プロジェクトあーKV(仮) 作:師になりたかった先生
「着いちゃったなぁ……」
今日から新しい生活が始まる。ここは学寮都市カピラ、数百もの学寮からなる都市。私は、湯の岡という寮に入ることになった。湯の岡はかなり古い温泉宿を修理して寮にしたという経歴があり、大浴場が魅力らしい。らしい、というのはここに来るまでの道中に乗った汽車、那由多鉄道の中で私と同じ制服に身を包んだ子たちが話していたのが聞こえたからだ。
中学卒業と同時にニートを志望した私は今日、刀一振りと携帯電話、そしていつのまにやら用意されていた大きな鞄を持った状態で家から叩き出され、寮に入ることになっていた。これから何もわからない場所へ向かう私にはそんな小さな情報がとてもありがたかった。
「さて、どうやって行こうかな……目立ちたくないし、あんまり会話もしたくない……」
私の両親はとても優しい人で、そんな両親に私はいつもべったりだった。そのおかげか、私は知らない人と会話をするのがあまり得意ではない子に育ったのだ*1。
そして両親はすこし抜けていた。天然と言ってもいいかもしれない。家から私を叩き出す際、着替えや花札、お気に入りのぬいぐるみなどはちゃんと鞄に詰めていてくれた。が、地図がない。携帯電話があるなら平気だろうと思っていたが、携帯電話の充電は切れていて地図アプリを使うこともできない*2。土地勘はなく目的地がどこにあるのかもわからない、そんな状態で近くの子に話しかける勇気もない私は周りの子たちにひっそりとついていくことにした。
◇◇◇
さっきの作戦を実行して数分後、私は完ぺきに迷子になっていた。
……なんで?
「いやほんとになんでていうかここどこ……」
私は今路地にいた。知らない土地で一人、さっきまでいたはずの大通りとはまるで雰囲気の違う場所に。私はただ野良猫と戯れていて、道しるべにしていた生徒を見失っただけだというのに。
「お? なんだよ新入生か? その制服を見るに湯の岡か。あんま持ってなさそうだな……」
そう声をかけてきたのは、見覚えのない制服に身を包んだ生徒だった。だが明らかに友好的とは思えない雰囲気をまとっている。彼女は私をじっくりと観察したうえで
「まあいいか。なあ、今お前が持ってるその荷物全部おいてけよ。そしたら見逃してやるからよぉ!」
カツアゲだこれ!
まさか自分が当事者になるなんて微塵も思っていなかった私は(カツアゲって本当にあるんだぁ……)とのんきな感想を抱き突っ立っていた。動きを見せない私にイラついたのかやんきーさんは刀を抜きつつ凄んでくる。
「おい、聞いてんのか? 早くしろよ! 切んぞオラァ!」
カツアゲなんて物語の中でしか見たことがないものに触れ感動していた私は抜かれた刀を見て正気に戻った。このまま彼女と一緒にいるともし同じ寮の子に見られてしまったら明らかに悪い印象を与えてしまう。そう思った私は回れ右をし、全力で走り出した。三十六計逃げるに如かず、逃げるが勝ちとはよく言ったものだ。学校まで逃げ切ればもう平気だろうと、本気で思った。
忘れていた。私は学校の場所も寮の場所もわからなかったんだった。どうしよう。
「待てコラァ!」
「荷物寄越せコラァ!」
「ぶった切んぞテメェ!」
彼女からの逃走中、やんきーさんが三人に増えてしまった。まるで迷路のような路地を走り続け少し疲れてきた頃、私を救う一筋の光が差し込んだ。
「こっちだよ! 急いで!」
「……!」
湯の岡の制服を着た、先ほどまで道しるべにしていた大太刀を背負った少女の手を取る。彼女に手を引かれ走っているとやんきーさんたちはいつの間にかいなくなっていて、無事に逃げられたことに安堵し息をつく。
「……あの、さっきはありがとう」
はい、もっとちゃんと感謝をするべきタイミングなのにこんな言葉しか出てきません。本当にごめんなさい!
「ううん、むしろごめんね? わたしがもっと早く見つけられれば良かったんだけど……」
「」
うっわすごい良い子だこの子。菩薩かな?
「って、あーーーー!?」
「どうしたの!?」
「やばいよまずいよどうしよう!? 入寮式遅刻確定だよぉ!?」
「えっ……」
「急ごう!」
「えっ!?」
入寮式とは何なのかという質問をする暇もなく、彼女は左手で私の手を取り、右手には携帯電話を持った状態で走り出した。
「あっ、そういえば自己紹介もしてなかったね!わたしは
「かなで、
走りながら顔を見合わせ、自己紹介をする。この子となら友達になれるかもしれない。そう思い、目的地へと駆けてゆく。
これがカピラで初めての友達となる、小一孁こはねとの刺激的な出会いだった。