翌日の朝刊は、一面も二面もアーサー王一色だった。
『ロンドン市民を命懸けで守るアーサー王!卑劣なテロリズムより守られたウィンブルドンの全容とは!?』
『聖剣エクスカリバー盗難!!ルパン三世の仕業か。止まぬ責任追求の声!王の信頼に応えられなかった警察の責任を深掘りする!』
etc。
私はやっぱり間に合わなくて、エクスカリバーはルパンに盗られてしまった。
あのウィンブルドン会場から警官たちにドナドナと連行されたのは近場の仮設テントだった。
そこで淡々と偉い人から泣きそうな苦言を呈されている最中。
「たたた大変です警備管理官!ルパンが現れました!!聖剣も盗まれた模様!」と部下の人から一報をもらったのが始まりか。
急いでその場のハーデスはウィンブルドン警備係の方に任せて、私たちは大英博物館へと向かった。
その時のこっちが申し訳なくなるくらい青ざめた警備管理官さんの顔色が気がかりだったが……私が心配してもどうにもならないのが辛いところ。
現場に急行すると、見事にガラスケースを破られて無くなっている聖剣が目に入った。
やはり、というべきかやられた、というべきか。
なんにせよ、館内に放っていた粛清騎士の影は見事に切り伏せられていた。
これでも粛清騎士には弱めのサーヴァント程度の力があるんだが、流石は石川五エ門である。
警備管理官さんはぶるぶる震えた後、ふらっと倒れ込んだ。
開催初日で盗まれてしまったからな…チケット返金の処理とか、世界的な損失とされて大バッシング、警察組織の信用の低下、責任問題、よりどりみどりの大惨事だからな。
と、そんなわけで翌日以降。
ブーイングの嵐かと思っていた私の独断専行は、どちらかといえば「自らの剣を顧みずロンドン市民を救うアーサー王!」と非常に好意的にうけとめられることとなった。
実際、あの場で顔を変えていたハーデスを警察が素早く捕まえられていたかは非常に疑問だった。
爆弾に関してもあの短時間では解体どころか移動させるのもままならなかっただろうし、その辺が加味されたのかもしれない。
多くの人が風によって爆発を止めているのを見たことも大きいだろう。
SNSでは「リアルマーベルヒーローじゃん」「嵐の王!アーサー王万歳!」「あんな細かく風って制御できるもんなんだな」などなどの声があふれ、その時の光景を映した映像が凄まじい再生数となるなどした。
今回の被害者である世界No1テニスプレイヤーミネルバ・グラスも声明を出したようだ。
『私の母はアーサー王に命を救われた。あの絶望に差した光を私は生涯忘れないだろう』。
多くの新聞・雑誌は母を人質に取られてたった一人戦ったミネルバの孤独と絶望の1時間半を取り上げた。
逆に警察には大バッシングの嵐が吹き荒れている。
栄えあるウィンブルドン会場に爆弾が持ち込まれただけでも大失態なのに、同時刻にアーサー王より託された聖剣が盗まれる事件が起きているのだ。
一応私も「僕の独断専行が警備に穴をもたらしてしまった。これは僕の自業自得であり、イギリス警察を責めるつもりはない」と声明を出したのだが。
やはり国際的な大問題はそれくらいでは隠しきれないらしい。
聖剣盗難による国民の怒りも収まらないようで、凄まじいバッシングの嵐が吹き荒れた。
国際社会でも「人類史の損失」「世紀の大事件」とこぞってその悲劇的事件を報道したらしい。
その結果、責任問題として警備部門のトップである警備管理官さんが辞任する事態となったのだった。
私も火消しのため奔走したのだが、やはり組織としてけじめをつけるにはそれしかないとなったようだ。
ああ、胃が痛い。
人命のためとはいえ、私の行動の結果、罪のない人に責任を押し付ける形となってしまった。
後でせめて警備管理官さんのその後のポストだけでもどうにかならないか工藤優作氏に相談しようと心に決めるなどする。
実際のところお詫びに行きたいが、私の公人としての立場がそれを邪魔する。
今の私は一挙一動がマスメディアに見張られている。
変なメッセージに受け止められないように謝りにもいけないなど、ほんとうに政治は重荷であることだ。
また、コナン君からも電話があり「聖剣がルパンに奪われたってほんと!?!?」と開口一番叫ばれた。
「本当だよ。妖精の呪いが効いてるからぼんやり現在地はわかるからいいけど、まさか本当に盗まれてしまうとはね」
「……妖精の呪い?」
「うん。盗人に破滅をもたらす呪詛だよ」
実は、私の聖剣には折り重なるように妖精が憑いている。
どういう経緯でそうなったのかはわからないし、あの空っぽのアヴァロンに関係があるのか不明だ。
少なくともあの聖剣の中にはおびただしい数の妖精たちがひしめいており、それらが遊び相手を欲しているという事実さえわかっていればいい。
なんにせよ、機嫌を損ねた妖精たちがルパンをおもちゃにする前に聖剣を取り戻さねばならないだろう。
私は開け放たれた窓から聖剣のある方を覗き、風の手を細く伸ばした。
輝けるかの剣こそは。
「これが伝説の聖剣ねぇ。どうだ五エ門?」
ルパンが机の上に置いた聖剣を繁々と眺めながら、五エ門に対して質問を投げかけた。
ふむ、とそれを見聞した五エ門が訝しげな顔をして刀身を撫ぜる。
「……一見生身の刃のように見えるが、これはおそらく鞘。鞘と剣が一体化したものだ」
「一体化?つまり抜けない剣ってことか?」
「左様。何段にも渡って剣が固定されている。しかし何故このような…」
場所はルパンのアジト。
いつも通り軽々と獲物を盗んでのけたルパンたちは、聖剣を目の前に顔を突き合わせて恐る恐るといった様子だった。
黄金と青の美しい大剣は彫り込まれた細かな意匠が煌めき、美術品のように美しい。
まさに儀礼用といった面構えで、実際それは王を選定する剣ともされている。
不二子が「鞘!」と喜色に満ちた声を上げた。
「鞘ってことは、エクスカリバーの鞘も一緒に展示されてたってことよね。なんとか取り外せないの?」
「完全に固定されている。剣を毀損せずに取り外すのは不可能でござろう」
「そう……残念だけれどしょうがないわね」
不二子がちゃき、と手に取って微笑む。
あのバーボンとの契約はこれで果たした。あとはアポトキシン4869を頂いてから、適当に楯突いてくるであろう組織を潰してしまえばいい。
その時。
きゃははは。ふふふふ、と。
謎の子供の遊び声のような声が聞こえてきた。
素早く「やべ、これまずいやつじゃね?」と危機感を抱いたルパンが聖剣から距離を取る。
「次元、絶対これまずいやつだよな?」
「だから俺はパスだっつったんだ!どうせこうなるんだからな!」
「ちょ、ちょっと、剣を置いてく気じゃないわよね!?だめよ!あたしのなんだから!」
「言ってる場合か!」
花開くように黒い影のような手が聖剣から生えて。
「総員退散!!!」
ルパンの一声で、一味は一斉に走り出した。
・ウィンブルドン爆破事件
連日大ニュース。
アーサー王の活躍やその風を操る力に注目が集まっている。
SNSではまじもんのマーベルヒーローと話題だったり。