嫉妬の冒険譚   作:凪 瀬

40 / 46
40話 誘拐と悪意と異常事態

 

 1日18階層の観光に費やし、英気も十分に養った俺達は地上へ帰還するための準備を進めていた。

 

「リリ、入らなさそうな細かいものは俺のバックに入れてもいいからな?」

 

「ご心配なく、これでも収納術には自信があるのです!寧ろ、ズィーヤ様の方こそ嵩張るものはこちらが運びますよ」

 

「え、それは悪いよ」

 

「ズィーヤ様には遊撃として帰還中に戦っていただくのですから邪魔になる荷物を持つくらいなんでもありませんよ!」

 

 凄いにこやかな笑顔で言ってくるけど、やや圧を感じるな……断っても問題は無いと思うけど、実際戦いの最中に荷物を気にする余裕なんてないし、持って貰えるなら助かるんだよな。

 

「それじゃ、リリが入れてから余裕がありそうならお願いしようかな」

 

「お任せ下さいっ!」

 

 意気揚々とベル君、ヴェルフ、リリの3人分の荷物をバックパックに収納し始め、みるみるうちに荷物の山が無くなっていく。反対に、詰め込まれたバックパックは徐々に膨らんでいくが、無くなった山に比べればささやかな膨張だろう。

 18階層までに減ったとはいえ、【ロキ・ファミリア】の支給品や俺達の持ってきた荷物でそこそこの量はあったはずなんだけどなぁ……これが、リリ自慢の収納術ってことか。

 

「よしっ!ではズィーヤ様、戦闘の邪魔になりそうなものや不要な物を下さい!」

 

「……頼んだよ」

 

 目の前で実力を見せつけられたら応じない訳にもいかない。それに、駄々を捏ねてる間に先行した【ロキ・ファミリア】の部隊に置いていかれて危険にさらされるなんてたまったもんじゃないしな。

 シュパパと俺の荷物を収納して行き、最終的に俺の持つ荷物はポーション類と泥玉、予備のナイフのみとなった。凄いなリリの収納術……。

 

「さて、それじゃベル君達と合流しようか」

 

「ですね」

 

 荷物の最終確認も終えてベル君達が集合しているだろう野営地の一角に向かうと、やけに慌ただしい雰囲気だ。

 

「みんな、どうしたんだい?」

 

 

「あぁ、ズィーヤとリリスケか。お前、ヘスティア様とベルのこと見なかったか?」

 

「ヘスティア様とベル君?いや、俺は見てないけど……」

 

「リリもです」

 

「だよな。もうそろそろ部隊が出発するから集まるよう声掛けとこうと思ったんだけど見当たらなくてよ……」

 

「それは……」

 

 このタイミングでベル君とヘスティア様が同時に居なくなる……2人で最後に散歩ってことならいいんだが、誰にも声をかけてないって言うのが気になる。いや、ヘスティア様なら「誰にも知られないように少しだけ抜け出そうぜ」とか言ってベル君を連れていく想像もできるが……。

 

「……一旦、周辺を探そう。もしもの事があったら厄介だ。散らばって、部隊が出発する前にここにもう一度集合しよう」

 

「ですね」

 

「だな」

 

 頼むから厄介なことにはならないでくれよ……ベル君には無理な相談なんだろうな。

 

***

 

「で、やっぱりどこにもいなかったと」

 

「少なくともここら一帯にはいませんでした。ここから『街』へ向かったとも考えにくいですし……」

 

「どうする、もう部隊が出発しちまうぞ!」

 

 俺達が捜索に手間取っている間にも【ロキ・ファミリア】の部隊は準備を終わらせ移動を始めようとしている。焦ったところでどうにもならないことが分かってるとはいえ、ジリジリと焦燥感が湧いてくるっていうのは、困ったもんだな。

 捜索の手伝いを頼んだ【タケミカヅチ・ファミリア】の面々も戻ってきた。だが、誰もヘスティア様とベル君を連れてきていないことから見つからなかったんだろう。

 さて、いよいよどうしたもんか……

 

「アスフィ殿やヘルメス様に助けを求めるのは……」

 

「どこほっつき歩いてるか分からない。見つからないなら余計に手間だろう」

 

「覆面の冒険者さんも場所が分からない以上難しいだろう」

 

