悪食のヴェスタリヌ ~ヒーロー公安委員長と始めるヒロアカ生活~ 作:積み木紫苑
前回のあらすじ・両親を食い殺して逃走した私は、ヒーロー公安委員会に保護されました。しかも、その前ヒーロー公安委員会会長(現委員長)は推測するに転生者。
その委員長が、数人の子供たちの前で私を紹介した。ちなみに、その子どもたちは公安直営の孤児院に所属しているらしい。その中には、赤い翼が生えた鷹見啓悟――ホークスと、死柄木弔の幼少期・志村転弧もいた。
「この子、今日から入るテディ・リリアちゃんだ」
「はっ?! テディ・リリア?!」
確かに、「上須田りぬ」という今世の名前を捨てることは聞かされたけど、そんなゲロ甘の名前になるなんて思わなんだ。なんだよ、テディって。ぬいぐるみじゃないんだから。
委員長は私のリアクションを意に介さず、言葉を紡いでいく。
「この子、わけあって噛みつき防止用マスクを外せないけど、揶揄ったりしないようにねー」
「「「はーい」」」
子供たちは素直に、声を合わせて返事した。
*
はぁ~。食事の時間だ。
両親の人肉を食べてから、気分的にはあまりお腹が空いてなかったけど、やはり時間経過で空腹になっていたらしく、食事時を待ちわびていた私がいた。
と、いっても私は、ポッキー状の野菜や肉しか食べられないんだけどね! 嚙みつき防止用マスクの網目から食べられるのがこれしかなくて。気分は檻の外からヤギに餌をやる気分。ちな、私はトッポ派です。
他の食事中の子供たちを見回すと、皆は普通のハンバーグ定食食べてる。いいなあ、私との差よ。私のスープなんて、ヤケドしちゃうので冷めたものをストローで吸って食べてるのに。具は細かく砕かれている。
「テンコ、頬にソースついてる」
「ん。ありがと、ホークス」
うわっほい。幼少期の死柄木弔を、幼少期のホークスが世話焼いてる。絶対見られなかった光景だ。レアすぎる。
ここにいる子供は、皆私のように名前を捨てているらしく、互いに新たにつけられた名前で呼び合っているらしい。転弧くんだけ「テンコ」だけど。
ちなみに私が、このマスクをつけながらどうやって歯磨きしたかというと、口に委員長から渡された、歯磨き機能がついたガムを入れて、噛んでおしまいにしました。他の子は普通に歯ブラシで磨いてた。
*
おやすみまでの自由時間、私の周りにはワラワラと女の子が集っていた。
「テディ・リリアちゃん、どこから来たの?」
「何が好きなの?」
「プリユア好きー?!」
転校生が転校してきた当日かよ!
とはいいつつ、興味を持ってもらうのはありがたいので、一個一個答えていく。
「東京に住んでたよー! アニメが好き! プリユア、私も好きだよ!」
「じゃあじゃあ、テディちゃんも個性障害持ちなの?」
私よりも小さい図体の子が、ずいっと身を乗り出してきた。
個性、障害……?
「こら! そんなこと初対面なのに訊いたら失礼でしょ!」
私よりも大きい身長の女の子が、その子の頭をペチリと叩いた。
「うわーん、ごめんなさい……」
「ねえ、個性障害ってなに?」
「知らないの?」
「うん」
「公安会長から聞かされてないんだ」
その大きい女の子が説明してくれた。個性障害とは、個性因子からの影響によって悪い意味で「普通」から外れた性格や、個性によって物理的に苦労している人たちのことを指すらしい。例えば、トガちゃんの吸血衝動は「精神的個性障害」、身体が成長しすぎて家から出られないとかは「物理的個性障害」。
単なる異形型の異能は、個性障害とは言えない。「障害」だからね。ただ、異形型にまとわりつく差別を問題視している団体が声をあげ、そこらへんを見直そうということに昔なったらしい。道徳の授業の改修がされたとかなんだとか。今では、異形型の差別は良くないという基盤の認識が全国で強まり、めでたしめでたし、らしい。デリケートな問題だからねえ。ということは、障子くんの顔の傷はつけられていなかったりしませんかね?
