黄昏時の尾花 作:イブリナ
原作1巻
〜〜
目次の注意書きは読みましたか?
捏造、改変、キャラ崩壊にご注意ください。
誤字脱字、誤用は永遠のお友達。
誰かの主食は誰かの地雷。誰かの地雷は誰かの主食。
合わないと思ったら静かに戻りましょう。
自衛は大事です。大丈夫、作者もたまに逃げる。
大なく小なく並がいい
そんな校歌の響く日本のとある町、並盛町。
すでに春は疾うに終わりを迎え、夏が始まるそんな季節。昔ながらも充実した設備を持つ広い町並に対し、唯一の公立中学校となる並盛中学校では、一つの騒ぎが起きていた。
「来やがったな、変態ストーカーめ!!」
早朝、多くの生徒が行き交う登校時間も終わる頃。1人の男子生徒の声が校舎から離れた道場に響く。
朝練終わりの道場。で、あるはずなのに人で溢れかえるような室内。
まだ剣道着を纏ったままの剣道部員たちはもちろんのこと、騒ぎに惹かれるように集まった一般の生徒で道場は埋まっていた。
その中央。集まった生徒たちに囲まれてぽかんと開いた空間に、竹刀を持ち立つ少年が1人。
頭以外の防具を身につけた彼が纏うは真白の剣道着。剣道部主将、持田剣介。
二年生ながら、並盛中剣道部のトップに立ち、主将を務める生徒であった。
「お前のようなこの世のクズは、神が見逃そうが、この持田が許さん!!
成敗してやる!!!」
「そんなぁっ」
そんな持田に対するのは、剣道部員2名に捕まった一年生、沢田綱吉。
ガクガクと震えて嘆く彼は、昨日、学内のアイドルと言われる女子生徒、笹川京子に電撃告白をしたという話が広まっていた。その姿は鬼気迫るものであり、京子の隣に居た人物を突き飛ばしながら行われたのであった――なぜか、パンツ一枚のみで。
悲鳴を上げて逃げた京子を責めることはできないだろう。
町中走り回って行われた電撃告白はたった5分ほどの出来事であったが、強い話題性を持って学校内に広まる。
そうして、翌日、登校直後に教室前で剣道部に引きずられていった綱吉は、持田の前に、昨日突き飛ばした先輩の前に立たされているのである。
綱吉は嘆く。するつもりのなかった告白のありさまにすら頭を抱えて登校拒否したかったというのに、教室ではクラスメイトに囃し立てられ、今は公衆の面前で先輩に詰られる。綱吉の羞恥は限界であったし、この暴力が割とまかり通る町(治安に対して不良が多すぎる)で育った並盛中の生徒は、手が早い者が多い。竹刀まで向けられては、いつ殴られるかと戦々恐々の気分であった。
しかし、持田は不良ではない。鬱憤晴らしを兼ねた見せしめの牽制と、好いた女子――京子に男を魅せたいだけである。
騒ぐ声が道場に木霊する。これは、娯楽好きな中学生たちにとって良い見世物であった。
「心配するな。貴様のようなドアホでもわかる簡単な勝負だ。」
ふと、道場の一部の声が止む。騒めく群衆も、中央に集まる剣道部たちも気が付かない。ただ、気付いてしまった上級生だけが、ピタリと口を閉ざし青褪める。
「貴様は剣道初心者。そこで10分間に一本でも俺からとれば貴様の勝ち!できなければ俺の勝ちとする!」
「商品はもちろん。笹川京子だ!!!」
剣道で勝負だ、と高らかに告げる声に、一部から驚きの声が漏れる。自身の領域で勝負しようとするやり方に、女子を賭けるという宣言。同級生以上の呆れた様や慣れたように囃す声からしても、これが彼の平常運転なのであろう。なんとも言えないセコさに、持田をよく知らない一年生は少しだけ引いていた。
商品と言われた本人はというと、異議申し立てをしようとして、友人たちに抑えられている。そう、彼女にとって持田は委員会の先輩でしかなかった。つまり、本人からしてみれば、商品にされる縁もゆかりもないのである。持田の好意も友人たちの気づかいも断りきれずに居た立場であるが、今回ばかりは文句を言わずには居られなかったのだ。
そして、勝負を告げられた対戦相手、綱吉はと言うと、
「(どーせ、オレはダメダメなんだ。勝てないし、逃げよう。)」
すっかり逃げ腰で居た。
