危ない電撃少女との邂逅から一時間経ったその時、五条は人で賑わう商店街へと足を運んでいた。彼は自他共に認める甘党であり、それはコーヒーを飲む際もガムシロップを大量に入れる程だ。彼が持つ呪術にも関係しているが他の能力者よりも常に脳を回すので通常の倍程の摂取量が必要とされる。
彼は度重なる任務の中でひとつの楽しみとして“和菓子選び”がブーム(自分のみ)となっている。そしてここに来た最大の目的も、勿論それである。
「うーん」
「喜久福程ではないけれど、ここの和菓子も結構いけるねぇ」
彼は非常に迷っていた。最近は洋菓子も負けてはいないと、そこにある“超フワフワ食感”と謳い文句として綴られているモンブランに目を向ける
「このもちもち食感と、しつこくない甘さが口に広がるこの心優しい味わい…」
「クタクタな僕の脳が安らいでいくよ…!」
洋菓子も捨てたものではないと、味の感想を口に出しながら安らぎの時を得る。しかしこう自分だけ得をするのはいくらろくでなしな五条でも少し申し訳なさが立つ。
「あ、後で伊地知にもお土産買ってこようかな」
「流石に手ぶらで帰るのもアレだしね」
と、なると次は“伊地知が喜びそうなお土産”選びに移行するが…
「でも、どうしようかな」
「僕が今のところ気になっているのは…これかな」
彼がそう手にしたのが焼き菓子のシャトレーゼだった。だが、ここで五条はとある事に気がついた。
「あー、でも伊地知ってこーゆーのあまり好きじゃなかったんだっけ。甘いの食ってる所あんまり見た事ないんだよな」
「だからといってこんなジャンクフード買うわけにもいかないしなぁー」
「むう、たかだか伊地知のお土産選別如きに時間を割くとは…ただここの商店街はお店の数が多いから仙台より迷うんだよねぇ」
人の気遣いなどあまりした事のない五条にとって誰かの為にプレゼントするというのは自身にとって苦手意識があった。だが日頃の感謝というか、もしある日ストレスに耐えきれず忽然と行方を消したりする事があればそれはまた困る話であり、せっかくならとせめて一つくらいは土産を買いたいのだが…
「コラァァッ!見つけたわよ!」
「ん?」
五条の思考はその怒号でかき消される、声の主を探そうと右や左にも顔を向ける。いないので下を30センチ動かしたら、そこには例の女子中学生がそこにいた。
「えーと…」
「何平然と人のモン奪ってどっか行ってんのよ!さっさとそれ返しなさいって!」
「…」
「…いやいやいや!「え…何急に、そんな事言われても僕困るんだけど」みたい顔すんな!どっちかって言うとそれ私の方だからそれは!」
キーキーと身長差を物ともせずあくま強気な姿勢で五条に向けそう問い詰める。このミサカとかいう女子は中々怒りっぽい気質にあるみたいだ。
「んもー、一々声がデカいよー。さっきも言ったけどそんなに欲しければ僕から取ってみればいいじゃん」
「ッ!アンタが変な能力使ってるから取れんないんでしょう…がッ!」
ビリビリと店の周りでもお構いなしとその電撃を五条に向けてぶちかます。彼は無下限があるから何てことはないが他の人に危害を加えてしまっては流石に面倒な事になる。
「ちょっとちょっと!お店の前でそんな事しちゃ駄目でしょーが!?この街はそれが普通なの!?」
流石の五条の彼女の暴君っぷりに肝を冷やしていた
「だーかーらー!アンタのよく分からない能力で…!」
「お客様…」
和菓子屋の店員が困り果てた表情を二人に向ける。と、ここで五条が頭を下げながら
「あー、どーもすいません!いやー、不幸にも変な女子中学生に絡まれてしまいましてー!」
「あ…小学生かな?かなり手の焼ける子みたいなので、対処は僕の方でお任せください」
と、周囲の人間にそう弁解をしつつも商店街から後を離れた。どうやら、この少女はどうしてもこのキーホルダーが欲しいみたいだ
とある河川敷まで場所を離れると先程の話を続けた。
「ねぇ」
「さっきサラッと言ったけど、私のどこが小学生に見えるって訳…?」
「んー、見た目?」
五条がデリカシー0の発言を口にした瞬間、御坂は周囲に放電を繰り出す。
「…君は怒ると電気を放つ体質なのかな…?」
「しっかし、そんなに欲しい物なの?これ」
「…欲しいも何も、それは元々アンタのもんじゃないでしょ…だから、さっさとこっちに返してくれれば…」
「君、強いんでしょ?」
五条も、ここまで渡さないのにはワケがあった。悪戯が半分なのもあるが、この街の能力者がどれ程のものなのか試しておきたいというのが彼の本心だった。とはいえ、こんな形で発破をかけるというのは最低な気もするが
