悪食のヴェスタリヌ ~ヒーロー公安委員長と始めるヒロアカ生活~ 作:積み木紫苑
「あの野郎、ずる賢くてね。私の先読みをことごとく回避する。殻木博士は取り押さえることはできたけど」
「ってことは、この世界に能無は……」
「存在しなくなった。しかし、あのAFOのことだ。博士がいなくても自力で作るかもしれないね。アハハ」
「笑いごとじゃないよ……」
「……AFOは殺す。私はそのために生きている」
決意に満ちた委員長の顔を、窓から差し込む夕日は鮮やかに照らしていた。
*
朝日が窓から差し込み、新幹線のグリーン車は静かに揺れている。車内には薄いコーヒーの香りが漂い、穏やかな早朝の空気が広がっている。外の景色は、田畑と住宅地が交互に現れては、すぐに遠ざかっていく
レディ・ナガンは、シートに深く腰をかけ、長い脚を組み替えた。彼女は無言のまま窓の外を眺めていたが、その鋭い目つきから、内心は常に警戒を解いていないことが見て取れる。
会長は隣の席で、新聞を読みながら小さくあくびを噛み殺す。その軽い仕草とは裏腹に、その視線は新聞の活字を超えて、心の奥で常に次の一手を考えている。
「……会長」
「ん?」
レディは彼に声をかけた。
「あの少女――上須田りぬのことだが」
「ああ、あの子の名前はもう『テディ・リリア』なんだ。それで頼むよ」
「……」 (テディ、リリア……。かわいい……)
「随分気になっているようだね。やっぱり、可愛いものが好きなんだ? 今度イギリス本場のテディベアでも贈ろうか?」
「い、いや、いい……。……しかし、うう……」
「揺れてるねえ」
会長は楽しそうにクスクスと笑った。彼女は首を横に二回振ってから、もともと何を言おうとしていたかを伝えることにした。
「あの娘も、AFO打倒に必要なのか?」
「勿論。欠けてはならないピースだ」
(あの、幼い少女まで巻き込むのか……殺人を犯したとはいえ)
「あの子を巻き込むのに不服そうな顔だね。大丈夫さ。あの子は強いよ」
……ナガンは表のヒーローとしての業務と、裏の暗殺者としての業務を遂行していた。社会の平和を守るためだ。それを命じていた会長に問うたことがある。
『希望を維持して……その先に何がある?』
『平和な世界だ』
彼はそう、ハッキリと断言した。
『超常黎明期から、この国の体制は変わっていない。政治体制も、治安維持も。ある意味、怠惰ということだ。……この国はね、超常に、仕組みが追いついていない。それを変えるまでの時間稼ぎだ。裏で幾人もの協力者に、じっくりとこの国を変えてもらうための手引きをしてもらっている。』
『会長。それは……ある種のクーデターということじゃないか』
『いいや? 違うよ』
『どこが』
『……私の個性は無個性ということに表向きなっているけど。本当は違う』
『!!』
『ナガンにだけ特別に教えるよ。私の個性は、世論と己の願望が嚙み合う時に、それが成就するという代物だ』
個性:願望実現
実際には強く願うことで、その願いに沿った現象が起こる。ただし、他者の意志を無視した願望は代償を伴う。だがそのデメリットは、願う者の数の暴力で押し切ることができる。
つまり彼は。国民の意識改革を数十年単位でしようとしている。
『は?……訳がわからねえ。そんなの、神みたいな強欲な個性じゃないか』
『そうだ、私が強欲だ』
彼女は、この頭のおかしい男を信じ、ついていく決心をした。
*
朝食前にみんな食堂に集まり、手を合わせていた。
部屋の四方には、公安職員がいてバインダーに何かを書き込んでいる。
今日の私のメニューは、具が細かく砕かれたシチューだ。シチューという料理は、なんといっても冷めても美味しい。うっひょー!! 他のみんなは普通の暖かいシチューだけど、そこに嫉妬していちゃキリがないと悟った。
「いただきま――」
その刹那、爆風が私たちの髪をさらった。
ドオォン。
「キャ?!」
「何?!」
風がテーブルの上の食器をカラカラカラ……と転がしていく。わあ、私のシチューが……。
「はーッ、はっはっはっはっは!!」
高笑いが、その空間に響く。男の声だ。
思わずその方向を向く。襲撃者……ってことだよね?!
――公安の頑丈な警備が、突破された――
……眩しい。壁と天井が壊され、青い空が見えていた。
そして、男が瓦礫の上に足を踏みしめて、高らかに問うた。
「俺様の嫁になりたいロリはどこだ? あと、ついでに志村転弧も貰っていく」
――不審者だァ。
赦すまじ……。食べ物の恨み……。
我慢できなくなったので言います。
この作品と上須田のテーマソングはORESAMA『ワンダードライブ』です
『アリスと蔵六』というアニメの主題歌でもあります。どっちもおすすめです