ダンまち熱が下がりに下がっていて、びっくりするほど筆が進まなかったので寝かせていたら月が変わっていましたぁ!!ごめんなさい!すみません!申し訳ありませんでしたァ!
で、当然のように難産です。
色とりどりの魔法が黒皮のゴライアスに突き刺さり、その煌めきに込められた暴威を振るう。
炎が焼き、雷が貫き、氷が動きを封じ、風が切り裂く。
上級冒険者による魔法の一斉射撃に加え、魔剣による攻撃も加わり、現状の最大火力を持ってゴライアスの巨体を爆撃する。
やがて全ての魔法が止まり、聴覚を麻痺させる爆音が止む。
全ての冒険者が固唾を呑んで砲撃の中心地を見守る中、立ち込めた砂煙が薄れると共にゴライアスの巨躯が傾き、片膝を地につける。
砲撃の集中した顔周りはもとより、肉体のあちこちの皮膚が削がれ、抉られ、血肉を晒している。口からは白煙を吐き出し、荒い呼吸を繰り返していた。
「ケリをつけろテメェ等ぁ!!たたみかけろぉ!」
明らかな致命傷。立つこともままならないほどの深い消耗を与えられたことに冒険者たちは歓声を上げ、ボールスの指示の元トドメを刺そうと四方八方から殺到する。
ズィーヤもまた、巨人の息の根を止めるため駆け出そうとしたところで、強い違和感を覚える。
「(おかしい。確かに強大な魔法達だったが呆気なさすぎる。Lv2が大半の魔法を一斉掃射した程度で神を憎んだダンジョンが生み出した階層主が倒れるなんてことあるのか?ダンジョンは、そんなに甘い場所だったか?)」
頭を垂れたゴライアスを鋭く見つめ、違和感の原因を探る。
消耗した体力、損傷した肉体、荒い呼吸……そこまで見て、気づいた。
先程まで吐かれていた白煙と荒くなっていた呼吸がない。無傷の時と変わらない安定した呼吸と、顕著な消耗だと思われた白煙の消失。そして、ダンジョンが神を殺すために生み出したにしては脆い肉体。
それらの情報が、1つの最悪な仮説へと繋がっていく。
「ダメだっ!全員離れろ!!」
必死の形相で声を張上げるズィーヤに周囲の冒険者は訝しげな視線を向ける。
確実に消耗させた一斉射撃。消耗して動けない巨人を殺すには、今ここで畳み掛ける以外の選択肢はない──そこまで考えて、ゴライアスへと再び視線を向けた時には、無傷のゴライアスが握りしめた2つの大拳を振り上げている姿だった。
赤い燐光を残して振り下ろされた拳は、18階層の草原を割り、放射線状に凄まじい衝撃波を生み出した。
ゴライアスに殺到した前衛の多くは塵芥のように吹き飛ばされ、後衛にて魔道士を守っていた盾役は踏みしめた地面から投げ出され、無防備な魔道士達は抵抗も許されず衝撃波に呑まれた。
「クソが……自己再生とかアリかよっ」
全速力で衝撃波の放射線状から退避し、荒くなった呼吸でズィーヤは思わず悪態をつく。
状況は最悪。主力の魔道士達の多くは倒れ伏し、盾役も巨人の剛力の前では無力。時間を稼ぐための前衛の大半は18階層を散り散りに吹き飛ばされて陣形を組む所の話ではない。
致命傷を負わせ、勝利が目前だった希望から一瞬で絶望へと叩き落とされた。
水晶が砕かれ暗くなった18階層でゴライアスの体を縁取るように立ち上る赤い燐光が、幻想的な絶望の象徴として倒れる冒険者達の目に焼き付く。
『オオオオオ!!!!』
絶望し、混乱し、困惑し、足並みの揃わない冒険者達を嘲笑うかのように、2度目の召喚の雄叫びが響く。
その叫びに呼応して階層のあちこちから魔物の呻き声や遠吠え、咆哮が冒険者の耳を揺らした。
「(どうする?ゴライアスに特攻して時間を稼ぐ?速さも力も技術も足りない。指示を出す?俺の指示なんて誰も聞かない。治癒、サポート。今することじゃない。クソっ!結局やれることは1つかよ!)」
自身のやるべきことを瞬時に判断し、仮拠点から飛び出して光の乏しい暗闇の階層を疾走する。
