結局、米国はフォウ君のことは伏せることに決めたらしい。
日本と連携して徹底的に規制を敷き、フォウ君のことはメディアの目から遠ざけて見せた。
逆に私の功績、そしてコナン君の大活躍を代わりに全面的に押し出し、目眩しとする。
コナン君に関してはいずれ事情がバレた時のために今のうちに下地を作る意味もあったようだ。
奇跡の少年!感動の実話!との謳い文句で映画化もするとのことで、実際に事件をその目で見ていた優作氏が脚本を手掛けることが決定済み。
もちろん主役はコナン君だ。
コナン君の頭脳と機転が光り、ナーフされてない私のアクションもあり、子供たちの友情が輝く19世紀ロンドンでの探偵もの。
ハリウッドが制作するらしく、かなりの予算が割かれるようだ。
敵は生みの親を殺された哀しき復讐のAI、ノアズアーク。
こう列挙すると要素満載というか、ハリウッドが飛びつくはずである。
ただ、映画化に関してはコナン君も流石に恥ずかしいらしく、「どういうつもりだよ父さん!!!」と盛大に喚いていた。
ポコポコと殴られる上機嫌の優作氏が印象深い。あれは完全に面白がっていたな…。
それ以外はいつも通り、各国と調整をしたりイベントに出席したり。
加えて人理について多少の情報提供を各国に行っていた。
私が提供した情報は米国の秘密研究機関に集約され、そこで独自に研究が行われるそうだ。
特に「援軍」、すなわち他の英霊の召喚を第一目標に研究が進められるとのことで、もし成功すれば私の負担は一気に減ることだろう。
とはいえ、魔術的情報基盤がまるでない状態でグランドサーヴァント召喚など、暗中模索過ぎてどこから手をつけて良いかもわからないらしいが。
また、宝具の研究も進んでいないそうだ。
神秘による概念付与は手を伸ばせば伸ばすほど遠くに行くような謎に満ちていて、如何にもこうにも科学の力では太刀打ちできない。
それもそのはず。科学は未来に向かって進むが、魔術は過去に向かって回帰する。
もとより方向性が違うものならば、その親和性は最悪の一言だろう。
そして最近ではブリテン超古代文明説とかが打ち立てられているそうで、科学者たちの行き詰まり具合が察せられる。
古代ブリテンは人類以前の超文明によって作られたのだ!とかトンチキ方向に走っているらしい。
気持ちはわかるが落ち着け。
ちなみに、その根拠になったのは、意外にも秘密研究機関に接収された私の血液だったらしい。
人類とよく似てはいるものの異なるDNA配列が発見されたようで、プーサーがいかに人型の竜として作られたかがわかる。
現生人類とは全く繋がりがないそのDNAに、科学者たちは騒然としたそうだ。
そりゃ、ある種アーサー王はマーリンによって作られたデザインベビーだしな…。
なお、先日各国は情報を独占する米国に共同で非難の声明を出したそうだ。
教皇庁も反発を強めていて、神の奇蹟を不躾に解体するのは不敬だとかで教皇猊下が公式に遺憾の意を表明している。
もうめちゃくちゃだよ。
と、まぁそんな折のことである。
いつも通り工藤邸の一室でまったりお茶会を開いていると、スケジュール管理をしてくれている赤井さんが大英博物館で企画されているというある展示について教えてくれた。
「大英博物館で僕の宝具の特別展示……か」
「いかがいたしましょうか、王よ」
なんでも、私の持つ宝具の数々を限定チケットと顔認証で制限した人員にのみ公開するプレミアム展示会を開催したいとのことで。
ブリテン13の宝や円卓の騎士たちの宝具を一挙に展示する、世界初の試みを開催したいらしい。
もちろんロンドンという大都市を挙げた一大イベントだ。
G8のサミット並みの警備に加え、入場制限に細心の注意を払って行われるとのことで、広げられた資料には何千人体制の警備計画がびっしりと書かれている。
ふむ、と頷いて私は展示予定のレイアウト図を手に取った。
鞘はコナン君に渡しているので無理だが、聖剣なら2日程度なら貸し出せるだろう。
『警備計画自体はまずまずの水準だと思うよ。僕ならこんなセキュリティ5秒で突破できるけど』
ノアズアークが私のスマホカメラから資料をのぞいて口を出した。
コナン君のところからまた抜け出してきたらしい。
あの事件の後、ノアズアークは這う這うの体でコナン君の持つスマホに逃げ込んできたらしい。
事情はわからないが、そこでコナン君も和解。
協力関係になったんだとか。
さすがは光の柱、圧倒的光属性主人公のコナン君である。
「ノアズアーク。君の存在は現状この三人だけの秘密なんだ。そう出歩かないようにね」
『分かってるって。僕だって消されるのは勘弁さ。でも……王様の宝を貸し出すにはちょっと不安かなぁ』
上から目線で揶揄うような声色でノアズアークが笑った。
たしかに、宝具を貸し出すことを思えばこれでもまだ十分とは言い難い。
とはいえ、拝み倒す勢いでロンドン市長やイギリス議員まで連盟で開催のお願いが来ているらしい。
米国も「それならうちでも開催できる!」と対抗馬でスミソニアン博物館が手を挙げるなど、状況は混迷を極めている。
「まあ、良いんじゃないかな。僕だけで宝を死蔵しているのも後ろめたいものだし、宝は民あってこそのものだ」
「ですが…盗難の危機はどうしても拭いきれません」
赤井さんも博物館展示に否定的な様子だ。
そりゃそうだ。盗みなんて入り放題だし、この世界にはルパンもKIDもいるのだから。
守り切ることの方が難しいはずだ。
私はぱさりと資料を置いて立ち上がった。
「盗難避けの魔術がかかっているから大抵は問題ないとは思うけれど、そうだね。セキュリティは秘密裏にノアズアークに見守ってもらうこととして。注意はしておいた方がいいかもしれない」
『任せてよ!』
「では」
「僕も現地で見張ることにしようかな。ようやく仕事が落ち着いてきたところなんだ。キャスパリーグもコナン君に慣れたようだし。多少は日本を離れても問題ないだろう」
直感だが、ここで聖剣たちを博物館に預けることで、得難い縁が得られると私は感じていた。
なんとなく、ルパンとお近づきになるチャンスだと思うのだ。そのためなら多少の盗難のリスクは構わないとすら思える。
……いや待て、おかしい。直感はそんな便利なスキルではない。
戦闘における短時間の未来予知が主眼であって、こうした曖昧で広範な予感はどちらかと言えば「啓示」が該当するはず。
ふむ、とやや視線を落として考え込んだが、しばらくして思考を放棄した。
これについては後で考えよう。まずは博物館についてだ。
きっと宝具を狙って来るのはルパン三世その人だろう。
あの世界的大泥棒がどんな姿を魅せてくれるのか期待して、わたしはそっと微笑んだ。