プーサーなオリ主とコナン君   作:ラムセス_

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アヴァロンへ

 

 東都の夜を背景に、昴はそっとほころぶような笑みを浮かべた。

 

 助手席に座るは輝ける騎士王、最果ての王。

 物語の映し身たるグレートブリテンの尊き御方だ。

 王の憂いに陰る顔に、街々のネオンが空々しい光を灯す。

 

 昴の今の立場といったら、それこそ奇跡と呼ぶにふさわしい幸運なのだ。

 そのあふれんばかりの興奮を努めて隠し、昴は王へと流麗なキングス・イングリッシュで問いかけた。

 

「何かありましたか、王よ」

「いや……バイトにもようやく慣れてきたけれど、なかなかに大変だと思って」

「王のご尊顔を間近で見られるまたとない機会ですからね。大繁盛も仕方がないというものです」

「そういうものかなぁ」

 

 若干疲れた様子の王に、昴は少しだけ心配になった。

 王がペコペコと下々のものに対して給仕の真似事をするのだ。それは疲れるのも当然だ。

 FBIが全面的に生活を支援すると進言しているのに、「働かざる者食うべからず。そんな諺が日本にはあっただろう?」と言って自ら金を稼ごうとなさるその尊い御心。

 

 まさに伝説的な中世の理想の騎士。

良心と道徳の模範たる方である。

 

 まぁ、実際のところ下手に働きに出てもらいたくないのがFBIとしての本音なのだが。

 

「千年を超える永き眠りでしたから。御身がまだ万全ではないのも当然でありましょう。そのうえここはウェールズから遠く離れた異国の地」

「……ははは。稀人なんだから贅沢は言えないさ。大気の大源(マナ)濃度だけでももう少し濃ければ楽なんだけれどね」

「マナ。というと、不可視の力の総称でしたか」

 

 会話を日本語へと切り替えた王は、昴の問いかけに小さな首肯で返答した。

 やはりまだ英国英語による会話は慣れないようだ。

 

 王が長き眠りより覚めてから一番に習得した言語は、この地で活動するための必須言語、すなわち日本語なのだろう。

 母国語さながらの完璧な発音は王の賢き智慧と頭脳とを証明している。

 しかしその合間に学んだと思われる英語に関しては別だ。

 

 日本語を経由しての習得だからなのか発音は完璧なEngrish(日本語英語)であったし、一拍遅れる言葉は日常会話こそ問題ないとはいえ、どうしてもたどたどしい印象をぬぐえない。

 その上見事なテキサス訛りだったもので、初めて聞いたとき思わず吹き出してしまった昴は王にしばらく恨まれたものだ。

 

「我々FBIでも王から賜った品の一部を研究に回しておりますが……なにぶん既存の科学では足がかりも無い状態でして。陛下の言うマナの存在を明らかにするには今しばらくの時を要するかと」

「大源は星の息吹そのものだからね。科学という星の表層領域(テクスチャ)での解析は困難を極めるだろうさ」

「まぁ、気長にやるしかありませんね。幸いFBIの者達は空前のやる気に満ち満ちていますから」

「ははは。それなら僕も期待して気長に待っていようかなオキヤ」

「お任せください、我が王よ」

 

 こうして気安く会話できるまでには種々の波瀾万丈な一幕があったわけだが、それももはや遠い過去の出来事のように感じられる。

 

 聖剣の導きで王の真相を知り、ここまでまるで激動の一ヶ月であった。

 今やすでに王の存在はFBI、ひいては米国上層部の知るところとなり、密かに大きな力が動き出している。

 

 科学の捕捉できなかった未知の新たなエネルギー、マナ。ひいては神秘。

 それが今米国だけの手中にあるのだ。

 それは世界をリードしこれからの未来を歩む上で最高の知識となってくれるだろう。

 

 ──そのように、大統領はお考えのはずだ。

 

 オキヤ?という王の呼びかけに、昴の意識ははっと現実へ引き戻された。

 

「ぼうっとして、何かあったのかい?」

「いえ。失礼しました、少し聖剣に触れた時のことを思い出しておりまして」

「ああ、君の仲間の彼らが仰天していた……。今更だけれどアレは仕方ないよ。うん、無いね。僕の立場だったとしても、同僚から突然呼び出されて『古代の王が蘇った』とか聞かされたら病院にかかる事を勧めると思うし」

「ですが王の身分を証明するためにもFBIの協力は必須でした。王を国外退去などという憂き目に遭わせるわけにはいきませんので」

「それは……うん。本当に感謝しかない」

 

 この時代で身分を証明するものもなく野宿は無理だ、と王は遠い目をして言った。

 さわりを少々聞いた程度だが、本当に江戸川コナンに拾われる前の王は苦労をしたようだ。

 

 かの王がブリテンの地を治めたのは5世紀前後。

 

