工藤邸の美しい客間にある机。
そこでコナン君は腕にフォウ君を抱えて私の隣に行儀よく座っている。
対するは米国のお偉いさんだ。
片方は国防長官だったか何だったか、ともかく上から数えた方が早い人がひとまず二人、後日大統領を含めてもう二人訪れることになっている。
顎髭を蓄えた白人のお爺さんは、実に険しい顔をして真っ白もふもふのフォウ君を見つめている。
「捕らえて殺処分はできないのかね」
「僕からはお勧めしかねるよ。今の状態は奇跡以外の何物でもない凄まじいバランスのうえで成り立っている。それを故意に壊そうとは到底思えない」
殺せと、そう言う冷徹な声色に私は真面目に否定した。
実際問題、可哀想だとかそう言う意見以前の問題として、この形態でも本気出せば人一人死者蘇生しかねない魔力を持ってるのだ。
本気を出せば自身の魔力で成長を早める程度簡単にできるだろう。
つまり、私の戦闘力は53万です…の可能性があると言うことだ。
手出ししようなどとても思えはしない。
しかし、それでは納得できないのかもう一人、有色人種のおばさんが息をついて視線を私へと向ける。
「ですが…黙示録の獣、サタンの卵を放っては置けません。アメリカ国民のため、ひいては全人類のために、我々はできることをする義務がある」
「それについては僕も否定しないよ。我々は今、未曾有の危機の最中、滅びの階に足をかけつつあることを忘れてはならない」
もったいぶった言い回しで一言言い置いて、私はフォウ君を撫ぜた。
憮然としながらも一応フォウ君は黙って撫でられてくれたようだ。優しい……。
「僕としては、コナン君の身柄の安全を確保することがまず第一だと考えている。つまり、この状況を永続させるためにも、彼の身が脅かされない状況を作るべきだと考えている」
「米国で身柄を預かると言うわけにはいかないのかね?」
「米花町という立地の影響が捨てきれないので、できればこの土地を離れたくないのが本音だよ。アヴァロンが東京という地に現れたのは、この地に紐づいた安全措置が働いたともとれるからね」
コナン君と米花町の相乗効果──つまりは「名探偵コナン」というテクスチャが張られている、という可能性も無きにしも非ずだからだ。
この辺をマーリンに確認できれば早かったのだが…私からではコンタクトの取りようがないし。
顎髭を蓄えたジェントルメンが長い沈黙の後深く頷いた。
「では、なるべく早くこの子供を保護する制度を作り、警備体制を固めることとしよう」
「ああ。苦労をかけるとは思うがよろしく頼む。それと、周囲を固める人員は善良なもので、悪心を持たない者に限らせるといい。悪心は獣を成長させるからね」
私の言葉に二人ともが顔を合わせて苦笑した。
良い人を、だなんて私も無理を言っているのはわかっているが仕方あるまい。
獣を成長させないためにはそれしかないのだから。
「難しいことをおっしゃるものだ…敬虔で謙虚であれと言われて育ってきたが、人生を見渡して真に善良だったものなど数えるほどしかいなかった」
「ははは。僕も、自分が一から十まで清らかだとはとても言い難い。キャスパリーグ打倒の条件がいかに難しいかはよくわかっているよ」
本日はフォウ君ショックの翌日なり。
連絡を受けて飛んできた米国のお偉方は、まずフォウ君を見て困惑をあらわにした。
私の説明で事前に見た目は知っていたとはいえ、やはりその無害そうな見た目は珍獣にしか見えないからな。
だが、ここまで培ってきたアーサー王としての立場がその情報を真実だと人々に信じさせた。
アーサー王として私の戦闘力は剣舞で見せたばかり。
暴風を操り聖剣を振るう姿はメディアでは戦闘機にも例えられた。
その私が「成長しきれば手も足も出なくなる」「核攻撃で倒し切れるかどうか」と証言しているのだ。
戦慄し「今のうちに殺処分を」と望むのも仕方あるまい。
比較で際限なく強くなったキャスパリーグの強さは実際のところ不透明だが。
一応キャメロットから霊基の記憶を辿り、名もなき宝具「鏡の盾」を手元に取り寄せ済みではある。
当時この鏡を比較に挟むことでエラーを起こさせ、動きを止めたと霊基の記憶にあった。
