あんまり興味がない場合は読み飛ばしても問題ないです。
会議室で事件は作られる
キヴォトスの中心地であるD・U地区。そこに天高くそびえる白亜の塔、サンクトゥムタワー。連邦生徒会の本拠地ともいえるその塔の一室で、重鎮たる室長達が集まっていた。
「では次の案件ですが」
週に一度の室長以上による定例会議。ここでの決定事項がキヴォトスの明日を左右する重大な話し合いの場だ。集まった室長達も、次々と上げられる議題に意気軒昂に意見したり修正案を提出したりと、舌戦を繰り広げている。サボり魔として知れ渡っている交通室のモモカですら、アクビ混じりとはいえ、出席して資料に目を通していた。
そうしていくつもの案件に決着をつけ最後の議題に移った。その頃にはシャッターの隙間から茜色の光りが差しこんでいた。早朝から続いた会議がそろそろ終わることもあり、幾人かは少し気が緩んでいる。
「防衛室より上げられた『巨大生物の殺処分』についてですが、詳しい説明をお願いします」
そんな中に投げこまれた議題は、一瞬部屋を騒がしくさせた。室長の一人が慌てて資料を探し出す。見つけ出した資料の一枚目に載せられた写真にはイビルジョーの姿があった。
室長達の準備が整ったのを確認したカヤがマイクのスイッチを入れる。
「はい。説明の前にまずはこの場を借りて謝罪を。エデン条約のゴタゴタにより、巨大生物の調査に時間がかかってしまいました。一刻も早く対処しなければならないことだというのに。ここまで遅れてしまい、申しわけありません。さて、本題ですが、調査の結果この巨大生物は肉食であるということとその巨躯から危険な生物であることは明白であり、防衛室としては一刻も早く殺処分すべきと提言いたします」
言葉はなくとも会議室内に賛同の気配が広がる。
「この巨大生物について存在が確認されたのは、エデン条約当日です。ゲヘナからトリニティへ侵攻していったのが多数確認されています。その後、ゲヘナの生徒二人、ゲヘナの風紀委員長である空崎ヒナ氏、そしてシャーレの先生を背に乗せ、シャーレまで侵攻してきたのも確認されています」
カヤの言葉に配られていた書類をめくる音が響く。
「カヤ室長がおっしゃるとおりなら、かなりの移動能力があるようですね」
「殺処分する際、暴れられたら少し困ったことになりそうですね。被害範囲が広くなると面倒だ」
近くの室長同士で耳語が広がる。言葉を切り部屋の様子を眺めていたカヤは満足したように頷く。
「この巨大生物ですが、先程述べたゲヘナの生徒二人のうち、その一人である愛清フウカが所有しているようです」
「質問があります、カヤ防衛室室長」
「何でしょう」
「何故、このような巨大生物の存在がこれまで発覚しなかったのでしょうか」
その質問は至極当然のものだ。巨大生物を遠距離からとはいえ目測したおおよそのサイズは四十メートルという規格外。これだけの巨躯で今まで一度も発見されていないなどあり得ない。他の室長やリンも同じことを疑問に思っていたのか、耳をすませてカヤの回答を待っていた。
「これについては周辺住民に対する愛清家の立場とゲヘナという特殊すぎる環境が理由のようです。この巨大生物についてですが、周辺住民は当然存在を認知していました。しかしあの地域にとって愛清家は名家のようで非常に強い信頼が寄せられています。それこそ愛清家が白と言えばそうなるほどに。ですので、愛清家が巨大生物の存在を問題視していない以上、現地では問題となりえなかった、というのが理由の一つです。そしてあの辺りは寂れた住宅街ですので、愛清家の影響外の人間もあまり近寄りません。近寄ったとしても、巨大生物を前に逃げてしまうと」
「ちょっと待ってください。外部の存在によって発見されていたのに通報がなされなかったのですか」
リンの言葉にカヤは困った顔を浮かべた。