勉強もダメ、運動もダメ、何やっても上手くいかないダメツナと呼ばれ、諦めているのが沢田綱吉である。
持田の言葉に覚える感情も何のその。ダメ人生と嘆く程度には己に自信がない。立ち向かったところでムダであると諦めて、静かに、さりげなく、トイレと言って逃げようとする。
その時、
「持田。」
静かな声が、騒めきの中を通り抜ける。
一瞬にして静まり返った人集りは、自然と入り口から真っ直ぐ左右に割れ、1人分の道が出来ていた。先ほど青褪めた者たちだけが状況を理解し、まだ数少なくとも見知った新入生の腕を引き、頭を下げて道場を出て行く。
そんな突如として広がった不自然な沈黙に、熱く盛り上がっていた筈の見せしめに水を差されたと、持田は怒りを持って応えようとし、その静寂を、見た。
「は、葉月……。」
「ちょ、やばくねぇか。」
「なんで、朝に。」
熱くなった思考に掛けられたのは特段の冷や水。
予想外の事態に、現れる予定のなかった存在に、同じように集まった剣道部員に動揺が走る。マズい、ヤバいと焦る2年生以上に、混乱しながらも伝わる圧に恐怖する1年生。
自身を囲む彼らの動揺につられるように、綱吉もまた、固まっていた。
入り口側、綱吉の背後から聞こえた声は、固い響きであっても、低くはなく。中性的ではあるが、間違いなく女子のものだった。周囲の反応からも間違いなくこの状況から救ってくれるであろう救世主。綱吉はこの出鱈目な勝負から逃れることが出来るのだ、と考えられた。
が、しかし、綱吉は振り返れない。
それは抑えつけられているからではない。すでにそんな力を彼らは入れていなかった。
ただ、それ以上に、綱吉を止めるのは理性か、本能か。
視線を彷徨わせ、何とか言葉を探して唸る持田に再び声が掛けられる。
「此れは、何の騒ぎか。」
「(この人、めちゃくちゃ怒ってるーーーー!!!)」
先ほどよりも近付いて来る声に、綱吉はブリキの人形のように首を動かし、顔を後ろに向ける。
――美麗。
そういった表現を表したかのような少女であった。
これぞ日本人と言える烏の濡れ羽。深みのある乱れなき黒。
静かな怒りを秘めた瞳を蔑むように細め、平伏したくなる圧を放ってもなお、一輪の華のよう、という言葉が似合う女子生徒。
「いや、葉月が出てくるようなことでは、」
「此の場を、何処だと思っている。」
「お、おれは!あのクズを成敗しようと!」
「ほう?」
「ひ、」
圧が、さらに重くなった。
思わずといったように誰かから漏れた悲鳴は無視され、黒曜石の瞳が綱吉に向く。
途端に離れていった部員たちに目もくれず、あまり身長の変わらない綱吉の顔をじっと見つめた彼女に、綱吉は相も変わらず、ピシリと固まったまま。小心者の彼にも関わらず、悲鳴すら挙げなかった。
その間、2秒となかったであろう見つめ合いは、葉月が再び持田に視線を向けたことで終了する。
「クズ、クズか。其処の
「そう、そうなんだ!」
「だが、其れは此処に持ち込むに値せぬ。」
誰も動かない空間で、一人、プライドから足掻こうと動かされた口。僅かな肯定を含められた言葉に、同意を得たとばかりにさらに重ねようとした言い分は、口に出る前から無情に切り捨てられる。
持田は自らの首を絞めていくのを自覚していた。
彼は知っている。この浮世離れした同輩は平常は真面目で穏やかで、慕われる人格者であることを。だからこそ、問答無用で伸されることはないと、言葉を重ねるのだ。しかし、同時に知っている。武への強いこだわりと、大人にも畏れられる苛烈さを。この並盛で剣を持ったが故、身を以て叩き込まれているのだ。
そして、今の自分は――
「神聖な稽古場に下らぬ諍いを持ち込んだな。」
葉月が、いつの間にか捨て置かれた綱吉用の武具を軽い調子で空いたままの入口、室外に放る。
ドンッ
「え?」
「すげぇ音しなかった?」
「それも、この様な愚かな細工までして。」
ヒュンッ
「一本だけで良い?」
「それは、それは、」
「一本の重さを分からぬ様な逆さ枝が我が校の剣道部に居たとは。」
軽く片手で振るわれた
