嫉妬の冒険譚   作:凪 瀬

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34話 幕間

 

 

26話/パーティには入れない

 

「そういえば、さっきの男達はベル君をパーティに誘ってたんだよな。どういう経緯でそうなったんだ?」

 

「実は──」

 

 そうしてベルがどのような流れでモルド達に絡まれたかを語り終えると、ズィーヤは納得したのか仕切りに何度も頷いた。

 

「確かに、中層は危険って聞くしな。リオンさんの助言も正しいだろう。まぁ、ああいう手合も居るから信頼のおける相手を誘うといい」

 

 ズィーヤの言葉をベルは真剣な様子で咀嚼する。

 実際にモルドのような冒険者と関わりリリやリューなどに迷惑がかかりかけたのだ。そういう点でもパーティーメンバーを慎重に選ぶということの重要性を強く実感していた。

 と、そこまで思考してベルはいいことを思いついたとばかりに目を輝かせる。

 

「だったら、ズィーヤさんに入って欲しいです!」

 

「んっ!……え、俺?」

 

 ベルの思ってもいなかった言葉に動揺し、水が気管に入りそうになるのを気合いで留め、改めてベルに聞き返す。

 対するベルはキラキラと無垢な輝きを宿す瞳でズィーヤを見つめており、その瞳を見たズィーヤは居心地が悪そうに果汁を口に運ぶ。

 助けを求めようと言葉を発していないリリに目を向ければ、口元に手を当て何やら考え込んでいる様子だった。

 ブツブツと何度か呟くと佇まいを直し、ズィーヤを真正面から見据える。

 

「ズィーヤ様、リリからもお願いします。我々とパーティを組んでもらえないでしょうか?」

 

 背筋を伸ばしたリリは座った状態から、ズィーヤに向かって深々と礼をする。

 思ってもみなかった行動にズィーヤだけでなくベルも動揺する。

 動揺する2人を尻目に、1度頭を上げたリリは言葉を続ける。

 

「ズィーヤ様の実力をリリ達は知っていますし、性格についても信用しています。パーティーを組んでいるというお話も聞きませんでした」

 

「それは、まぁ……」

 

「何度か共同探索も行いましたし、互いの戦い方も理解しています。正直、現状ではパーティメンバーの候補として、ズィーヤ様以上の方はいません」

 

 リリはそこでひとつ区切り、立ち上がって深く頭を下げる。

 折りたたまれた姿は元々の身長も相まって小さかったが、漏れ出る覇気の強さからかズィーヤには大きく見えた。

 

「ですので、ズィーヤ様。リリ達と一緒にパーティを組んで中層へ向かってくれませんか?」

 

「ぼ、僕からもお願いします!」

 

 リリに追従するようにベルも立ち上がり、勢いよく頭を下げる。

 ベルとリリに真正面から頭を下げられるズィーヤは思い悩んだ表情で黙り込む。

 暫く、誰も話すことの無い静寂がズィーヤ達の一卓を包む。

 

「ふー……2人とも頭を上げてくれ。クロエさん!果汁2つと酒1つお願いします!」

 

「わかったにゃ〜!」

 

 悩んでいた表情から一変して、いつも通りの表情を浮かべ、ベルとリリに座りなおすように促す。

 アーニャが果汁と酒を持ってくるとベルとリリの前には果汁を自身は酒を持ち口を開く。

 

「2人にそんな風に誘われるとは思ってなかったが、それだけ信用されてると思うと嬉しかったよ」

 

「じゃあ……!」

 

「だけど、ごめんよ、君達のパーティには入れない」

 

 柔らかくしかし毅然とした態度で伝える。

 表情は緩く笑みを浮かべていたが、瞳には揺るぎない意思が宿っていた。

 

「あぁ、勘違いしないで欲しいんだけど、2人に何か問題があるわけじゃないよ」

 

「だったら、どうして……」

 

 ベルの力ない問いかけにズィーヤは視線を少しさ迷わせ、手元の酒を一気に煽る。

 突然の奇行に他の面々は目を瞬かせ、卓には先程とは違った奇妙な静寂が広がる。

 静寂なんぞ知らんとばかりにゴキュゴキュと喉を鳴らしてジョッキ1杯の酒を飲み切ると、大きく一息ついて改めてリリとベルを見つめる。

 ズィーヤの顔はやや赤らんでいたが、迷いが振り切れたような、あるいは自棄(やけ)になったような清々しさがあった。

 

「ベル君、君に追いつくためだよ」

 

「えっ?」

 

「俺よりも後輩だが、俺よりも圧倒的に速く上に行く君に、俺は自分の力で追いつきたいんだよ」

 

 酒によって高揚した状態のまま混乱するベルを放って饒舌に語る。

 