「ですが、闇雲に探し回っても見つかりませんし……」

 

「み、みんなー!」

 

 見つからない2人に俺たちが頭を悩ませていると、北東のハズレを探していた千草さんが大きな声を上げながら戻ってきた。

 戻って早々に俺達の手をひったくる勢いで案内を始める。

 

「これは……」

 

「……間違いありません、ナァーザ様のポーションです」

 

「あ、あと、さっきクラネルさんが凄く慌てた様子で森の外へ……」

 

「……争った跡が無いし、悲鳴も聞こえなかった。モンスターがヘスティア様を襲った訳じゃなさそうだ。同様に、ベル君が襲われたとも考えにくい」

 

「人の仕業ってことか……」

 

「血痕もないし、誘拐だろうな」

 

「自分達や【ロキ・ファミリア】に気づかれないうちにですか……?」

 

 それが出来るとしたら、余程の手練か幽霊かのどれかだろう……一体何が目的だ?ベル君の命を狙うなら暗殺でいい。ヘスティア様を襲うにしても、人の身でそんな不敬は働く気も起きない。

 そもそも、ベル君が慌てて森の外へ行ったということはヘスティア様が誘拐されて、ベル君が探しに行った……それだけなら、ベル君が俺達に声をかけない理由がない。

 となれば、ベル君が俺達に伝えられないような状況……ヘスティア様を人質に誘い出したか。

 目的はベル君の孤立。ヘスティア様は人質。そこまでする理由はなんだ?いや、今は置いておこう。

 重要なのは、ベル君とヘスティア様の居場所は分からないこと。そして、ベル君が何者かの思惑によって孤立させられていること。

 つまり、明確な人の悪意によって、俺の友人が危険にさらされているわけだ。

 

「これは……」

 

「何か分かったのか?」

 

「……ベル様の場所は分かりませんが、ヘスティア様の居場所はわかるかもしれません」

 

「何っ?!」

 

 そういうリリの手には何かの入れ物だっただろう小瓶が握られていた。

 小瓶に残った液体を嗅いでみるとかなり強い花の香り。これ、昨日ヘスティア様がつけてた香水か?

 

「ヘスティア様はどうやら、今日も香水をつけていたようですね。私の魔法を使えば、ヘスティア様の元まで行けるでしょう」

 

「なるほど、ヘスティア様の場所が分かれば、ベルの向かった場所もわかるってことか」

 

「なら、早速出発しよう。【ロキ・ファミリア】には置いていかれるだろうけど、ヘスティア様とベル君の安全が最優先だ」

 

「「「はい(おう)っ!」」」

 

***

 

 変身し、嗅覚の強化されたリリの案内で森の外へ向かって走っていると、分かれ道で突然リリが足を止める。

 

「これは……ベル様の匂いです!」

 

「なにっ?!」

 

「どっちだ!」

「ヘスティア様はここから右へ、ベル様は左へ進みます」

 

「左となると……あの青水晶のあたり怪しいか」

 

 桜花さんの指さす方向には木々の隙間から微かに見える長い青水晶が見えた。

 森から外れていて、分かりやすい。ヘスティア様を人質にベル君を誘導するにはうってつけか。

 仮にあそこにいなくても、あれだけ高いなら、あそこから探すことも出来る。一旦は目的地にしてもいいだろう。

 

「よし、リリはヘスティア様の救出に向かってくれるか?俺達は青水晶の方へ向かう」

 

「分かりました」

 

「ヘスティア様の周りには見張りがいるかもしれねえから、気をつけろよ」

 

「わかっています。では、皆さん、ご武運を」

 

「リリ殿もお気をつけて」

 

「よし、急ぐぞ!」

 

 森を駆けて青水晶へ向かう。坂を登り、根を足がかりに跳躍し、岩肌を蹴って進む。青水晶が巨大になるにつれて、熱狂した冒険者の声が聞こえてくる。

 

「──いやがったな!」

 

 青水晶まで辿り着くと、20を超える冒険者が中央の広場を囲んで野次を飛ばしていた。

 中央では虚空に向かってベル君が構えており、突然空気に殴られたように体を揺らす。

 その姿に、周囲の冒険者……無法者達は歓声を上げていた。

 