その直線、手首を振るわせるだけで
「私の目も腐っていたようだ。」
冷ややかに、その武人の口角が僅かに上がった。
――今の自分は、間違いなく、彼女の
「外に出よ。」
ゆっくりと、真っ直ぐに下ろされた切っ先が、持田の正中から外される。両手に持ち直された竹刀は斜め下に下げられたまま。構えを取らぬその形は、攻撃の意図がないことを示す動作である。
その力の抜けたような仕草に、周囲の緊張が少しばかり緩んだ。
だが、納められぬ刀は、何かあれば切るという意思表示でもあることを知る持田らは、動くことができない。動こうとも、思えない。
「礼を一から叩き込んでやる。
その後ならば、正義の為の果し合いとやらも好きにするが良い。」
しかし、持田たちの強張りを一蹴するように、そう言い放つと、葉月はくるりとその場で反転する。彼らは、漸く外れた視線に自分たちの今後を悟りながらも、安堵すると、言われた通りに動くため、のろのろと行動を開始する。
ジッと、立ち尽くす綱吉を顔色悪くも睨め付けた持田も身を返し、未だ固まったままの後輩たちへと声を掛け始めるのを見届けて、綱吉はその場にへたり込んでしまう。一人駆け寄る京子が心配の声を掛け、それを強張った声のまま止める花子。怒濤の展開に、囁くような、興奮したかのような僅かな騒めきを取り戻しつつある群衆。彼らを葉月は視線だけで見渡す。
静かに、変わらない圧で。
「して、此度は我が未熟と目を瞑るが……」
声は張らない。
床に引かれた白線外へと進み出た彼女は、あくまで静かであった。
しかし、秘められた怒りと軽蔑を余すことなく伝える響きは、瞬く間にその場に広がる。何度目かの静寂をもたらした道場の主は竹刀を納め、目を閉じる。そして、すぐに開いた瞳は、強い意志を持って、軽い気持ちで道場に足を踏み入れた者たちに警告するのだ。
「次、この場を土足で荒らすような真似をすれば、即刻叩き出す。」
だれもが足下に視線を落とし、自らの白い上履きを見る。
ピシリと、走った緊張は、誰のものか。
綱吉は重力に逆らう髪がさらに逆立つような感覚に、抜けた腰も忘れて、ぱっと、立ち上がる。
「聞こえたならば散れ。雑草ども。」
「「「は、はい!!!」」」
続く意図的に低められた地を這うような声に、集まった人々は蜘蛛の子を散らすように、道場を飛び出していった。
緑たなびく並盛の、話題の尽きないなんてことない日常。
そんな日々を賑やかす騒動の、ほんの序章に起きた出来事である。
人の気配のしない、放課後の道場。
挙動不審になりながらも、開いていた入口から、恐る恐る道場をのぞき込もうとする男子生徒の名は沢田綱吉。今朝、この道場にて騒ぎの中心に居た一人である。
自身を最後まで睨め付けていた
「(落ち着け、落ち着け。別に悪いことをしに来たわけではないし、リボーンに言われなくったって、伝えるべきことではあるんだ。大丈夫、いい人だって噂だし……。)」
そう、綱吉は道場を後から支配した女の先輩、葉月琴乃に会いに来ていた。
琴乃は、学年も違う上、交友関係が狭い綱吉でも聞いたことのある名前であった。並盛中の、ひいては去年まで通っていた並盛小の有名人なのである。何かしらの役職に就く人間ではなかったため、姿を見るのはほぼ初めてではあったが、噂に違わぬ美貌に"葉月"の名に間違いはない。小耳に挟んだ噂は良いものばかりでも、ギャップの強すぎた怒りの姿は、その中の一つ、並盛の人間ならば誰もが知る風紀との噂と合わさって、頭の中で接触事故が起こしていた。
百聞は一見に如かず。
強烈な初対面は綱吉の中で積もり、良い噂で自身をなだめるも、恐怖を生じさせていた。
「(やっぱり、ムリ!!!)」
ガチガチに固まりながら、手を伸ばし、内扉の引き戸を開けるも、そこから踏み出せず、靴も脱げない。
まだ日も経っていないどころか同日に足を運ぶことになった道場には、人一人とて見当たらず、この調子ならば、もしかして普通に帰ることができるかもしれないと、安心で詰まった息を吐き出そうとした時だった。
「ほう?