「ゲヘナに遵法意識というものが皆無ということはここにいるみなさんよくよく承知だと存じます」
カヤの言葉にその場にいた全員が大きく、そして力強く頷いた。この場にいる者ならば多かれ少なかれゲヘナ生の暴行に頭を悩ませたのは一度や二度では済まないだろう。だからこその実感のこもった頷きだった。
「私にはとうてい理解できませんが、そういう輩は面子を重視するそうです。巨大生物を畏れて逃げ帰ったとなれば面子は丸つぶれ。そこで口をつぐむ、と」
「意図せず隠蔽されてきた、ということですか」
「はい、そうです。そしてエデン条約当日に大勢の耳目を集めるにいたった」
「ヴァルキューレやクロノスは気づかなかったのですか」
治安維持組織であるヴァルキューレや、報道機関であるクロノスならばそれまでに気づいてもおかしくはないと問いが投げかけられるも。
「ヴァルキューレの回答では、ゲヘナにおいて愛清家周辺は非常に治安が良く、人員の不足からパトロールも行われていなかったようです。クロノスに関しては、一度だけ愛清フウカが取材されたことがあったようです」
「取材されていたんですか。そうしたらもっと大騒ぎになっているのでは」
「それが」
ここにきてカヤが冷や汗をたらりと流す。資料にはしっかりと部下が調査した内容が記載されているも、その内容はかなり信じがたいものだ。カヤもつい報告した部下に直接確認を取ったのだが、部下は顔を青ざめて報告内容に誇張は一切なく、聞き取りしたものをそのままあげたと証言した。
「そもそもその取材というのが巨大生物は関係なく、ゲヘナの給食部が不正に手を染めているのではというものだったらしく。余った食材や残飯などをどこかに運んでいると。それで尾行し突撃取材を敢行したらその途中、愛清フウカを怒らせてしまい、巨大生物の口腔内に投げ込まれてしまったそうで。そのときの恐怖から、誰にも言い出せなかったそうです」
「……捕食されなかったのですか」
「はい、幸いなことに。……服や機材は全て溶けてしまったそうですが」
「そう、ですか。恐ろしいことです」
食べられることこそなかったが、裸でゲヘナからクロノスまで逃げざるを得なかったのは、乙女としては死んだも同然だろう。室長達もその様をまざまざと想像してしまったのか、青ざめた顔で震えている。
「その恐ろしさの証明として、現在確認できている範囲の能力についても共有します。機動力については先程述べたとおりですが、さらには建物をも簡単に粉砕する膂力。アサルトライフルの弾程度では傷一つつかない防御力。そしてキヴォトス人の肌すら溶かす酸性の唾液など、生物兵器として恐ろしい能力を秘めているのが確認されています。これらはゲヘナ学園の食堂で確認された能力です。また、未確認情報ですが、口から吐き出す吐息には、唾液以上の溶解性を有しているという話もあります。以上のことからこの巨大生物、いいえ、生物兵器を直ちに殺処分することを防衛室室長として強く提案申し上げます」
リンは疲れたように頷き、部屋を見渡した。
「他の室として何か意見は」
真っ先に反応したのは人材資源室だ。室長はマイクの電源を入れることなく立ち上がると、顔を真っ赤に染めあげる。
「人材資源室としては、防衛室の提言通り、一刻も早くあの化け物を殺すべきかと。誰かが捕食されてからでは遅い」
ある程度の広さがある会議室に、人材資源室室長の声が木霊する。その反響が消えるよりも早く多くの室長が賛同をあげる。
自らの提案が他の室長に受け入れられていることに満足したのか、カヤは笑みを深めて珈琲に手を伸ばした。
「他に意見は」
リンの問いにアユムが手を上げる。
「調停室としては反対、というよりも賛同できません……」
口をつけようとしていた珈琲を置くと、カヤが眉根を顰めた。その表情ははっきりと険しいものに変わっている。
「それはどういうことですか。これほどの危険生物、たとえ一市民の財産であろうと殺処分しない理由を探すのが難しいでしょう」