「は?」
「あの子にね、道案内をしてもらいながらありがたくこの街について教えてくれたんだよね。レベル5…だっけ?」
「この街て一番強い能力者の集まりで…君もその一人なんでしょ?」
「ちょっとさ、そーゆー人達がどんなもんなのか気になってさ」
ボリボリと、やる気のなさそうな態度でその本心を打ち明かす。御坂は見たところこの男にそこまで強い気配は感じていない。だが、その飄々とした態度は絶対的な自信があるように見える。
「アンタ…私とやるっての…?」
「いやー、そう言うとちょっと違うかな?僕平和主義者だから喧嘩とかしたくないしね?ましてや君のようなか弱い女の子と命のやりとりするなんて、僕にはとても…」
「…あら?」
…やはりこの男、どこまでいっても人を無意識に馬鹿にしてしまうような節があるのか、もしくは倫理観というのが欠如しているのか…。逆撫でする発言の連続に彼女は遂に怒りが最頂点へと達してしまう
「ッッざっけんじゃないわよ…!そうやって自然と人を小馬鹿にしたような態度取っていられるのも…今の内なんだからッ!」
数百万V程の電流が彼女の周りにまとわりつくつく。仮にも、レベル5と言わしめる程の実力者…五条の舐め腐ったその態度がそのプライドに傷をつけられたような気がしたのか本気の戦闘体制に入ろうとしていた。
「…こりゃ凄いね」
「今更命乞いしても無駄なんだから…さっきアンタ、私の能力がどんなもんなのか気になるって言ってたわよね…?」
「うん、そーだよ」
普通ならば、ここでこうべを垂れて降参するのが今までの結果だったがこの五条という男は一貫してその態度を崩す事がない。そうなると、御坂は奴がどのような能力を持っているのか推察を始めた。
そこで導き出されたのは磁力を操作するという単純な能力だ。それならば、佐天の100円の小銭を手元まで吸い寄せたのも辻褄が合う。それならば、磁力によって電撃が効かないのも納得する
「それなら」
いくら能力でもそれには“限度”がある
「アイツの磁力を貫通出来るくらいの電撃を流せば…!」
その気になれば億を越える電流をぶつける事も可能だ。それならあの余裕な表情を崩す事が出来る
「くたばれこの野郎ォッ______!」
豪雷と共に地面が上下に激しく振れる。これ程までの雷撃は能力者でも唯一無二の火力を誇る。それは周りの風力発電所も動きが乱れる程広範囲の電磁波を起こす程だった。
「…どうよ、これで流石のアイツも…」
「いいねぇ〜、これがレベル5…超能力者って奴ね」
「…は!?」
それでも、五条には傷一つ付くこともなく彼女の雷撃に感心を受けた。
「(なんで…!?本気に近い威力をぶつけたってのに…)」
「(効いている所か…私の攻撃が“届いていない”…?)」
あまりにも、それは可笑しい。
“どんな攻撃をも打ち消す能力”などとそんな呆れた噂話など何度か聞いた事があるが、それは都市伝説でしか過ぎないガセ情報だと思っていた。だが、この時何故かその話を思い出していた。あり得ない筈なのだが、もしかすれば…
「いやー、いい物見せて貰ったよ!んじゃあ……はい!」
満足げな表情で動揺していた彼女にキーホルダーを手に渡す。
「え…」
「ちょっと…これ、いいの?」
「あー、いいよいいよ。君と交戦するつもりであーゆー事言った訳だから、別に欲しかった訳じゃなかったから」
「は、はぁ…」
彼は一体何を目的にここまで勝負をけしかけてきたのか、それは御坂自身も分からない。本当にただ遊び感覚で自分は試されていただけだったのか…もしそうだすれば、彼のレベルは間違いなく…
「んじゃ!」
「え…ちょっと待ってよ!まだ話は終わって______」
彼の身勝手な行動が結局何だったのか分からなまま五条は姿を消してしまった。
「なんなのよ、アイツ…」
「ほんっっとに意味分かんないんだけど…」
五条悟の謎にまみれたその正体は彼女自身にも明かされる事もなく、冷たい風を肌で感じながら呆気に取られていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「______ってな訳で、見せて貰ったんだよね!学園都市で有名な超能力者の力を!」
「いやー…まだああいう能力者がいるんだから、これからの生活は退屈しないで済むよ」
午後5時を過ぎ、五条家本部へと戻る二人は一日の出来事を楽しそうに語っていた。伊地知は五条のそんな恐ろしい話を聞きながら、またよからぬ事をしでかしたのかと嫌な予感が巡っていた。
