悪食のヴェスタリヌ ~ヒーロー公安委員長と始めるヒロアカ生活~   作:積み木紫苑

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※今後の話の都合により、公安本部及び孤児院は垢離里(雄英周辺)にあるとします


バディ血成!

 

私が次に目覚めたのは病室だった。自分の身体は、左腕がギプスで固定されていて、右手で服をめくるとお腹には何針か縫った後があった。上体をなんとか起こす。

 

「んしょ」

 

 すると、隣の寝台の間に仕切られているカーテンがシャッと開いた。

 

「……うお、起きたのかよ」

「あれ? 燈矢くん?」

 

燈矢くんと相部屋のようだ。

 

「君が無事でよかったよ、ほんまに」

「……お前もな」

 

なんて、無事を喜び合った。

 

そして退院当日。

 入院中に知ったことだが、ここはセントラル病院らしい。

 

燈矢くんは先日一足先に退院し、冷さんとエンデヴァーさんと共に家に帰っていった。エンデヴァーさんってば、公共の場で燈矢くんを抱きしめていた。そして小声で何かを言ったのち、燈矢くんを泣かせていた。冷さんは、暖かい眼差しでそれを見つめていた。何か、轟家が良い方向に向かっているっぽい? それなら良かった。閑話休題。

 

AFOの襲撃に関して、エンデヴァーにはお咎め無しだけど、轟家インターン期間は、入院やらなにやらで潰れたので私は孤児院に帰ることとなった。私のいた病室には、公安職員一人(あっ、てかこのくせ毛のベージュ髪、あの目良善見さんじゃないか! 原作の頃とは違い、ワイシャツの第一ボタンまでしめていて、ネクタイもきちんとしている!)だけではなく、委員長も来ていた。

 

「委員長~、結局インターンの真の目的はなんだったの? 私を囮にしたでしょ」

「そうだね。囮にしたよ」

「やっぱり!」

「今回はごめんね。追々、説明するよ」

 

 廊下を歩く。エレベーターの前に着き、委員長は「下」ボタンを押すかと思いきや、「上」ボタンを押す。おや? 帰るんだから、下に行くのでは?

 

「目良くん、君はここで待っていてくれ」

「はい」

 

 目良さんには、エレベーター前の空間での待機を命じた。んん?

 

「その前に、君に会わせたいひとがいるんだ」

「会わせたい人?」

「……『怠惰』の転生者だ」

 

 なるほど、怠惰さんは心臓が弱い。だから病院にいるのね。それにしても。

 

「エンカウントが急じゃない?」

「そうでもないよ。君に話すべき時が来たということだから」

 

 最上階に近いフロアに、エレベーターは着いた。委員長は真っすぐ廊下を歩く。私もそれに続いた。委員長がある扉の前に立ち止まる。そこには筋骨隆々のオールマイトもいた。

 

「リリアちゃんじゃないか。元気そうでなによりだ」

 

 いや、元気そうで何よりなのはそっちもだよ! ちょっと頭の片隅で、オールマイトがAFOと戦ったことで原作開始時点のような怪我を負っていたらどうしようかと気がかりだったのだ。

 

「オールマイト、なんでここに?」

「怠惰くんがOFAに関わる人物だからだ」

 

 委員長が答える。OFA……?

 

 え、怠惰さん何者?

 委員長は、扉の横にある虹彩認証に目をかざして、扉を開いた。病室にしては、かなり堅牢な警備じゃないか。

 

「会長、オールマイト。久しぶりだね」

「お久しぶりです」 オールマイトが会釈をする。

「そこの小さいのは……ああ! 話には聞いているよ。やあ、暴食ちゃん」

 

大きな機械に幾つもの管で繋がれた若い男の人が、そこにはいた。儚げな笑みを浮かべて、軽く手を振っていた。

 

「こ、こんにちは。……委員長、怠惰さんのこの機械って」

「彼は物理的個性障害――私たちでいう神からの障害により、身体の各器官が毎秒止まる寸前なんだ」

「そんな……?!」

 

それは……委員長から、事前に怠惰さんは心臓が弱いって聞かされていたけど、そんなレベルじゃない。凄まじいな……。

 そういえば。

 

