プーサーなオリ主とコナン君   作:ラムセス_

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公安の現在

 

 深夜。

 未だ文明の灯りは尽きず、美しい夜のネオンが地上を照らしている。

 

 その灯りから少し離れた場所、数日前に起きた謎の発光現象現場となったビル屋上に、二人の男がいた。

 一人は降谷零。もう一人はその連絡役たる風見祐也だ。

 

 降谷はビル手すりに残る派手な痕跡───熱で屋上の手すりが溶けて曲がった跡だ───を確認して、ぎりと歯軋りする。

 ガン、と拳が無事な手すりを打つ音が聞こえて、風見はビクッと肩を震わせた。

 進展は未だありません、と報告しようとしていたのだが、賢明な公安警察・風見裕也は一瞬でこのタイミングでの報告を諦めた。

 

 触らぬ神にたたりなし。誰だって自分の身は可愛いのだ。

 しかし神の方は風見を見逃してくれなかったようで、ちらりと鬼の形相のまま降谷が口を開いた。

 

「何だ、風見」

「あっ、その……」

 

 振り向きもせず降谷の氷点下の声だけが空気を凍らせているかのようだ。

 風見が冷や汗を垂らしてまごついていると、もう一度お声が掛かった。

 

「何の用だ、と聞いている」

 

 感情を最大限抑えてできる限り冷静でいようとしているのがありありとわかる声だ。

 ……まぁ、この恫喝じみた問いかけを聞いた風見の同僚がこの間トラウマを負ってしまったのだが。

 風見だからこそ、本来激情家たる精神を殺して自制していると分かると言っていいのかもしれない。

 

 ただ、その上でこの怒気はとんでもねぇと言わざるを得ない。

 間違いなくパワハラである。

 

 公安による現場検証の結果、この場所ではすさまじい威力の兵器じみた熱の射出が行われていたことがわかっている。

 ガスバーナーでは到底足りない、例えば工業製品を作るための専用設備などから出る熱がそうだ。

 

 しかしそんな大掛かりな装備を一日でこんなところまで運び込むのは無理だし、爆発物にしては静かすぎる。

 閃光を見た人間は多かったが、その見た目の美麗さからか脅威を覚える人間は少なかった。

 覚えている人間こそ多いが、警戒して詳細を見ている人は少ないというべきか。

 

 風見は降谷の鋭い視線をいなしながら、極々自然に雑談するように話題を投下した。

 

「いえ……米国がこんなところでことを起こした理由は何なのか、と考えておりまして」

「あのアメリカ野郎どもがふざけた真似をしてくれる……。新兵器か何かの実験か?わざわざ日本で?メリットが見えないが」

「もしそうなら、やはりあなたのバイト先の同僚である青年が関わっているのでしょうね」

 

 アーサー・クラーク。

 この付近の監視カメラには、FBIを伴ってこのビルの屋上へ向かう彼の姿が写っている。

 

「監視の人員をつけておけ。だが、米国には気取られるなよ。また上からごちゃごちゃ言われるのは面倒だからな」

「はい。とはいえ、彼は非常に気配に聡い。前に付けた人員も全て撒かれています」

「僕の尾行に気付くような手だれだ。多少は仕方ない。牽制が目的だからそう気にしなくていい」

「かしこまりました」

 

 のうのうと青年の後をついて監視カメラに映る赤井の姿を思い出したのか、降谷が「赤井秀一……やってくれるな……!」とふたたび怒りのボルテージをあげている。

 落ち着いて欲しい。

 

 風見は怒りを逸らすように話題を別のところへと方向転換させた。

 

「昨今のTV放送についてどう思われます?例のアメリカの報告について」

 

 まさに荒唐無稽というに相応しい内容だったが、既にネット上ではあの時報告のあった内容がアップされている。

 論文とするにはあまりにも不明点の多い報告だったため、世界中の科学者から疑問と批判が噴出しているのが現状だ。

 一部、国内の大学からも非難の声があるらしく、続報が待たれるところである。

 

 降谷はしばし沈黙した後、舌打ちしてビル下へと視線をやった。

 古びたスナックの切れかけの蛍光灯が目に映る。

 