キヴォトスではペットは飼い主の私有財産と認められている。だが、危険な生物なら届け出は不可欠だし、場合によっては許可を剥奪し処分を下すこともある。実際、数年前にレッドウィンターで、ヴォイテクと名付けられた熊が飼われていて問題になったことがある。連邦生徒会は今回同様殺処分を求めた。最終的には飼い主がヴォイテクを動物園へ預けるという形で決着したが。
しかしそれはあくまでヴォイテクが熊であり、熊ならば動物園で管理できるからの温情に過ぎない。議題に上がっているイビルジョーはヴォイテクのようにならないだろう。何せその巨体を収容できる施設が存在しないので人類の管理が不可能だ。そのためたとえフウカが処分停止を訴え出ても、司法も殺処分が妥当と判断することだろう。
「……カヤ防衛室室長のおっしゃるとおりです。個人的にも殺処分は已むなしかと思います。ですが、調停室としてはそれができないと判断しました」
「冗談ではないッ。あのような化け物、生かしておく意味はないだろうッ。それともどうやって殺すかが疑問なのか。それならば毒薬なり何なりいくらでも方法はある」
声を荒らげる人材資源室室長に、アユムは弱々しげに俯く。
「違います。方法の是非ではないのです。ことは
「それが何だというのです」
カヤは指を顎に当てると小首を傾げる。カヤ以外もアユムの言いたいことが分からないのか、困惑顔だ。
「先程カヤ防衛室室長がおっしゃったとおり、ゲヘナ相手に倫理や論理は通用しません。個人の好悪でしか交渉はできません」
「交渉などする必要ないでしょう。連邦生徒会による強制で」
「その場合確実に万魔殿が出てきます。内政干渉を理由に拒絶するでしょう。そうなった場合、今の連邦生徒会の力だけでは強制するのは不可能かと」
カヤが拳を机に振り下ろす。ガンと鈍い音が会議室に響く。
「ならばトリニティを動かせば良いだけでしょう。ゲヘナにあのような怪物がいるのであれば、殺処分に賛同、いいえ、協力してくれます」
カヤの言う通り、トリニティがゲヘナの戦力になり得る存在を許すはずがない。手練手管をつくし、全力でゲヘナの足を引っ張るだろう。少しでもトリニティとゲヘナの関係性を知っていれば、当然の帰結だ。
「調停室ならばその程度の工作ができる伝手くらいあるでしょう」
モモカ以外の視線を浴びたアユムが頭を振った。
「確かに調停室では平時、
「少し待ってください。警告とはいったいどういうことです」
今まで黙っていたリンが身を乗り出し声を荒らげる。他の室長達も訝しみざわめきが広がっていく。
「現在トリニティ上層部ではある風説が流布されているそうです」
「風説、ですか。馬鹿馬鹿しい」
リンが痛みを堪えるようにこめかみを押さえる。カヤもまた薄ら笑いを浮かべていた。
「楽観視できるようなことではありません」
しかしアユムのどこか強張ったような声音に、室長達が小首を傾げる。アユムは調停室室長として日々各学園と交渉を繰り広げているタフネゴシエーターだ。柔和な印象で中々気づけないが、連邦生徒会の中でもかなりの胆力を有する。そんな彼女が切羽詰まっていることに室長達は違和感を抱いていた。
「その風説とは、エデン条約の襲撃は連邦生徒会が裏で手を引いていたというものです」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。一体誰がそんな嘘を」
身を乗り出すカヤに、アユムは力なくうなだれた。
「問題は
「何故、ですか」
「ええ。頭の痛い話ですが、こんな風説が根強く信じられるほど、連邦生徒会の求心力と信頼が失われているということです」
