FBI長官からの電話、襲来。
このタイミングで!?
まさか宝具解放がバレたんじゃ、というか絶対バレてるわ私FBIに四六時中見張られてるし!
東都の町中で宝具の真名解放とかFBIの人たちから爆速で緊急速報が行くに決まってるよね。
それにしたって耳が早いだろ!あああもうだめだおしまいだ!
私は赤井さんの電話の前で七転八倒しかけて、既のところでなんとか外面だけは保つことに成功した。
悶絶するプーサーは絵面的に良くないからな!
しかし、どうすんだこれ。
アーサー王を名乗る住所不定無職の不法滞在外国人労働者が夜の東都に爆発物を仕掛けた疑いは洒落にならん。
書類送検されるわマジで。
テロ事件の可能性も視野に入れて取り調べされちまうよ。
下手するとルパンの共犯者とかって疑われて国際犯罪者扱い、そのまま刑務所へシューーッ!というルートも夢じゃない。
一応FBIも庇ってくれるだろうけど、私なんて世間的には他人の宝具を無断で貸し出してるだけの浮浪者だ。
かばう旨味がほとんど無いし、宝具自体は預けてるからそのまま「知らん浮浪者が意味不明な供述をしてるだけでFBIとは無関係です」と言い切ってしまうこともできるわけだ。
というより、冷静に考えて本物の神秘を振るう蛮族の王が野放しとか危険すぎる。
命令もないのに自己判断でかっ飛んでく核兵器みたいなもんだ。
廃棄一択だよそんなん。
これはもうほとぼり冷めるまでアヴァロンに籠城すべきか……。
「ああ、彼からか。ありがとうシュウ、出るよ」
「これをどうぞ、陛下」
実に紳士的な所作でスマホを渡してくれた赤井さんに軽くお礼を言って電話に出る。
平静に見えてもその実、全身から嫌な汗が出てぐっしょりである。
電話口から聞こえてきたのは先日聞いて以来の老紳士の声だ。
FBI長官に就任し、今年で8年目になるらしい御歳62歳のお偉い様である。
『先週以来ですね、偉大なるアーサー王よ』
「もう体調は大丈夫かい?君は病み上がりなんだ。あまり無理をしてはいけないよ」
『ははは。貴方に施していただいた奇蹟でこの通り、ピンピンしていますよ。倒れる前より元気なぐらいですとも!』
快活そうな声に私もほうと一息ついて安堵する。
先週、FBIから「米国の指導者に会っていただきたい」と深々と頭を下げられる事案があったのだ。
それで急遽パスポート────アメリカ国籍のパスポートだ。しかもきちんと日本に入国履歴もある。偽造では?────をもらって渡米したのだが。
そこで米大統領その人との謁見中、同席したFBI長官が急病で意識を失って倒れる事件が発生したのだ。
慌てて「全て遠き理想郷(アヴァロン)」で治療をして事なきを得たが、あの時は本当にびっくりした。
お年を召されてたもんね…やはり加齢は様々なところにガタが来ていかんね。
そのへんプーサーは鞘の影響で常若なのはありがたい。鞘さまさまである。
と、そんな経緯があり、先日の件を恩に思ってくれたらしい長官がいろいろとこうして世話を焼いてくれている。
たいへんありがたいが、私のコレは他人のふんどしでとった相撲なので気にしなくてもいいのに。
つい先日も高級レストランに誘っていただいて、もう頭が上がらない。
入り口に置いてある家具の段階で目ン玉飛び出そうな超高級品の香りがして、味なんてまともに分かんなかったけどもね。
「それで、今回はどんな要件だい?」
大統領会談を前にFBIから要望があった通り、古英語に現代イギリス英語を混ぜるような言い回しで問いかける。
どうしても慣れないのでゆっくりゆったりとした喋り方になってしまうが、威厳があってとても良い、と赤井さんからは太鼓判を押されている。
あのアンチクショウは私の努力の結晶であるアメリカ英語を「ブフォwwww王よwwそれはww」と古のネットミームみたいな反応で大笑いしよったからな。
そりゃ幼少より英語圏に住むFBIからすれば楽しいかもしれんが、失礼な赤井秀一め。
長官はひと呼吸おいてから、快活にからからと笑って言葉をつないだ。
『お戯れを。ついに御身の動く時がやってきたというのに、仲間はずれとは随分と薄情ではありませんか!』
いやなんの話っすか?
私はたった今FBIに超弩級の迷惑をかけて全身冷や汗まみれなんだが。
まさか京都式の遠回しな批判とかなら今すぐ全力で土下座する用意がありますよ?
