しばらく後に到着した高木刑事は、玄関先でひりついた空気を出す私にひたすらアワアワするだけだった。
無力…圧倒的無力…ッ!警官なのに!
なんとも気が抜ける高木刑事の様子に、霊基もすこしばかり落ち着いたようだった。
さて、それではひとまず現在地と爆弾の設置場所の情報共有だ。
用意した東都の地図を広げて、そこに赤いペンで丸を書き込んでいく。
ついでに水盆に映した爆弾の映像を写真に撮って印刷、添付する。
メモ用紙には爆弾設置された階や詳しい位置をメモしておけば完成である。
紙がメインの警察官文化に合わせた形だ。
詳細に書かれた情報にほえぇと間の抜けた声を漏らした高木刑事だったが、すぐに取り繕って「ご協力感謝します!」とピシッと敬礼した。
あとは森谷の現在地だが…そちらは水盆にリアルタイムで映してある。
しげしげと水盆を覗き込んだ高木刑事が「なんだか上品な陶器ですね」と明後日の方向に感想を述べた。
「ありがとう。恥ずかしながら、僕が作ったんだ。素人作りだけど自分の作ったものの方が映像が映しやすくて」
「そうだったんですか!へぇー、いいですね、陶芸!」
実は紅子さんに協力してもらって土から真エーテルを練り込んで、プーサーたるこの肉体の血も加えて作った魔術的逸品だ。
魔力の通しやすさが抜群に良くて、映像も鮮明に映っていいことずくめ。
ただ、自作の陶器使ってるとか言われると恥ずかしさでちいかわになってしまうのであまり触れられたくないところである。
「とと、本庁の方に情報共有しますのでしばらくお待ちください!」と言って高木刑事がスマホを取り出した時。
いつのまにか部屋に入ってきたらしいコナン君が、ピョコリと顔を机の上に顔を出した。
「コナン君!?ダメだよ入ってきちゃあ!」と慌てる高木刑事をよそに、コナン君は地図に記された丸を指でなぞって頷いた。
「これ、やっぱり爆弾の設置場所は全部森谷さんの設計した建物だよ」
「え……森谷帝二の?」
予想外のことを聞いた、という様子で高木刑事が目をぱちくりさせた。
どうも署では森谷は自分の犯行動機を吐かなかったようだな。
「君を狙うことができなくなって、ヤケになってるんじゃなくて、かい?」
「うん。というか、そもそも僕を狙ってたんじゃなくて建物を狙ってたんじゃないかな」
なんてことないようにコナン君が地図上で指を滑らせる。
その瞳には探偵としての確かな知性が光り、子供の体と相まって神秘的なアンバランスさを醸し出す。
「こっちの美術館、これも森谷帝二の作品だけど狙われてはいない。対してこの橋は地点としてはかなり離れてたけど、無理をしてでも爆破しに行った」
「えーっと、つまりどういうことだいコナン君?」
「違いは左右対称かどうかだ。爆破対象になった建物は、全部アシンメトリーなんだよ」
高木刑事はどうも困惑したような、納得がいかないような顔をして黙り込んだ。
まぁ、確かに一般人目線から言わせれば左右対称がどうしたって話だよな。
コナン君が顎に手を当てて言葉を続ける。
「僕も話す機会があったから分かるけど、あの人はシンメトリーに対してすごくこだわりがあるんだ」
「だ、だからって自分の作った建物を爆破するかな…」
「正直僕も信じ難いけど、この一連の行動に理由をつけるとしたらそれしかないよ」
高木刑事がごくり、と固唾を飲んだ。
しかしいくらなんでも爆破はねーだろと思わざるを得ない。
頭ピクト人か?
「とすると、次の狙いはここ、米花中央公園じゃないかな」
「……なるほど。確かにそっちの方向に対象は動いているね」
私が水盆で確認すれば、森谷は実際にそこに向かっていることが確認できた。
高木刑事がぱあっと顔を明るくする。
「!とすると、そこへ回り込めば…!」
「早期逮捕も夢ではない、ね」
「とりあえず本庁に連絡を取って、至急対象を確保します!」と高木刑事が立ち上がり、バタバタと部屋を出ていく。
流石だね、とコナン君を褒めればなんてことないように彼は首を振った。
「僕も気になってたからね。現場に出なくてもやれることがある。ホームズだって肘掛け椅子に座りながら事件を解決したことがあるんだから」
「そうだね。その通りだ」
コナン君の目に強さが戻っている。
最近の軟禁生活にずっと元気がない状態が続いていたのだが、どうやら自分で答えを見つけたらしい。
いいことだ。
彼は輝いてこそ光の柱。探偵の活躍するこの世界のテクスチャを支えるものなのだから。
それが光を失って良いことなど何もない。
私は少し笑って、腕を組みながら彼に提案する。
「なら、僕が強権を働かせて各国に事件解決のギフテッドだと君を売り込もうか」
「え、いやそれは流石に…」
「どうも君を持ち上げる者も結構いるみたいだしね。世界各国の事件が舞い込んでくるようになれば、君も退屈しないだろう?」
パチリとウィンクして見せれば、コナン君は半目になって困り笑いをした。
「そういうのアーサーさん似合うよね」などと言って脇に寄せてあった椅子に座る。
「結局アーサーさんって何歳なの?」
「何だい藪から棒に」
「若作りだけどアーサー王伝説の期間を考えれば、ティーンエイジャーなわけないよね」
「まぁね……だ、大体35歳かな…肉体年齢は15歳の時点で止まってるけど」
「おじさんじゃん」
「ぐぅっ!!!」
なぜ突然個人攻撃をするのだコナン君!
デュウンデュウンデュウンって今弱体が鬼ほど入った音がしたぞ!
弱体名は「おじさん」。NP減少と全体強化解除を含む。
コナン君……なんて恐ろしい子……!
と、そのあたりでどうもお腹が減ったらしいフォウ君が部屋に入ってきた。
「ふぉーーーう」と何かをいいたげに口をモニュモニュさせている。
お腹が減ったらしい。これは何か美味いもんをくれという合図である。
フォウ君や、朝ごはんはさっき食べたばっかりですよ……。
ちなみに、朝ごはんは和定食だった。無論、赤井さんから私たちが食べるものと同量をフォウ君も貰っている。
デブ猫まっしぐらのフォウ君を憐みのこもった目で見つめれば。
フォウ君、切れた────!
「キャスパリーグ待てそのサイズでタックルはまずい腹の中身出ちゃうから待って」
「フォウンッ!!!」
「ゲフゥ!?」
フォウ君が私を討ち取り、ゆらりとコナン君の方を向く。
腹に…威力の乗った突進が決まった…!
咄嗟に魔力で体を固めなければ危うかった。というかなんなのださっきから。私になんか呪いでもかかってる?
やや引き気味のコナン君が棚の上からクッキー缶をとってそろりそろりとフォウ君に渡す。
「く、クッキーあるけどいる……?」
「フォーウ!」
そうして。
フォウ君は大喜びでクッキー一缶をせしめ、上機嫌でソファの上に転がったのだった。