嫉妬の冒険譚   作:凪 瀬

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何気に初めて完全3人称視点でお送りするのでは……?
普段とどっちが読みやすいかなど、感想で教えて貰えると嬉しいです!


37話 再会と納得と推論

 

 ダンジョン18階層

 迷宮内に点在する魔物の生まれない安全階層と呼ばれるそこは、巨大な水晶が光源となり、昼と夜を繰り返す特殊な階層となっている。

 縦穴に落ち、ダンジョン中層を決死の行軍によって踏破したベル達は、遠征中に毒を受けてしまい駐屯していた【ロキ・ファミリア】によって救助された。

 無事に3人が意識を取り戻し、状況を説明された頃には水晶は輝きを抑え、地上を照らす月光と変わりない程度の光を放っている。

 【ロキ・ファミリア】の夕食に参加させてもらっていたベルだったが、ミノタウロスとの戦いを観戦していたティオナとティオネ、アイズに囲まれ、異常な能力値(つよさ)と成長の秘訣について問われていた。

 圧倒的に格上な冒険者の放つ無言の圧力(と女性に囲まれるという緊張)に仲間の助けを求めるも、他2人にベルを窮地から救える余裕はなかったらしく、ベルの冷や汗と胃の痛みが止まることは無さそうだった。

 

『ぐぬあぁぁ!!』

 

「!?すみません、行かせてください!!」

 

「あっ、ちょっと!」

 

 万事休すかと諦めかけた時、ベルの耳によく知っている人物の声が聞こえた。

 行軍中、幾度となく声を聞き姿を見たいと願っていた敬愛する神様(ヘスティア)の声。ダンジョン内で決して聞こえてはいけない彼女の声を、ベルの聴覚は確かに聞き取っていた。

 どうやらリリとヴェルフもしっかりと聞こえていたようで、駆け出したベルの後ろを追いかける。

 

「あ、あああんな巨大なモンスターが居るなんてっ、きいてないぞ!?」

 

「あっはははっ!死ぬかと思ったー!いやぁ、生きてるって素晴らしいねー!」

 

 17階層と18階層を繋ぐ洞窟前。

 森が途切れ地面が露出する場所には四つん這いとなって息を乱すヘスティアと座り込んで大笑いするヘルメス。

 そして、彼らを護衛してきた──覆面の冒険者を除く──冒険者の面々が盛大に肩で息をしていた。

 突如駆けだしたベル達とヘスティアの絶叫、ヘルメスの高笑いに気づいた【ロキ・ファミリア】も集まりだし人垣が生まれ始めた時、顔を上げたヘスティアがベルの姿を視界に収める。

 

「っ!ベル!!」

 

「おわっ!」

 

 感極まったとばかりに目尻に涙をため、棒立ちとなっていたベルに飛びつくヘスティア。油断しきっていたベルはヘスティアの勢いに為す術なく押し倒され、芝生に尻もちを着く。

 

「ベル君、ベル君っ!本物かい!?」

 

「か、かみひゃま……!?」

 

 ベルを押し倒し馬乗りの状態になったヘスティアは、ベルの体をぺたぺたと触り怪我の様子を(しき)りに確認する。しまいには、ベルの両頬を挟みぐにぐにと変形させていた。

 上体を起こそうとしたベルの首に両手を回してぎゅっと強く抱きしめる。存在を補強するように、密着する熱を感じるように、その豊満な肉体をベルへと押し付ける。

 ベルもヘスティアに心配をかけたことを自覚し、彼女の小さな体に両手を回す。

 ダンジョンに似つかわしくない神と眷属(親と子)の力強い抱擁に、ベル達捜索隊や集まっていた人の何人かは微笑みを浮かべる。

 

「ふぅー……良かった、生きてる……」

 

 ベルとヘスティアを囲む人の輪から離れ、岩壁にもたれながら2人の抱擁を見守るズィーヤもまた、気の抜けた微笑みを浮かべていた。

 17階層に存在する階層主(モンスターレックス)から逃亡する際、2柱の神のために魔法と泥玉を全て活用し、神達が階層主に気づかれないよう全力での存在の隠蔽と、万が一にも攻撃の余波で傷つかないよう意識を割き続けたズィーヤの疲れは、他の面々と比較しても大きなものだった。

 

「(継戦能力……これも課題だな……)」

 

 覆面の冒険者やアスフィというLv4がいて尚、護衛のサポートで精一杯。まして、数十メートルを走破するだけで心身ともに立ち上がるのが億劫なほど疲弊する事に、ズィーヤは乾いた笑みを浮かべる。

