「なんなのですのアレは…!?」
「(…なんか、見覚えのある風貌だな…)」
「コイツにも僕みたいに“能力”が備わってるよ」
これは、後に伊知地の調査によって判明した詳細である。方相氏は四つ目を持つ鬼の妖怪。一応妖怪画に載っているので妖怪としたが、そもそもは現在の豆まきに於ける節分の原型になっている宮中行事が元である。知っている人は知っているだろうが、追儺(ついな)と呼ばれる旧暦での大晦日に、鬼を払うべく四つ目の面を被った特殊な職位である「方相氏」が、四隅に蔓延る鬼を追い出す、という行事であり、その為四方を見る為の四つ目が付いている。しかし不思議なのは、本来鬼を追い出す役目であった方相氏が、いつからか意味が逆転し、方相氏=鬼、という風に解釈されるようになってしまった。
五条達が邂逅した呪霊は所謂“仮想怨霊”と呼ばれるものである。“トイレの花子さん”や“貞子”、和風妖怪で代表的な“河童”など人間達の空想によって生み出された実在しない存在も、人の感情や記憶が混在する事で仮想の存在が現実世界に顕現する例がある。この地でその想いが収束したのか、“方相氏”は仮想怨霊及び特定疾病呪霊の両方に位置する珍しいケースの呪いであった。
「奴は疫鬼を呼び寄せる…いや、正確には自分の分身を出せる術式を持っているみたいだね」
悪鬼退散を目的とした本来の“方相氏”とは真逆に、この呪霊は厄災を振り撒く性質を備えている。その眼で大きな呪力量を確認した五条は彼女に向けて説明する。しかしこれではっきりした。能力者達の謎の病の原因は、この呪霊にある。
「これが“幻霊夜行”事件の本丸って訳ね」
「アレを倒せば全ての被害者達を救う事が…!」
「一応言うけど気をつけた方がいいよ。アイツは他の奴らとは違う」
滲み出る呪力量は他の呪霊を比べれば倍程違う。彼の六眼から得る情報を元に推測すれば奴は恐らく一級呪霊…、と“方相氏”の強さを確認し白井にそう忠告する。さて、どうしたものか…ぶっちゃけて言えば自分の手ならばこんな呪霊、瞬殺なのだがそれでは物足りない。
「!」
“方相氏”は間髪いれず両剣の振り下ろす斬撃で五条達を切ってかかる。ただの呪力攻撃など五条にはなんの問題もない…だが
「何をぼーっとしていますの!行きますわよ!」
無下限バリアを敷く前に白井の“空間移動”によって隣のビルへと転移した。五条は普段であれば常時無下限バリアを展開しているのだが、自分の強敵と出くわすがなかった事から若干の気の緩みがあった。そのような事は露知らず、白井は距離を取った後に“方相氏”の方へ目を向けると、みるみる内に奴は自分の分身を作り出す
「さっきより増えてませんか…!?」
「分身に上限はないかもしれないね」
分身する“方相氏”を前に可視化された白井にとってこの異様な光景は冷静な判断を欠いてしまう程の焦りを浮かべてしまう。
「(どうしようか)」
しかし五条は考えていた。“最強”はたかだか分身するだけの相手をここまで時間を掛けるには理由がある。
「(正直、こんな雑魚呪霊は僕の手にかかれば軽く捻り潰せるけれど、それだけじゃちょっと面白くはないか…?)」
ここで五条はある閃きを頭に浮かべる。
「(これは、ちょっとだけの“お遊び”)」
「“蒼”」
唐突に彼は“蒼”による引力によって屋上の鉄格子を引っこ抜いてそれらを周りに滞空させた。術式による対象選択によってそのような細かい芸当も五条にとってはお手のもの。そんな突然な行為に白井は目を丸くさせる。
「黒子ちゃん、あの鉄格子をアイツらまで“空間移動”してみてよ」
「こうですの?」
言われた通りに、白井は鉄格子に触れ“空間移動”を発動。即座に座標移動によって転移した鉄格子は呪霊達の頭上に現れた貫通させた。その光景を見た五条は拍手をする。
「うん、いいね」
「蒼で引き寄せた対象には僅かだけど僕の呪力が付与されてる」
「それを彼女の空間移動によって、敵の体内へ一瞬へとブチ込んじゃう」