「あれ、オールマイトも転生者のこと知っているの?」

「昨晩、会長から君もそうなのだと聞かされた。驚いているよ」

「そうなんですね」

 

 オールマイトも、非転生者なのにもかかわらず事情を知る側の人間ということか。

 

「ねえ、委員長。怠惰さんがOFAに関わっているってどういうこと?」

「そうだね、もったいぶる必要性は無い事だし」

 

 委員長は、怠惰さんに手を向けた。

 

「紹介しよう。彼は記憶保持転生が二回目の、死柄木与一さんだ」

 

「……は?!」

 

 転生者だけど、原作キャラ。しかも、ただの原作キャラではない。OFA一代目――主人公の能力に関わった始祖ではないか。しかも転生二回目。つまり人生三回目。そんなんアリなの?!

 与一さんはゆっくり頷いた。

 

「ああ。僕は兄さん――AFOに殺された後、君たちと同じ世界に一般人として生まれ落ちた。しかし、事故死によってヒーロー飽和社会のこの時代に転生した」

 

 本人の口から、決定的なことが語られた。

 

「……貴方も、ヒロアカ読者なんですか?」

「そうだよ。ヒロアカが僕らが生きていた世界の、未来軸のコミックだと知った時度肝を抜かれたけどね」

 

 あはは、と与一さんは頬を掻く。それから一拍置いて、真剣な表情になった。

 

「オールマイト」

 

 考え事をしていたのか、目の照準があっていなかったオールマイトが名を呼ばれて与一さんを見据える。

 

「原作のような大きな犠牲を出す前に……兄さんを止めてほしい」

 

オールマイトが、ゴクリと唾を飲む音がこちらにも聞こえてきそうだった。

 

「……はい」

「うん。それから……リリアちゃん」

 

 私も呼ばれた?! つい、背筋を伸ばす。

 

「ヴィラン堕ちせずにはいられなかった『彼ら』を……救けてやってほしい」

「たすける……」

 

 真っ先に、ヴィラン連合のキャラたちが思い浮かんだ。そうだよな、トゥワイスが死んだシーンとか、そうなった過去回想とか、普通に悲しかったもん。

 

「わかりました」

 

 私が頷くと、与一さんは「フッ」と目を伏せて笑った。

 

「すまないね。僕はこの通り、この身体だから……託すことしかできなくて」

「自分を卑下しないでください。貴方は役に立っている」

 

 そう言って、オールマイトは白い歯を見せた。

その後、オールマイトと与一さんと別れ、セントラル病院の一階へと向かい、車に乗り込んだ。

帰りの車は、目良さんが運転してくれた。その後部座席で、私と委員長は座る。窓の外には、街の風景が流れていく。

 

「君を轟家に行かせたのは三つの目的があった」

 

 委員長が急に喋り出すので、そちらを向く。

 

「三つもあるの?」

「ああ。一つ、轟家の家庭事情に君という異物を入れることで変化を起こすこと。

二つ、AFOを釣ること」

「……もう一つは?」

「もう一つ内通者を炙りだすことだ。孤児院の位置がわかったことといい、公安内にスパイがいることをこちらは疑っていた。だから君が私の実の娘だというデマを公安内で密かに流し、おびき寄せたのさ」

 

 なるほど、私はスパイとAFOの、どちらも囮役だったのか。

 

「うがァ……」

「なんだい?」

「いや、公安に捕まった時点で私に自由なんて無いのはわかっているけどさ、もうちょっと事前に言ってほしいっていうか……」

「それは難しいな」

「だよねえ。はあ~、フィクサーめ」

「あはは。でも、私なりに君のことは大切にしているんだけどね」

「本当かなあ」

「そうだ、今回頑張ってくれたご褒美に、アイスをあげよう。目良くん」

 

 委員長が、前方の運転席に声をかける。アイスで釣ろうとしてるな……。

 

「……はい」

「これから銀行が近くにあるだろう。その付近のコンビニでハーゲンダッツを三つ、買って来てくれないか?」

「はあ」

「ハーゲンダッツ?! 三つも?! 全部私の?!」

 

 うっひょー、贅沢だ! ちょっと抱えていたモヤモヤが飛んでいく。

 

「そうだよ。味はなんでもいいよね?」

「なんでもいいです!」

「わかりました」

 

 目良さんが車を停めて、財布を片手にコンビニへと向かった。車が「バン」という音を立てて閉まり、振動をこちらに伝える。るんるん、アイス楽しみだな~!!