 

「グリスアさん」

 

「ぬおっ!?」

 

 暗闇の中で天井に生えた水晶が淡い光を放つ。その様子をぼーっと眺めているズィーヤの視界に、覆面の冒険者──リュー・リオンの顔が現れる。

 

「えーと、どうしましたリオ……覆面さん」

 

「クラネルさんにも気づかれましたし、リオンで構いませんよ。一旦クラネルさん達のテントへ移動するようです」

 

「あぁ、なるほど。教えてくれてありがとうございます」

 

「いえ、では、私はこれで」

 

「ん?リオンさんは来ないんですか?」

 

「……えぇ、少し、用事があるので」

 

 それ以上の言葉を残すことはなく、リューは森の方へと歩いていく。

 夜の森は危険だと引き止めようかと思ったが、18階層に時折現れるLv2程度の魔物にリューが遅れをとるはずもないため、多少気にはなりながらもズィーヤはベル達のいるテントへ向けて歩き始めるのだった。

 

 

 

 ズィーヤがベル達のテントに辿り着くと中からはヴェルフとリリの険しい声が聞こえてくる。

 【タケミカヅチ・ファミリア】の行った怪物進呈について、ヴェルフとリリは許すことも納得することもできておらず、外に居いるズィーヤにもテント内の不穏さが分かった。

 一瞬、問題の部外者である自身が入ってもいいのか躊躇するも、外に居ても始まらないと迷いを振り切ってテントへ入る。

 

「中々、難しい状況みたいだね」

 

「ズィーヤさん!」

 

「やぁ、ベル君。リリとヴェルフも、無事で良かった」

 

 テントの中には険しい表情のリリとヴェルフ、困ったような表情のベルが立っており、その対面には、正座した命と千草、2人の後ろで腕を組み仁王立ちしている桜花がいた。

 

「ズィーヤ様、助けに来ていただいてありがとうございます」

 

「俺からも礼を言う。心配かけたな」

 

「気にしなくていいよ。友人が行方不明なら、助けに行くのは当然だろ?」

 

 笑いながらベル達の肩を叩き、次いで命達の方を見る。

 

「彼らも、贖罪のためとはいえ命を張って君達を助けに来た。それは、俺が保証するよ」

 

「それは……」

 

「そうだがよ……」

 

 助けに来てくれたことは理解してるし、感謝もしている。だが、命を落としかけたということが大きなしこりとなっているせいか、ヴェルフとリリには納得するという事が難しいようだった、

 

「納得できないなら、納得できるまで彼らの手を借りればいい。互いの確執が無くなるまでリリ達が利用してやればいい」

 

 正座する命と千草を立ち上がらせて、対面する両陣営の中間に立つ。

 

「【タケミカヅチ・ファミリア】は良い人達だ。それに、確かな実力もある。きっと、リリやヴェルフ、ベル君が困った時に力になってくれる。な?」

 

 全員がそれぞれの顔色を伺い、それぞれの感情を推し量ろうとする。

 誰もが二の足を踏み、声を出せずにいた中で、疲労が滲みながらも気が抜けたようなリリの溜息の音が響く。

 

「……ズィーヤ様がそういうのであれば、リリ達が譲ってあげます。もしもの時は、馬車馬のように働いていただきますからね!」

 

「はいっ!勿論です!」

 

「……納得はしねぇ。だが、割り切ってやる。それでいいな?大男」

 

「あぁ……それで構わない……ズィーヤ殿、感謝する」

 

「感謝は折り合いを付けてくれたベル君達にするといい。俺は、(はた)から好き勝手言っただけだよ」

 

 最初に流れていた険しい雰囲気は霧散し、ぎこちないながらも穏やかな空気が流れ始めた。

 ちょうどそのタイミングで、【ロキ・ファミリア】の幹部達との話し合いに行っていたヘルメスとアスフィが入ってくる。

 

「ただいま〜。お、話はまとまったみたいだね」

 

「ヘルメス様とアスフィさん。【ロキ・ファミリア】との会談は終わったんですか?」

 

「あぁ、内容も含めて、これからの予定を話そうと思ってね」

 

 地上への帰還は【ロキ・ファミリア】が17階層のゴライアスを討伐した後になること。そして、【ロキ・ファミリア】が移動を開始するのは早くても2日後なため1日の自由時間があること。

 

「というわけで、明日は18階層の観光と洒落こもうじゃないか!」

 