「ねぇ、いい連携技じゃなかった?今の中々の凶悪技だよねー!」
我ながら天才だね、と思わんばかりに五条は自分を褒め称えていた。この男したかったのは“たったこれだけ”である。白井にとってこの状況はかなり緊迫した空気から緩和された事で面を食らう表情を浮かべる。精神がおかしなってこのような奇行に移ったのか、或いはあまりの余裕さでこのような遊びを思いついたのか。どちらにせよ五条悟の異常行動に理解する事は難しい。
「お」
「ま、まだ生きてらっしゃるの…?」
頭を貫かれて死んだ分身達はそのまま消滅していったが。大きな呪力を感じた事から“本体”のダメージは未だに通っていない。それどころか方相氏は再び分身を繰り返している。強大な火力がない分、東京高三年の“秤金次”のような長期戦に長けている呪霊なのだろう
「流石は一級。今のは効いたと思ったけど、頭を串刺しにしても死なないか」
ふむ、と指で顎を触る五条は再び考える。この白井という娘がどこまで着いていけるのか確認したい所だが、二人の視界は瞬く間に急変していった。
「こ、これは…急に景色が…!?」
「へぇ…そういう事」
確実に一級である事を確信した五条は“方相氏”が繰り出した“領域展開”に興味を少し示し出す。先程まで廃墟ビルに居たのだが、今は巨大な森のような景色が広がっている。
「もうなんなのですのっ、何が起きているのか…」
「簡単に言えば、これは奴が生み出した仮想の世界。早く抜け出さないとヤバいかもよ」
理解の追いつかない白井は辺りを見渡しながらも酷く混乱していた。能力者との対峙においては如何なる時も冷静な対処を心得ているはずだが全く別ベクトルの存在を前にして状況整理がとても追いついていなかった。その大半は隣の男がろくに説明をしていないのも原因としてあるが
それは兎も角、五条はこの状況が中々に不味い事を白井に告げた。絶えず広がる森の中では呪霊の必中術式が容赦なく襲いかかる。とはいえ、こちらも展開してしまえば決着はつくのだがこの後に及んでまだ彼はそのふざけた態度を崩そうとしない。もはやその行為は敵か味方かも分からない。
「五条さん、兎に角説明をお願い致します…!」
「えー?」
「早く!」
このいい加減さは白井の癪に触る。特に説明を要求している時に向けるそのすっとぼけな表情が思わず苛立ってしまう。
「これは奴のテリトリー…まぁ、僕らの中では“領域”って呼ばれている」
「あーゆー奴の中でそれが出来るのは中々いないんだけどね、その中で奴が仕掛ける攻撃は“絶対”に当たるんだよ」
「それが“領域”」
“領域展開”は生得術式の最終段階であり、呪術戦の極致。それを扱えるものは限られ、メリットとして“身体能力の向上”と術式攻撃の絶対命中”の二つが存在する。それは五条の無敵とも言える無下限バリアは領域による中和効果によって打ち消される。それが領域展開の絶対な効果であるのだが、一方でそれに対する“対処方法”なども幾つか存在する。
「絶対に当たる…?回避は出来ないのですか?」
「物によるよ…例えばそれが物理的な攻撃であればワンチャン。でも…」
「この場合はそれではないみたいだよ」
白井と五条は段々と襲いかかる不自然な“眠気”をひしひしと感じている。地味な効果ではあるがこれが奴の“必中術式”なのだろう。強制的に昏睡させるこの必中術式は目に見えないのがタチが悪く、一刻も早く領域から脱出しなければならない
「ん…眠気が…なんなのですのこれは…」
「これが…奴の“必中効果”って事なのかもね…ふぁあ」
あくびをする五条はこの領域の強さを実感する。かつて交戦した“漏瑚”や“両面宿儺”といった術者とは違い先程述べた物理以外の効果をもたらす領域はかなり危険で凶悪であり対抗策として“本人に攻撃を与える”か“領域の外側に抜ける”の二択が存在する。しかし、前方のやり方をするとなるとこの広大な領域から奴を特定するのは少し面倒くさいものがある。領域の強度や大小は様々であるが、“方相氏”の領域は他の術者と比べてもその範囲はかなり大きい。
