定期的に行われるFBIの連絡会合に、何故か出席する私である。
メンツは正装のFBIさんと他部署のお偉いさん、そして平然とそば付き騎士の顔をして控えている赤井さんといったところだ。
最近赤井さんの料理が絶品でいけない。
生煮えシチューなどとんでもない。中華からフランス料理まで、まさに絶品の味わいである。
いやFBIきってのスナイパーに何させてんだって話だけど。
赤井さんが明らかに上機嫌で私に色々振る舞ってくるから……料理の楽しさに目覚めてしまったのだろうか…。
「ただ今戻りました、陛下」なんて言いながら中世ヨーロッパの映画みたいな片膝立ちをするのは今回の報道に際しての連絡役である担当官二人だ。
若い男と酸いも甘いも噛み分けた渋いお爺さんの二人組。
後進の育成に熱心で何よりである。
場所は工藤邸の居間で、私用に少しだけレイアウトを変えたらしい。
なんか玉座みたいに部屋の奥に設られた高級椅子が落ち着かなくて結構しんどい。
霊基のほうが当然と言った感じで受け止めるから耐えられているだけで、据わりが悪いったらありゃしないのである。
私は精一杯厳かな口調で口を開いた。
「それで、僕の目的だったかな。君が気にしていたのは」
「はい。恐れながら」
いかにもジェントルメンといった感じのお爺さんの方が恭しく答えた。
今回の意見伺いは、私がルパンと接触した理由を聞きにきたということらしい。
……実際、こんなことせずともそう深い理由なんてないんだがな。
ちょっと聖杯とかもってませんよね?と聞くぐらいの話で。
あと人類悪とか何か情報知ってたらいいなぐらい。
「……少し、探し物があったんだ」
その言葉に、室内に香るような緊張が走った。
なんでそんな皆息を呑むんだ。肩の力を抜けやオラ。
私が泣くぞ。
「ギャラハッド卿に探索を命じたという、あの?」と赤井さんが問うてくる。
聖杯探索という意味合いでならそうだが、アレはFGO的聖杯かどうかは定かではないんだよな。
ギャラハッド卿とともに昇天しちゃったみたいだし。
「ギャラハッド?ああ、関係すると言えばするね」
「ッ、それは」
手持ち無沙汰で、椅子に立てかけたままだった聖剣の柄をそっと撫ぜた。
私の一挙一動に部屋の緊張が高まっていく。
全員深呼吸してくれよ…なぜ私を見るんだ…。
「まず、僕が探していたのは聖杯だ。僕が起こされた原因として、まず聖杯が起こす異変が関係していると思ったからね」
ルパンも、彼らなら持っていておかしくはない、或いはなんらかの拍子に起動してもおかしくないと思ったんだ。
そう言えば、ごくりと生唾を飲み込んだ若い担当官が、「では、いずれ世界に探索に出るということですか」と質問してくる。
ざわりと空気がゆらめくのは全世界聖杯探索という言葉の重みゆえか。
私はそれをすぐさま否定した。
「いや、日本から離れるのはできる限り避けたい。獣の動向が監視できなくなるからね」
ハッと息を呑む声が聞こえる。目を見開いた担当官達とFBIが慄きあえいでいる。
そう。
それがプーサーの霊基が起こされたもう一つの理由……だと私が勝手に考えているもの。
獣、すなわちフォウ君封印問題である。
「彼は比較の獣。顕現してしまえば、現代の悪性を喰らって瞬く間に成長し、人類を絶滅に追いやるだろう」
霊基の記憶からすると、キャスパリーグはエクスカリバーを真正面から喰らって表皮が傷ついただけとかいうもの凄い化け物である。
というか、生前のフル装備アーサー王が深傷を負うレベルでもまだ成長しきってないの、どう考えてもバグなんだよな。
結論。米花町に放たれたらジ・エンド。
と、そこで隣のサイドテーブルで赤井さんが紅茶を入れてくれた。
上品なアールグレイの香りが鼻を楽しませてくる。
「では、御身は日本に留まり、黙示録の獣の蓋となると、そうおっしゃるのですか」
「一言で言えば。まあ、気楽に構えていてもいいよ。アヴァロンの封印は強力そうだったし、早々彼が上がってくることはないだろう」
若き担当官は「感謝します、王よ」と震える声で言って瞳を伏せた。
そんな畏まらんでもいいのに。
実際、私が日本から離れたくないというだけの話でもあるしな!
「アカイ。紅茶、おかわりもらえるかな?」
「Yes, Your Majesty(はい、陛下)」
ちなみに、先ほどからここでの会話は最高敬語にあたるイギリス英語で行われております。
なにか訪ねる時なんかも「What does Your Majesty think about it?(どう思われますか、陛下)」とか言われるし。
聴き慣れなさすぎてリスニングが大変だから普通に喋ってくれ…。
あとプーサーは今現在どこの王でもない浮浪者なので陛下はまずくないか?
「それと陛下からお借りしましたアヴァロンより持ち帰られた宝物達ですが……」
「何かあったかい?」
「いえ。現在慎重に研究を進めております。この度はアーサー王の寛大なる御心により、」
「いいよそんなの。僕も便宜を図ってもらっている身だしね」
私の言葉に、感謝いたします…!と感動したように若い担当官は打ち震えた。
大袈裟だってば。
するとそこで、柔らかい布がずり落ちて、拭いて手入れの途中だったエクスカリバーの姿が顕になった。
椅子に立てかけてあったのだが、動いた拍子に布がずれてしまったらしい。
驚きに担当官が声を上げた。
「その剣は、王を選定するという…!ぶ、不躾な願いなのですが」
「見るかい?」
「いいのですか!?」
「もちろん。その前に……十三拘束解放、円卓議決開始」
サービス精神でシールサーティーンを起動させる。
それっぽく光ればそれで構わないので、全否認でも特に問題ない。
ふわりと燐光を纏った聖剣が、円卓決議を開始する。
すると私の脳内に囁くような声が満ちた。
〈ケイ:否認〉
却下だ。
〈ベディヴィエール:承認〉
ケイ卿、そう堅いことを言わずともいいではないですか。
〈ランスロット:承認〉
王よ……こういう用途は問題ありかと。
おっふ。
え、なにこれ。円卓決議って座まで通じるとかそういうシステムなの?
本物達の生ぬるい視線を感じて私は恥じ入るばかりであった。
まさか本人達が監修してるなんて思っても見なかったんだよ!
ごめんなさいくだらない理由で円卓決議を開いてしまって!
円卓の騎士の方々においてはご機嫌麗しく……へへ。赤っ恥かな。
「剣が輝いて!……どうされました?」
「なんでもないよ。どうぞ、これが聖剣だ。手を切らないように気を付けてね」
「I am much obliged…!(感謝いたします…!)」
何事もなかったかのように担当官にエクスカリバーを渡すものの、内心私は恥で震えるばかりであった。
ああ、地味に承認二段階だから振るうときは注意してね。下手すると工藤邸吹っ飛ぶから…。
などと独りごちつつ、本日は過ぎてゆくのであった。
なお、聖剣承認の光は五分後に時間切れなのかそのまま燐光を伴い散っていったのであった。まる。
・円卓の騎士達(座)
王の外殻を被った薄く善良な無辜の民(プーサー主)を暖かく見守る構え。
その眼差しは初めてのお使いを見守る親御さんに似ている。