プーサーなオリ主とコナン君   作:ラムセス_

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聖槍ロンゴミニアド

 

 ジェイムズは二人の研究員に穏やかに話しかけた。

 

「おや、まだ研究室に篭ってたのかいジム。奥さんに連絡は入れてあるのかな?」

「……っボス!帰ってたのか」

「じっジェイムズさん、また何か日本で進展でも? まだ前に頼まれてた資料できてないんですけど他に用ですか?」

 

 ジェイムズ・ブラック。

 FBI捜査員にして日本にて組織の影を追う独立部隊のリーダーである。

 

 今回の件もジェイムズより極秘に頼まれていたことで、その点で本来接点のない研究員らとは本件において上司部下の関係となる。

 

「こんなんを目の前にして呑気に帰れるわけがないぜ。科学に喧嘩売ってるカゴやら1Fの在庫管理担当者に悲鳴を上げさせた墜落死リンゴやら……ハロウィンにしては季節外れだってのに」

「ああ、研究の邪魔する気はないさ。せっかくアメリカに帰ってきたのだから、君達の研究の具合を直接聞きたくてね」

「なるほど、それなら丁度いい大発見があったぜボス。そりゃもう偉大な発見だ」

 

 おおげさに両手を広げてニックはぐるりと1回転して見せた。

 舞台俳優だとしたらコメディ系だろう。寝不足でふらつきながらの回転が三半規管にキたのか、直後に頭を抑えて呻く羽目になった。

 

「うっ……あー、なんだ。何もわからない、ということが分かった。つまりはソクラテスの叡智が2000年ぶりに人類の下へ戻ったってことだ」

「リンゴ食うかニック? 新規性ゼロ。俺ならタイトル読んだ段階でリジェクトするわ」

「はっはっは。我らがFBI研究所が誇るエリートも、流石に魔法の解析には手こずるか」

 

 朗らかに笑うジェイムズに、ニックはふざけた様子を一変させて苦虫を噛み潰したように吐き捨てた。

 足元にはメモ書きに使っていたコピー紙が散らかったままで、そのまま踏まれたせいで靴跡が黒く残ってしまっている。

 

「だがボス、こいつはマジにヤバイんじゃねーか?」

「……ふむ。というと、何か君に危機感を抱かせる発見があったのかな」

「まぁな。初めに調べたあの杯。毒が入ってれば色が変わるって話だったが」

 

 ニックは無表情のまま盃をあおる仕草をした。

 

「……俺が持つ時だけ、海老入りシチューでも色が変わったんだぜ」

「っ、それはつまり個人の状態、アレルギー等も含めて毒性を判断しているということかね。杯が、それ単体で!」

「おうともよ。しかも量も判別してるみたいでな、カフェイン錠剤を乗っけてみたら色が変わったよ。俺は4.6g。ジムは7.2g。

 ご丁寧に個々人の致死量を判別してくれてるみてーだ」

 

 毒物ならなんにでも反応して色が変わる、という謳い文句ではあったが、こんなものどう科学的に説明をつければいいのか。

 

 生物毒その他諸々、致死量以上を盛れば塩だろうと反応して色を変じる。

 ガスも放射性物質も、それが杯の表面から上15cm以内に存在していれば検知してみせる。

 何なら病原性の微生物まで感知する徹底っぷり。

 

「持った人間に合わせて完璧な判定をする毒物探知機だ。今調べているモンも同じ程度にはブッとんでる。分かるかボス」

 

 この調子でアーサー王伝説に登場する秘宝をポンとだされてみろ、と問う静かな声。

 ジェイムズはそれにできるだけ誠実に姿勢を正した。

 世界の常識と秩序を崩す……それだけの力のある品物が手の内にあるのだと、現実をしかと見据えるように。

 

 FBI科学技術部・実験室部門所属の研究員、ニックはジェイムズの顔を正面から見つめ返した。

 