「これは中々ヤバいかも…ここにいる限りは眠りの効果が継続する訳だから…実質“永眠”してしまうって事になる」
「つまり…“死”と同義という事…?」
五条の説明を聞いた白井は汗を垂らす。その得体のしれない攻撃に恐怖を感じるのは無理もない。
「(流石にちょっと舐めプし過ぎかな)」
中々ここまでやるとは思っても居なかった。しかし、彼に疑問が一つあった。奴の術式は確かに“分身を作り出す”という物の筈。しかし現状として彼らが喰らっているのは“昏睡”である。ベースの術式効果が全く別物であることに関しては彼からしても謎であった。術式二つなど、呪術の常識から離れているのであり得ない話だが、そんな事は一先ず後回しにしよう。
今はまずこの状況を解決しなければならない。て辺り次第攻撃しても埒が明かない今、五条は“領域からの脱出”を選んだ。
「あれ…眠気が…!?」
先程までの睡魔が嘘のように消えていった。五条の方へと振り返ると、彼もまた睡魔に襲われている様子はなかった。
「五条さん、これは…」
「ちょっとね、本気出した♪」
白井が彼に尋ねると五条はてへ、と可愛くもない仕草でおちゃらける。“本気”と彼は誤魔化しているがそれは結界術の類いの一つでもある“簡易領域”を展開したからである。それはシン・陰流の開祖である蘆屋貞綱が考案した“弱者の為による領域”。自身のたった数メートルの範囲に「簡易的な領域」を展開する術だ。領域展開の下位互換ではあるがある程度の術式効果ならばそれらを“軽減”する事が出来る。そんな事が出来るとは知らずそれをさっさと出さない五条の意地悪な性格に白井は怒りを露わにする
「最初からそうしなさい!」
「でも、あまり長くは続かないよ。奴の必中は終わっていない。その間に結界の端を見つけて抜け出そう」
しかし、五条の言う結界から抜け出す策というのはあまり得策とは言えない。そもそも“領域展開”というのは術者を閉じ込め確実に倒すという目的からつくられた高等技術であり、結界内での空間や体積は現実世界とは大きく隔離されている。実際の所ビル内にいた白井にとってはいきなり異世界へと舞い降りたかのような感覚に陥っていた。故に、ここまで広大な空間で結界の端にを見つけるというのは容易ではない
「結界の端…と言いましても、その端が一向に見えませんのですが」
「何かしらの手を使って範囲を広げているのかもねー…」
五条はこれを何かしらの“縛り”によって領域の範囲拡大を実現しているのだろうと推測した。ここからはほんの考察に過ぎないが、その代償として奴は結界の内外条件を逆転しているのかもしれないと彼は考える。
「さぁ、どうする黒子ちゃん。この危機的状況、絶体絶命!このままじゃ僕たちの命が危ぶまれる…そう!ここで切り抜けるには、君の力が必要なんだよ!!」
「なんなのですかそのしょうもない三文芝居は…」
あからさまにわざとらしい演技で白井に迫る五条。彼がさっさと展開すれば終わりな話なのだが、あくまで五条は“白井との協力プレイ”に拘りを持っていた。一人で解決彼だからこそ何か物足りない何があるのだろう。とはいってもそれが独りよがりな勝手な考えである事には変わりはない。向こうにとっては心底迷惑な話である
しかし、そんなおふさげはここまでであった。
「さっきより…強くなってますの…!」
「(領域を狭めて術式効果を強めてきたか…)」
簡易領域による結果が少しずつ剥がれ、軽減の限界が来ていた。空間に違和感を感じた五条は“方相氏”の呪力の波が直ぐ底で伝わっているのが分かった。その瞬間順転“蒼”による引力で白井を含めた地面を宙に浮かべ上昇させる。
「ご、五条さん…!?」
「君は逃げて。上に行けば領域から抜け出せられる筈さ」
「彼女は呪力がないから必中対象外の筈なんだけど…僕の領域と同じタイプなのか、有無関係なく効果を発揮する術式みたいだね」