「うわ!ひいっ、すみません!あれはわざとじゃなくってぇ!」
視界の外、奥にあった道場内の小部屋から出てきた少女が綱吉に声を掛ける。
急に掛けられた目的の声に飛び上がり、ほぼ反射で頭を下げた綱吉は、床を見つめたまま、あれ?っと違和感を抱いた。
「騒がしい。」
「わ、え、す、すみません。」
「そこで靴を脱げ。脇に揃えろ。敷居を跨ぐ前に一礼だ。……そこまで深くする必要はない。」
「は、はい!」
「声を落とせ。」
「はい……。」
淡々と続く指示に従い、もたつきながらも道場に足を踏み入れた綱吉は、パニックになるも、すぐにだんだんと落ち着いていった。
それは綱吉をこの場で慌てさせる要因、琴乃の声が至極静かで、穏やかなのだ。
その響きには綱吉が恐怖していた怒りが微塵も感じられない。流されるままに道場の隅に座らされ、二人で向き合うまでいってしまう。つられるように座ってしまったせいか、琴乃と同じく綱吉も正座だ。
よく知らない先輩と向き合って二人きりという状況に、ハッと我に返った綱吉は、いまさら足を組み替えることもできずに、ソワソワと視線を下に彷徨わせ、何故こんなことに、と微妙な気持ちになっていた。
「して、何用か。今日は休部にしてある。アレらは居ないぞ。」
「えぇと、その……」
ゆったりと紡がれた声は、先ほどの綱吉の印象と変わらず、いささか古めかしい言葉使いに反して穏やか。温かいとも感じないが、冷たいとも感じない。静穏、といえるべき感覚があった。不思議と耳に届く声は、この人の傍に居れば落ち着くのだろうな、と漠然と感じさせる。
先入観の恐怖が拭われていく中で、つい、比例するように綱吉の人見知りが顔を出す。
何でこうなったのか、何をしに来たのか、それより、気になったのが、さっきから持田先輩たちの扱いが雑に聞こえる。休部とか間違いなく自分たちのせいではないだろうか、絶対そうだ。俺、なんでこんな穏やかに迎えられてるんだろう。
「……。」
「ひいっ。」
「さっさと話せ、ダメツナ。」
「い、てぇ!」
混乱極まって自己嫌悪に陥りかけた綱吉の背を、いつの間にか現れたスーツ姿の赤ん坊が蹴り上げる。
たまらず上がった悲鳴にか、突如として現れた赤ん坊にか、相手の言葉を待つように沈黙を保っていた琴乃が、少しだけ目を見開いて、パチパチとまばたきをしていた。
前のめりになって背を押さえる綱吉の右隣に、綺麗に着地した赤ん坊は、愛用のボルサリーノを上に押し上げて、綺麗に座る少女を見上げる。互いの色合いの異なる黒の瞳が交差し、数瞬、琴乃の動揺が消えたのを見たのか否か、口を開いた少女に、リボーンはニヤリと楽しげに口角を上げた。
「……帽を取れ。室内だ。」
「ちゃおっス。失礼したな。
はじめましてだゾ。俺はリボーン。コイツの家庭教師だ。」
すかさず告げられた苦言に応え、流れるように取られた帽子。胸の前へと掲げられた黒の上で、鮮やかな黄緑のカメレオン、レオンがゆっくりと一度だけまたたきをする。そのレオンの行動を謝罪の会釈として受け取ることにした琴乃は、表に出さずともまだ困惑していたのか、純粋なのか。始めの驚きは為りを潜め、器用に正座したスーツの赤ん坊とカメレオンに淡々と対応する中学生の姿は異様である。
「い、たた……何するんだよ!」
「名乗り上げ、感謝する。葉月琴乃。末席ながら、剣道部にも籍がある2年生だ。」
「うぇ、あぁぁ、沢田綱吉です。1年生です……」
「ふむ、リボーン殿と沢田か。了解した。
とて、家庭教師と言えど校内に部外者は原則立ち入り禁止だ。了承は得ているのか。」
「え。」
衝撃から立ち直った綱吉が、横暴な家庭教師に文句を言おうとしても流れは変わらない。赤ん坊が家庭教師と名乗ったことに驚きもせず、すんなりと受け入れる様に、流れて自己紹介を返した後輩は、先輩は自分の母や想い人のような天然なのかと疑った。が、すぐさま続けられた言葉にそんな考えも頭から飛ぶ。