コナン君も私たちの話を聞いて神妙な顔をしているのは、その持ち前の推理力で状況を理解したがゆえだろう。
私たちの断片的な会話から、キャスパリーグがどのような存在かを正確に読み取っているはずだ。
それでも恐れることなく安心させるようにフォウ君の背中を優しく撫ぜているあたり、やはり彼はカルデアの善き人々に勝るとも劣らぬ善人なのだ。
おばさん副大統領は、後ろに控える秘書に軽く手を挙げて指示を出した。
「この地域の土地を調査させます。なるべく早く保護施設を建設し、この子供と共に獣を保護するべく動いたほうがいいでしょう」
「それは僕も賛成だ。コナン君、悪いけど毛利探偵事務所からは離れてもらう。あまりにも危険すぎるからね」
「うん………分かった」
コナン君はやや間を開けてから頷いた。
やはり未練があるのだろう。メガネの奥の瞳が動揺に揺れている。
ちなみに、米国としては特別保護施設建設に際してかなり大きなスペースを取りたいらしい。
が、やはりこの高級住宅街の並ぶ米花では土地の確保が難しいようで。
ひとまずありったけ確保して、米花町自体を「特別管理区域」として、そこに研究設備と保護施設の建築を急ぐようだ。
また、建設が完了し次第、日本政府と調整の後武装した緊急対応チームを常備するとのこと。
まあ、野犬ぐらいのフォウ君なら現代の武装でももしかしたら倒せるかもしれないし、無駄ではないだろう。
そして敏感なプーサーとしての察知能力が、黙ったままの国防長官のジェントルメンが内心で軍事利用も若干考えていることを読み取った。
確かに、キャスパリーグは兵器としてこれ以上ない強大さを秘める。
人の手でコントロールできれば、という特大の注釈がついているけれど。
悪い人だ。
だが、悪い人でなければ政治の手綱は握れまい。そして、悪いだけの人でもないことはしばらくの会話でこちらも理解している。
私は見て見ぬふりして平然と会談を続けた。
また、人類に対する脅威として法整備もしたいと副大統領から相談があった。
将来的には米国の負担を軽減するため、各国と協力して獣管理条約を結びたいのだとか。
「この子は神が我々へと与えたもうた終末までの猶予期間なのでしょう。それまでの間に人類は不滅にして不老たる王のもと結束し、一つにまとまらなくてはならない」
「……う、うん?」
なんか今結構思想入ってなかったか?王のもと人類が結束だとか何とか……まぁいいか。
国防長官が頷き、コナン君へと視線を向けてゆったりと口を開く。
「通信教育の手筈も整えるべきでしょうな。そちらは具体的には日本に任せたほうがいいでしょうが…この子は終末の獣を抑える最新の聖人だ。できる限りの便宜は計りたい」
「僕のことはそんなに気にしなくていいよ?」
流暢なクイーンズイングリッシュで喋り出したコナン君に、国防長官が驚きに目を見開く。
「賢い子だ。だが、私たちもできる限りは尽くしたい。君の自由を奪うのだからね」
「ありがとう」
彼としても複雑だろう。
黒の組織を捕まえるために彼自身動き回りたいだろうに、それを大きく制限せざるを得ないのだから。
しかし自身が絶対に死んではならないことだけは理解している様子。
「灰原にどうやって説明すっかな、これ」と悩んで彼は首を捻った。
どうせ誰にも言うなと念を押されるだろうし、何なら今ここから帰してもらえない可能性大な状況だ。
「ひとまず、工藤優作氏にコンタクトをとって、この屋敷で暮らすことにしよう。僕と一緒であれば、そこまで大きな警備体制の見直しにはならないはずだし、僕自身も有事の際は動ける」
「うん。よろしくお願いします、アーサーさん」
「君の家なんだからむしろ僕が感謝するべきだろうに」
「ぼっ、くの親戚のお家だよぉ?やだなぁ!」
思い出したようにコナン君は工藤新一である事実を隠した。
まあ、そっち(若返りの秘薬)はそっちでマジで国を左右する凄まじい新発見だからそりゃあね。
コナン君は右に左にまったくとんでもないことばかりである。
なお、この件は世間には厳重に伏せると会合の最後に決まった。
世間に不要な不安を煽ることになるということで、各国政府上層部のみで情報共有がなされるようだ。
説明に証人として私も同行することになるとのことで、今後忙しくなりそうだ。