「このままじゃワクワクが過ぎて俺の頭の血管がブチ切れちまうよ。俺の35年の人生で最大の幸運だぜこれは!」

「……うーん。落ち着こうか。カフェインの取り過ぎは体に良くない」

「俺そろそろ研究に戻っていいですか。ニックは一昨日から寝てないし今何聞いても無駄足ですよ」

 

 報告が終わったらそろそろ家に帰りなさい、と困り笑いのジェイムズに空気も弛緩する。

 気を取り直したらしいニックは妙なテンションのままウンウンと頷いた。

 タブレットのデータをいくつかピックアップして後ろのスクリーンへ投射する。

 

「あとコレだ。アンタらが録音したアーサー王とやらの肉声データは知り合いへ渡しといた。古英語だって話のあれ。怪訝な顔はしてたがな。今に狂ったように確認の電話を入れてくるだろうさ」

「口は堅いんだろうな?」

「秘密は墓までもってくことに定評のある男さ。偏屈が玉に瑕だが、やる事はきっちりやる奴だ」

 

 この結果次第で、あるいは今手にある秘宝の解析次第で。

 ……時代が、人類の文明が神の階へと手をかけるのだ。

 その熱はじわりと室内に満ち、得体の知れぬ恐怖心と溶けるような高揚感とを搔き立てていく。

 

「もしかすると、ついに人類の進歩が本物の神様の奇跡に届く日が来るかもしんねぇぞ?」

「はーったまんねぇ! ボスもそう思いますよね?」

 

 すっかりマッドサイエンティストの表情となったFBI研究所職員(公的機関の研究者)に、ジェイムズはにっこりと満足気に息をついた。

 

「ふむ。君達の意気込みを見て安心したよ。専門じゃないとしり込みするようならどうしようかと思っていたが、これならば私も本題に入れそうだ」

「しり込みだって? ここで下がるチキン野郎だと思われてたんなら心外ですね」

「というよりここまで来て本題って、水臭いにもほどがあるぜ。ビッグニュースを伝えるときはまず良いニュース悪いニュース、って定型文があるだろうが」

「あーー、ワックワクしてきた。こいつは乗り気じゃないみたいだから俺に任せてくれてもいいっすよ」

「アァン!? ふざけたこと抜かすなよビル、この前も飲み屋のウイス……」

「まあまあ。ひとまず私に付いてきてくれるかね」

 

 我先にと前に出ようとする二人を鷹揚な仕草で抑え、ジェイムズはちらりと視線だけで先導すると伝える。

 

 連日の研究でデロデロな服装のまま真白い廊下を伝って別棟へ。

 道中で専用のIDカード2枚を渡したところでニックは「おいおい」とだけ言って肩をすくめた。

 特別保管室の専用IDカードを見たことがあるらしい。

 研究に使用する危険物を保管するためのスペースだが、当然申請をせずカードを使用して入るなどどんな罰が下ってもおかしくない。

 

 時間帯もあって人通りは少なく、警備員はカードを一瞥するだけで声をかけてきたりはしなかった。

 呼び止められることもなくすんなりとたどり着き、小さなキーの解除音だけが廊下に響く。

 

 扉を開けると、中の埃っぽい空気が鼻についた。

 

 窓もなく天井端のインテリアの明りだけが頼りだが、別途照明をつけにいくほどのことでもないのでそのまま進む。 

 

 三つの区画を通り抜け、その左隅にある大きな作業机の前で立ち止まる。

 作業机の上は大きな布で覆ってあり、中の様子を伺うことはできない。

 遮光カーテンのような分厚く硬質な布だ。

 ぼんやりとそこから推察できる形状からして、中身は細長い2メートルほどの筒状のものだろうか。

 

「これが今回の本題でね。うむ。驚かないでほしいけれど、それは少し難しいかもしれないね。なんたって……」

 

 ジェイムズが布端を一撫ぜしてからするりと取り払う。

 

 そして。

 光が、神秘が零れ落ちた。

 

「……っ!」

「ま…………まじかよ、そんな、嘘だろ?」

 

