書き上がると我慢できなくて投稿してしまう…
帰ってきてから、私の所在は特級の秘匿事項として扱われるようになった。
なにせ世界中から取材しようとやって来た記者やカメラがウヨウヨいるのだからな。
一応まだバレていないが、時間の問題だろう。
なにせ私はポアロで顔出しバイトしていたのだから、女子高生らから話が漏れるに決まっている。
バレたら全世界のメディアが大挙して押しかけてくるに違いあるまい。
あの報道の後、担当した米国TV局には死ぬほど問い合わせがあったそうだ。
あんな与太話を公共の場に流してけしからん!という意見から王は今現在どうされているのですか!?という食い気味の質問までよりどりみどり。
特に型月設定である「世界のテクスチャ」周りは意外なことに質問が殺到したらしい。
どう言う理屈で、とか何故、とかは私も霊基も基本的なことしか知らない。
なので「マーリンから聞いたことだが」みたいにぼかして伝えたことだが、やはり科学者を中心にその辺りへの興味は根深いようだ。
確かに、テクスチャという考え方は現実だと思うと非常に興味深い。
例えばラグナロク──北欧地帯一体を覆うテクスチャが剥がれた事件──は現実に起こったことだが。
テクスチャの再編に伴ってBC1000年に起こった噴火と読み替えられた。
そのような古代におけるテクスチャの剥離と再編は繰り返され。
それが巡り巡って、現在では巨大な一枚のテクスチャが星を覆っている。
その名こそが…恐らくは「人理」と言うのだろう。
これ、はじめに歴史学者を含めた学者たちに何かのきっかけで話した時、かなり慄かれたものだ。
つまり我々が普遍だと信じていた宇宙の認識も物理学も、我々の世界(テクスチャ)でのみ通じる言語でしかなかった!とかなんとか。
極秘事項として一度は口止めすら依頼された内容だ。
まぁ、科学で成り立つ知識基盤が粉々になりかねない劇薬だからね。
実際、個人単位なら私についてアヴァロンへ行くことで簡単にテクスチャから脱出できるし、言っていることの証明は容易だった。
どうも皆詳細を調査するべく実験したいらしいのだが、まず実験という発想が人理なので難しいところ。
カメラをアヴァロン内に持ち込んで普通に動作したのは、それが「映像を映すもの」として作られたからだ。
光がセンサーが、なんて考慮されてはいない。
テクスチャの違いというのはそれほど大きい。
たぶんボイジャーとかはそういう意味ではフォーリナーなんじゃないかと個人的には思っている。
人間にとっての降臨者なわけじゃなくて、地球のテクスチャを背負ったままにやってくる来訪者。
まあ、単なる憶測だが。
閑話休題。
番組が放映されて一週間。
その反響はものすごく、現在ではsnsでは私の出ていた動画の切り抜きやら剣舞やらがネットでは跋扈している模様。
私が頭真っ白のまま言った名言(笑)がえらくバズっているらしく、とんでもない勢いでミーム化すらしているようだ。
私の全力の口から出まかせ、『誠実であることは強さの証である。真実を語る勇気は、剣よりも鋭い武器だ』がその中でもいちばんの売れ行きを誇っている。
今の現代社会に真に必要なことだ、だとかなんとかすまし顔で言ったのはもはや黒歴史である。
モロにペンは剣よりも強しのパクリだよ!
赤っ恥だからそこだけ切り取って繰り返し放送するのはやめてくれ!
また、アーサー王伝説をあまりに知らなかった層にむけて、世の中では歴史系の深掘り動画が増えたらしい。
昔のイギリス料理再現してみた!みたいな歴史動画も多い。
そんなわけで。
今日も今日とて戦々恐々でネットを使ってコソコソと情けないエゴサをしていると。
ピンポーン、と工藤邸のチャイムになった。
玄関カメラを覗けば、そこにいたのはコナン君だ。
慣れた様子で上がり込み、コナン君はニカっと板についた子供らしさで笑って見せた。
「アーサーさん、元気?」
「ははは、特に変わりなく。この屋敷に閉じ籠りっぱなしで少し運動不足だけど、僕は鞘の効果で不健康にはならないからね。老いとも無縁だし」
「うーん、考えれば考えるほど便利だよね」
「まぁ、王が老いたり弱ったりするのは国家的にNGみたいなところがあるし、そういうのを含めて王を王足らしめる装置なんじゃないかな」
エクスカリバーの担い手を完璧な状態で保管しておくみたいなデザインコンセプトな気がするし。
「闇深ファンタジー…!」なんてコナン君がちょっと戦慄した。
「ところでどうしたんだい、ここに今近づくのは遠慮しているって話だったみたいだけど」
「あー、それは……」
最近はカメラの関係でなるべく工藤邸には近づかないようにしているはずだが。
コナン君は少々困った様子で上目遣いをした。
「ちょっとアーサーさんに相談があってさ」
「ん、僕にわかることなら何なりと」
「よかった。なら、こいつなんだけど、道端で泥だらけになってたから拾ったんだけど、どうみても普通の生き物には見えなくってさ」
何か知ってる?と軽く言ってずいっとコナン君が懐から取り出したのは。
白と紫が美しくグラデーションする毛並み!
