悪食のヴェスタリヌ ~ヒーロー公安委員長と始めるヒロアカ生活~ 作:積み木紫苑
「お母さん、おなかすいた、おなかすいたよー!」
「もー、さっき食べたじゃない」
四歳になったばかりでお母さんと、認知症のおじいちゃんと娘のような会話をしていた私――上須田りぬは、お母さんに抱き着いて喚いた。
個性の発現がまだ見られていない私は、この頃すごくお腹が空いていた。何を食べても、すぐにお腹が空いてしまう。どうしようも無い乾きがあった。
「わがまま言っちゃだめ。ご飯は夜になってからね」
しかし、お母さんもお父さんも、私のこの言動を、気を引くための戯言だと思って、ご飯を与えてくれない。
――あっ、もう駄目。
私はすぐ横にあった、お母さんの喉元を食いちぎった。
*
私はどうやら、ヒロアカ世界に転生したらしいと気づいたのは、あの後お母さんの死体を見て錯乱したお父さんに、金属バットで殴られたからだ。頭が揺すられる感覚で、前世を思い出した。
私は生前、オタク寄りの女子高生だった。死因はトラックの信号無視。いわゆるトラ転というやつだ。
確か、転生直前に自称神様にも会った気がする。私は火の玉になっていて、その真っ黒な空間の中央には、男女の区別がつかないローブを目深に被った人がいた。
その空間には、私の他に六つの火の玉が浮かんでいた。
ローブを被った人が口を開いた。
「私は神です。君たち七人の転生者には共通項がある――そう! ヒロアカ読者だということさ!ってことで、ヒロアカ世界に転生させてあげる! 傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。君たちには、原作ぶっ壊れのチート個性を授けよう! おまけに、障害もあげちゃう!!」
なーにがオマケに、だ。なーにが。私の底なしの食欲は、つまり神のいうところの「障害」だったのだ。絶対コレ、トガちゃんの吸血衝動にあたるやつじゃん(?……トガちゃんってこんなに血に飢えているというよりかは、血が好きって感じだから違うかも?)。神よ、オリ主の属性はもっと考えたほうがいい。キャラ被りしてんぞー。
ああ! ていうか、どうでもいいや!!まだお腹すいてるなあ!!
せっかく新鮮な肉(お母さんの死体)が目の前にあるのに、お父さんに台無しにされちゃった!! イライラする。
私は、ケータイで「娘がおかしくなって、妻が……!!」と通報しているらしきお父さんの背後に高く飛びついて、首筋を食いちぎる。
ブシャア!!と血がしぼられた果実のように溢れて、テンション上がった。ほんま私、今世は異常者になっちまったな。
ガツガツ、とお父さんの肉を食べていく。うまうま。四歳児なのに食事を前にした馬鹿力かな、服もビリビリと破いて、全身美味しくいただいた。
次は、お母さんだ。お母さんのお肉は、お父さんよりもとろっとして甘くておいしかった。
フゥ、ごちそうさまでした。
……………………。
待って、私、殺人犯になっちゃった。しかも、今世普通に育ててくれたお母さんとお父さんを殺しちゃった。
すごく気持ち悪くなったけど、せっかく膨らんだ胃の中がもったいないので、必死に吐き気をこらえる。生理的な涙がじわりと浮かんだ。
ってか、普通に泣きたかった。別に殺したかったわけじゃないんよ……。衝動的にやっちゃっただけで。
「どうしよ……。刑務所? 少年院? とか行くことになるのかな」
逃げないと。
そう思った。きっとこんな危険な子供、優しくしてくれる人はいない。逃げてもいないかもしれないけど、ある種のパニックになってたのだ。
靴を履いて、玄関のドアを背伸びして解除して、外に出る。夕暮れで真っ赤な景色だった。先刻見た血よりは、黄味がかっていたけど。
とにかく、逃げなきゃ。
必死に、家の戸締りもせずそのままにして走り出す。
「はあっ……はあっ……」
どこに逃げればいいのかもわからなかったけど、とにかく家から離れたかった。だが住宅地の曲がり角を曲がった時、後ろから銃声が聞こえた。
バンッ。
え、背中が痛い。撃たれた……?