 ヘルメスの陽気な掛け声に各々が返事を返し、先程までの気まずさが嘘のような賑わいがテントの中に生まれる。

 

「ズィーヤ君、少しいいかな?」

 

「どうしました、ヘルメス様?」

 

 ベル達とどこを見に行くか話しているズィーヤへヘルメスが声をかける。

 優男然とした曖昧な笑みに胡散臭さと微かな不穏さを感じ、ズィーヤは一歩後退する。その姿に少し傷付きながらも、ヘルメスは笑みを崩すことなく話し始める。

 

「フィン君達からキミを呼んでくるように頼まれてね。一際大きなテントに居るらしいから、行ってきてくれるかい?」

 

「……分かりました」

 

 呼び出されたことに困惑しながらも、ズィーヤはテントを出て、フィン達の待つ大テントへ向けて歩き始めた。

 

 

 

「やぁ、来てくれて感謝する」

 

 大テント前に立っていた門(?)番の人に話を通し、中へ入れてもらうと、オラリオ内でも数人しか居ないLv6にして二大派閥の一翼を担う【ロキ・ファミリア】の幹部3人が待ち構えていた。

 

「いえ、お気になさらず。それで、どう言ったご用向きでしょうか?」

 

「そう硬くならなくていい。もっと気楽にしてくれていいよ」

 

 入口正面に置かれた箱の上に座るフィンがズィーヤの緊張を解すように柔らかく微笑みながら声をかける。

 

「申し訳ありません、そういう性分ですので。お目こぼしいただけると幸いです」

 

「うーん、これは筋金入りだなぁ……」

 

「礼儀のなっていない者よりはマシだろう。それより、フィン、此奴(こいつ)も疲れているだろう、手早く終わらせてやれ」

 

「お気遣い痛み入ります。リヴェリア様」

 

 頭を下げるズィーヤをサッと片手をあげるだけで対応するリヴェリアの姿には、幾度となく同じことをしてきたという貫禄が滲み出ていた。

 

「リヴェリアの言う通りだね。君に少し聞きたいことがあるんだ」

 

「聞きたいこと、ですか?」

 

 フィンの言葉にズィーヤは目を瞬かせる。

 Lv6にして【ロキ・ファミリア】の団長ともなれば集められる情報量は膨大だ。

 【ガネーシャ・ファミリア】との関わりがあることによって一般的なLv2よりは多少知っている事は多いズィーヤだが、流石に大規模ファミリアの情報量には劣る。

 知略に優れる事で名高い【勇者】フィン・ディムナがズィーヤに知恵を借りたいと言うはずもない。

 故にフィンの発言はズィーヤにとって理解に時間のかかることだった。

 そんなズィーヤの困惑を知ってか知らずか、フィンは滔々と話し始める。

 

「君とベル・クラネルの遭遇したミノタウロス。君はこれについてどう考える?」

 

「どう、とは……?」

 

 要領を得ないフィンの質問にズィーヤは首を傾げる。

 9階層で戦ったミノタウロスは、ズィーヤが18階層までの道中で見たミノタウロスよりも明らかに強化されており、ベルとズィーヤが勝利し生き残れたことが奇跡のような存在だった。

 だが、それは登ってくる過程で口にした魔石によって強化されたと考えられており、ズィーヤも同じように考えていた。

 

「単刀直入に言えば、僕はあのミノタウロスは誰かによって調教されたものだと思っている」

 

「調教……!?」

 

「あぁ、あのミノタウロスには確かな技術があった。体色や肉体的な強さは強化種のものだろうが、技術はどうにもならない」

 

「だから調教ですか……私に聞きたいのは心当たりですね?」

 

「話が早いね」

 

 顎に手を当て自身の心当たりと考えられる可能性を総当りする。

 フィンたちが見守る中でひたすらに思考を回し、数分の沈黙がテントの中を満たした。

 

「……私が恨まれる心当たりは幾つかありますが、ほぼ全員がLv1。そして、そいつらにミノタウロスを調教するだけの力はありません。闇派閥の可能性も低いでしょう。あいつらなら、準備が完全に整ったタイミングで都市にでも放ちます」

 

「同意見だ。だが、闇派閥のミスの可能性は?」

 

「高く見積ってもLv3相当のミノタウロスを調教失敗、あるいは脱走させてしまう程度なら【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】で容易に対処できます。考える必要は無いかと」

 

「では、あのミノタウロスは自身の力で技術を獲得したと?」

 