自分ですら何故ここに居るのかとツッコんだのだ。先輩、ひいては教師に何を言われるかなんて想像もつかない。学外の人間が取る滞在許可なんてものは綱吉にはさっぱりわからず、まず、こんな子どものふざけた遊びとしか思われないような言い分で、許可を取れるわけがない。
先ほどまでとは違う緊張で支配されそうになった生徒を知って知らずか、リボーンは懐に手を潜らせ――
「もちろんだゾ☆」
「あるのかよ!」
「そうか。」
三者三様、テンションが違い過ぎる。
提示された許可証の入った首掛けケースに、見えなければ意味がないと言い出す琴乃。綱吉は先ほど吹き飛ばした先輩天然説を引き戻し、どうか違ってくれと願う。このふざけた謎しかない押しかけ家庭教師様以外にツッコむ労力は使いたくないという切実な望みだ。
ちなみに、琴乃はひどくマイペースなだけである。疑問に思ったこともそれはそれ、これはこれと切り離して行動できるし、自分なりに納得する結論を出している。考えにズレがない、とは言い切れないが、自覚しているタイプだ。天然というのは常識外れのぶっ飛んだ理論を当然と考える類のことである。
「あぁ、もう!どうやって貰ったんだよ!」
「うるせぇ、言っただろーが。おめぇが頼りねぇから、わざわざオレが学校まで着いてきてやってんだゾ。感謝しやがれ。」
「いい迷惑だよ!って、いうか気にするなって言ってただろ!」
「それより、言うことがあったんじゃねぇのか?」
「あ、そうだった!は、葉月先輩!」
「なんだ。」
「えっと、その、朝、は、ありがとう……ございました……っ騒いでしまってすみませんでした!」
やっと言えたと下げた頭とともに肩の荷がなくなる感覚がする。そう、伝えたいのは感謝と謝罪であった。
いくら怒気に満ちた琴乃が恐ろしかろうと、冷たく見えようと、あの場から抜け出せたのは、間違いなく彼女のおかげだったのだ。あのまま戦うことになれば、自分がボコボコにリンチされる姿を綱吉にはありありと想像出来る。さらに、今回の件の原因となった事件――パンツ一丁で笹川京子に告白したということについて、クラスメイトの誰も言及すらしなくなった。
学内でも有名人である琴乃の威圧を受けたクラスメイトのほとんどが沈んだまま。朝は困惑していたはずの教師陣も、何を聞いたのか、午後からは同情の視線を向けるだけで何も言わない。そんな大人の態度が余計に不安を煽り、今朝に関連する話題を口に出せば、あの先輩が出てくるのではないか、と戦々恐々。普段は騒がしい教室内も静かなものであった。元気だったのは事情を知らない一部やいつも明るい京子くらいではなかっただろうか。そして、そういったタイプは綱吉に何か言うことはないため、多少居心地は悪くとも、落ち着いた一日を過ごせたのである。
もちろん、繰り返すようだが、綱吉も琴乃に対する恐怖に襲われていた。襲われていたが、それ以上に自身が騒ぎの中心に居た事実に恐怖していた。
琴乃は一度綱吉を見ただけで、野次馬と共に何も言われずに放り出された。正直、先輩たちが何を話していたのか覚えていないほど緊張していたのだが、緊張が去れば、助かった事実に感謝し、琴乃の怒りに申し訳なさを感じ、その怒りが自分にも向くのではないかと頭を抱えたのである。
あの先輩が何に怒っていたのかはわからないが、騒ぎの中心に居たのは持田たちであり、巻き込まれた自分である。問題を起こした非があるのは、間違いなく自分たちの方なのだ。
絶対に怒られると嘆き始め、二転三転と慌ただしい綱吉の情緒にため息を吐いたリボーンは、恩を感じたなら礼はしやがれ、と生徒を蹴り飛ばし、銃を突きつけたのであった。
「?」
「お、俺、持田先輩に絡まれて、でも、逆らえなくて、その、」
「そのことならば謝意は要らぬ。」
表情の変化は少ないながらも、きょとん、とした顔をした琴乃に言いたいことが伝わっていないと感じた綱吉は、しどろもどろになりながらも伝えようとする。が、パチンと止めるように叩かれた手と、すかさず告げられた否定に、綱吉は思わず面食らって、目を白黒させた。