 森と危険な野の獣に囲まれた地で野宿する知見はあっても、身一つで世界有数のコンクリートジャングルたる東都でのサバイバルとはわけが違う。

 ジェネレーションギャップ、などという可愛らしい言葉では到底表しきれまい。

 

「それに、此度の任務も彼らの助力なくしては相当苦労したでしょうから」

「キャメルとジェイムズは東都湾の沖合3キロの地点で船を用意してくれているんだよね」

「ええ。彼らも大層喜んでいましたよ。なにせかの騎士王アーサーが、アヴァロンより伝説の品々を持ち帰ると言うんですから」

 

 今回の計画はシンプルだ。

 王が眠っていたというアヴァロンへ一度帰還し、そこに置いてきた武具や財宝の一部を持って帰ってくる。

 その運搬をFBIが補佐する、というものだ。

 

 バイト終わりに昴が王を迎えに行ったのも、夜の闇に紛れて回収に赴くためだ。

 

 アヴァロンに置いてきたというそれらは膨大かつ多彩で、運ぶにはどうしても人手がいるとのこと。

 せっかくだから「向こう」に置いてきた荷物をこちらに持って来たい、と王より相談を受けたときには、思わず昴……赤井秀一の素が漏れてしまったほどだ。

 かの美しきリンゴの楽園、キリストが足を踏み入れたともされる伝説の地に己が足を踏み入れることができるなんて。

 その上王いわくアヴァロンとはこの世とあの世の境、星の内海という異界であるのだと言う。

 

 ファンタジーもここに極まれり!

 物語に登場する至宝や魔法の武具の一部もそこにあるのだというのだから、これで興奮しない、高揚しない者がいるだろうか!

 

「帰りはブライト・エハングウェンに乗せて無理やり魔力放出で急上昇するからそこまで時間はかからないはずだ。目立つのは避けられないが、船で君の仲間が先回りしてくれているから騒ぎにはならないと思う」

「突入がビルの屋上からなのもかのリンゴの園の特質によるものですか?」

「そうともいえる、かな」

 

 当初の予定通り、日付が変わる前に約束のビルに到着した。

 近場のコインパーキングへと車を止めて、そのまま徒歩で屋上へと向かう。

 

 廃棄予定のビルではあるがあらかじめFBIの方で屋上へ通じる扉の鍵は入手している。

 非常階段を延々と上る手間こそあるものの、王は息を切らす様子一つ見せず淡々と上っていく。

 

「もう一度だけおさらいしようか。今からするのは世界の裏側、全て遠き理想郷までの数百kmダイブの旅だ」

 

 伝承にある黄金のリンゴ……その本物を左手で弄び、王は昴へと穏やかな視線を向けた。

 

 王が林檎を口にした時、黄泉の食物を摂取した影響で彼岸へと引きずり込まれる。

 それを利用してアヴァロンへ一時帰還、ということらしい。

 ずいぶんと荒っぽいやり方のようにも思えるが、現実世界へ戻る方法さえ目途が立っているならそれが一番効率的とのこと。

 

 しかし、この方法には一つだけ欠点がある。

 アーサー王はいつか蘇る王。過去の王にして未来の王。

 そう昔から語り継がれているし、現実としてそのように設計されている。

 

 だからこそ王がアヴァロンへと落ちる際、現実世界に残ろうとする抵抗が働くらしい。

 普通なら真っ逆さまに彼岸へと落ち、数々の民話にあるように二度と戻れぬ一本道だ。

 そこを逆らって無理やり往復しようとすれば、どうしても存在証明が不安定になりがちとのこと。

 

 要約して言えば、理想郷へと落ちていく中で中途半端に現実世界へ再出現してしまうのでサブカルチャーで言うところの「いしのなかにいる!」になりかねないのだ。

 

 高層ビルから身を投げるのも、落ちはじめが一番「いしのなかにいる」状態になりやすいからとのこと。

 

「じゃあ行こう。オキヤはしっかりと僕に掴まって。鞘の効果の有効範囲内から外れれば命はないと思ってくれ」

「御意」

 

 たどり着いた屋上で夜の東都の夜景を見下ろし、王は昴へと命綱を結んでいく。

 

 ブルーシートの上に無造作に置かれた林檎は黄金で、それ即ちギリシャ神話にて女神が賜ったともされる神秘の果実そのものだ。

 

 しっかりと最終確認を終え、王は軽く目配せをしてから林檎を食んだ。

 FBIによる科学的検査で「既存のいかなる果実とも合致しない、未知の成分を含んだ果実」との結論が出たそれを、軽く一口喉の奥へと押し込んで────。

 

 

 

 瞬間。

 二人は亜空間たる地下230kmの理想郷めがけ、ビル屋上より身を投げたのだ。

 

 




・赤井秀一
ワクワクで胸が弾けそう

・米国
ブライト・エハングウェンを隠せるだけの巨大船を貸し切ってワクテカしながら待ってる。
これすなわち大規模な瀬取りである。
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