ゴライアスの雄叫びによって冒険者達を襲う魔物達の足音が地響きとなって倒れ、自衛手段を失った冒険者の恐怖を煽る。
粉砕され拠点としての体をほぼ失った場所からでも魔物達の動きが振動として伝わっていた。
そして、助けを求めて絶叫する冒険者たちの悲鳴もまた、ズィーヤの耳にはよく聞こえていた。
「た、助けてくれぇ!」
「グォォォ!!」
「シッ!!」
足の潰れた冒険者を喰らおうとするバグベアの脳を穿ち、呆然とする冒険者へ魔物避けの芳香を持たせて仮拠点の方へ進むよう指示を出す。
芳香を手にしたことを確認して、すぐに近くの声がする方へ駆ける。
魔物が大量発生し冒険者たちの足並みが揃わない中で、ズィーヤは魔物に襲われる冒険者を助け、仮拠点へ戻らせることで陣形を整える手助けをすることに尽力する。
仮拠点では冒険者達のまとめ役であるボールスと回復薬、そしてズィーヤの強化した武器が残っている。
それらを元に陣形を整えれば、魔物によって死亡する冒険者を減らし、ゴライアスへ攻撃を仕掛けるチャンスを生み出せるかもしれない。
「ヒッヒィッ!」
「シッッ!」
バグベアとミノタウロスの脳が一直線上に重なった瞬間、刺突力に全力を注いだ槍を投擲することで一度に殺し切る。
木に寄りかかり腰を抜かした冒険者に仮拠点の位置を示して、再び階層を駆け抜ける。
「はぁ……はぁっ……はぁっ……」
しかし、休息も取らず、不意打ちできなければ死にかねない連戦を駆け抜けるストレスは、乱れた呼吸と狭まる視界という形で現れ出す。
また1人冒険者を救助し終えた時、遂に駆け出そうと踏み込んだ足が崩れ、地面に四つん這いになってしまう。
「(クソ……まだ、やらなくちゃならねぇのに……立て、立てよ!こんな所で膝ついてる場合じゃねぇんだよ!)」
どれだけ足に力を加えても、腕に喝を入れても、体が微かに震えるだけで一向に立ち上がれない。
そんな無防備なズィーヤを放っておく程、ダンジョンとそこに住まう魔物は甘くない。
「グゥゥ……」
「ブォォ……」
「キィィァ……」
複数の魔物が倒れ込むズィーヤを殺そうと歩みを進める。眩む視界にそれらの姿を収めて、一層力を込めて動こうと足掻く。
だが、酷使した体は多少回復したとしても震えを返すのみであり、零れ落ちた武器をとることも、立ち上がる事もできそうにはなかった。
「ブモォォ!」
「っっ!」
ミノタウロスがズィーヤの頭部に影を落としながら、筋肉の隆起した豪腕を振り上げる。
その拳が振り下ろされる刹那、ズィーヤは咄嗟に右へ体を倒すことで地面を転がり、地面を砕き砂埃をあげる一撃を避ける。
ゴライアスの一撃によって地面が砕けやすくなっていたためか、ミノタウロスの力が想定よりも強かったのか、立ち上がった砂煙はズィーヤと魔物達の視界を遮り、ズィーヤが茂みに向けて這うだけの時間を稼いでいた。
「(あぁ、絶体絶命だ。ヴェルフ風に言うならふざけろっ!ってやつだな。ミノタウロスが1、バグベアが1、鳥型の魔物が1……で、今の一撃で他の魔物を呼んだ可能性も十分にあるっと)」
少しづつ砂煙が収まっていく中で、木に寄りかかるズィーヤから思わず失笑が漏れる。
疲労は抜け、思考も視界もクリアになったが、Lv2相当の魔物3体以上を相手に余裕を持てるほどズィーヤは自身の力を過信してはいない。
砂煙が晴れれば、すぐさま3体との混戦あるいは連戦が始まる。それが終わる頃に、ズィーヤが無事である保証などどこにもない。
「(あ〜クソ、ついてねぇ。ゴライアスもそうだし、この状況もそうだ。本当に、ついてない)」
諦めを滲ませながら、目を閉じて呼吸を整えるズィーヤの耳に、小さな鐘の音が聞こえる。
「『歪め』っ」
目を見開き、腰に携えた泥玉を急造の槍へと変える。そして、薄くなる砂煙の中で一息に体を持ち上げ、泥色の槍を深い低重心で構える。