「私は稽古場が荒らされたとて、参っただけだ。止めたのも、アレが礼を失っした故。
其方が本意でなかったのは、あの場でもわかった。今も、争い事には無縁と見える。」
音を立てて合わされた手が、驚いて顔だけ上げた綱吉に頭を上げろと促すように動く。
琴乃は微笑みながら告げる言葉には、激情に駆られているように見えて、そこまで考えていたのか、という感心と、まぁ、このひょろい身体ではそう思われても仕方ないか、という恥ずかしさが込み上げてくる。
「故に騒ぎを起こしたことに対する誠意は受け取ろう。とて、私の行動を気にすることはない。むしろ、散らす機会を奪ったことを謝ろう。」
「ほーう。」
正直に言えば、綱吉は話も聞かれず怒鳴られるかとも思っていたのだ。その場合、謝罪はともかく、感謝は吹っ飛んでいたと思うので、有り難いのだが、同時に申し訳なさが加速してくる気がして、居た堪れない。
「へ?」
ゆったりと喋る琴乃を前にそんなことを考えていれば、何故か謝られる。そして、それに大人しくしていた隣の赤ん坊が沈黙を破ったのだ。それも、興味深そうに。話の流れの読めない綱吉であるが、ふと、思う。
嫌な予感がする、と。
「アレの発言に腹を立てていただろう。人を景品だのなんだのと、本当に品が知れる。
本所属でもなし、
「……い、やいやいやいや。別に怒ってたって、そんな……俺、逃げようと思ってたし、勝負しても絶対にボコボコにされただろうし……」
「競技剣道であるならば、な。
アレがやろうとしていたのは剣道ではない。私闘だ。して、闘いとなれば所詮は時の運。素人とて、玄人を殺すことが出来よう。」
顔を青褪め、ひたすら首を横に振る。
読めない人ではあったが、本当に何を言っているのかがわからない。というか、聞きたくない。確かに、想い人を景品だと言われた時を思い返せば、嫌な気持ちになったし、文句の一つでも言いたくなったが、それと勝負とは別である。きっと綱吉のダメツナっぷりを知らないからこう言えるのだ。
「へー、良いこと言うじゃねぇか。オレみたいな一流ならともかく、そこらの二流、三流のヤツが素人相手にバカやることは確かにあるな。」
「武の道は心の道でもある。
どれほど薄くとも勝機なしとは到底語れまい。貴殿のような先人が着かれるならば尚更だ。」
(澄んだ、モノ……)
果たして、自分の想いはそんな高尚なものだっただろうか。今朝の光景を思い返しては、綱吉の"もしも"は続く。
もしも、琴乃が乱入せずに居たら。……降参と投げ出す姿や逃げ出す後ろ姿ばかりが浮かぶ。相も変わらぬダメっぷり。逃げ腰思考がなくならない。もしも、もしも漫画のヒーローのように、綱吉の覚えたわずかな正義感のようなものを振りかざして立ち向かえたならば……いや、やっぱりボコボコにされる姿しか浮かばないな。
ちらりと、目の前の人を見る。ピシリと真っ直ぐ自然に延ばされた姿勢に、余裕のある涼しげな表情、ゆったりと、しかし朗々とした語り口。自分はこんな風には慣れないないと、情けなく背が曲がっていく。
(もう感謝も謝罪も済んだし、リボーン置いて帰ってもいいかなぁ。なんか、楽しそうだし。このまま先輩の家とか行ってくれないかなぁ。)
だんだんとマイナス思考に向かっていった想像を無かったことにして、先輩と自称家庭教師(赤ん坊)というよく考えなくても謎の、よく考えるとほぼ知らない2人のテンポ良く続く会話を聞き流す。琴乃は剣道に限らず、武道、戦うことが好きなのだろうなと思わせる単語がポンポン出ていた。ヒットマンであるリボーンとの会話となると少しばかり物騒な単語たちだが、綱吉には半分以上もわからない。単純に知らない単語もそうだが、琴乃の言葉選び自体が綱吉にとって難解なのだ。だいたいの意味はわかるが、ちょっと間が空いてしまう。もしも、全て理解していたならば、先輩は本当に中学生か?というツッコミが出ていたであろうことをここに記しておく。内容は覚悟の決まった格下あるある。ようはビギナーズラック。