そん、な……意識が薄く……。
*
「あ、起きた」
「わっ?!」
……目が覚めたら、なぜかおっさん(といっても細めのイケオジ)が私の顔を覗き込んでいた。
私の口元には、マスクがついている。嚙み癖のあるワンコがつけられるやつ。そのマスクをつい触るけど、自分では外せ無さそう。
ここはどこ……? ていうか、真っ白で明るい部屋だな。ここは病室か?ベッドの両脇に仕切りがあるし。
部屋を見渡すと、その仕切りに、バイカラーヘアのお姉さんが寄りかかっていた。うひょー、巨乳だ。スタイル抜群だな~。って、この見た目。ここ、ヒロアカ世界だよね?
ってことは……、ヒーロー公安委員会直属の暗殺者ヒーローのレディ・ナガンじゃん?!生の原作キャラ、初めて見た!!
「レディ・ナガン?!」
つい声をあげる。表の彼女は人気ヒーローだ。端から見れば、レディ・ナガンファンの子供が興奮しているだけのように見える。ただし、彼女はそんな子供にニコリとも笑いかけはせずに、顔を引き締めた。そりゃそうだ、私一応殺人犯ですしおすし。
あれ~? なんで私撃たれたのに生きてるのかな、って思ったんだけど、それはレディ・ナガンが麻酔銃かなんかを撃ったのだろうと推測した。
おっさんは、青いスツールに座り直して、私から距離を取った。
「そうだよ。彼女はレディ・ナガン。ウチ――ヒーロー公安委員会直属のヒーローだ」
おっさんが言う。なーんかこのメガネのおっさん、見たことあんな~って思ったら、アレだ。前ヒーロー公安委員会会長!! 彼は、レディ・ナガンの方を向いて言う。
「ナガン。ここからは彼女との内密な話にしたい。下がっててくれるかい?」
そう言うと、ナガンは頷いて、私の視界から出て行った。扉を開けたガラガラ、という音もする。やがて、扉は閉まったのだろう。コツン、と扉と壁がぶつかる音がした。
「あ、あの……私……」
ひええ、死刑になるのかな……? 転生して約四年で?! でも、やっちまったことを思い返せば仕方ないんだよなー!!
「君の個性因子をね。調べさせてもらったのだけど」
委員長が、紺色のファイルを開きながら言う。
「君、個性複数持ちだね?」
は?!?!
思わず、ぶんぶんと首を横に振る。なんだよ、個性複数持ちって!!
AFOやOFAや能無じゃあるまいし!!
まったく覚えはない。両親もAFOと繋がっているようなシーンはなかったし! 私の個性因子は、青山君や死柄木弔のように、AFOにいじられてないはずだ。多分。
「実際そうなんだよなあ。君の個性因子は特殊でね。『ある個性』の中に、怪力と俊足――君のお父さんとお母さんの個性が内包されていた」
「ある個性……?」
「私はそれに名付けたよ。暴食と」
暴食ぅ……?まあ、確かに食欲エグかったけど。それが極まって殺しちゃったし。
そのときピンと、私は神が言っていたことを思いだした。
『傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲』
「え、もしかして委員長、転生者だったりする……?」
そうなのだ。頭から吹っ飛んでいたが、この世界、私の他にも六人の転生者がいるはずなのである。
すると、委員長は曖昧に微笑んだ。どっちなんだい! けど、沈黙は肯定って言うしな。つまり、私と同じヒロアカ転生者だってことだ。成り代わりかよ。
委員長はそして、さらに笑みを深めた。
「上須田りぬちゃん。君には、この名前を捨てて、これから公安直属の孤児院に入ってもらう」
「拒否権は……」
「無いに決まってるじゃん」
上須田りぬって名前、可愛くて気に入ってたんだけど、無くなりました。てか、ヒーロー公安委員会、孤児院も運営しているんだね。子供時代から、将来のヒーロー候補にツバつけるためかな。この委員長がトップなら、ホークスや転弧くんもいたりしませんかね。
もし、原作キャラ救済したがるオタクなら、もともと公安に保護されたホークスはもとい、(私のように)家族を惨殺した志村転弧をとっくに保護していそうだと思ったのである。
*
いました。ホークスと志村転弧。
ちなみに、どうでもいい情報だけど、私は主人公のデクくん推しです。