誰もが息を呑んだ。確かにここ最近の連邦生徒会は失態ばかりだ。連邦生徒会会長の失踪以来犯罪率の急激な上昇や社会インフラの悪化などの歯止めに失敗してきた。それによる支持率の低下は、室長のみならず連邦生徒会に所属している全員がうすうす実感していることだ。それでも、連邦生徒会がキヴォトスの二大マンモス校へ攻撃するというあり得ない行為を行いかねないと思われるほど、信頼を失っていたとは誰もが思ってもみなかった。
快適な温度を空調が保っているはずなのに肌寒さを感じる。
「その噂について分かる範囲で良いです。全て報告をお願いします。それとトリニティのどこまで広がっているのですか」
リンは歯の根が合わない感覚に襲われながらアユムに問う。
アユムが手元の資料に目を落とす。
「まずこの噂が発生した理由ですが、どうやらエデン条約において連邦生徒会だけがダメージを負わなかったことが大きな要因のようです」
「待ってください。連邦生徒会は人員を直接派遣していなかったようですが、シャーレの先生は招待されていたのですよね」
カヤの疑問にアユムは頷いた。
「はい。しかしシャーレが名目上独立組織であることや先生自身が連邦生徒会の権限をほとんど行使しないことから、一般的にシャーレと連邦生徒会は別個の組織として認識されているようです。なので先生が参加していても、それはシャーレの先生としてで、連邦生徒会の先生ではないと判断されているようです」
「……その件について納得できませんが理解しました」
顔を歪めたリンが先を促す。
「連邦生徒会会長の失踪以降、連邦生徒会はその力を大きく損なっています。だからトリニティとゲヘナという、二大学園の力を削り、緩んだ手綱を引き締めようとしていると」
「何て愚かな。足を引っ張り合うトリニティらしい考えです。あのような大規模攻撃など連邦生徒会ができるはずがないでしょう。ただでさえ人手不足だというのに。カイザーPMCを雇ったとでも言うつもりなのでしょうか」
侮蔑を隠さずカヤが吐き捨てる。室長達は口々にそんな人材があれば、それだけの予算があればと口の端にのせる。しかしアユムだけは口をつぐんでいた。
「……あるではないですか。奇襲攻撃や電撃戦を得意とし、連邦生徒会の指示に従い、そして今、その所在が不明瞭な戦力が」
アユムの言葉にリンは顔を青ざめた。
「アユム、トリニティはこう言いたいの。SRTがエデン条約を襲撃したと」
「連邦生徒会の指示によって」
アユムは感情を排した声音で返答する。
「じょ、冗談ではありませんよッ」
カヤもまた叫ぶが二の句が継げない。口をパクパクと開閉し、無意識にかコーヒーをひと息に飲み干し、それでも息苦しそうにしている。
「先生の報告にもあったアリウスの特殊部隊と目されているアリウススクワッドはその名称と練度の高さから、FOX小隊と推測されています」
「あ、アリウスはそもそもトリニティの一派だったのでしょう。トリニティが連邦生徒会へ責任転嫁しようとしているのです」
もはや金切り声でカヤが叫ぶ。
「アリウスがトリニティから分裂したのははるか昔です。現代まで生き延びていられるとは考えづらく、それよりも歴史書から都合の良い情報を紐解き、連邦生徒会が隠れ蓑として利用していると考えた方が自然だ、と。そしてゲヘナとトリニティの襲撃のみならず、アリウスという名前を利用してお互いに相争わせ、さらなる力の低下を望んでいると。実際、パテル派によりゲヘナへの宣戦布告が成されようとしたというのも、この考えを補強しているようです」
「い、陰謀です、陰謀論ですよ、それはッ」
アユムは興奮しきった他の室長と違い冷静さを保ったまま首肯した。
「そうです。どこまでいこうと陰謀論に過ぎません。連邦生徒会の求心力の低下は事実ですが、それがゲヘナとトリニティを攻撃する理由にはなりません。SRTは予算と責任の所在という問題から廃校が決定され、在校生のほとんどはヴァルキューレに転校しています。またアリウスについても連邦生徒会は存在していたこと自体把握しておりませんでした」