綱吉が逃げるならば、2人が話している間だったのだろう。まぁ、綱吉が考え込んでることを察して、話し続けていた2人、特にわざわざ考え事が終わるのを待っていた家庭教師さまには無意味なもしもである。嫌な予感を覚えた時ならば希望はあったかもしれないし、なかったかもしれない。
「と、いうわけで、リベンジを要求するゾ☆」
話半分に聞いていた綱吉は思う。
ちょっと聞き逃がせない単語止めてくれないかな???
「リベンジ?」
「結局、勝負はうやむやになっちまった。ボスともあろうものが、ナメられたまま終わるなんて許されるわけがねぇ。」
「ふむ。確かに汚名を着せられたままか。」
「奪ったっていう機会、おまえなら用意できるだろ?」
「……仕方なし。場を用意するのは構わぬが、あの様な見苦しいものは認めぬ。良いな?」
「問題ねぇゾ。その方がツナの評価も上がるだろうしな。」
「ッぅ―――待って、待って待って!?
何言ってんの、お前!!!問題しかないよ!?
先輩まで!ムリムリ!オレ、結局、剣も握ったことないんだってぇ――!!?」
とんでもないことをリボーンが言い出したのに、慌てて立ち上がろうとして、走るのは尋常ではない痺れ。慣れない正座にヤられた足に言葉が詰まる。その間にこれまた予想外にも了承してしまった琴乃に、当事者は自分なのに、と綱吉は精一杯否定を叫ぶ。
汚名も何も、ダメツナには下がる株すらない。むしろ再勝負なんて、触らぬ
「泣き言言うんじゃねぇ。このオレがねっちょり鍛えてやるんだ。それぐらいやりやがれ。」
「……ふむ。ならば、――――――」
「なるほどなんだゾ。」
少し悪戯っぽく口角を上げた琴乃に、リボーンが返すようにニヤリと笑う。
「おもしれーじゃねぇか。」
「(どこがだよ!)」
未だ足の痺れと戦う綱吉はツッコミすら出来ず、心中で悲鳴を上げるのであった。
おまけ
騒動の解散後、道場裏にて
「ワォ、珍しいね。」
「恭弥か。悪いが、集まっていた雑草どもは先に散らした。」
「ふーん。……まぁ、一応琴乃の縄張りだしね。」
「風紀を乱した、という点ではお前の管轄ではある。下らぬ乱痴騒ぎだ。部内だけの問題ならば、私だけで始末を着けたものを。……どうする?」
「今、それを咬み殺してもつまんないよ。」
「そうか。」
プロフィール[今話(綱吉1年生6月)時点]
葉月琴乃(HADUKI KOTONO)
年齢 / 13
誕生日 / 8月31日
星座 / おとめ座
血液型 / O型
身長 / 153cm
体重 / 48kg
出身国 / 日本
好きな言葉 / 散る、ほう 、ふむ
好きな寿司ネタ / ちらし寿司、カツオ
好きな食べ物 / ひとり鍋、草餅
――――――――――――――
~作者の独り言~
(長いのでご注意下さい。以下は無視しても問題ありません。)
今さら復活に嵌りました。何故。
古き良き少年漫画にして、ギャグ漫画の片鱗を残しつつ、王道バトルも踏襲する。
しっかりと読み込んだのは最近ですが、なんとなくは知っていました。あれだけのギャグ展開を伏線に変えてバトル漫画にしたのはさすがプロ。雲雀さん格好いいです(唐突)。
色々と浮気性ですが、復活の創作を書いてみたいなと思い立ち、幾ばくか。いくつか浮かんだネタの中、この話が膨らんだきっかけは、我らが主人公でも、家庭教師様でもありません。
たびたび言及してる風紀委員長?それもあるが、たぶん、作者の趣味で書き進めると絶対関わることになるので、あなたは前提です。他の守護者たち?ちょっと書いてみたいネタはありますが、保留してます。
ボンゴレ本部?ヴァリアー?ミルフィオーレ?シモン?アルコバレーノ?どれも違います。そもそも、マフィア関連ですらない。
お前だよ、持田先輩!!!!!