「その可能性も低いでしょう。18階層まで来る道中、何体かミノタウロスを見ましたが、あいつらにそんな知能はない。そもそも中層で最も力のあるミノタウロスが上へ上がるのに技術は必要ない」

 

 フィンやリヴェリアの示した可能性を淀みなく否定し、可能性を追求していく。

 顎に当てた手は口を覆い、開かれた目は瞳孔が開ききり、やや血走り始めている。

 

「……ベル君が狙われた?」

 

「何じゃと?」

 

「……憶測になりますが、問題ないでしょうか?」

 

「構わない。君の考えを聞かせてくれ」

 

 真剣味を増したフィンの声にズィーヤは身を引き締め、自身の辿り着いた見解を語っていく。

 

「俺を狙ったもの、闇派閥、自然強化の可能性が低いとなると、残る可能性は私ではなくベル君を狙ったものになります。ただ、ミノタウロスと戦った時点のベル君は恨みを買う要素はない」

 

 天井を仰ぎみながらズィーヤは語る。無意識にか指先をクルクルと動かし、瞬き1つしない集中力の中で推論を進める。

 

「先日の怪物祭、脱走したシルバーバックとベル君が交戦した話はご存知ですか?」

 

「ああ、アイズから聞いた」

 

「あの時、フードを被った女と相当体格の良い男の人影を見ました。そして、恐らくですが、酷い執着の籠った視線をベル君に向けていました」

 

「それとミノタウロス、一体なんの関係があるんじゃ?」

 

 ガレスの問いかけに、ズィーヤは指先を回すことを止めて腕を組んで眉をしかめる。これから話す内容がやや無理くりであることを自覚しているからだった。

 

「仮に、あのフードの女がシルバーバックを脱走させベル君と戦わせたなら、その理由として考えられるのは『ベル・クラネルを強くすること』だけです」

 

「何……?」

 

「ベル君の成長速度は異常の一言に尽きます。ですが、シルバーバックと戦う以前の彼であれば、その辺の冒険者を唆すなり、裏稼業に身を置くものに依頼するなり、犯罪に巻き込ませたりすれば容易に殺せました。だから、殺すことを目的にした線はない」

 

「待ってくれ、それは理論が飛躍しているんじゃないかな?一般的なLv1、まして当時のベル・クラネルがシルバーバックを倒すなんて本来不可能なはずだ」

 

 フィンがズィーヤの推論に疑問を呈する。

 実際のベルの戦いを見ていないものにとって、ベルの肩書きは駆け出し冒険者。

 本来であればステイタスも低く、特出したステイタスがあったとしても11階層から出現するシルバーバックに勝てる要素など皆無だ。

 

「いいえ、当時のベル君はシルバーバックの攻撃を避け、ヘスティア様を抱えて逃げられる程度の敏捷は確実にありました。そして、速さ以外にも攻撃を正面から受けられる力、吹き飛ばされても意識を失わない耐久など、シルバーバックと戦う上で最低限以上のステイタスをベル君は持っていました。つまり、ステイタスだけで見れば、あの時点でシルバーバックの相手は十分に可能だったんです。逆に、経験ある冒険者や技術のある冒険者相手では、手も足も出ない程度の素人でした。だから、彼を殺すなら魔物ではなく人を使う方が確実です」

 

 最も近くでベルの戦いを見ていたズィーヤの予測はフィン達に意見させる余地のない説得力を孕んだものだった。

 

「では、シルバーバックをけしかけたのがそのフードの女で、ベル・クラネルの強化の為と仮定するなら、ミノタウロスは一体どういう理由なんだ?」

 

 変わらず冷静なリヴェリアが脱線しかけた話題を本題であったミノタウロスの話へシフトさせる。

 今一度口を手で覆いながら視線を上へ向け思案する。

 つい先程ズィーヤの脳で出された結論と再考して出された結論は、どちらも同じものだった。

 

「トラウマの克服と上位経験値の獲得……だと思います」

 

「ほう?」

 

「5階層で死にかけた経験からか、当時のベル君は明らかにミノタウロスに対してトラウマがありました。引くことの許されない状況においてトラウマは克服し超克する以外の選択肢はない。フードの女はそれを狙ったんじゃないでしょうか?」

 

「なるほど……だが、その過程でベル・クラネルが死ぬ可能性もあったんじゃないかな?」

 

「勿論あったでしょう。ただ、これはフードの女が神であれば問題ではないでしょう。神は天界で魂を扱う……死んだベルの魂を手に入れることができれば、それはそれで良かった可能性が考えられます」