可愛らしい四足獣のフォルム!
「フォウ…?」という特徴的な鳴き声!
私は素早く壁に張り付いて距離をとった。
どう見てもフォウ君です本当にありがとうございました。
えっどういうこと!?まだあのアヴァロンの封印は頑丈そうな感じだったじゃん!!
「どうしたのアーサーさん、急に壁に張り付いて」
「待ってほしい、これ、え、悪夢とかかな?夢なら覚めて欲しい切実に」
震えたまま私は思わず顔を青ざめさせた。
まだ幼体のようでツノも生えていないが、米花町なんかで練り歩いていたら一ヶ月と持たず凄まじいことになる人類悪さんである。
震える手で聖剣を取ろうとするが、それも躊躇いのため上手くできない。
なにせこの獣はまだ何もしていない、無実で優しいフォウ君だ。
そんなものを聖剣で斬るなんてとんでもない非道だ。出来るはずがない。
とりあえずズリズリと慎重に椅子に座り直して、私は言葉を選んだ。
「えーっとね、いつからこの子は君のところにいるのかな」
「だいたい一週間ぐらい前だよ。側溝で震えてるのを見つけたのがそのくらい前だから」
「一週間前!?そんな前から米花町にキャスパリーグがいるのか!?」
「キャスパリーグ?それってたしかイギリスの伝説に登場する猫の怪物だよね?……猫?」
「フォーウ」
コナン君が「猫じゃなくない?」と尤もなツッコミをしたが、私にそれに返事をする余裕はなかった。
そういえばプラ犬なんて呼ばれていることもあったし、実際犬なのか猫なのか。
まぁ、何にせよおかしい。
霊基の見立てでは、こんな悪性渦巻く大都会に一週間もいたなら、今頃は巨大なヒグマみたいなサイズになっているはずだ。
「念のため聞きたいんだけど、キャスパリーグを連れた状態で殺人事件に何件遭遇した?」
「え、急に何。今週はまだひいふぅ…23件だけど」
前言撤回。
今頃シロナガスクジラぐらいには成長してると思われる。
絶対おかしい。今頃東都は壊滅的被害に遭っていなければ説明がつかない。
私はジロリとコナン君を睨め上げて聞いた。
「今週、何か普段と違うことあったかな?」
「ん……いや、僕が拾ったからかシロが傍を離れたくないみたいで、寝る時もずっと一緒にいた程度だけど」
速報。
キャスパリーグ、シロとか名前つけられてる。本人はそれで満足しているらしい。ええんかそれで。
「ああ、そういえば知らない黒い長髪の女子高生のお姉さんから、突然話しかけられたことがあったかな」
「……女子高生?」
「うん。僕の肩を突然掴んで『その獣は絶対肌身離さず連れていなさい!!絶対に!!』とかなんとか」
それって紅子さんじゃん?
私はしょっぱい顔になって沈黙した。
そりゃ紅子さんも驚愕したことだろう。
野生の人類悪が街を闊歩してたんだから、目ん玉飛び出るじゃ済まないはずだ。
しかし、本物の魔女がそう言うということは、コナン君はビーストⅣの成長を抑えるなんらかの機能を持っているのだと思われる。
よくわからんけど光の魔人関連か?よくわからんけど。
いや、そうなるともしかしてコナン君がいるからアヴァロンは東京にあったのか?
私の浮上した直上に米花町があったのもそれで説明がつく。
ふむふむと頷く私にコナン君は状況が理解が追いついていないのか、半目で私を非難してくる。
「それで、なんなの?」
「何から話せばいいのかわからないんだけど、とりあえず今から関係各所に緊急連絡を入れるからちょっと待ってて」
「え、何何何」
「えっと番号は……ああ、失礼。大統領につないでくれるかい。ええ、獣が幼体のまま檻から出た。まだ無害だ。理由は不明だが、見当はついている。今僕が保護している。うん、頼んだよ」
電話口から転びかけるような慌ただしい音が響く。
人類悪顕現未遂の大事件だ。それもさもありなん。
歴戦のFGOプレイヤーだって驚愕する事態である。
え、と疑問符を飛ばしまくっているコナン君を置いて私は深刻な顔をした。
緊急会議ーッ!!!
・フォウ君
可愛いし行儀がいいので毛利宅での滞在を許された。
笑顔の蘭ちゃんにドッグフードを与えられ、虚無顔をするなどしたのが今週のハイライト。