プーサーなオリ主とコナン君   作:ラムセス_

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聖槍ロンギヌス

 

 その日、教皇庁に激震が走った。

 

「この槍……アヴァロンに眠っていた光さす運命の槍(ロンギヌス)を預かって欲しい」

 

 そう言って差し出された槍は燐光を纏い、神々しく光の刃と布とを形成しながら浮いていた。

 光の刃からはとくとくと血を滴らせて、どこか不気味さの中に神聖さを醸し出す。

 

 ただし。

 血で床を汚さないようにか、ガソリンを入れるポリタンクに槍が差し込まれており、どうにも庶民的な感覚は拭えなかったが。

 

 目の前でそれを見せられた首席枢機卿、アンジェロ・オスティア氏は震える手で自らの額に浮かんだ汗を拭った。

 

 

 元々、この会合は予定していたものだ。

 アーサー王復活の知らせ自体は教皇庁も早期に受け取っていた。

 

 カトリック教会にとってアーサー王とは奇蹟の震源地であった。

 

 復活は人類において唯一神の子のみが起こした奇跡。

 このアーサー王復活も当然神の力が働いており、神の警告であるとも取れる。

 「現代社会が失った正義と道徳を取り戻す必要がある」という神の警告なのだ、というのが教会のまとめた主張である。

 

 これは多くの信徒達の共通認識であり、この時代はより一層の信仰が求められていると定義してもいた。

 

 そんな中。

 一部のクリスチャンの間では彼を「神の代理人」とする見方があるのは少々教会としても困ったことであったが。

 それ即ち「新しい預言者ではないか」という意味だ。

 教義としてそれは流石に慎重にならざるを得ない。

 

 そういう意味で、教皇庁、ひいてはオスティア枢機卿の仕事は増える一方であった。

 

 とはいえ、アーサー王自身がキリスト教徒なのは疑いようもない事実。

 彼は古の時代のキリスト教を実際に知る生き証人であり、文章でない生の体験、当時の教えを知ることのできるまたとない機会だ。

 そういう意味で、この会談は待ちに待ったと言っていい。

 

 なんにせよ、いま激動の時代だ。

 多くの物事が変わりつつある。

 

 そんな時、ローマ教皇庁として極めて多忙なアーサー王との会合の機会をもぎ取ることができたのは、この首席枢機卿オスティアの尽力があったからだ。

 

 今後一層の関係強化とキリスト教のさらなる布教のため、オスティア枢機卿は奮い立った。

 

 とはいえ、オスティア自身がアーサー王の存在についてそこまで熱狂していたとは言い難い。

 なにせやはり今の目の前に神の奇蹟でも見ない限り、伝聞の話など話半分に聞いてしまっても仕方あるまい。

 

 だからこそ、この会談もオスティア枢機卿にとって仕事の一環でしかなかった。

 

 それで、ローマ教皇との儀礼的な会談を終えた後、少し踏み入った話をするために別室にて会議を始めたその時。

 

 出し抜けにアーサー王は謎の亜空間からかの聖槍を取り出したのであった。

 

 

「ね、念のためもう一度お伺いしておきたいのですが、その聖槍を私たちに預けられると…おっしゃいましたか?」

「ああ。僕も現代の混迷極まるまつりごとに関わるようになって、清廉潔白ではいられない場面が増えた。だが、それではこの槍の持ち主として相応しくないんだ」

 

 見ている間にも湧き出すように血を流すそれは、禍々しいはずなのにどこか神聖さを感じざるを得ない何かを秘めている。

 伝承の通りの血を流す槍。説明のつかない不可思議な光。

 

 枢機卿はごくりと息を飲み、震える口でようやっともたつくように言葉を口にした。

 

「槍の認定にはしばし時間を要します。歴史・科学調査のほか、神学委員会と歴史調査委員会の承認が必要になります。まずはその間お預かりするという形でもよろしいですかな?」