「嘘なら話が早かったんだが。少なくとも、僕たちは本当だと思って行動したほうがいいな。そうであればFBIの行動の不可解さにも説明がつく」

「ですが……そうだとしたらなぜ日本を拠点にしたのかについての疑問が残りますね。アーサー王も十三の宝とやらもイギリスの伝説でしょうに」

 

 あの米国の発表にあった宝は、どれも「ブリテン島十三の宝」という伝説になぞらえたものだ。

 アーサーという名前、近隣を通った目撃者の証言、それらからすれば、あのアーサー・クラークがアーサー王になぞらえていることは明白だ。

 

 何となくチグハグで、風見は少なくない本音で口を開いた。

 

「イギリスの伝説にアメリカが関与するのもおかしな話です」

「それはたぶん、アーサー王からしたら米国も英国も変わらないからじゃないか?現在のイギリスはかの王からしたら、自分の国が滅んでからブリテン島に居着いた侵略者たちの国だ」

「だからどの国も変わらないと?」

「ああ。教えを同じくするという意味でキリスト教国であるアメリカに親しみを感じたとか」

 

 半笑い、というより皮肉るような口調だった。

 中々に尖った意見だ。部下にはとても聞かせられない、というか各方面に問題しか生まない。

 しかしここで窘めるのも面倒しか生まなさそうなので風見は口を閉じた。

 沈黙は金なのである。

 

「とはいえ、彼がなぜ日本を拠点に選んだのかは探る必要があるな」

 

 降谷はそう言って鉄柵にもたれかかった。

 

 これまでにこの辺りの監視カメラは秘密裏に全て洗ってある。

 一ヶ月と少し前。他に何の痕跡もなく忽然と路上に現れたアーサーが、近隣のコンビニの監視カメラに映っていた。

 どこからか湧きでたとしか思えない現れ方で、機械の故障を疑いもした。

 

 しかし、彼の現状を思えば本当に「湧き出てきた」可能性も否定しきれない。

 

 おそらくここでコナンが行方不明になっていた件にも彼が関わっている。

 現場に残された血痕は間違いなくコナンのもので、あの量では失血死は免れないだろうと担当医から報告が上がっている。

 だというのに2日間の失踪の後、コナンは五体満足で皆の前に姿を現した。

 

 コナンが犯人を追ったと思われるルート上にアーサーが居たことは、既に防犯カメラの映像で分かっている。

 

 降谷は少し思案するような顔をして口を開いた。

 

「お人好しな彼はコナン君を心配してコナン君の後を追って行ったんだろう。それで、重傷を負うコナン君と遭遇した」

「……随分、柔らかい物言いで対象を表現するんですね」

「うん?」

「あ、いえ。他意はないのですが。降谷さんがホシの事を話すとき、そうやって感情を交えたことはあまりありませんでしたから」

「………」

 

 降谷は少し悔いるような顔をして、目線を右に逸らした。

 降谷にしては珍しい、恥じるが如き仕草だ。

 

「そうだな。無意識だった」

「珍しいですね。あなたがそんなふうに話をするなんて」

「……彼は人格者だ。安室透と同じく、万人に好感を得られる人間味の無い性格と言ったらいいか」

「それは、偽りの人格、ということですか?」

「さあな。だが、安室と違うのはそれが強烈に人目を引くという点だ」

 

 誰も彼もが彼を注視せざるを得ない。

 好感を抱かざるを得ない。

 目で追い、姿を瞳に焼き付け、心をとらわれる。

 

「僕が彼を古の王と半ば認めているのは、その真似しようにもできない圧倒的人格性故だ。あれを偽りでできるくらいなら、アイドルや政治家は苦労しないだろうさ」

「それは……なるほど」

 

 風見は曖昧に返事をした。

 降谷がここまで魅せられているのだ。一般人が魅了されるのも無理なからぬことだろう。

 

 アーサー王。古の王にして伝説的騎士。

 

 彼はなぜこの地に復活し、何を考え、何をもってアメリカに与するのか。

 わからないことは多い。

 

 

 しかし、これが激動の予感を伴うことだけは、風見にもぼんやりと理解できていた。

 




プーサーについて情報が錯綜してます。
SNSやネットでは急速に嘘情報も拡散し始めた模様。
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