領域展開は呪力を持つ(五条悟のような呪術師を含めた)何かが必中対象であるのだが、白井は全くの呪力を持たない人間である為領域の効果には引き込まれない筈だが、実際には彼女にも奴の必中効果が機能している。
「しょうがない、遊びはやめてちょっと力入れるか…」
ズズ…と身から溢れる呪力を指先に込め“術式反転“赫”を繰り出そうとしたその瞬間
「…!」
パラパラ、と呪力の塊である結界の破片が五条の頭上に降りかかっていた。何だ、と上を見上げると現実世界が徐々に広がり結界が完全に崩壊する。
「領域が、崩壊した…?」
「五条さん、これでいいのですのよね?」
と、後ろに“空間移動”で白井が現れ彼に向けてそう声を掛けた。数秒考えた後に、これが白井による仕業である事が分かった。“蒼”で浮かせた白井が立っている地面を結界の外に“空間移動”を行った。それにより結界の頭上に転移した地の塊は自重落下により結界に衝突し崩壊させたのだ。地面の塊が転移条件である最大重量130kgのギリギリだった事が幸運だった事もあり、白井の“懸け”が功を奏した。しかし、五条の推測である結界の内外条件を逆転した縛りはこれで外れた。小さな衝突で結界を打ち壊せたのならば、その強度は通常の外>内となる。
ならば、あそこまで領域の規模を広げられたのは何故か…
いや、そんな事は後から考えればそれでいい。現に“方相氏”は領域が崩壊した事で実態が露わになり目の前で地に伏せていた。
「僕たち、意外と良いコンビかもよ?」
「全然嬉しくありませんのそのお言葉…」
ふふ、と五条は“空間移動”の性質に少々驚きながらもかつての“友”の姿を彼女に照らし合わせていた。真面目といい、その少々堅気な所といい、所々似ている部分もあったのかそんな彼の事を思い浮かべていた。嫌…流石に気持ち悪いか、とそんな事を思うのは辞めて“方相氏”の方へと振り返る。領域展開による術式の使用困難な状態によって先程まで分身を出してしていない。
「じゃあ…いいもん見せてもらったし」
「ここで終わりにしちゃおうかな」
再び彼は指先に一点を集中させ、こう口に出した。
「術式反転、出力最大______」
「“赫”」
赤い光に包まれた“方相氏”は無限の発散による衝突エネルギーによって瞬く間に撃滅したのだった。
仮想怨霊含め特定疾病呪霊の“方相氏”は五条悟ら現場に到着後十分後に無事無下限呪術の力によって祓われた。それからというものの、第七学区に帰還中の二人は呪霊発現の原因について話していた。その前に、白井は支部にいる初春達に“幻霊夜行”の原因を突き止めた事を電話で通達していた。
「えぇ…そう、これで一件落着という事になりますわね」
「もう少ししたら戻りますので始末書の方は任せてくださいませ」
通話を終えた後、これからの対処の事を頭に浮かんだ白井は少しため息をついた。もうこれからの事を考えると帰った後は好き放題に破壊されまくった施設うんぬんの関係の処理に追われる事だろう。そんな事も露知らず五条はヒョイ、と白井の後ろに顔を出して尋ねる。
「それで…他の人達は体調が回復したのかな?」
「病院に問い合わせた所そのようでしたので…これで無事解決したという事になりますわ」
「患者さんもお医者さんもびっくりしただろうねー、途方に暮れていた所急に治っちゃうんだから」
あはは、と軽やかな笑いを浮かべる。そんな彼を見ているとそのあっけらかんな態度に対してあの異様な力の温度差に風邪をひきそうになる。
「____________はあぁ」
白井はもう一度デカいため息をついた。
「貴方って自分勝手ですわね」
「え?何急に」
「あんな事ができるのであればさっさとやって欲しい所でしたのに…」
この男の目的や行動心理は掴めない。あの一撃を出せるのを隠しておいて、今に至るまで彼はずっと弄ぶように呪霊との戦いを楽しんでいたのだ。