『短いようでもあり長いようでもあり…。ええ。我らもこの時を心待ちにしておりましたとも。日本政府に対する連絡の準備はすでに整えております。各省庁との調整は大統領の指揮のもと完了済み。あとは陛下のGOサインのみ』
迫真、万感の思いが込められているような声は熱っぽく、ここまで感情の昂りが伝わってきそうだ。
しかし……え?準備って何?
まるで知らないんだがこれは私が記憶喪失とかなのか?
なにやら全然身に覚えのない準備が整ってしまっているし、仲間外れは私の方なんだよなぁ!
これはどういうシステムなの?
と、思ったがすぐに霊基の知識からこの惨状の原因らしきものの答えが出た。
それ即ち、スキル・カリスマBである。
Bって坂本龍馬やらカエサルやらの更に上、古代イスラエルの王ダビデと同じレベルのカリスマだ。
プーサーの経歴上カリスマを発揮する余地がなかったとしても、一国を治めるに十分な人的魅力は到底隠せるものではない。
つまり、呪いに等しいとされるカリスマA+を持つギルガメッシュ王ほどではないにしろ、なんか変な誤解をされる下地はバリバリに整っているということ。
誤解というか暗示というか、スキルによる洗脳を無意識に発動させちゃった疑いというかね。
…………。
私の馬鹿!!!新手の宗教系マインドコントロールは有罪だぞ!!
もはやこれで聖剣折れてないのはバグだろ!
どう詫びても鞭で打たれる最悪の所業だもの、無様な記者会見でSNSとかで石を投げられても当然の報いである。
いくらカリスマがあってもいい感じの言い訳なんて無から生えたりはしないんですよね……。
「わかった。取り返した宝石とともに合流させてもらうよ」
全力で落ち着いた声を取り繕い、私は一応の懸念点をFBI長官のナイスガイなおじ様へと伝える。
この人、映画にでても遜色ないような整った顔立ちなんだよね。
顔にも金にも能力にも恵まれた権力者とか勝ち組の見本かよ。ぺっ。
窮地の連続にやさぐれが進行してそろそろプーサーオルタになりそう。
逆切れって言わないでくれ。図星で死んでしまうので。
「それと、ルパン達を追っていた報道カメラがいくつもあるから、エクスカリバーの発動光も捉えられているかもしれない」
『そちらはすでにこちらで手を回しております。御身の神秘を世間に知らしめる良い材料となりますので』
こともなげな返事に私は若干言葉を詰まらせた。
私からすれば涙が出るほどありがたいお言葉なのだが、対応が早すぎないかFBI。
あと日本で自由に動き過ぎてないかFBI。
私の脳内の安室さんが青筋立ててるぜ。
『これは我々の国家的プロジェクト。前々から秘密裏に関係各所へ話を通し、準備を進めておりましたので。陛下もご安心ください』
「それはまた……僕はあなた方に助けられてばかりだ」
『ご謙遜を。貴方は人々を終末の滅びから救うものにして、人類を新たなるステージへと導く御方。我らも貴方のバックアップを務められるのを光栄に思っております』
マジでなんの話ですか!?
誰だそんな大嘘吹き込んだ野郎は!!!私です!!!
絶句する私を見ていたのか、隣にいた赤井さんが真摯に丁寧に私の前に跪く。
そのままその怜悧な瞳を私へと向け、囁くように言葉を落とす。
「頼りないと思われるでしょうが、どうか我々にお任せください、陛下」
ランスロットも腕を組んで深く頷き納得の完璧な騎士ムーヴを見せる赤井さんに、私の肉体は無意識に動いていた。
騎士という夢、戦場の栄光を担う幻想として、意識とは関係なく動かされたと言って良い。
「君にすべてを任せよう、アカイ。君の道行に加護の光のあらんことを」
事ここに至りて、もはやどうにでもなーれ、的な心境に陥っている。
今後来るであろう記者会見とかその辺をどう乗り切るか、日本の治安を守る警察の皆様にどう言い訳するのか。
その辺はもう全部後回しでいいや。
いまはそう、ぼうっと夜の東都の静寂に身を任せるだけ……。
いや無理だわ。
安室さんがガチギレして表情無くしてる光景しか浮かばん。
おお神よ。寝ているのですか。
ならばそのまま永眠させてやろうかこんちくしょうめ。
などと不敬にも神に八つ当たりしつつ、本日の夜は更けていくのでした。まる。