「……その」
「今のお言葉…本当なのですか?」
「伊地知に嘘付いてどーすんのよ、ホントだよ。ホ・ン・ト!」
聞きたくない事実なのだが、逆に五条はそう強く主張した。
「何て事を…!あなたは全く…」
「別に殺した訳じゃないから大丈夫だっての。結局のところ僕の無下限で攻撃通らないんだし、ちょっと体験的な事をしただけだよ」
「そういうものではありせんよ…!我々のような呪術師は謂わばアングラ組織でそれが世に知られる事は、私達の命の危機に陥るという事と同じ事なのです!」
呪術の御三家として名を馳せる五条家は他の“禪院家”、“加茂家”と家系が潰れる中、細々とその力を継承し今の代まで生きながらえていた。科学の急激な発展と共に、呪術家系は縮小し続けもはやその文明と歴史を知る者も少ない。
それでも尚、彼らがその力を守り続ける理由は、細々と発生する“呪霊”と呼ばれる存在にある。
「確か、能力を使うには脳をある程度までいじくらないと扱えないんだっけ」
「不便だねぇ、僕たちは生まれて4歳経つと自然に発現するのにね…」
「あぁ…その点では能力者と呪術師は同じって事になるのか」
「えぇ、彼ら科学側が貴方の脳の解析を行えば五条さんが特殊な能力を使う人間である事がバレてしまう…貴方が目立つ行動をしてしまえば、尚更です」
「大丈夫っしょ」
「…あのですねぇ」
まるで命の危機すら感じていない五条の軽薄っぷりには流石の伊知地も呆れを浮かべる
「そもそもあの程度がこの街の上限だとしたら、僕が負ける事なんてないよ」
「逆にさ、僕があの街で一番になってさ…そんでもって僕の絶対的な力を学園全体で示せば、そんな事する気も起きなくなるんじゃないかな?」
「そんなの滅茶苦茶じゃないですか…」
「それに!」
「実験って言ってもさー、結局被験者拒否っちゃえばそれまででしょ?大人しくそれに従うようなバカじゃないよ…僕は」
「学園都市は秘密裏に行動している極秘組織や多くの警備組織が蔓延っています…貴方がそういう行動を取る度、都市全体が貴方の力を求めに強引な手段を取ると思われます」
「流石の貴方では学園を敵に回したら…」
「負けないよ」
彼は、敗北の想像すらもその頭には存在しない。
「僕、最強だから」
それは、絶対的勝利。五条悟の脳裏にあるのはそれ一つだけである。
◇◇◇◇◇◇◇
「______ここが僕の部屋?」
それから数日経ったある日、五条は引っ越し先の住所へと赴いた。ある程度の荷物は既に配送済みであり、彼は今学生寮のとある一室に立っていた。しかし、そんな五条の顔はひどいしかめっ面を浮かべていた
『えぇ…そうですけども、ちゃんと確認しましたか?』
「うん、したよ…何度も。でもさ、なんかすんごいボロっちぃんだけど」
あまり良いとは言えない年季の入った学生寮である事をその手で感じながら、伊地知に愚痴る。とはいえ、これもそれも自業自得であると伊地知は折れる事なく事情を説明する
『…その辺に関して、ご了承願います。何せ学園からの支援でそこをお借りする事となったので…』
「いやいやいや…にしてもじゃない?これちゃんと水出るのぉ?」
『知りませんよ…』
「…はぁ〜、まぁいいや。またなんかあったら電話するから」
と、未だに納得していない五条は伊地知との連絡を切った。とはいは生活水準レベルに達しているだけでまだマシだろう。そうポジティブな考えで現状を受け止める
「とりあえず、隣人に挨拶でもしようかな」
さて、と五条は左にある一室にチャイムを鳴らす。鳴らしてから数秒後扉から走る足音が聞こえ一人の高校生が扉を開けて現れる
「はーい…なんですか?」
「えーと、どなたで…?」
現れたのはいかにも平凡な雰囲気を放つ男子高校生だった。少し後ろに白い服を着たナニカがいたがそれは一先ず気にしないでおこう
「今日、隣に引っ越してきた五条という者です。今日からよろしくお願いしまーす」
「あぁ、そうなんですか…」
「俺、上条って言います。こちらこそお願いします」
「あ、すいません…ちょっと騒がしい奴と同居してるんで、偶に煩くなるかもしれませんが…」
と、少しを後ろを見たが何かワーキャーと彼に向けて声を発している。「すみません」と上条という男は五条に謝る
「それではー!」
「…賑やかになりそうだなぁ」
それは確証するものや根拠も特になかったが何か普通ではないような出来事がこれから起こりそうな、そんな予感をする五条はニヤリと笑いながらそう小言を放つ。