 

「さて、ここでリリアに任務があります」

「……任務?」

 

 おっと、この委員長、何か企んでいるぞ。彼は、窓の外――銀行の傍に立っている男を指さした。

 

「あそこにいるのは、未来のトゥワイスだ」

「え」

 

 確かに、その男の素顔は金髪だった。ウロウロとしていて、挙動不審でもある。

 

「リリアには、彼がこれから行おうとしている犯罪の抑止をしてほしい」

「幼女に頼むことじゃないよ?!」

 

 これから行おうとしている犯罪……銀行強盗か。

 

「まあ、抑止と言っても説得だ。いきなり、私が彼に話しかけても警戒されるからね。君を繋ぎに、彼の犯罪を止めたい」

「説得って言ったって……真正面から『銀行強盗やめようよ!』なんて、自分の頭の中の計画をそこらへんの子供に見抜かれている方が不自然じゃない?」

「真正面からいかなくていい。とりあえず、彼に個性を使わせて犯罪を実行させないための時間を稼いでほしい」

「時間を稼ぐ……」

 

……与一さんにも、ヴィラン堕ちをできる限り止めてやってほしいと言われちゃったしなあ~。私に拒否権なんて無いんだし。

 

「わかりましたよ、もう」

 

私は車を降りて、彼に近づく。あー、なんて話しかけよう。

 

「も、もしかして分倍河原仁?!」

 

 彼のフルネームを呼ぶと、バッと彼は振り向いた。

 

「分倍河原仁でしょ! 握手して!」

 

 うん、我ながら謎の話しかけ方だな。

 

「なんで俺の名前を……」

「あ、エット……地方新聞に載ってた!」

「地方新聞……?」

「バイクの事故」

 

 トゥワイスは、十六歳――ちょうど今の時期だ――にバイクで事故を起こした。それが原因で、住み込みで働いていた職場から解雇されてしまうのだ。そんなちっちゃい(トゥワイスにとってはデカい)事故が、新聞に載るのかはわからないけど。

そう言うと彼は、自分の過ちを思い出し苦い顔をした。そして、なぜ事故っただけの己にこの幼女は握手を求めてくるのだろうか、と困惑しているようだった。

 またその困惑とは別に、初めて罪を犯す直前の人間特有の、ビクビク感が彼にはあった。……もしかして、この人、今回企てた銀行強盗が初犯になったりする?

 

「とりあえず、握手!!」

「お、おう……」

 

 トゥワイスが、かさついた両手で私の手を包んでくれる。優しい包み方だ。やっぱり彼は、根はとても優しくて良い人なのだ。

すると、背後で車の扉を閉める音が聞こえる。

 

「おやおや、ウチの子がすいません」

 

 委員長が歩いてきた。私の「時間稼ぎ」はここで終了ということだろう。

 

「えっと……」

「面倒を見てくださったようですね。すいません」

「えっ、面倒ってほどじゃ」

「是非ともお礼をしたいですね。良ければ、我が家で茶でもいかがですか?」

 

 は、話の流れが強引~!!! 我が家=公安本部ですかね。

 しかし、トゥワイスはそれでも、銀行を襲うと決めた覚悟が強いようだった。

 

「いえ、あの俺、これから予定があるんで……」

 

 すると、委員長は目に圧をかけて、彼を見つめる。

 

「銀行強盗だね? 分倍河原仁くん。十六歳、個性は二倍」

「っ?!」

「おとなしくついてくれば、君にはそれ相応の待遇を与えよう」

 

 お、脅したぞこの人~?!! 結局私の「時間稼ぎ」という名の警戒されないためのつなぎ、意味ないじゃん!

