第九話「能力者狩り「スキルハンター」」
垣根帝督の件から数ヶ月後、彼らの目的を果たす為に“五条悟”の身柄を確保するべく幾つかの画策を立てていた。垣根率いる暗部組織『スクール』に所属する少女“獄彩海美”はとある場所に訪れた。そこは、何の変哲もないレース場である。
「ここ、ね…」
外見は14歳ほどで、金髪に小柄で華奢な体つきは他の客の目を引く。しかし彼女がそこに来たのは一人の男に会う為であり、目線を集める周囲の人間達を次々と確認しつつもその事に対し愚痴をこぼす
「はぁ…大体何でここを待ち合わせにしたんだか…別に良いけれども」
「人材派遣の紹介料だけで300万は下らない程の実力者…しかも、ウワサだと能力を持たない“スキルアウト”っていう話だけれど…」
獄彩海美改め“心理定規”はぴらりと一枚の資料を手にしておりそれを視線に移す。本来彼女が会う人間の詳細な情報が載っており対人特化である彼女の能力を利用し目的の男を懐柔する為に“心理定規”は組織のリーダー垣根の指示により接触を命令された。たかだか傭兵を一人や二人雇うのに彼女が対面するのは不必要だが、今回メンバーとして新たに加入する人間は少々“特殊”であった。
「…えーと、特徴が“黒髪”、“中肉中背”、口に傷がある”か…」
「…あの人かしら」
紙に書かれた特徴と合致する人間を探していた所、観客席に粗暴な姿勢で居座る男に目を奪われる。他の人間とは違う針を刺すような殺気を漂うオーラ…それを相反するように彼の気怠げな目つきは盛り上がるボートレースに向けられていた。
「ちょっといい?」
彼女が話しかけるとそこまで観戦に熱中していなかったのか直ぐにレースから目を離し話しかけるその少女へと振り返った。
「……んあ?」
「何だ、オマエ」
「何だ、じゃないわよ。貴方調べてないの?待ち合わせた女の顔とか」
どうやらこの男は自分がどういう人間であるのか分かっていないいないらしい。想像とはかけ離れたそのあっけらかんとした態度に冷たい目で“心理定規”は早速文句を垂れる。そんな彼女に対し数秒の思考の後、思い出した
「……ああ、そういう事ね」
「名前の確認をするけれど、私達の暗部組織として派遣された“伏黒甚仁”…でいいよのね」
「ああ、間違いねぇ」
“心理定規”はその名を口にした時に彼がその者である事を認めた。
「しかし、驚いたな」
「?」
ニヤリとする甚仁に彼女は首を傾げる。
「暗部組織なんて大層な名でやってるもんだから髭面の親父が来ると思ってたが、まさか年端もいかねぇ餓鬼とはな。正直ビックリした」
「貴方、確か都市外から来たのよね」
「この街ではね、貴方より歳が幾つか少ない子が軍事兵器よりも遥かな力を持ってる訳なの。まぁ、レベル5っていうのが特にそうだけれども…そうやって餓鬼なんて浅ましい目で見ていると、痛い目見るわよ?」
“心理定規”は睨みを効かせながら詰め寄る。しかしそれに臆する事もなく甚仁は耳をほじりながら答える
「あーあー、皆まで言うなよそんな事。こう見えてもここの事は予習してきたつもりだ。だからそんな怖い顔すんなって」
「俺が欲しいのは、金…ただそれだけだ」
彼に能力の向上や学園都市の権力など一切の興味も持っていない。外部の人間など所詮はこんなものなのだろうか、それともこの甚仁とかいう人間だけが関心を持っていないだけなのか、そんな単純な理由に強張っていた“心理定規”も緊張を解いた。
彼は只者ではない、ただそれだけは確信していた。
「それよりも、俺が指定した金額…ちゃんと用意出来てるんだろうな?」
YES、NOともいえず“心理定規”は思いのままを告げる。
「…貴方の働き次第でね」
「……はっ、出来てんならそれでいいさ」
「悪いが、俺集団行動っていうがあんまり好きじゃないんでね。あくまで俺のやり方で動いて行動する」
「えぇ、別にそれでも構わないわ」
元々“スクール”という組織自体が固まって行動する事は少ない。五条悟確保に関しては垣根がサシでの勝負を仕掛けても勝機を見出せず敗北してしまった。それに対し残っているのは奇襲をかけた攻撃のみであり、殺しのプロともいえるこの男の力で必要であるとここに向かうまで垣根にそう力説したのだ。しかし、垣根が彼とどう接触しその存在を知る事となったのかはまだ知らない。
そんな甚仁があの五条悟とかいう第二位ですら手に負えないような怪物に対抗出来る人物だというのか…
「腕前は信用してもいいのよね?」
「どういう事だ?」
「貴方が外部から来たという事は、学園での能力開発は当然してはいない…つまりは本当の無能力者って事。」
「再三言うつもりだけど、あの“五条悟”は只者ではないわ。正直の所第一位に迫るような能力者を相手するのは貴方では不足のような気もするのだけれど…」
「そいつか…」
“五条悟”の名を聞いた瞬間甚仁は傷だらけの口元の角度を上げる。彼と五条には何やら深い“関わり”がある
「奴を殺すには、時間をかける必要がある。ちと手間を加えてな」
甚仁は残り僅かな酒を飲み干し席を離れようとした。どこに行くのかと尋ねると彼は「準備する」とだけ言い放ち姿をくらましていった。
一通り彼の素性が知れた“心理定規”は“スクール”の一員である【誉望万化】に連絡を取る。
「とりあえず、コンタクト取ったわよ」
「お疲れ様ッス。それで、どうでした?上手く仲間に出来そうですか?」
「少し難しいわ。私の能力でも干渉できそうにないし、かなり警戒心の高い男ね」
通称でもある“心理定規”の異能ですら、甚仁を懐柔する事は容易ではなかった。心の距離を測る彼女の能力は全ての人間に作用する訳ではない。特に禪院甚仁は精神操作をものともしない強い人格を持っていた。
「垣根さんが頼るほどですからね」
「えぇ…まぁ、使い物にならなかったとしても私達にそこまでの支障はないわ。とりあえず味見してから考えるわ」
“スクール”はまだ禪院甚仁の性能を知らない。兎にも角にも彼がどれだけやれるかで自分達の対応を変わっていく。それなら一先ずは甚仁の動向を観察する以外になかった。
この世界線での「禪院甚仁」は原作“呪術廻戦”に出てくる“禪院甚爾”ではありませんので名前の表記が違います。(ですが名前以外は大体一緒です)