「なるほど、透明人間か。そんな冒険者、聞いたこともないが……」

 

 ベル君の戦う広場を見下ろせる場所に、隠しきれない異質な気配と強者の気配がする。

 

「ヘルメス様の差し金か……いや、あの神が利用したとかそういうオチだな。絶てぇ許さねぇ。帰還したら一発殴ってやる」

 

 俺たちのことも見えているであろう神を精一杯睨み付ける。俺の圧ごとき効かないだろうが、意思表示は大事だ。

 さて、原因究明も終わったし、

 

「我が主神の名において、汝らの悪事に報復しよう。いくぞ無法者共がァっ!!!」

 

 ベル君(友達)をリンチにしやがったこと後悔させてやるからなクソ野郎どもっ!!

 

***

 

「こっわぁ……え、俺殺されたりしないよね?」

 

「彼に殺されそうになっても、私は助けませんからね。悪趣味な自業自得です」

 

「はは〜そんなこと言って、本当は助けてくれるだろう?……アスフィ?アスフィさーん?こっち見てくれないか?なぁ、助けてくれるよな?な??」

 

 ヘルメスの情けない言葉を聞き流すアスフィの眼下では、ベルが透明人間となったモルドと一対一で戦っており、劣勢となっている。

 そして、行方不明となっていたベルを探して、ここまで辿り着いたズィーヤ達は観客としてベルの戦い──という名の一方的なリンチ──を楽しんで居た大人数の冒険者たちを相手に戦っていた。

 

「『ウィル・オ・ウィスプ』!」

 

「ぐあぁ!」「おい!妙な魔法を使うやつが居るぞ!」

 

「クソっ鍛冶師に大人数で来るなよな……!」

 

 ヴェルフの魔法によって詠唱中だった魔法が暴発した魔法使い達は再起不能になり、冒険者達は接近戦による戦いを強いられる。

 だが、数の有利は未だ観客達にあり、ヴェルフや千草に至ってはLv1と戦力は他メンバーに比べて一段劣る。

 

「おら!」

 

「はぁっ!」

 

「ッォゲ!」「ぐぴぃっ!」

 

 桜花の剛槍、命の居合で多少数を減らしても、基本複数人で戦ってくる冒険者達を相手にするのは容易ではない。

 タケミカヅチに仕込まれた柔術を用いて冒険者を叩きふせ、背中合わせになった桜花と命は、息を乱しながら話す。

 

「くっ、キリが無いな」

 

「えぇ、しかし、想定よりもずっと余裕がある」

 

「あぁ、あのズィーヤという男、思っていた以上の手練だ……ただ、」

 

 2人が視線を自分達の戦う場所のさらに奥。最も冒険者が集まって乱戦している最前線に目を向ける。

 

「オラァ!どうしたどうした!先輩なんだろ?なら、さっさと俺くらい倒して見せろよ無法者どもがよぉ!!」

 

「クソっ!なんだこいつ、ちょこまかと動きやがって!この!」

 

「バカ!武器振り回すんじゃねぇ!俺に当たるだろうが!」

 

「仲間割れするとは愚の骨頂だなぁ!そんなだからここで燻ってんじゃねぇのか?えぇ!?先輩さん達よぉ!」

 

「こ、このガキィ!!」

 

「おらそこぉ!」

 

「っが!?」

 

「こ、こいつ、強ぇ」

 

 冒険者達の真ん中に割り込み、冒険者達の間を縫うように戦う。

 近づかれた冒険者は剣を振る空間的な余裕がなくズィーヤの泥色の剣によって喉や肺を叩かれ、意識を落とす。

 他の仲間が背後から攻撃しても、見えているかのように躱されて近くにいた仲間を自分の武器で傷つけてしまう。

 攻撃しないように距離を取ろうとしても、道幅によって制限された空間では互いの距離を完全に取るのは難しく、まごついている間にズィーヤが近づいてくる。

 そして、冒険者達のプライドを逆撫でする煽りを常に入れ続け、怒りによって冷静さの欠けた攻撃を誘発し、反撃で意識を刈り取っていく。

 思いもよらない実力に、囲んでいる冒険者が及び腰になる。その姿を目敏く感じ取ったズィーヤは、嘲笑の笑みを深くして煽り散らかす。

 

