現実世界に帰還してからは、そりゃあもう駆けつけていた医療関係者に囲まれて揉みくちゃにされた。
コナン君はうまく成し遂げてくれたようで、フォウ君と共に見事帰還を果たしていた。
駆けつけた色んな偉い人に「流石は獣の堰となる御子!」「大人顔負けの勇気と智慧!流石と言わざるを得ない!」などと全力で褒め称えられていた。
確かにこのゲーム、主導して先導した功績からしてほぼコナン君がクリアしたようなものだからな。
私はほぼバトルマシーンだったし、コナン君無くしてクリアはなかった。
なお、コナン君は困り顔をしつつも嬉しさが隠しきれないようで、へへへと崩れた笑みを浮かべていた。
この辺、工藤新一がまだ高校生であることを感じ取れて微笑ましい気持ちになるよね。
そして同時にコナン君の持つカゴにフォウ君が収まっていることに、周囲は安堵の息を漏らしていた。
次に体に異変がないか徹底的に調べるため、コナン君はダンクシュートの勢いで救急車へ連行されて行った。
私も救急車を勧められたが、子供達を優先してほしいと辞退した。
実際この程度なら鞘がなくともなんの問題もないしね。
それに一応、脱落してからは強制的にゲーム外に追い出されたので、眠っているふりをして風王結界を子供達の体に纏わり付かせていたからその解除と収納にも時間をとりたかった。
もし全員脱落したなら、電流が届く前に風の刃で機器を内側から吹き飛ばしてやろうと狙っていたのだ。
まあ、成功するかは賭けになるので実行に移さずにいられて何よりである。
自分の娘息子たちと感動の再会をする日本の重鎮たちが、子どもを抱きしめながら涙ながらにコナン君と私に頭を下げている。
恥ずかしいが、これはこれで良いものである。
この後獣復活未遂に近い大事件について、各国首脳陣と話さなければならないと思うと憂鬱だが、こんな風に皆を助けられたことを思えば苦ではない。
それにモリアーティ教授と話した人理あれそれについても説明が必要だろう。
おそらく説明を求めて各国が耳ダンボになっているはずだ。
と、その時。
管制室の方から歩いてきた工藤優作氏がこちらへと歩み寄ってくるのが視界の端に捉えられた。
優作氏は穏やかに微笑んで、私へと一礼する。
ナイスミドルといった感じの落ち着いた大人の姿に、私も将来はこうなりたいものだと少しばかり羨ましい気持ちになる。
いや、年齢を考えたら私も既にこうあらねばならないとかいってはいけない。私という中年男性に対してクリティカルヒットなので。
「これはこれは、お久しぶりですね、王よ。パーティの際は挨拶が叶わず失礼をいたしました」
「そう畏まることはないよ。僕は今回何もできなかったからね」
実際、私は原作蘭ちゃんの良いところを掻っ攫っていっただけである。
正直ノアズアークに徹底的にナーフされてどうにも動けなかったからな。
外で見ていた人たちに失望されなければ良いのだが。
「ご謙遜を」と言って優作氏は目を細めた。
「ゲーム中でモリアーティ教授と話されていた件について詳しく伺いたいのですが……今はやめておきましょう。どうも、知りたいと願う人物は大勢いるようですし」
優作氏は管制室へと視線を向けて僅かに苦笑した。
中では複数人のお偉いさん方が行ったり来たり、どうも大事件になっているようだ。
このコクーン披露パーティに呼ばれていなかった海外の顔ぶれを見るに、どうやら大事件の報を受けて飛んできたと見受けられる。
それでもメディアが見当たらないあたり、色んな権力が全力でそれを押し留めている様子。
しかし人の口に戸は立てられない以上、これは早晩私が前に出て会見をしなければならなくなりそうだ。
私は優作氏に頷いて顎に手を当てた。
「たしかに、一人一人に語って聞かせていたらそれだけで日が暮れそうだ。近いうちに纏めて君にも伝えよう」
「感謝いたします、王よ。それと」
優作氏はコナン君が運ばれて行った入り口へと視線を向けてから、深々と頭を下げた。
「息子を助けていただいて感謝いたします」
「……彼は僕がいなくとも自力で生き延びただろう。それほどに強い子だ。それは君だって知っていることだろう?」
「それでも、ですよ。あなたの果たした功績は大きい。獣はこれで封じられ、世は守られた」
「あなたのおかげです」と優作氏は目を伏せた。
掛け値なしの本気でいってることが理解できて、なんとなく気恥ずかしくなってしまう。
「困ったな」と言って目を逸らした私に、ははは、と優作氏は朗らかに笑った。
「王もお若いのですね。この程度の賛辞で照れていては、これから待つ各国首脳陣とTVの賛辞に耐えられないでしょう」
「僕は僕の為せることをしたまでだ。あまり過剰に持ち上げられては困るよ、まったく」
実際、最後は脱落してしまったし。
これでは片手落ちだ。過度に持ち上げるのも程々にしてもらわないと、裸の王様エクスカリバー添えができてしまうではないか。
……そういえば、地味にシンドラー社長の姿が見当たらない。
火炙りになってないと良いなと思っていたのだが、まさかもう始末されたか?
「ところで、シンドラー社長はどこへ?」
「ああ。それなら先ほど殺人の容疑で警察に連れていかれましたよ。もっとも、身の安全を考えるなら留置所にいる方が彼のためとも言えるかもしれませんが」
優作氏は苦笑いと共に警視庁捜査一課の面子が彷徨く銅像の飾ってあるあたりを手で指した。
近場で現場検証していた高木刑事が「えっあっ!?」と慌てふためいて敬礼する。
「そちらも忙しかったようだね」と声をかけるとますます緊張したのか高木刑事がピンと背筋を伸ばした。
面白いかよ。
「いっ、いま目暮警部を呼んで参りますので!」
「気にすることはないよ。僕が個人的に話したいだけだからね」
そう言って微笑めば、「は、はぁ」となんとも煮え切らない返事が返ってきた。
高木刑事は初めて喋る原作キャラだ。少しばかり気分が高揚する。
「僕が動けないうちに外の事件を解決してくれてありがとう。僕もシンドラー社長の件については気になっていたんだ」
「え?……でもアーサーさんはその時ゲームの中にいたんじゃあ…」
「殺気、殺意ぐらいは実行に移していなくても僕でも分かるよ。誰かを殺すんじゃないかとヒヤヒヤしていたんだ。止められなかったのは残念だけれど」
そう言うと「ほえぇ…」と高木刑事が気の抜けた声を漏らした。
どういう反応だそれ。
すると、順次搬送が終わったのか私も病院に運ばれる手筈となったらしい。
医療関係者と思しき人物が私を呼んでいる。
どうやら東都大学附属病院に運ばれるようだ。
血液とかとられるのは地味に初めてのことだ。
たぶん人型の竜という設定や魔力炉心の存在からして、プーサーの肉体は人とは組成が違いそうだ。
なんとなく検査の結果自体が新たな騒動の種にしかならなさそうで、私はちょっとしょっぱい顔をした。