「ミノタウロスの戦いで最後まで駆け抜けた君の姿に憧れてね。俺も君に負けたくないって思ったんだよ。だけど、君たちのパーティに入ってしまうと何だか負けたような、勝てなくなるような気がしてね……。まぁ、要は俺の意地の問題なんだ」

 

「そんな、あの戦いはズィーヤさんの助けもあったからで……」

 

「いいや、いいやベル君。あの戦い、最後の一瞬まで勝つ気で戦い抜いた君に俺は憧れたんだ。俺は、最初から勝つ気なんてなかったからさ」

 

 ズィーヤは体に孕んだ熱を放出するように深く息を吐く。吐いた息の重々しさは酒精以上の後悔と羞恥が混ざっていて、誰も言葉を発することが出来なかった。

 落ち着いたのか、ズィーヤは真剣な態度を一転させ、ケラケラと笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「だから、ベル君に追いついたと俺が納得できた時、その時また誘ってくれ。勿論、臨時の共同探索なんかは喜んで受けるさ」

 

「……そうですね。その時はよろしくお願いします!」

 

「リリも、それで手を打ってくれないか?」

 

「……ベル様も納得していますし、ズィーヤ様に頼まれてはリリには断れませんね。また、これからもよろしくお願いします」

 

 3人は目を合わせると笑みを浮かべて乾杯しようとする。しかし、ズィーヤのジョッキは一息で飲みきってしまった為に空だった。

 もう一度注文するため近くを歩くアーニャに声をかけようとするズィーヤの手元に果汁(ジュース)が満ちた杯が渡される。

 

「ふふ、丸く納まったみたいですし、用意しておいた果汁が無駄にならなくて良かったです」

 

「シルさん……はい、ありがとうございます。リオンさんも、祝いの席ですいません」

 

「いえ、気になさらないでください。冒険者にとってパーティというのは重要な問題です。真剣に話し合う事を(そし)るつもりはありません」

 

「ありがとうございます。では改めてっ、乾杯っ!」

 

「「「乾杯!」」」

 

 5人の杯が軽快な音を立ててぶつけられる。祝いの席は未だ続き、賑やかな話し声は途切れなかった。

 

 

 

 

 

/とある受付嬢の話

 

 最初に担当したのはとある男神の眷属の男性だった。

 お調子者ではあったが、私の課した課題を着実に達成して主神と友神だという神の眷属達とパーティを組んで探索する堅実さを持った冒険者だった。

 

「エィラさん!やりましたよ!5階層も怪我なしで探索出来ました!勿論、他のパーティメンバーも無傷っすよ!」

 

「まぁ!凄いじゃないですか!これなら6階層でも安定して探索できそうですね」

 

「まっかせて下さいよ!俺の剣術で6階層も余裕で切り抜けてやりますよ!」

 

「調子に乗ってはいけませんよ?ダンジョンは冒険者の油断や慢心、疲労につけ込んで殺す恐ろしい場所です。多少慣れたからと言って足元を救われて命を落とすことも多いんですからね?そもそも、あなたは体格があまり恵まれていないので長剣だけでなくサブの短剣もしっかりと鍛錬をして──」

 

「あ、エィラさん、6階層の情報を教えて貰えないっすか?」

 

「全く、本当に気をつけて下さいね?……6階層の情報は──」

 

 模範的な冒険者というか、堅実に探索を進めて危なくなれば戻ることを理解している冒険をしない冒険者だったと思う。

 5ヶ月程度アドバイザーとして手助けしていれば、パーティで6階層まで進める程度には優秀でもあった。

 だから、彼なら大丈夫だと無責任に安心してしまったんだ。

 

「…………アイツは、ウォーシャドウに殺されました」

 

 彼らが6階層に進出した時、パーティのリーダーを務めていた青年にそう伝えられた時、頭が真っ白になった。

 彼曰く、複数のウォーシャドウと接敵した際に主武器である長剣が破損、サブ武器であった短剣で応戦するも徐々にパーティメンバーと分断されてしまったらしい。そして、ウォーシャドウの爪に心臓を貫かれ即死したらしい。

 

「……アイツはアンタに懐いていたからな。遺品の一つは、アンタに渡すべきだと思った」

 

 そう言って、青年は丁寧に畳まれた藍色のスカーフを渡してきた。

 いつも彼の首元で緩くはためいていた藍色は、はためくことなく私の手元にあった。

 

「それじゃ、俺は行くよ。………あんまり、気に病むなよ」

 

 そう言って、傷だらけの青年はギルドから出ていった。

 私といえば呆然とスカーフを握って立ち尽くしていた。ギルドの喧騒も先輩達の呼び声も酷く遠く感じて、その日の業務は何も手につかなかったことを覚えている。

 