アユムの言葉にカヤが強張っている笑みを浮かべる。
「そ、そうでしょう。ならアユム室長がその点を説明すれば――」
「ですが、立場のある人間の大多数が信じれば、それは真実になってしまうんです」
その言葉に誰もが口をつぐんだ。リンにいたっては眼鏡を外し、頭を抱えてしまっている。ぼそりと「……会長」と呟かれる。
「幸いティーパーティーは風説に流されてはいないようですが、それでもこの騒動で支持を失っているのは向こうも同じ。それぞれの派閥の声を抑えつけるのがやっとです。この状況でゲヘナの怪物を殺してしまえば、いよいよ以て彼女達の目には、有力な学園の力をそぎ落としていると映るでしょう。そうなればもうトリニティの連邦生徒会への不信を抑えられません」
「な、ならばトリニティは駄目でも、ミレニアムはどうです。弱体化したトリニティとゲヘナを暴走しないよう牽制するには十分なはずです。それに確か、生物研究部や古生代研究部等があの巨大生物を殺すのであれば、是非検体として亡骸をゆずってくれとヴァルキューレに詰めよっていたと報告されています」
それでもまだ諦めないカヤに、他の室長達は考えこんでいた。ことは危険な生物を殺すという単純な問題から、キヴォトスの学園間のパワーバランスにまで大きくなっている。下手な手は打てない。
そんな中、体育室室長のハイネがおずおずと手を上げた。
「ミレニアムの協力は無理じゃないかって……」
「どういうことです」
全員の視線に晒されたハイネは、一瞬身をすくめた。
「晄輪大祭の打ち合わせにミレニアムへ行ったんだ。そしたらセミナーの子が色んな部を集めて予算の削減を通達しているところに出くわして。何でもゲヘナの巨大生物に危害を加えようとしたからだって。だからミレニアムも協力はしてくれないんじゃないかなって。僕はそう思うな」
ハイネの言葉にカヤは固まった。リンが重苦しいため息をつき、全員に告げる。
「では巨大生物の殺処分について議決を採ります。殺処分に賛成の室長は。……五人。賛成が過半数に満たなかったことからこの議案は否決とします。ただし、いざという時に素早く対処できるよう、カヤ室長、巨大生物の研究は進めておいてください」
各々どこか不安げな表情をしていたが、提案が事実上却下され固まっていたカヤをのぞいた室長達は頷いた。
最後の議題を片付け、会議の解散を宣言したリンは、席を立つ室長達と違い力なく椅子に座っていた。
連邦生徒会会長の失踪以来代行としてやってきたが、最大級の問題が押し寄せてくる現状に、少し疲れてしまっていた。
そんな中、モモカが数枚の書類を差しだす。
「明後日までに目を通しといて」
「モモカ……。何度も言っていますが、窓口を通して」
「別に良いじゃん。後で渡すのも二度手間だし。……まあ、さ。悪いことばかりじゃないんだし、元気出しなよ」
明太ポテチをポリポリやりながら、モモカはあっけらかんと口にした。
「何がです」
問題ばかりの中、何が悪くないというのか。リンにしては珍しく嫌みでもなく純粋な疑問からつい訊ねてしまった。
「あの巨大生物だけどさ、ゲヘナの公道を歩き回るようになったみたいなんだよね」
それのどこが良い話だというのか。リンは頭痛を堪えるために片手で顔を覆う。
「まあまあ、ここからだよ。それ以降、ゲヘナの交通事故の発生件数が劇的に減少したんだよね。まあ、分かるよ。飛ばしすぎてあれにぶつかったりしたら
リンはかすかに微笑むと、モモカから書類を受けとった。
「そうね。そう考えた方が少しはストレスが減るかも。……そういえば先生はシャーレにいるのかしら。報告書の件で伝えたいことがあるのだけど」
モモカが尻尾の先で一枚目の書類を指す。それはシャーレからの報告書だ。日付は今日付け。内容に目を通せば、そこには件の巨大生物に会うためにゲヘナへ遊びに行ってくるとあった。
リンの手の中で、書類がクシャリと握りつぶされた。