「だから私たち、そのマスク、個性障害のせいかな~? って思ってたの。私も個性障害あるよ!!」
「そうなんだ……」
そんな概念があったとは。確かに、私も個性障害持ちと言えるな。
*
孤児院の寝室は幼少期から男女別室だった。さすが公安直営。性教育からきちんとしてるわ。夜中、私はトイレに行きたくなり、もったりと上体を起こしてベッドから降りた。
うう、廊下にポツポツと蛍光灯が点いているとはいえ、薄暗いのには変わらない。
……あの委員長は、この世界にどんな改変を施しているのだろう。こんな孤児院や「個性障害」なんて言葉、原作には無かったと思う。
もしかして、AFOをもうタルタロスに収監していたりするかな?! だって、ここに転弧くんいるし。
孤児院のトイレは、温かみのある木造の扉が目印だ。ちなみに、寝室から近い所のトイレは一つしかないらしい。
すると、トイレの前にふたつの人影があった。
「テンコくん。ホークスくん」
「! ……テディ・リリアちゃん」
「テディ、リリアちゃん……ぐすっ」
「リリアでいいよ」
原作キャラのショタ二人組だった。この二人が、なぜかトイレの前を占拠している。テンコくんに至っては、泣いている。
「どうしたの?」
「テンコが泣きすぎて吐きそうになったけん、トイレで背中ばさすってやったんだ」
ホークスくんが説明してくれる。テンコくんが泣き崩れてるのは、やはり家族を殺してしまったトラウマのせいか。
「もしかして、テンコくんって家族を……」
「ああ。そうだよ」
「そっか。私も同じようなもんだ」
「……ここにいる子らは、全員ほとんどそうばい」
まじか! この孤児院の子供、全員前科持ちなのか!
あれ、でもホークスは、親は前科持ちでも彼自身はそうではなかったよね?
でも、ホークスを除いてみんなそう、ということなのかな?個性障害持ちが多いって、さっき知ったところだし。
「そっか……。嫌だよね、血にテンション上がる自分とか」
「ん?」
「あ、テンコくんの場合は違うのか。なんか、自分が完全にヴィラン堕ちした感じがして、本当に絶望する感じだよね。私、死刑になるかと思ったもん」
「んん?」
「委員長のおかげでまだ生きてるけど……。お母さんとお父さんに、酷い事したな」
「待って待って、何の話?」
「え?」
キョトン、とした様子でこちらを見つめるテンコくんとホークスくん。
「え、家族を殺しちゃった仲間としての共感だけど……」
「はあ?」
ホークスくんが素っ頓狂な声をあげる。え、なに? みんな前科持ちじゃないの?違うの?
――墓穴を掘ったああああああああああ!!!
「ごめん! 今のはタチの悪い冗談!! 忘れて!!」
「お、おう……」
ホークスくんが、ドン引きながらもテンコくんのことを説明してくれる。
「コイツ、スーパーヴィランと親が繋がっていたとかで、無理やり家族と引き離されたんだよ」
「そうなんだ……」
「……ぐすっ」
やはり、委員長はそこらへん、手を打っていたのだ。
テンコくん、末っ子気質なんだろうなあ。ホークスくんにぎゅっと捕まっている。
「ね。先ほどのタチの悪い冗談は、どうかみんなにはご内密に……」
「いいけど」
「ありがと!!! そして、ちょっとトイレ漏れそうかも!!」
すると、テンコくんとホークスくんは急いで扉の前から退いてくれた。やった!!!
私は急いで中へと駆けこんだ。
*
二人の男は、ソファに座って向かい合っていた。夜景を見ながら。背の高い白髪の男が、手のひらでワイングラスを揺らす。
「どうだい、郷間 真一くん。君にとってもいい話だと思うんだけど」
「ふっ、AFOめ。俺様が求めるのは、金・力・女……」
「勿論、高い報酬も用意した」
「AFO様直々に依頼とはなあ。AFOがよ」
「君、AFOって言いたいだけだよね?」
白髪のツッコミを無視しつつ、その男はワイングラスを一気に煽った。
「いいじゃねえか。その孤児院を襲撃すれば、高い能力を持ったロリハーレム形成もできる」
「……交渉成立だ」
男たちは、にんまりと笑った。