「もちろん。ああそれと、少しその槍には扱いに注意事項があって」

「注意?」

 

 受け取った槍に触れれば、わずかに手に血が付着した。

 本物の神の子の血だ。

 老化してシワシワだった肌が、血の当たったところから新芽が芽吹くようにハリを取り戻していく。

 

 オスティアは息を呑んだ。

 アーサー王がピンと指を立てて説明を続ける。

 

「私情で振るうなかれ。どこまでが私情になるかは分からないが、破れば国すら滅亡する天罰が実際に降る」

 

 「実際には塩の柱になるみたいだけれど」なんて軽く言う姿に目眩すら覚えた。

 本物だ。疑いようもないし、この今オスティアの手の中にある槍こそが、神の実在をこれ以上なく立証するのだ!

 

「その他細かな権能で扱いについて注意があったり、盗難防止の神秘が宿っていたりするみたいだけれど、そこは握れば分かるようになっているから気にしなくていいだろう」

「そ、そう、なのですか」

「ほら、握っていると分かるだろう?」

 

 そう言われて慌てて握り直すが、囁きかけてくる声は無い。

 ざわざわと遠く予感のようなざわめきはあるものの、それは言葉になる前に霧散してしまうからだ。

 

 私の信仰が足りないからか。

 この年まで教えのために生きてきて、まだ足りぬ高みがある。

 いや、この年だからこそ胡座をかいてきたことを否定しきれない。

 オスティア枢機卿は悔恨に小さく呻いた。

 

 お前では神の声は聞けぬのだと突きつけられたような気がして、不意に泣き出しそうな気持ちにも駆られた。

 

「──あとで、詳しく取り扱いについて書面でお教え願えませんでしょうか。私如きでは神の声は遠く…」

「?いいけれど……分かった。書類もあったほうが便利だろうし、まとめておくよ」

 

 これをどう猊下に伝えるべきか、枢機卿はぼんやりと頭を悩ませた。

 

 調べるまでもない。これはまず間違いなく本物のロンギヌスの槍だ。

 伝承が正しければこの流れる血は神の子の血そのもの。

 触れれば癒しの奇蹟となり、血のついたオスティアの指を若返らせたようにその奇蹟を示す。

 

 手早く認定を済ませて、後はどう世間に発表するかだ。

 サンピエトロ大聖堂を使って教皇自らが司式し開催する特別なミサを企画せねばなるまい。

 巡礼者も爆増することが予想されるので、その手配も必要だろう。

 ミサの日をそのまま記念日に制定してしまうのもいいだろうが、それには各国への連絡が必要だ。

 

 正しい保管の方法をどうすればいいのかはアーサー王からの教えを待つ他あるまい。

 それが一般の信徒では不可能な深い信仰と屈強な精神が必要ならば、その人員の育成と選定も視野に入る。

 

 また、盗難の可能性も考えて警備体制の強化は必須だろう。

 

 ぐるぐると目まぐるしく思考を巡らせ、首席枢機卿オスティアはハンカチでもう一度額の汗を拭ってから、胸に手を当てた。

 

 万感の思いを込めて、まっすぐに目の前の輝かしき騎士王を見つめるのだ。

 

「我々を頼っていただけたことに感謝を、アーサー王よ」

「いや、僕こそ槍の管理を請け負ってくれることを感謝するよ」

 

 握手した手が熱い。

 

 この短い間の会合でも、彼の誠実な人柄、まっすぐな瞳が枢機卿にも理解できた。

 覇気のあるよく通る声。驕らず謙虚な姿勢。慈愛の含まれた眼。

 

 ああ。

 間違いない。

 

 オスティアは思った。

 彼こそが、蘇った神の代理人であるのだろうと。

 




・首席枢機卿
ジュッ!(カリスマB)

・プーサー主
直感が槍をアヴァロンに置いといたらダメだって言ってたので、仕方なく教会に預けた。
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