別に好きとかではありません(無慈悲)。
*注意
ここから特に私情が酷くなります。読まなくても大丈夫です。マシになった所で切り替え入れます。
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ギャグ展開にマジレスは冷めるのはわかっていますが、剣道かじった身としては持田先輩に言いたいことがある。
剣道舐めてんのかオラ。
(作者は体育の授業で道場に土足で踏み入れろと言われて、関係ない友人に笑顔で毒吐いて困らせていためんどくさい人間です。普通の中学剣道でこんなこと考えてるかと問われると、たぶんそんなに考えてない人の方が多いので、持田先輩は悪くないとは言わないけど、別に嫌いではありません。)
不正は論外だし、素人に何やってんだとも言ってやりたいが、それ以上に、一本の重さよ???
「一本で良い」って、素人だから一本も取れないだろうって?有段者でもそう取れんわ!?剣道の試合は三本勝負、その一本を取り合って延長線で何十分ってことだってあるというのに、なんだその態度は。心技体の心で不合格だ、永遠に上がらない旗をもどかしく見ていろ。
剣道に限らず、武道の一本って基本的に決まり技なんです。つまり、一本取られた時点で死んでるんです。そりゃ、スポーツ化されて実戦向けではないから掠ったぐらいじゃ判定もされないけど、心持ちだけは変えちゃいけない。不正の仕方馬鹿だな、と思う以上にこっちの台詞に「はぃ?」と切れたのが、作者です。
動機も動機ですし、試合にこんな騒がしい観衆付きなのも文句を言わせてほしい。描写のために絵を見直したら全員靴なのにもびっくりした。試合で許される応援は拍手、せめて感嘆の声までです。全員座れや。武道の礼儀を守るのだ。礼に始まり、礼に終われ!お辞儀をするのだ、持田!(急に始めたのはツナの方です。)
~~~
本当に、いろいろ、他にも言いたくはあるのですが、剣道かじっただけの作者でこう思うなら、他の関係者も怒りそうだよね、という発想から生まれたのが今回の武道大好きな和風少女、葉月琴乃です。女の子なのは作者の趣味。ただ、今後のインフレに剣道では着いていけないので、武道はフィクションらしくなりますし、霊能方面についても出てくるので、素でファンタジーしてきます。雨の剣師弟と被らないように剣も使わせていく方向、だと、いいなぁ。
つまり何が言いたいかと言うと、
\\\書きたかった場面が既に終わった///
他にも書きたい場面や構想はあるが、一番の衝動が序盤の序盤で終わるという。モチベーション的にどうなのかと問いたくなるね。ちなみに初めの構想には、後半の正座で話し合いやリベンジの話題はありませんでした。琴乃が怒ってた前半だけ。急に生えたよ!がんばれ、ツナ!あとはおまけ会話をちゃんと描写しようとして止めたぐらいです。
実際に漫画にあったなら、メイン回なので出番が多いが、暫くは大きな出番がなくなる感じ。守護者の誰よりも早く出てるよヤッタネ(琴乃が守護者になる予定はありません)。
続くなら、作者の趣味を詰めた琴乃が勝手に動くだけですので、どこまでいけるかは未定。続くかもわからない。