「ま、君を試してたんだよ。僕はここの街の能力者っていうのがどういうものなのかよく分かってなかったからねー」
「…一体なんなのですの?」
いまいち真剣味に欠ける彼の態度に、目を細めながらも抱いていた疑問を吐きかける。彼が一体何者で、何故協力してくれる事になったのか。
「ん?」
「私達の相手したあの怪物は一体…なんなのですか?」
根本的な理由が知りたいと真剣な眼差しを向ける白井に五条はその真意を察する。
「あー、そういう事ね」
五条はサングラスを掛け直し、方相氏について語り出した。
「質問を質問で返しちゃうけど……土地神って知ってる?」
数秒の沈黙の後、黒子は返す
「土地神、と言いますと…村で祀られている神様
の事でしょうか」
「そ、恐らくあの場所はちょっと昔に集落があったんだろうね。呪いの残滓を見た限りにそんな匂いがするんだよ」
六眼は呪力を原子レベル程の細やかな動きを捕捉する他に、呪いの性質や形も視る事が出来る。これは歴代の六眼保有者と比べてもその洗練された使い方は五条以上の人間はいない。
「そこまで分かるのですか?不思議な眼だこと…」
「ちょー冴え渡る警察犬みたいなもんさ。呪いも十人十色って事。色も感触も違うんだよ」
少し長くなるから、と近くにあった自販機に寄っていった。五条と白井は独特な飲み物を購入した後話を再開する。
「話を戻すよ。基本的には神様は呪いとは無縁…なんだけども、これが“祟り”とかそういう話になってくると別になる」
「恐らくその要因は、祀られた場所が解体されてこういう施設が建設された事かな」
あらゆる教育機関・研究機関の集合体であり、学生が人口の8割を占める学生の街にして、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されている科学の街。神社や寺、神にまつわる建物は滅多にない。
「信仰宗教に関しては科学者にとっても身も蓋もない屁理屈としか思っていませんし、そういった非情な考え方によってその“土地神”様がお怒りになったと…」
「まぁでも、科学者の言うとおりそこに理論的な確証はないさ。実際にいるかなんて僕も信じてないし」
「で、ではなぜ…」
「祟りって言っても、そんなの言葉の綾みたいなもんだよ。実質的ものとしては“人の思いの集積体”って言ったほうがまだ論理的かも?」
はぁ、と五条の説明にただ頷く事しか出来なかった。それは非科学的な話であり、今まで学園で培ってきた知識を鼻で笑われたような感覚を感じていた。しかし、白井はその非現実的な現象を目の当たりにし体感した。それがある以上彼の言葉を否定する事が出来ないでいた。
「なんだか…聞けば聞く程現実離れしてるというか、非現実的な現象というか…」
「ま、そういう世界があるって事は…面白かったでしょ?」
「何処をどう見れば面白くなるのですか、全く…」
ビシ、と人差し指突き立ていつもの適当な表情を浮かべる五条に対して冷ややかな目ツッコミを入れる。だが、“呪い”という未知なる存在に関しては彼女自身気になる所もある。
「(後で調べてみる必要がありますわね)」
「何はともあれ、貴方のおかげでなんとかなりましたし……その辺りは感謝致しますわ」
「有難う御座いますの」
ペコリ、と感謝の意として五条に向けてお辞儀をする。いくら無責任で軽薄な彼とは言えど、彼無しであの化け物と邂逅し対処出来る方法は他にもなかった。その点に関しては彼には助けられたという事になる。と、お辞儀の後に顔を上げたらもう彼の姿は既に小さくなっていった。
「じゃあねー!」
「って、余韻に浸る気ゼロなのですか貴方は!?」
言いたい事だけで言って勝手に消えるのが、彼の良い所(逆に)である。その身勝手さに改めて痛感する。
「……最初から最後まで…変な男」
本当につかみどころのない男だ、と嵐のように過ぎ去っていく彼の背中を見守るように白井は少し笑みを浮かべながらそんな小言を呟いた