が流れねばならない
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