午前2時、東都中央ビル屋上。
ビル風の吹き荒ぶ中、ルパンは「いっただきぃ」と上機嫌に笑って月に宝石をかざして見せた。
「けどよぉ、やっぱ銭形のとっつぁんが居ねぇと張り合いがなくていけねーな」
「馬鹿言え。今回はKIDとかいう若造のせいで散々な目にあった!あの自称小学生も深夜だってのに走り回りやがって!」
小学生は寝ろ!!!と吐き捨てる次元の様子がツボに入ったらしく、うひゃひゃひゃひゃ、とルパンは盛大に笑い転げた。
「パパはそりゃもう子煩悩だもんな。あの坊主の成長が嬉しくって仕方が無いわけ!」
「死ぬかルパン?」
「冗談冗談!」
強風に取り落とさないようルパンは宝石をすっとどこからともなく取り出したジュエリーケースの中に入れ、小さく口付けを落とす。
眼下の夜景に溶け込む様は一種完成された空気感をルパンへと与えている。
チッ、と次元は小さく舌打ちしてルパンの名を呼んだ。
「おいルパン。どうするよ?」
「んー。五ヱ門先生はどう思う?」
「かなりの強者と見える」
「うっそマジ?どこの暗殺者だよそれ。心当たりがあり過ぎてやんなっちゃう」
「言ってる場合か!お前は疫病神気質を早くなんとかしろ!」
「次元それ言いがかりィ」
気軽な掛け合いはいつもの通り。
それは戦場ですら欠かさぬルーティンであり、彼らの強さを支える力の一つでもあった。
そうしてじゃれあいに興じたあと、ふと思い出したように後ろを振り返って一言。
歓迎されぬ来客を迎える言葉を発する。
「んで、そろそろ出てきたらどうだ? まっさかそのバリバリの気配、隠せてると思ってねーよな?」
貯水槽の影に隠れ、強大な気配がビリビリと空気を打っている。
こつり、と軽い足音。
「これはすまない。君たちを脅やかすつもりはなかったんだ」
「そりゃまたお気遣いどーも。ごたいそうな格好しちゃって、この近くに仮装パーティでもあったりする?」
あいにく俺らは
軽口を叩くルパンの目の前に現れた青年は、この現代社会に場違いな白銀の騎士甲冑を身に纏っていた。
美しい造りの滑るような鎧に青く清廉な外套が交差する。
腰に差した剣は太く、儀礼用にも思える緻密な装飾が月明かりを反射している。
まるで場違いなようにも思える装いだというのに、その金髪碧眼の青年は清き騎士甲冑と完全に調和して一つの絵画のような安定性を齎していた。
相対する二つの影。世紀の大泥棒と、誉れ高き騎士王。
絵画の題材たる彼らがスリルを剣、言葉を鉾として軽い戯れに興じあう。
「実は、君達に少し聞きたいことがあってここに来たんだ」
「……へぇ、オレらにねぇ。でも今はチィーっとばかし忙しくてな、後にしちゃくんねェかな?」
わかりやすく盗んだ宝石をひらひらと振る。
ルパンが軽いジャブを兼ねて挑発的に笑うと、闇に紛れるように青年の後ろに控えていた男────赤井秀一────が僅かに殺気立った。
「大切なことなんだ。時間は取らせないから、どうか話だけでも聞いてくれないかい?」
「…ふぅん。いいぜ。聞くだけなら聞いてやるよ」
青年は腰に下げた美しい装飾鞘に収まる剣の柄にそっと手を置いた。
五ヱ門がいつでも動けるように重心を下げる。
「君達が盗んだ物の中に『聖杯』…もしくはそれに関わるような物はあるかい?」
「さてね。盗んじまった物よりも次のお宝に心を割くのが泥棒ってもんだ」
「……覚えていない、と?」
「そりゃどうかな。ぽっと出の不躾な兄ちゃんに正直に答える口が俺達にはねェだけかも?」
ルパンはおどけるように肩をすくめた。
自分たちに用があることは確定。その上でなるべく穏便に行きたいと思っているようだ、と。
不透明過ぎる相手の情報を集めるため、少しばかり危険だが挑発を兼ねて揺さぶりをかける。
あの青年は王族か、それに連なる血筋の人間で間違いないだろう。
王族特有の人を従える気配、貴種としての自負と自信が月明かりの中でもはっきりと感じ取れた。
視線すら交わさぬ阿吽の呼吸で、退路は次元が確保した。