「さっさとかかってこいよ!それとも、ここにいるてめぇらは全員無法者じゃなくて玉無しどもだったかぁ?!だったら冒険者なんて辞めて野郎の○○○(ピーー)でも舐めてろ!!」

 

「がァァァ!!言わせておけばァ!!」

 

「数はこっちが有利なんだ、やっちまえ!!」

 

「馬鹿の一つ覚えどもがよぉ!おらっ鳩尾ぃ!」

 

「ゔぉえっ!」

 

「なんというか……その、凄まじい御仁ですね」

 

「あぁ、技術も戦術も優れているが、なんというか、ガラが悪いな……」

 

 ズィーヤの獅子奮迅もかくやという戦いに、微妙な表情を浮かべる2人。

 ズィーヤのおかげで助かっていることは間違いないが、普段とのギャップに仲間達は少し引き気味だった。

 前線でズィーヤが暴れるうちに覆面の冒険者──リューも参戦し、数の不利をものともせず徐々に優勢になっていく。

 ベルとモルドの戦いも、ベルがモルドの漆黒兜(ハデス・ヘッド)を壊したことで透明状態が解除され、決着がつこうとしていた。

 

「やーーーめーーーろーーーーーっ!」

 

 響き渡る声に、剣戟がピタリと止む。

 

「ベル君達!僕はこの通り無事だ!だから無駄な喧嘩はよせ!君たちも!これ以上いがみ合うのはよすんだ!」

 

 大喝一声するヘスティアに、ベルは表情を弛め、振り上げた拳をゆっくりと下ろした。

 ヴェルフ達も武器を下ろし、ヘスティアの言葉に従う。

 ズィーヤは泥の武器を玉にこそ戻したものの、冒険者に囲まれているため剣呑な雰囲気と構えを解くことは無かった。

 戦場が緩やかに終戦の空気になる中、怒りの形相を浮かべたモルドは唾を飛ばしながら固まっている仲間達に吠え立てる。

 

「神の意図なんざに構う必要はねぇ!!やれ、やっちまえ!!」

 

 既にリューとズィーヤによって満身創痍となっていた上級冒険者たちが、モルドの怒りに触発されて武器を構え直す。ここまで来て止まれるものかと、暗い意志を瞳に宿して、モルドもまたベルに飛びかかろうとする。

 

 

「──止めるんだ」

 

 

 大きな声ではない。荒らげた様子もない。

 だが、何人も逆らうことを許さない圧倒的な"圧"が、ダンジョンを駆け巡る。

 モルドに煽られて昂っていた冒険者達は神の放つ圧力に顔を青ざめさせ体を震わせる。

 迎撃しようと構えようとしていたズィーヤ達も、震えこそしないもののヘスティアの神たる姿に動きを止めていた。

 

「みんな、武器を収めなさい」

 

 諭すような穏やかさながら、その小さな体から放たれる神威の圧は緩まることなく、裁かれるのを待つ罪人のように、冒険者達は体を竦ませる。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 1人の上級冒険者が、神の面前に立つことに耐えかねて逃げ出した。それを皮切りに、他の冒険者達も我先にと坂を駆け下り、森へ入って逃げていく。

 

「お、お前ら、置いてくなぁ!」

 

 ベルと対峙し、冒険者達に発破をかけたモルドまでも、圧倒的に不利な状況に臆し、ベルを気にする素振りもなく、なりふり構わずに逃げようとする。

 

「ぐぼっ!」

 

 しかし、ズィーヤの横を通り過ぎようとした瞬間、ズィーヤによって足を引っ掛けられて顔面から地面と衝突する。

 

「て、てめぇ…ひっ!!」

 

 足をかけたズィーヤを睨みつけようとするも、倒れ込んだ目の前に立つヘスティアの圧に叩き伏せられ、血の気を失った顔で振り返らずに走っていった。

 

「ズィーヤ君……」

 

「あれくらいは許してくださいよ。俺なりのささやかな復讐です。これで、しばらくの間は、あいつがベル君を狙うこともないでしょう」

 