 思わず漏れてしまう動揺も仕方あるまい。

 

 なにせこれは神秘の中の神秘。人類史の始まった時より存在する、文明のテクスチャをつなぎとめる光の柱、その現身。

 ここにいる誰もがその真実を、真髄を理解できない「最後の幻想(ラストファンタズム)」。

 

 ゆったりと光の帯を描く馬上槍(ランス)、非実体と実体の間、神々しき聖槍。

 十字を象る光の粒子が周囲に満ち、その聖性を人類へと示す。

 

 重力を無視して机上にて浮遊するソレをいったい何と形容すればいいだろう。

 

 ジェイムズは絶句する二人へと振り返る。

 触れれば現実にかき消えそうな幻想の塊をその手に取り、二人の前へよく見えるように掲げ持った。

 

「古の英国王陛下は、我々にこれ以上ないほどの信頼の証を預けてくださった。陛下の威光をこの目で見たいだけの無頼漢である我々へ、これほどの至宝をお渡しになられたのだからね」

 

 これこそが聖槍ロンゴミニアド。

 神の子を貫いたロンギヌスの槍と同一視されることもある、聖なる遺物である。

 

 ジェイムズはふわりと浮くように動くその槍を持ったまま、いつもの調子で笑いかけた。

 

「陛下からの依頼はこの宝物の保管だ。万に一つもあってはならないが……同時に、万一さえなければ我々が神の奇跡を調査してもいいということだ」

 

 神秘の解明。

 神の奇跡を科学的に解析し、唯物論にも似た無神経さでその御業を暴き立ててもよいと。

 要約すればそのような依頼であり、許しであった。

 

 一応は敬虔な信徒である両親に育てられたニック……ニコラス・キャンベルは震えあがった。

 

「正気、かよ……。俺。日曜のミサもサボってるってのに。俺が視界に入れたりしたら弾けて消えたりしないだろうな?」

「さ、触っていいんすよね? 次の瞬間には雷に焼かれてたりしませんよね?」

 

 ビビり散らすという形容詞がぴったりとくる様子にジェイムズはからからと笑った。

 

 そのうえでより怯えさせるであろう追加情報を投下。

 ここまでの自分の驚愕の連続を他人にも分け与えてやろう、という少々意地の悪い心境からの行動である。

 

「それとだ。陛下からの注意事項をあずかっているから心して聞くように」

「不信心者が触れると塩の柱になるとかそういう話か?」

「いやいや。そんな恐ろしいものではないよ。ただの注意事項だ。『長時間触れてはならない』というね」

「十分怖ぇよ。…………で、その理由は?」

「『人間ではなくなってしまう恐れがあるから』との仰せだ」

「あー、オーケー。理解した。これやっぱ神の怒りに触れるやつだろ。運搬は任せたジム」

「ふざけろ便器に顔面叩きこまれたいのか」

 

 喧々囂々としつつもひっそりと、限られたごく一部の人間でのみ共有される情報。

 神秘の実在。神の証明。

 

「しかしまぁ、地獄行きチキンレースとは洒落た任務だな。資格無く触れ続けたってことで悪魔にでも堕ちちまうのかね」

「…………手袋……じゃなくてマシンアーム越しとかにしたほうがいいか?」

「いや。ドローンに運ばせよう。操縦はお前がやれ」

「おいニック、いい加減にしねぇとあることないことお前の嫁さんに吹き込むからな」

「バカ止めろ! 俺の息の根が止まってもいいってのかよ!」

「ははははは。安心したまえ、私は聖槍の運搬で丸2日持ちっぱなしだったが、この通り人間のままだよ」

 

 

 そんなこの世を揺るがす科学における冒険譚が、ここに幕を開けたのだった。

 




・聖槍ロンゴミニアド
プーサー主の宝具。
持ち続けていると獅子王プーサーになってしまいそうで、怖くて理由をつけてFBIに押し付けた。
どうせワイにしか真名解放できへんしええやろ!の精神(ガバ)。
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