新型仮想体感ゲーム機「コクーン」の完成披露パーティに呼ばれたよ!
そろそろ仕事も落ち着いて……いないが、何ならより忙しさが増してきているが。
やはり息抜きは大切だろうと赤井さんが入れてくれたお気軽な予定である。
というか、シンドラー社社長であるトマス・シンドラー側が盛大に私にアピールしてきたのが大きい。
15歳で時を止めた常若の王に現代の最新の技術を体験してもらう、とか言う建前で年齢制限を無視する決定を下したのも商業的理由だ。
主題はコクーンにアーサー王も絶賛した、という売り文句を獲得させることだろう。
中々に商売上手な男である。
紅茶を飲みながらTVをダラダラと見る現在は、短い休憩時間中だ。
いくら鞘があるとはいえ、疲れるものは疲れるのだ。
コナン君も、家庭教師が出した課題を進めながら私と一緒に紅茶を飲んでいる。
いろいろ協議の結果工藤夫妻が雇ったそうだが、よく見ると書き込んでいるのは大学受験用の入試問題だ。
まぁ、小学生用のひらがなの書き取りなんかやってらんないのは分かるが、ようやるもんである。
ちなみに、コクーン披露会にはコナン君も一緒に出席する予定だ。
こちらは身分を伏せての参加になる。
日本のお偉方から「屋敷に閉じ籠りっぱなしというのも気が滅入るだろう」と気を利かせてもらった結果、参加が決まったという経緯となる。
まあ、そこで大事件が起こるのは確定なんだがな。
コナン君が恐ろしげな数式を完璧に撃退し終わったらしく、顔を上げてこちらへ声をかけてきた。
「アーサーさんも参加するんだよね。コクーン。子供だけの制限があるのに。アーサーさんはおじさんなのに」
「こら。それは言わない約束だよ」
半笑いでプスプスされたので、私は恥を隠しながらぴしゃりと言った。
魂的な意味での中身としても肉体的な意味での外身としてもおじさんの誹りは免れないお年頃である。
青少年の半笑いはクリティカルヒット確定なので自重するように。
それを知ってか知らずか、実に上品な仕草でコナン君は紅茶を口に含んだ。
「なら向こうであいつらとも合流できるな。一緒に遊べるようにってことで、あいつらにも参加権が渡されたみたいだし」
「少年探偵団にもかい?太っ腹だね」
「ま、向こうにも負い目があるんでしょ。僕、外出も満足にできないわけだし」
「違いない」
コナン君が本当に小学生なら実に哀れな境遇だが、彼の実態は高校生。
いや、若い青春をこんなふうに潰されて可哀想なのは違いないが、本人の忍耐力に助けられていると言ってもいい。
ちなみに、こんなふうに文句一つ言わずにフォウ君のお世話に殉じているため、世界のお偉方の間ではコナン君に対して「本物の聖人」「無垢な仔羊のカタチ」「神の使わした子」などと凄い肩書きが囁かれているのだが。
本人には言わぬが花だろう。
お、部屋の入り口からフォウ君が顔を出した。
比較的自由に屋敷の中を彷徨くフォウ君だが、どうやら今はコナン君を探していたようだ。
ぴょいと膝に飛び乗って丸くなる様子はまさに家猫である。
「それにしても険しい顔だね。披露会で何かあるの?」
「うーん。なんというか、コクーンの披露会にちょっと良くない予感がして。僕も動けるようにするけどコナン君も気をつけてね」
そう口に出してから私は今後について少々思い悩んだ。
私はもし万が一コクーンのデスゲームに失敗しても鞘の効果で死にはしないが、コナン君はそうではない。
となると、コナン君に鞘を付け替えるべきかもしれない。
そうすればフォウ君の成長を抑止するコナン君だけは守られる。ひいては世界も守られる。
私は参加を見送って……いやだめだ。
それでは罪の無い子供達が被害に遭ってしまう。
一歩間違えば鞘に守られたコナン君以外全員死亡、という結末だってありうるのだ。
それではコナン君とて体が無事でも心に傷が残るだろう。
ひとまず、とするりと鞘を胸から取り出し、私はコナン君をちょいちょいと手招きをした。
どうでもいいけど、プーサーとアルトリア両方持ちなせいで設定的に間違いなくエクスカリバーの鞘が二つある状況なんだがどうなってんだこれ。
「えっ!?なにそれ、胸からなんか筒みたいなのが出てきてるけど!!」
「エクスカリバーの鞘だよ。持ち主に絶対の守りを与える。念のため君に預けておこうと思って」
それを聞いてコナン君は目を剥いてのけぞった。
「いやいやいや、え、待って、それはアーサーさんが持っててよ!」
「君にはキャスパリーグの世話係っていう世界で最も大事な仕事があるんだから、万一がないようにしなくちゃ」
「そんな危険なら予定をキャンセルするなりさぁ!」
「下手にそうすると被害が読めなくなるからね。できればここで止めておきたい」
むうと唸ってコナン君が着席した。
フォウ君が「キューー…」と若干萎れてコナン君にすりつく。
フォウ君としても多少の罪悪感もあるらしい。彼は彼で自由人ではあるが優しい獣だからな。
「せめて偉い人にこのことを知らせてから…」
と、言いかけてコナン君は日本政府の反応を想像できたらしい。
声は尻すぼみに消えていった。
「うん。間違いなく僕たちだけ参加中止にして、現場は警備体制の強化にとどめるよね」
「それで大惨事、と」
私は沈鬱に頷いた。
実際問題、ネットの海を泳ぐAIたるノアズアークを止めるのは困難を極める。
ネットを単に遮断するだけでは、潜伏や自己複製は防げない。
参加者個人のスマホに紛れ込んでいる可能性もある。
一度参加者を人質に取られてしまえば、防ぐのは至難の業だろう。
コナン君は渋い顔で頷いた。
「どうせ、コナン君は自分だけ欠席で僕が鞘を持って突貫、なんて納得できないだろう?」
「当然。あー、早く高校生に戻りたい…」
コナン君は足をジタバタさせて机に突っ伏した。
どどど、と膝が揺れて寝ていたフォウ君が迷惑そうな顔をしたので、コナン君は「悪ぃ悪ぃ」と言ってフォウ君の背を撫ぜた。
フォウ君はそれで納得したのか、フンスと鼻を鳴らしてまた丸くなる。
「ところで、そろそろ君が工藤新一なんだってことは僕には開示してあるって捉えていいんだよね」
「何のことかわからないなー。僕はただの小学生だよー」
「説得力低すぎないかい?」
ひとまず、そんな感じでこっそりと当日を迎えることになったのである。
・プーサー主
数学は苦手
・コナン君
鞘を渡された。主人公様の無敵性に磨きがかかった。