「俺としたことが、随分と萎えた思考をしてやがる。俺が選んだ道だろ?ついてるもついてないも、俺の考え方次第だ。現にほら、俺は立ててるし、武器もある。目の前には倒すべき魔物がいて、その先には打ち倒すべき巨人が暴れてる。この状況で、感慨に耽ける暇があるか。まして、諦める?情けねぇ、ベル君に顔向けできないな」
砂煙が晴れ、幾体か数の増えた魔物達を前にして自嘲気味に言葉を零す。乱雑な口調ながらその声色は酷く穏やかで、その表情には深い怒りを含んだ獰猛な笑みが浮かんでいた。
先程まで倒れていた冒険者と同一人物とは思えぬ圧力を前に、魔物が微かに動揺する。
そんな彼らの動揺する姿に、頬が吊りかねないほど深い嘲笑を浮かべて、煽る。
「おら、かかってこい魔物共、テメェら全員、俺の経験値にしてやるよ」
魔物に人の言葉がわかるのかは解明されていない。しかし、ダンジョンという魔境を生き抜き、冒険者を殺してきた魔物達には、自分が侮られ嘲られ、下に見られているという状況だけは理解できた。
その事さえ分かってしまえば、魔物達がズィーヤに向けて殺到し、血みどろの乱戦が行われることなど、想像に易い事だ。
「右、右、上、左、右、下、そこぉ!」
大小様々な魔物が入れ代わり立ち代わりズィーヤの体を引き裂くために猛攻を仕掛ける。そこらのLv2であれば簡単に蹂躙できる殺意の群れ。
しかし、普段から多対一の乱戦や混戦を繰り返していたズィーヤは、持ち前の経験と視野の広さで守りに徹し体勢を崩すことさえしない。
さらに、魔物達の体の大きさが邪魔しあい、連携するという思考や経験の無さが、ズィーヤにカウンターを与える隙まで生み出している。
結果、3体の魔物は肉体のあちこちから血を滴らせ、鼻息荒く体をふらつかせることとなる。
対するズィーヤは息こそ上がっているものの無傷であり、まだまだ戦闘を続けられるだけの余力があった。
「おら、どうしたァ!人間ごときさっさと殺して見せろよ魔物共ぉ!」
「グォォォ!!」
「ブモォォ!!!」
「キィィァァ!」
再度深く構え直し、怒号と変わらない嘲りを持って挑発する。
3体がかりでも有効打を与えられず、チクチクとカウンターを受けてストレスを貯めていた魔物達に挑発が最後のひと押しとなり、冷静さを失った魔物達は突進を仕掛ける。
互いを押しのけながら殺到する魔物達を迎え撃つために、低く構えた槍を地面に突き刺して天高く跳躍する。
目標を見失い、渾身の突進が空振りに終わった魔物達の背後へ回り込み、無防備な背中から胸元を最速で穿つこと三度。
魔石を砕かれた3体の魔物達は灰となり、血肉も残さず消え去った。
「っふぅ………危ねぇ。死ぬとこだった……3体同時とかふざけんなマジで……」
溜息とともにその場に腰を下ろし、冷や汗を滝のように流す。疲労は完全に抜けていない中での混戦、一瞬でも見逃せば血を滴らせ、骨を晒していたのはズィーヤ自身だった。
このまま寝転がって眠りたいところではあったが、そのような余裕はない。
立ち上がり、身に備えた純然たる力を持って暴れるゴライアスを見据える。
リューとアスフィが注意を逸らしているとはいえ、その剛力がいつ他の冒険者を襲うかもわからない。次に巨大な被害が出れば、いよいよ立て直しは効かない。
余裕皆無な絶望的状況。死んでいないだけの
魔物の雄叫びと冒険者の悲鳴に紛れて、誠凛な鐘の音が耳を打つ。
「これは、やっぱりベル君の……」
ズィーヤの脳裏に過ぎるのは、11階層にてインファント・ドラゴンの頭部を跡形もなく吹き飛ばした白光の一撃。
最大火力である魔法の一斉射撃が無効に終わってしまった今、唯一ゴライアスを打ち倒す可能性のある最高火力。
ズィーヤのいる位置からではベルがどこにいるかは分からない。だから、手伝いに行くことも激励を与えに行くことも出来ない。
「頼むぞ……!」
ズィーヤの零した言葉に応えるように階層の中央から一際大きな鐘の音が響く。