 神威を解いたヘスティアが、モルドに足をひっかけたズィーヤにジト目を向けるも、当のズィーヤは両手を上げてヒラヒラと揺らし飄々としていた。

 何を言っても無駄と察したのか、ヘスティアは溜息を吐いて、気を取り直してベルの元へ走りよる。

 ベルとヘスティアが互いの絆を再確認し、ベルを探し、手助けしたメンバーが大団円の雰囲気に和むなか、ズィーヤはそっとその輪を離れる。

 

「さぁ、逃げないでくださいねヘルメス様ァ?」

 

 両手の指をボキボキと鳴らし、額に青筋を浮かべたズィーヤが戦闘前にヘルメスとアスフィが隠れていると当たりをつけた場所へ駆け出そうとする。

 しかし、1歩目を踏み出す前に地面が……ダンジョンが大きく揺れる。

 

「なんだ!?」

 

「じ、地震?!」

 

「いや、これは……」

 

「ダンジョンが、震えてるのか?」

 

 突然のことに全員が動揺する。

 鳥型の魔物たちは飛び立ち、魔物達のくぐもった叫び声がそこかしこから発生する。

 階層に在る全ての存在が狼狽える中、揺れはますます大きくなり、木々を左右に振り、葉を掻き鳴らす。

 

「これは、嫌な揺れだ(・・・・・)

 

 リューの口にした言葉にベル達全員が顔を引き締める。

 揺れとともに忍び寄る異常事態に対して、警戒する。止まる気配のない揺れに慣れ始め、張り詰めた緊張が微かに緩んだ瞬間。

 ふっ、と。

 天井から『昼』の光が照りつけていた階層に、影が落ちた。

 

「おい、なんだよ、あれ……」

 

 天井を見上げたヴェルフが、呆然と言葉を落とす。

 天井に生える水晶の中で最も大きく、太陽と月の役割を果たす白水晶の中で、巨大な影が胎動していた。

 神も人も、例外なく。誰もが水晶の中に潜む不気味な影に目を奪われる中、バキリッ、と亀裂音が大きく響く。

 

亀裂(・・)……!?モンスター!?」

 

「ありえません、ここは安全階層です!?」

 

「その安全階層に産まれるからこそ、異常事態なんだろう。そして、あの水晶の大きさで、その光を大きく陰らせる事ができるなら……」

 

「相当な大きさだろうな……」

 

 リリが叫び、命が困惑し、ズィーヤが目を見開き、桜花が冷や汗を流す。

 一度入った亀裂は留まるところを知らず、ついには周囲の青水晶にまで深い黒線が刻まれる。

 影は光を飲み込むかのように、徐々に大きく、その巨体はズィーヤと桜花の想定をいとも容易く超えていく。

 

「おいおい……まさか、ボクのせいだって言うのかよ」

 

 その場にいた誰もが、愕然と呟くヘスティアのもとへ振り返る。

 ベル達の視線を受けながらも、亀裂を深め続ける水晶を見つめる。

 

「たったあれっぽっちの神威で……冗談だろ?」

 

 この異常事態について何かを知っている彼女()は冷や汗を流し、引き攣った笑みを口元に浮かべていた。

 地を駆け回るもの達を、無慈悲に押し潰すような巨大な亀裂音が生物の鼓膜を叩き、ヘスティアは双眸を見開いた。

 

バレた(・・・)……!?」

 

 神の驚愕も、眷属達の疑問も、無法者達の恐怖も関係なく、ダンジョンの意思は粛々と、憎悪を持って神を殺さんとする。

 連続する水晶の破裂音と共に、階層内にいるモンスターの遠吠えが重なり合う。

 殺意に濡れた歪な合唱に合いの手を打つように、南端から崩落する岩のさざめきが響く。

 亀裂は止まらず、水晶の雨が降り注ぎ、魔物達は殺意に色めきたち、洞窟(にげみち)は潰えた。

 冒険者達にとって経験のない異常事態。

 その最大にして最悪の"詰み"が、水晶の亀裂を突き破り、18階層へと産まれ落ちた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』




Q.ズィーヤちょっと強すぎない?相手もベテランのlv2でしょ?

A.ズィーヤ君の鍛錬は常に人間を想定しています。そして、武器のリーチの操れるズィーヤは集団戦において圧倒的優位です。数とLvのゴリ押しは鍛え上げられた技術の前に無力なのよね……

感想、評価、誤字脱字の報告お待ちしております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。