 

 言いながら、ズィーヤは渋い表情を浮かべる。

 憶測の結論を元に推論を重ねていくのは事実を都合よく曲解してしまいかねない行為だ。こうして推測を話していく中で、ズィーヤの希望観測が幾つ入り込んでいるか分かったものではない。

 だからこそ、証拠もない憶測で神を非難するような事を口にするのは、ズィーヤとしても遺憾なところではあるのだ。

 

「……一応、結論の補足のようなものをするなら、私達の戦ったミノタウロスの技術は中途半端でした。基本は本能と膂力に任せた大振りばかりだと言うのに、時たま突きを放って手足を扱う。駆け引きこそあれ、鍛錬した冒険者であれば互角以上にできる。そして、それらはベル君の速度をもってすれば問題なく対処できる程度のもの。つまり、最初から勝ち筋のある魔物でした」

 

 長かった推論もようやく終わり。大詰めとなる。

 

「結論として、あのミノタウロスはベル君が成長することを望む女神と、その眷属によって調教されたものだと、私は考えています」

 

 言い切ると同時にテントの中には静寂が広がる。

 ズィーヤの推論を聞いた各々が可能性と確率、否定材料を考慮して、どこまでが事実かを突き詰めていく。

 誰も言葉を発さない沈黙は重々しく、思考する幹部達の放つ微かな威圧感に、実力の最も劣るズィーヤは冷や汗を流す。

 

「うん……君の推論、可能性としては有り得るだろう」

 

「あぁ、多少の飛躍はあれど、筋は通っている」

 

「実際のところは儂らにも分からんからな。1つの可能性として頭に残しておく価値は十分にあるじゃろう」

 

 頬をつたい顎へ滴る冷や汗かが、体を離れて地へ落ちた時、ようやく重苦しい沈黙から解放された。

 知らず知らずの内に浅くなっていた呼吸を整えながら、ズィーヤは話の終わりを感じて安堵する。

 自身を捻り潰せる実力を持つ複数人を相手するとなれば、緊張から神経をすり減らし、疲労を感じてしまうのも無理は無い話だ。

 

「さて、もういい時間だからそろそろ解散としようか。君も疲れているようだしね」

 

「お心遣い、感謝します」

 

「気にしないでくれ。寧ろ、有意義な話を聞けたこちらが感謝したいくらいさ」

 

「勿体ないお言葉です。……では、私はこれで」

 

 3人へ深々と頭を下げ、テントから退出していくズィーヤ。夜を迎え淡い光を灯す水晶は、夜半を過ぎても変わらない光で18階層を照らしていた。

 

 

 

 ズィーヤが完全にテントから離れたタイミングでフィンが口を開く。

 

「彼の話、どう思う?」

 

「何割かは事実だろう。シルバーバックの脱走に上層のミノタウロス出現。それらにベル・クラネルが関わっていることは偶然とは考えにくい」

 

「じゃな。神が相手とすれば誰になるんじゃ?」

 

「ミノタウロスを調教し、ベル・クラネルの実力と同等にできる程の強さ……確認したミノタウロスの強さを考えればLv4以上は間違いないだろう」

 

「Lv4の眷属がいるファミリア……うちと【ヘファイストス・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】は抜いていいだろう」

 

「【イシュタル・ファミリア】はどうじゃ?あそこなら強い男を求めて成長させようとするんじゃないか?」

 

「いいや、彼女達はそんな遠回りなことはしない。強い男を求めるなら、最初から強い相手へアタックするさ。養殖のような真似はしない」

 

「……お前が言うと重みが違うな」

 

「日々悩まされとる故かの」

 

「ノーコメントにしておくよ……。それで、残っているのは……」

 

「……【フレイヤ・ファミリア】か」

 

「今までも何度か他所の眷属を奪ったとかで問題になっとったの。今回も同じか?」

 

「もし【フレイヤ・ファミリア】だったら、そうだろうね」

 

「厄介な……今あそこと事を構えるのは無理だぞ」

 

「あぁ……とはいえ、彼等で決まった訳じゃないんだ。もしかしたら、ダンジョンで何か異変があって9階層まで進出した可能性もゼロじゃない」

 

「そっちの方が厄介な気がするのう」

 

「同感だ」

 

 テント内に3人の疲れた溜息が溶けていく。

 悩み事の種が多い大派閥の幹部達は、ダンジョン内でも変わらず頭を悩ませるのだった。




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