 

 それから2ヶ月程度経った頃に、新しい冒険者のアドバイザーとなった。

 ある女神の眷属である彼女は寡黙で、パーティをあまり組もうとしない困った子だった。

 彼とは異なって、私の助言もあまり聞き入れない子で、怪我の絶えない子。それでも、他の冒険者に比べて優秀でたった1ヶ月で2階層を超えて3階層まで探索の足を進めていた。

 

「パーティを組まなければ、これ以上の探索は危険です。怪我も多くなっているようですし、安全マージンをとるのならパーティに入るか、探索階層を下げるべきです」

 

「…………パーティ、組む」

 

 彼女自身も限界を感じていたのか彼女はようやくパーティを組むつもりになってくれた。

 私の先輩に頼り、パーティメンバーを探している初心者パーティを斡旋して彼女をパーティに入れてもらった。

 本人の実力もあるし、他のパーティメンバーも初心者とはいえ彼女よりも長いし有望株だと言われていた。パーティになれば安定性も上がって怪我も減るだろうと、私は安心していた。

 

「……エィラ、アンタの担当の子についてなんだけど……」

 

 彼女がパーティに入ってから数週間後、彼女の入っていたパーティが怪物進呈に巻き込まれ壊滅したことを聞いた。

 魔物の大群との戦いになれていなかった彼女たちは全員が無事ではなかったが、別ファミリアの助けによってギリギリ治療院へ運ぶことが出来た。

 だが……

 

「……亡くなったってさ」

 

 彼女はパーティで1番強かった。負傷した他のメンバーを守るために魔物の大群に突貫してその際に致命傷を多く貰いすぎたようだ。

 さらに不幸だったのは、怪物進呈された場所が見つかりずらい場所だった為に発見が遅れ、他メンバーから応急処置されていたとはいえ致命傷を受けていた彼女は耐えられなかったのだ。

 後日、彼女パーティメンバーが体に包帯を巻きながら私の元に来てひたすら謝罪していた。

 特に、庇われていたらしい子は泣きながら自分の無力と私への謝罪を繰り返していた。

 なんと言葉をかけたかは覚えてないけど、彼らを帰らして私もその日は早退した。

 自分のことを何にも話さなかった彼女がパーティを組もうとしなかったのは、もしかしたら自分よりも弱い誰かを庇ってしまうからなんじゃないかと、彼女が死んでから思い至った。

 

 

 それから3ヶ月後、また別の新しい冒険者のアドバイザーとなった。

 とある女神の眷属であるその少年は、いかにも夢見がちと言った冒険者だった。

 「英雄をめざして!」と言って憚らず、いつも傷だらけの体で笑顔を浮かべていた。

 元孤児だという少年はダンジョンに対する知識がほとんどなかったため、私が一から教えることになった。

 直ぐに逃げ出すかと思えば、学習することが楽しいらしく自分からダンジョンの知識を深めていった。私も楽しくなって、どんどんスパルタになっていったが、それでも少年はついてきていた。

 1ヶ月経ち、必要最低限の知識をつけてから少年はダンジョンへ向かっていった。

 無茶しないように言い含めていたが、丸1日ダンジョンを探索して疲労でフラフラな上に生傷だらけになって帰ってきた。

 それはもう、すごく叱った。あれだけ安全マージンをとるよう言っておいたのに、慣れていない身で丸1日なんて自殺行為以外の何物でもない。

 少年もさすがに反省したのか、それからはきちんと日暮れ前には帰ってくるようになった。

 

「俺、人助けしたいんだっ!」

 

「いいじゃないですか!どんな形で人助けをしたいとかあるんですか?」

 

「俺は英雄になるからなっ!ダンジョンの魔物全部倒して、誰もダンジョンで死なないようにしてやる!」

 

「それはまた、随分大きく出ましたねぇ」

 

「うん!夢は大きい方がいいって神様も言ってたし、このくらい大きなこと言えないと英雄になんてなれないしな!はっはっはっ!」

 

「では、夢を叶えるためにも今はしっかり、堅実に、強くなる必要がありますね。……うん、これなら3階層に進んでもいいでしょう。ですが、油断してはいけませんよ?主武器だけでなくサブ武器もしっかりと鍛錬をつみ、他パーティの様子も確認するんですよ?」

 

「わかった!それじゃ、行ってきます!」

 

「えぇ、お気をつけて、行ってらっしゃい!」

 

 そして彼は帰ってこなかった。

 3日後、彼に助けられたというパーティが私の元にやってきた。

 ダンジョン内で負傷して動けない中魔物に囲まれてしまい絶体絶命の中、少年に助けられたらしい。彼は最後まで、耳が痛くなる高笑いとともに魔物と戦い、彼らが逃げるまでの殿を務めたらしい。