ならば自分たちのようなアウトローに挑発されれば乗ってくる可能性は高い。
しかして。
挑発に乗ったのは王族らしき青年当人ではなく、後ろに控える男の方であった。
「こそ泥風情が。この方がどういう……」
「動くな。拙者もつまらぬものを斬るつもりはない」
五ヱ門はそっけなく言い放った。
激情に意識がそれたその一瞬で、五ヱ門は赤井自身ですら気付くことのできない疾さで赤井の首へと刀を突きつけていた。
首筋に軽く触れた刃が薄皮を割き、つるりと血を滴らせる。
赤井は熱くなって失態を演じた己を恥じるように舌打ちした。
「ふむ。武力行使のつもりはないんだけど、そちらがその気なら抜かないわけにも行かないな」
「おいおいおい、俺らにちょっかいかけてきたのは兄ちゃん達のほうだろ?」
「それに宝石を盗んだこともいただけない。何十億か具体的な数字は確認していないけれど、見てみぬふりをするには大き過ぎる被害だ」
「……今度は正義の味方ごっこってか。いいぜ、このルパン三世から盗れるもんなら」
盗り返してみせな。
銃声。
言葉とほぼ同時に次元が鉄火場の火蓋を切った。
せめてもの抵抗として赤井が後ろ手に掴んだ拳銃、その手を狙った次元の0.3秒にも迫る早撃ちだ。
赤井へと迫る銃弾は赤井の掌を貫くであろう正確なルートをたどり。
キィン、と不快な高音をたて。
「な、嘘だろ!?」
当然のように切り落とされた。
次元の人類最高峰の早撃ちを防いだのは時代錯誤の両手剣の一振りだった。
「五ヱ門!」と次元が叫ぶ声で前に躍り出た五ヱ門は、ギリギリのところで次元へと迫る剣尖をはじき返す。
斬鉄剣が装飾用にも見える大剣とぶつかって金属音を響かせる。
一合、二合。
刃の閃いた跡すら目で追えぬ剣戟は、しかし五エ門が大きく後退したことで中断される。
「なんという膂力……疾さ!」
「それはお互い様さ。君の太刀筋は僕には速すぎる」
五ヱ門はやり取りの裏で小さく歯噛みした。
肉厚で幅広な西洋剣と異なり、刀身が細く繊細な日本刀は打ち合いによって刃が傷つきやすい。
無論、本来斬鉄剣の頑丈さならそんなもの無視できるはずなのだが。
相手の剣は驚くべきことに、斬鉄剣と同等かそれ以上の頑丈さを持っているようだ。
儀礼用としか思えない装飾過多であるというのに、一体どういうカラクリか。
その上、目の前の青年の構えるそれは大剣といってもいいサイズのそれである。
体重比から言って振り回すのも一苦労であろうそれを木の葉のように振り回し、五ヱ門の剣戟に当然のようについてくるとはいったいどういう技量か。
一瞬の死角を突き、最速の袈裟斬りを青年へと放つ。
手加減などとうに吹っ飛んでいる。
ごう、と風切音。
流れのまま力を抜いた大剣の残響が、まるで未来でも見えているかのように五ヱ門の必殺を綺麗に受け止める。
五ヱ門は大きく一度後退した。
ただ一人でルパン、次元、五ヱ門の三人の動きを制限するという尋常ならざる強さを持つ青年だ。
未だ銃を向けあったままにらみ合う次元とニット帽の男を横目で確認する。
青年の出方を警戒してルパンも次元も戦況を動かすことができていない。
そこでルパンと目が合い、視線だけでこれからの方針について素早く意思疎通する。
この場はいったん退くべきだ。
「お主、名はなんという」
「アーサー。この身は赤き竜の化身にして……」
遠く警備兵たちの怒声が響く。状況は悪い。
青年が淡く笑った。
「栄光という名の幻想を戴くもの。────
廃工場に立ち上る燐光は蛍のようにも遠い夢の欠片のようにも見える。
この世の道理を無視して剣に収束する極光に、ルパンは素早く決断した。
直感だ。
ここにいたらまずい、と。シンプルで総毛立つような危機感。
「ぜっ、全員退避ィーーー!!!」
「……『
極光が、夜の東都を眩く照らした。
プーサー「あわわわわ霊基が、霊基が勝手に大都会のど真ん中で宝具解放ををを」(顔面蒼白)
プーサー真「盗人は地雷です」(真顔)