全ての冒険者と全ての魔物が鐘の響く場所を見る。それは、狂乱していたゴライアスも含まれ、張り詰めた空気を澄んだ音が駆け抜ける。
『──オォォォ!!』
生命の危機を感じたのか、リューとアスフィによる撹乱を無視してベルに目掛けて攻撃を仕掛けようとする。
「ファイアボルトぉぉ!!!」
しかし、ベルの手から放たれる極大の白炎がゴライアスを撃ち貫く方が一瞬速かった。
白炎は無防備なゴライアスの顔面を直撃し、頭部の半分以上を消し飛ばした。
全ての冒険者が、これで終われと心の底から願った。頭部を半分吹き飛ばされても生きる化け物など、どう倒せばいいのか想像もできない。
故に、ゴライアスの残った下半分の口が歪に笑みを浮かべる姿に、希望は叩き潰され、戦慄と絶望が押し付けられた。
その証明をするように、全力の一撃によって防御もままならないベル目掛けて
地面を抉り飛ばしながらベルへ迫る衝撃波は、立ち尽くすベルに直撃し、小柄な体躯をいとも容易く宙へ飛ばす。
ダメ押しのように、空をかくベルに向けて剛腕による横なぎが振るわれる。
「やめろぉぉぉ!!!」
間に合わないことを冷静な思考は理解していた。だが、感情は合理的な判断を無視して、なりふり構わずベルのもとへ駆けつけようと体を突き動かす。
だが、無情にも、空を落ちるベルに向けて伸ばした手は何も握ることはなく。ベルが吹き飛ばされる場面を見ることしかできない。
絶望に世界が暗む中、ズィーヤの視界の端から小さな影が飛び出す。
泥色の大盾を構え、空気が可視化されるほどの威力で振り払われる巨大な掌と、咆哮の直撃によって意識を飛ばすベルの間に体を滑り込ませる偉丈夫──【タケミカヅチ・ファミリア】団長、桜花が吼える。
「うおぉぉぉぉ!!!」
掌と接触した大盾の表面に亀裂が入り、泥の破片が零れ落ちる。そして、剥き出しとなった鉄色の盾をひしゃげさせながらゴライアスは腕を振りぬいた。
大盾をなんの苦労もなく吹き飛ばし、威力を削がれることもなく振り抜かれた剛腕。
しかし、入り込んだ桜花によってベルは掌に吹き飛ばされることなく、掌に直撃した桜花も泥の強化によって盾が砕けるまでに猶予があったため、多少は衝撃を逃がすことができた。
不幸中の幸いというべきか、最悪のシナリオだけは退けた。
しかし、未だ状況は悪いまま。寧ろ、ベルが意識を失い、Lv2を1人失ったことでより悪くなったとさえ言える。
推定Lv5である階層主の
回復薬自体が乏しい現状で高位の回復薬を期待することは絶望的と言える。つまり、ベルの超火力は今後期待できない可能性が高い。
「──そんなの許せるわけないだろっ!」
ズィーヤにはベルの状態も現状も正確に理解している。
故に、一刻も速く落下したベルのもとへ辿り着くために悪路を疾走する。
「(俺の魔法なら高位回復薬を作れる!回復薬を作って直ぐに戦線に復帰するには、1度たりとも精神力を無駄には出来ない!魔物に見つかる前に、早く、速く!)」
しかし、ダンジョンは張り巡らせた悪辣な糸を手繰り、冒険者達を地獄へと叩き落としていく。
必死の形相で駆け抜けるズィーヤの目の前に、地響きを伴って迫る多数の魔物。種族様々な魔物達の鋭い眼光が、奥歯を砕くほど食い縛ったズィーヤの姿を捉える。
地響きに負けないほどの雄叫びを上げ、たった1人でかつて森だった場所を走るズィーヤに向けて進軍する。
「ふざけろぉぉっ!!!」
回避不能、逃走不可能、ズィーヤにとっての明瞭な死線が、目の前に広がっていた。
ズィーヤ君が疲れていた理由ですが、砕けたり、陥没したり、隆起したり、木が倒れていたりする悪路を休憩なしで5分間全力ダッシュしたらそりゃ倒れそうになるよねって。
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