 負傷していたという後衛の少女は足を引き摺っていて、傍目から見ても、もう冒険者としてはやっていけなさそうだった。

 

「あの人は、貴女にごめんと、ありがとうと、大好きだって伝えてくれって……」

 

 彼らは泣きながら私に謝って、嗚咽を漏らしながら帰って行った。私も、必死に涙を堪えながら家に帰って、昼が終わり夜が明けるまで泣いた。

 丁度その頃から、受付嬢や冒険者の間で、短期間に担当冒険者が死に続ける【死の受付嬢】という噂話が(まこと)しやかに囁かれていた。

 

 

 それからも、何人もの冒険者の担当になった。

 他者を信じることの出来なかった少女はパーティメンバーとの不和によって亡くなった。

 愛する人のためにダンジョンへ潜った青年は初心者殺しに殺されかけ、片腕と片目を失った。

 才気溢れる少年は油断によって死んで行った。

 運命の人を探しに来たという女性はパーティの慰みものとなって心を病んだ。

 

 私の担当した冒険者はみんな死んで行った。それは命を落としたと言うだけでなく、冒険者として殺されたこともある。

 受付嬢や冒険者間で【死の受付嬢】という名が馴染む頃には、私はもう限界だった。いや、最初から限界だったのかもしれない。

 それでも、辞められなかった。

 死んで行った彼らに報いるために、私の罪を償う為に、次こそ、誰も死なせないために、私は担当アドバイザーとして助言しなければならない。

 

 

 受付嬢になってから2年後、とある少年の担当になった。

 黒いサラサラの髪に綺麗な青い瞳が印象的な少年。常にニコニコと笑みを浮かべて柔和な雰囲気だったが、逆にそれが少し胡散臭かった。

 ダンジョンについて殆ど知らないらしいので教えることになった。加減が分からず少年の時と同じようにスパルタになってしまったが、彼は変わらず柔和な雰囲気のまま素直に課題をこなしていく。

 1ヶ月も経たないうちに、彼はダンジョンの基礎的な知識をつけて探索へ向かっていった。

 毎日毎日、彼がどこの階層をどれだけ進んだが報告してもらい、時に助言することで安全マージンを常に意識させた。

 その甲斐あってか、彼は怪我らしい怪我もせず、自分の力量にあった階層を堅実な速度で探索するようになった。

 非常に堅実かつ素直で才能のある優秀な冒険者。

 それが彼──ズィーヤ君への私の評価だった。

 だから、5階層でイレギュラーに遭遇した時は肝が冷えたし、9階層でミノタウロスと接敵して命の危うい重傷を負ったと聞いた時は目の前が真っ暗になった。

 それでも、彼はちゃんと帰ってきてくれた。

 新調した防具と背に短槍を携えて、相変わらずニコニコと笑みを(かたど)りながら、ミノタウロス戦を超えて一回り大きくなった姿で今日も探索から帰ってきた。

 

「ただいまエィラさん」

 

「おかえりなさいズィーヤ君。今日はどこまで進んだんですか?」

 

「体の感覚を合わせるために6階層の奥まで、そこでウォーシャドウと戦いつつ体の調子を確認しました」

 

「なるほど、怪我や不調はありませんか?感覚が敏感になりすぎると身体に不調をきたす場合もありますが」

 

「特に問題ないですね。怪我もありません」

 

「それなら良かったです。明日も探索ですか?」

 

「えぇ、そのつもりです」

 

「でしたら、今日は帰宅してゆっくり休んでくださいね。鍛錬するのも大事ですが明日に疲れを残して探索に影響を与えてしまっては元も子もありません。常に万全であることは難しいですが万全でいられるうちは万全でいられるように日々気をつけていきましょう」

 

「はい。肝に銘じておきます。では、また明日」

 

「はい!また明日」

 

 ギルドから遠ざかっていくズィーヤ君の背中を見送る。

 「また明日」なんて簡単に言ったが、その難しさを私は知っている。明日には冷たい死体になっていることも、この街では偶にある事だ。

 こうして、彼と「また明日」を何度繰り返せるか、それは分からないけれど──

 

「できるだけ長く、ずっと、言いたいな……」

 

 神様は願いなんて叶えてくれないけど、それでも祈ろう。

 ズィーヤ君が明日も明後日も、無事に帰ってきてくれますように。




要約
ベル君のパーティには入らないよ。君は憧れであり追うべき存在だからねっ!

エィラさんはズィーヤ君に対して非常に複雑な感情を抱いています。そして、これまでの担当にもとんでもなく複雑な感情を抱いています。

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