 

 

二か月後。

 

「おう、リリアちゃん!」

「あっ、トゥワイス」

 

 私とトゥワイスこと、分倍河原仁は公安の廊下で対面していた。それぞれの横には、黒スーツの公安職員がいる。

 トゥワイスも公安直営の孤児院に所属――しているわけではない。なんでも、委員長が最近始めた公安主催の、十代の公安所属ヒーロー育成プログラム(※衣食住付き)を受けているのだとか。だからトゥワイスと私はあんまり顔を合わせず、公安内でたまにこうしてすれ違うのだ。

 

結局、委員長がトゥワイスを脅した後、彼はしぶしぶついてきた。その後のことは、私は孤児院に帰ったので見届けていないが……応対室でトゥワイスの衣食住を保障する代わりに公安ヒーローとなる契約を持ち掛けたらしい。あ、車の中で食べるハーゲンダッツ美味かったです。

 

「頑張ってる?」

「頑張ってる!」

「おおっし! 偉いなあ!」

 

歯を見せてガッツポーズするトゥワイス。もう、あの初対面であったビクビク感は無い。毎食食べられているからか、彼の肌艶も初めて会ったときより良い。

 

「トゥワイスも元気そうでよかった!」

「んー、プログラムの訓練とか結構キツいけどな!」

「わはは、わかるー」

 

なんて、ほのぼのとした会話をしていたら。

 

「待ってくれ、赤黒くん!!」

「くどい!!」

 

 ドタドタ、と私の後ろから音がする。見ると、黒髪の男性と委員長が速足でこちらへと近づいてきていた。近づいてきた、というより、黒髪の人が委員長から逃げていた。

 

「委員長……?」

 

 それにしても赤黒。どっかで聞いたような名前だ。

 

「今の唾棄すべき贋者のヒーローを作っている総本山はお前らじゃねえか! 俺は屈しない!!」

「一緒になろうじゃないか! 本物のヒーローに、君が!」

「耳ざわりの良い言葉で騙すつもりなんだろう!」

「待ってくれ、まず話を」

「聞くか!」

 

 赤黒、と呼ばれた男は、私の傍を通り過ぎる。叫んでいることからもしかして……将来のステイン!? 委員長、彼にもツバをつけるつもり!?

 

「なあ、待てよ」

 

 トゥワイスが、赤黒さんの肩を掴んだ。

 

「お前、公安ヒーローになるためのプログラムを断るつもりなのか?」

「ああ!? ああ、そうだよ」

 

 赤黒がトゥワイスの方を向いて、唾を飛ばす。

 

「良い話じゃねえか。なんで断るんだよ」

「ヒーローは見返りを求めずに自己犠牲の果てに得うる称号だ。公安は、今の歪んだヒーロー飽和社会を作った、悍ましい罪の片棒を背負っている!!!」

「……俺は馬鹿だからよくわからねえけどよぉ、お前どうしたいの?」

 

 トゥワイスが頬を掻きながら問う。赤黒は、即座に答えた。

 

「この社会を正さねばならぬ」

「うわァ、デカい信念だぜ。俺、驚いてチビっちゃうよ。んで、お前は社会を正すために、具体的にはどうするのよ?」

「どう……とは……演説などを」

「俺、閃いちゃったんだけど、演説とかってヒーローがするほうが影響力あるくね?」

「……しかし、俺は公安の犬に成り下がるのはごめんだ」

「おーい、会長」 トゥワイスが委員長に呼びかける。

「なんだい?」

「俺たちみたいな将来が確約されているプログラムのヒーロー志望者って、所詮公安の犬なのか?」

「まあね」

「マジか! 会長正直者すぎるだろ!!」

 

 トゥワイスが突っ込んだ。いやほんまに委員長、正直すぎるでしょ。

 

「ただし、赤黒くんが言うような社会の変革は、公安側もしたいと思っている」

 

 その言葉に、赤黒は目を見開いた。

 

「……お前は、何がしたいんだ」

 

 そして、トゥワイスに問う。

 

「別に? 俺は公安に拾われて、命救われたからさ。お前のその目を見て、公安に入った方が幸せなのになって節介焼いただけだよ」

 

 そう言って、トゥワイスは公安職員と共に歩き去っていった。しばらくしてから、赤黒が口を開く。

 

「……公安会長」

「なんだい」

「すまなかった。先ほどの契約、受けてたとう」

 

 こうして後に、トゥワイスとステインは公安の名バディになるのだが……。まだこの二人はそれを知らない。

 

 

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